仮面の下には
「ムイ、」
名前を呼ぶだけで、愛しさが湧き上がってくる。
リューンは、ガゼボの横で立ち止まっている歌うたいに近付いていった。
仮面をしているので、その表情は窺えない。けれど、その唇は歪んで、引き結ばれていた。
「ムイなのだろう?」
リューンが、そっと近付く。
すると、歌うたいは後ろへ数歩、下がった。それを見て、リューンの胸が痛んだ。
「ムイ、俺が、お前の声を聞き違えるわけがない」
何度も耳元で愛していると言った、あの夜。
ようやく結ばれた、至福の夜だった。
リューンは、言葉を震わせた。
「ようやく会えた。ムイ、俺に会いに来てくれたのだな」
手を、弱々しく伸ばす。
「夢じゃない、」
すると歌うたいはようやく、その低くも高くもない声を発した。
「リューン様、この度はサリー様とのご婚約おめでとうございます」
伸ばした手を下ろす。そのこぶしをぐっと握って、リューンは答えた。
「何のことだ、俺はサリーと結婚などしない」
「サリー様のご病気は、先ほど治癒いたしました。差し出がましくも、私がお治しいたしました」
歌うたいは、そっと仮面を取った。
その仮面に掛かっていた黒髪が、するするっと肩から滑り落ちていく。
「ムイっ‼︎」
まさしく、ムイだった。
そうだとは確信していたが、リューンの心臓は飛び上がるほどに喜んで、今にも走り出しそうだった。
「ムイ、やっと……やっと、お前に会えた……ムイ、」
短かった黒髪が、艶やかに背中までに伸びている。
その長さに。
どれほどの時間、長く長く離れていたのだということを思い知らされる。
「……やっと、会えた」




