01.目が覚めて
酷い頭痛と共に目を覚ました。
(……生きてる。何とか成功したようね)
眩しい朝陽が窓から差し込む。
ぼやけた視界で自分の手のひらを見つめる。
そして鏡を探して自分の姿を映し出す。
(黒髪に茶色の瞳……)
以前よりも小さくなった体。
目が丸く大きく、小動物のような顔……普通に微笑むだけで柔らかい印象を与えるだろう。
散らかった部屋を見回してみると、机の上に"ゲーム"と呼ばれる機器が置かれている。
『ダイアモンドに魅せられて』
良く見れば以前の自分の姿が書かれている。
そして壁には"ラヴィーニア"のポスターまである。
そして蜜柑の記憶とエレナの今まで言っていた言葉を擦り合わせていく。
「ふーん、そういう事ね……」
ここは魔法がない世界。
"柳田蜜柑"この子の名前。
そして"ラヴィーニア"になった子の名前だ。
蜜柑の記憶が手助けしてくれている。
色々と考え込んでいると、ドアが叩く音が聞こえる。
「ほら!蜜柑ッ!支度出来たの~?ちーちゃんが待ってるわよ!!」
「……」
蜜柑の母親の声だ。
ふと、ルドヴィカとディエの姿を思い出す。
ギュッ……と手のひらを握って、学校の制服に手を伸ばした。
どうやらこの"蜜柑"という人物は、なかなかに雑な性格らしい。
しわしわなシャツに一足しかない靴下。
そしてぐちゃぐちゃになったプリント。
(断れない、優柔不断、気弱、優しくて放っておけない。守ってあげたくなるような可愛い女の子なのね……わたくしと真逆だわ)
とりあえず、本日の持ち物をカバンに詰め込んで階段を降りていく。
(随分と狭い家なのね……でも服が楽でとても気に入ったわ)
締め付けが無く、とても着心地が良い。
スカートがかなり短くて足が露わになるのが気になるが、この世界ではこれが普通なのだろう。
(早く慣れなくちゃね)
ドアを開けば、先程ちーちゃんと呼ばれていた蜜柑と同じ歳の男と、そして弟である檸檬が座っている。
「ほら、早く食べちゃいなさい……!」
「はい、お母様」
「お、おっ、お母様ぁ……!?」
蜜柑の母親の声が裏返る。
シンクの中からガッチャンと食器が擦れる音が聞こえた。
「あ、分かったわ!蜜柑の好きなラヴィーニアちゃんの真似をしてるんでしょう?」
「……。えぇ」
「全く……大好きなのも分かるけど程々にね。早く朝ごはん食べちゃいなさいよ!じゃあ、お母さんは仕事行くわね!ちーちゃん、蜜柑と檸檬の事お願いね」
「はい、おばさん」
「早くちーちゃんみたいな良い男と結婚して、私に楽させて頂戴ね!うふふ」
「……」
「……」
ーーーバタンッ
席に着いて朝食を食べる。
(手に持って食べる……オニギリ?不思議な名前ね)
蜜柑と檸檬に父親は居ない。
そして隣に座っている幼馴染である"千紘"こと、"ちーちゃん"には母親がいなかった。
マンションの隣同士で幼馴染である千紘と蜜柑……どうやら蜜柑の母親は千紘に絶対的な信頼を寄せているようだ。
「蜜柑……そろそろ行かないと間に合わないぞ」
「えぇ、そうね」
「変な姉ちゃん……いつもみたいにヘラヘラしてないし、どうしちゃったの?」
檸檬が不思議そうに蜜柑を見ている。
その顔は蜜柑とは違い、母親に似ていて少し釣り上がった目が特徴的で生意気そうである。
椅子の上に置いてあるカバン。
ランドセルを持っているという事は、檸檬は小学生なのだろう。
蜜柑の記憶から次々と道具の使い方や物の名前を引っ張り出す。
檸檬を見ていると小さい頃のフィンの姿を思い出す。
昔は自分にベッタリで、とても仲が良かった。
しかしある時からフィンを遠ざけるようになった。
フィンはとても寂しそうな表情で此方を見つめていた。
それに気付きながらも、何故フィンを遠ざけていたかと言うと……。




