独りで生きてゆく
ムイは薄っすらと、微笑みをたたえていた。
けれど、その表情は哀しみだ。今にも涙が溢れそうなくらい、その瞳は鈍く、深い。
「……どうした、ムイ。俺に会えて嬉しくはないのか?」
「リューン様、お久しぶりでございます」
「ムイ、俺に会いにきてくれたのだな」
「……サリー様のご病気をお治しするために参りました」
「ムイ、どうして、」
「ご婚約のお祝いを申し上げます」
「サリーとは結婚しない」
リューンはきっぱりと言った。
「サリー様のご病気が良くなったら、リューン様とご結婚されると聞いております」
「誰に聞いた?」
「国王陛下です」
「なんだと?」
ようやく会えたというはやる気持ちと同時に、リューンは奈落に突き落とされるような絶望を感じた。
国王がどうとかではない、それがムイの選択だということに。
「そうなることを分かっていて……サリーを……治しに来た、ということか?」
「……はい」
はっきりとした声。
そこに強い意思を感じて、リューンの頭は殴られたように、ぐらっと揺れた。
「そう、なのか」
「リューン様、どうかお幸せに」
「ムイ、」
「リューン様のご多幸を、お祈り申しあげております」
「ムイ、」
愕然とした。この世の終わりでも迎えるように、リューンの身体は震えた。そして同じように、魂も震えた。
(これでムイを、……永遠に失ってしまうのだ)
天を仰いだ。
リューンはそれに向かって、静かに自分の名前を呟いた。
「リューン……リューン=リンデンバウム」
そしてリューンは、ムイを見た。薄っすらと笑いながら。
ムイは、顔色を真っ青にして、慌てて言葉を繋いだ。
「お、おやめください……」
「俺は、結婚などしない」
「リューン様っ」
「どんな女も愛さない。ムイ、お前を失うなら、この先独りで生きていく。リューン=リンデンバウム、命令する……」
「リューン様、おやめくださいっ‼︎」
「お前は永遠に独りで生きるのだ」
ムイの悲鳴が聞こえた気がした。
朧げな目を向けた。
ムイが、悲壮な顔を浮かべながら走ってくるのが、スローモーションのように見える。
「リューン様、リューン様っ! ああ、なんてことを、なんてことをっ!」
どんっと、胸に衝撃があり、ムイが飛び込んできた。泣きじゃくって、すがりついてくるムイの肩を抱くと、リューンの中は愛おしさで満たされた。
「ムイ……お前を、愛しているんだ」
涙がとめどなく流れていく。もう涙は枯れてしまったはずなのに、息を吹き返したように、溢れ出した。
ムイを両腕で抱き締める。
リューンは再度、天を仰ぐと、ムイの名前を何度も繰り返した。