明るく、仲良く、たくましく(ソフィ・ライオンハート)
ずっと、大切にしている言葉がある。
小学校高学年の時、我が校に珍しく女校長がやってきた。
それまでに私が世話になった先代、先々代の校長たちのようにどこか和やかな雰囲気をもっていた彼女なのだが、本当に子供が好きなのだろう、普段からよく児童たちと接していたように思う。
週に一度あった児童朝会で、彼女は、いつも決まった紙を持ってきた。その紙は向かって右側が折り曲げられていて、左端の文字のみを確認することができた。
黒の太い油性ペンで書かれ、赤い丸に囲まれた文字は、上から、『あ』『な』『た』。
まあ、これだけでは、一体何なんだと言うことになるのだが。
ここで、皆に予想してほしい。それぞれの文字を頭文字とする単語3語は何なのか。
これは、ある種の推理なのだろう。得意な人はすぐわかるが、苦手な人は最後までわからない。ちなみに、実際にまったく同じ問を彼女に投げかけられたのだが、ひらがなから言葉を推測することは思ったよりも難しく、全児童のほとんどがわからなかった。
さて、答え合わせだ。彼女によって開かれた紙に書いてあった3語は、次のとおりだ。
『あかるく』『なかよく』『たくましく』
なんて、無責任で、苛立たしい言葉なのだろう。当時から一人を好んでいた私は、たしかにそう思った。『たくましく』はいいのだ。しかし、『あかるく』『なかよく』は、解せなかった。明るい性格でなくても、仲の良い友が居なくとも、生きていけると思っていた。
しかし、今思えば、あれらはとても素晴らしいものだった。
ほんの少しでも明るい性格でなければ、誰もよってこないために思いを伝えることは叶わない。仲の良い友がいなければ、一人ですべて抱え込まなければならない。そのまま放置していれば、先に待つは壊れ行く未来のみ。『たくましく』もクソもない。
明るい性格、仲良き友は、逞しく生きるために必要な要素だということを知ったのは、中学に入ってからのことだ。
重いものを抱え込んでいた、自分の殻に閉じこもっていた私をここまで引きずり出してくれたのは、やはり友、なのかはわからないが、それでも仲の良くなった人だった。
そこから、少しずつ、少しずつ。私は、明るい性格を持つ努力をしている。
少し明るくなれば、何かを話せる人ができた。その人と、支え、裏切り、また修復し合うから、逞しく前へ進むことができている、ような気がする。
ずっと大切にしている言葉。
『あかるく』『なかよく』『たくましく』
なんて無責任な言葉なんだろう。今でも、そう思ってしまう。
だが、誰にも話すこともできずに、闇の底へ落ちていこうと働く思考に、少しだけ、未来を、光を見せてくれる。
だから、これが、私にとって『素晴らしきもの』なのだ。
作品は、以上です。
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