第62 初めての場所
――その頃。
『……絶対、まだ私のこと話してるよね』
私は早足で廊下を歩いていた。
お父様たちが何を話しているのか、何となく想像がつく。
『護衛を増やすとか、外出を控えろとか……絶対そういう話だよ』
私は無言のまま、ひたすら足を動かした。
「お嬢様?」
後ろからダリアンの声が聞こえる。
「お嬢様! フリージア様!」
「…………」
「いったい、どちらへ行かれるのですか?」
「…………え?」
その言葉に、ようやく足を止めた。
周囲を見回す。
『……あれ?』
見覚えのない廊下。
いつも通る場所とは、明らかに雰囲気が違う。
「……ダリアン、ここどこ?」
「……ここですか?」
ダリアンは少し困ったように周囲を見回した。
「図書館よりも、さらに奥にある建物ですね」
「へぇ……こんなところあったんだ」
私はきょろきょろと辺りを見渡す。
「ダリアンは来たことある?」
「通り過ぎる程度ならありますが……」
「そうなの?」
すると、ランが静かに口を開いた。
「お嬢様には、あまり関係のない場所ですから」
「……そうなの?」
『関係ないって言われると、逆に気になるんだけど……』
ダリアンたちと話していると、背後から聞き慣れた声がした。
「フリー、こんなところで何してるの?」
「あっ、レイ!」
振り返ると、そこには不思議そうな顔をしたレイが立っていた。
「こんなところにいるなんて珍しいね。何かあった?」
「えーっとね……実はいろいろあって……」
私はレイに、先ほどまでの出来事を簡単に説明した。
以前拾った七色の石が、実は千年以上も姿を消していた精霊界の女王アルシェナ様だったこと。
私の魔力で目覚めたこと。
そして、知らないうちに契約まで結んでいたこと。
「……それで、お父様たちから逃げてきちゃった」
「…………」
レイはしばらく黙って私を見つめていた。
「……フリー」
「な、何?」
「僕がいない間に、またずいぶんすごいことになってたんだね……」
「あはは……私もびっくりしたよ」
「それで、逃げているうちにここまで来たんだ」
「ふふっ、フリージアらしいね。本当に君からは目が離せないよ」
レイはそう言って、愛おしそうに私を見つめた。
その様子を見ていたランが、口元にそっと手を添える。
「あらまぁ……」
「な、何それ! 私がまた何かやらかしそうってこと!?」
思わず頬を膨らませると、レイは小さく笑った。
「違うよ」
「じゃあ、どういう意味よ?」
レイは私から視線をそらさず、優しく微笑んだ。
「僕は、君のすべてが気になるんだよ」
「…………え?」
あまりにも自然に言われたものだから、一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
『……え? それって、どういう……』
何か言い返そうと口を開いたけれど、うまく言葉が出てこない。
「……そ、そう」
結局、それだけしか返せなかった。
何だか急に顔が熱くなってきた。
『……なんでそんなこと、さらっと言えるのよ』
私は少し赤くなった頬を隠すように、そっと顔をそらした。
そんな私たちを、ランは微笑ましそうに見守っていた。
恥ずかしくなって視線を下にそらすと、ふとレイの手に目が留まった。
『……ん?』
よく見ると、手の甲に青紫色のあざができている。
「レイ! そのあざ、どうしたの!?」
「ん? ああ、これ?」
レイは自分の手を見て、何でもないことのように笑った。
「さっき、アスターと手合わせしてもらってたんだ。いいところまでいったんだけど、一瞬の隙を突かれちゃってね」
「えっ!? もしかして、あの噂って本当だったの? アスターお兄様と実戦形式で訓練してるって!」
「ははっ、バレちゃったね」
レイは少し照れくさそうに笑った。
「僕からアスターに頼んだんだ。もっと訓練のレベルを上げてほしいって」
「ええっ!? そうだったの!?」
すると、横で話を聞いていたダリアンが口を開いた。
「レイは今や、アスター様の次に強いとまで言われているんですよ」
「……え?」
私は思わずレイを見た。
レイは困ったように笑っている。
『……ちょっと待って。そんなに強くなってたの!?』
「ダリアン! なんで私に教えてくれなかったの!?」
勢いよく振り返ると、ダリアンはぎくりと肩を跳ねさせた。
「あー……それは、その……」
「なに?」
「お、男の約束ですよ! 男の!」
「男の約束!?」
「そうです! こういうのは男同士の約束なんです! フリージア様には分かりません!」
「なによそれー!」
そんな私たちのやり取りを見て、レイはくすくすと笑っていた。
「フリー、ダリアンさんを責めないであげて」
「え?」
「僕がお願いしたんだ。フリーには黙っていてほしいって」
「……レイが?」
「うん」
レイは小さく頷くと、少しだけ真剣な表情になった。
「この前のことがあって、僕はまだまだ弱いんだって思い知らされたんだ」
そう言いながら、レイはそっと手を伸ばした。
その指先が、私の頬に残る傷跡に優しく触れる。
「……レイ?」
「もう二度と、あんな思いはしたくないからね」
レイは私の頬を撫でるように指を滑らせると、ふわりと微笑んだ。
「君を守るためなら、これくらいやらないと」
「…………っ」
あまりにも優しい笑顔で、そんなことを
言うものだから。
『……ちょ、ちょっと待って!』
急に心臓が跳ねた。
『なんでそんな顔で、そんなこと言うのよ……!』
何か言い返そうとしたけれど、言葉が出てこない。
頬がじわじわと熱くなっていく。
「……あ、ありがと」
ようやくそれだけ口にすると、レイは嬉しそうに目を細めた。
ふと横を見ると――。
「……あらまぁ」
またランが頬をほんのり赤く染め、口元を押さえている。
そしてダリアンまで。
「……いやぁ、これは……」
なぜか照れくさそうに頬をかいていた。
『……ちょっと! 二人までそんな顔しないでよ!』
私はますます恥ずかしくなって、思わず俯いてしまった。
『……だ、だめ! このままじゃ恥ずかしすぎる!』
私は慌てて話題を変えることにした。
「あっ! そ、そうだ! レイも行く? 宝物庫!」
「宝物庫?」
「うん! 私、ここには今まで一度も入ったことがなかったんだよ!」
何事もなかったかのように、廊下の奥を指さした。
「せっかくだから、ちょっと見てみたいなって!」
レイはそんな私を見て、くすっと笑った。
「ふふっ、いいよ。僕も一緒に行く」
「ほんと? じゃあ決まりね!」
レイはまだ、どこか楽しそうに微笑んでいる。
私たちはダリアンとランに案内され、宝物庫へと足を踏み入れた。
『……あれ?』
宝物庫っていうくらいだから、古い物が積み重なっていて、埃っぽい場所を想像していたんだけど……。
意外にも、中は隅々まで綺麗に掃除されていた。
広い室内には、大小さまざまな魔導具が整然と並べられている。
見たこともない形の道具や、何に使うのか分からない装置。
中には、錆びついた剣や傷だらけの防具なんかもあった。
『へぇ……なんだか不思議な空間』
まるで、昔の博物館にでも迷い込んだような気分だ。
「ねぇ、ここって誰でも入れるの?」
私が尋ねると、ダリアンが答えた。
「はい。城内で働いている者や、こちらで暮らしている者であれば、基本的に出入りは可能ですよ」
「へぇ……でも、盗まれたりしないの?」
「そのようなことをする者が城内にいるとは思いませんが、もちろん対策はされています」
「対策?」
「はい。こちらの建物は、扉が開いた時点で誰が入ったのか記録される仕組みになっているんです」
「えっ、そうなの?」
「窓から侵入した場合でも同じですよ。建物全体に記録用の魔法が施されていますから」
「ほぉー……すごい!」
『そんな便利な仕組みがあるんだ!』
私は感心しながら、もう一度室内を見回した。
古びた魔導具に、錆びついた武器。
どれも長い年月を感じさせるものばかり。
『……こういう場所って、見てるだけでもわくわくするよね』
「ん? ここは入れないの?」
奥へ進んでいくと、ひときわ大きな扉が目に入った。
ほかの扉とは違い、何やら複雑な魔法陣が刻まれている。
「はい。そちらが先ほど申し上げた、陛下の許可が必要な場所でございます」
「ふーん……」
私は扉をじっと見つめた。
『……ここも見たいなぁ』
せっかく来たんだし、どうせなら全部見てみたい。
「んー……」
少し考えてから、私は何も言わずに指先へ魔力を集めた。
ぽんっ。
小さな白い光が生まれる。
そのまま、ひゅんっと飛んでいった。
「……フリー?」
隣にいたレイが、不思議そうに私を見た。
「今、誰に送ったの?」
「ん? 誰でしょー?」
私はにこっと笑って、とぼけてみせた。
すると、後ろにいたランが何かに気づいたように目を見開いた。
「……お嬢様、まさか……」
「ふふっ」
私は何も答えず、ただ微笑んだ。
すると、目の前の空間がふわっと光り始めた。
「……あっ!」
光が収まると、そこには見慣れた姿があった。
「お祖父様!」
ランとダリアン、そしてレイがすぐさま姿勢を正し、深く頭を下げる。
「あっ、お祖父様! お元気ですか? まさか来てくださるとは思いませんでした!」
「何を言っておる。お前さんが宝物庫の立ち入り禁止の場所を見たいと言ったんじゃろう?」
「えへへ……だって、許可をもらえば入れるっていうから。だったら、許可をもらえばいいだけでしょ?」
私はにこっと笑った。
「ガハハ! まったく、お前という子は!」
お祖父様は豪快に笑うと、私の頭を優しく撫でた。
「なーに、気にするな。可愛いフリージアのためなら、わしはいつでも駆けつけるぞ!」
「えへへ、ありがとうございます!」
「それに、お前さんがここへ来たいと言い出すなんて、初めてじゃろう?」
「はい! 今までこんな場所があるなんて知らなかったんです!」
お祖父様は楽しそうに目を細めた。
「そうかそうか。ならば、せっかくじゃ。ゆっくり見ていくとよい」
お祖父様は扉の前に立つと、ゆっくりと手をかざした。
すると、扉に刻まれた魔法陣が淡く光り始める。
「ここには、基本的にそれほど大したものは置いておらんのじゃがな」
お祖父様はそう話しながら、扉を開けてくれた。
「昔、王家で使われていた武具や、あいつの形見があるくらいじゃ。あとは……少し宝石もあったかのぉ」
「へぇ……」
私はお祖父様の後ろについて、部屋の中へと足を踏み入れた。
『……おお!』
先ほどの部屋とは、明らかに雰囲気が違う。
見渡す限り、どれも高価そうな品物ばかり。
美しい装飾が施された剣や鎧、繊細な細工の魔導具。
棚には色とりどりの宝石まで飾られている。
『……すごい。さっきの部屋とは全然違うね』
でも、宝石にはそれほど惹かれなかった。
『綺麗だけど……別に欲しいとは思わないかなぁ』
そんな私とは対照的に、ランは宝石の並ぶ棚の前で足を止めていた。
「まぁ……なんて美しいのでしょう」
目を輝かせながら、ひとつひとつ眺めている。
一方、ダリアンはというと……。
「……これは、見事な剣ですね」
壁に飾られた剣を、うっとりとした表情で見つめていた。
『ランは宝石で、ダリアンは剣かぁ……』
思わずくすっと笑ってしまう。
『……あれ? レイは?』
きょろきょろと見回すと、レイは部屋の奥にある本棚の前にいた。
古びた分厚い本を、興味深そうに眺めている。
「レイ、何見てるの?」
「ん? 古い書物だよ。今では見かけない文字で書かれているものもあるみたい」
「へぇ……」
『ランは宝石、ダリアンは剣、レイは古書……』
『みんな、興味を持つものが全然違うんだね』
私は改めて部屋の中を見渡した。
私は改めて部屋の中を見渡した。
すると、棚の一角に飾られていた小さな髪飾りが目に留まった。
『……ん?』
赤黒い宝石があしらわれた、少し古びた髪飾り。
特別豪華な装飾があるわけでもなく、ほかの宝石と比べれば、むしろ地味なくらいだ。
なのに――。
『……なんだろう。妙に気になる』
私はそっと髪飾りを手に取った。
「それが気になるのか?」
いつの間にか、お祖父様が隣に立っていた。
「はい。なんだか……」
「ほぉ……それはロゼがいつも身につけていた髪飾りじゃな」
「……お祖母様の?」
「ああ。わしが初めて贈ったものじゃ」
お祖父様は懐かしそうに目を細めた。
私はもう一度、手の中の髪飾りを見つめた。
赤黒い宝石は少しくすんでいるけれど、なぜか目が離せない。
『……不思議。どうしてこんなに惹かれるんだろう』
私は服の袖で、宝石の表面をそっと磨いてみた。
きゅっ、きゅっ。
すると、くすんでいた宝石が少しずつ本来の輝きを取り戻していく。
「……わぁ、綺麗」
深い赤の中に黒が混じったような、不思議な色合い。
私はしばらく眺めてから、お祖父様を見上げた。
「あの……これ、もらっちゃ駄目ですよね?」
すると、お祖父様は目を丸くしたあと、にっこりと笑った。
「何を言っておる。もちろん、よいに決まっておるじゃろう!」
「えっ?」
「そんなに気に入ったのなら、持っていくとよい」
「で、でも……これ、お祖母様の大切な……」
私がためらっていると、お祖父様は優しく微笑んだ。
「ロゼはな、いつも輝いておったよ」
その声は、どこか懐かしそうだった。
「明るくて、優しくてのぉ。あやつが笑うだけで、周りまで明るくなるような、そんな女性じゃった」
「……お祖母様」
「お前が生まれたときも、それはそれは喜んでおったぞ」
お祖父様は楽しそうに笑った。
「何度もお前を抱き上げては、『可愛い、可愛い』と言って、なかなか離そうとせんかったわい」
「……そうだったんですか?」
「ああ。わしが抱こうとすると、もう少し待てと言われてのぉ。ガハハ!」
私は思わず笑ってしまった。
『……お祖母様、そんなに喜んでくれてたんだ』
「きっとロゼも喜ぶじゃろう。大切にしまっておくより、可愛い孫に身につけてもらうほうが、あやつも嬉しいに決まっておる」
そう言って、お祖父様はふと思い出したように手を打った。
「そうじゃ! ロータスたちも、それぞれロゼの形見を一つずつ受け取っておるぞ」
「えっ? そうなの?」
「ああ。そういえば、フリージアはまだ幼かったからのぉ。すっかり忘れておったわ」
お祖父様は私の手の中にある髪飾りを見つめた。
「それでよければ、ぜひもらってやってくれ」
「……お祖父様」
「ロゼも、きっとお前を守ってくれるじゃろう」
その言葉に、私はもう一度髪飾りへ目を落とした。
赤黒い宝石が、光を受けて静かに輝いている。
『……お祖母様が大切にしていた髪飾り』
私はそれを両手でそっと包み込んだ。
「……ありがとうございます、お祖父様。大切にします」
「ああ。それが一番じゃ」
お祖父様は嬉しそうに笑い、私の頭を優しく撫でてくれた。
ふわっ――。
『……ん?』
手の中にある赤黒い宝石が、一瞬だけ淡く光った。
『……今、光った?』
もう一度じっと見つめる。
けれど、宝石は何事もなかったかのように静かに輝いている。
お祖父様から譲り受けた髪飾りを大切に握りしめながら、私はもう一度部屋の中を見渡した。
すると、レイが古びた一本の剣の前で立ち止まっていることに気づいた。
「レイ? どうしたの?」
「……この剣、なんだか気になるんだ」
レイは剣から目を離さずに答えた。
その剣は、ほかの立派な武具とは違い、刃が欠け、ところどころ傷んでいた。
『……ずいぶん使い込まれてる剣だね』
「ほぉ、それが気になるのか」
お祖父様がレイの隣に立ち、懐かしそうに笑った。
「それは昔、アイリオンが使っておった剣じゃ」
「えっ! アイリオン先生のですか?」
思わず私まで声を上げてしまった。
「ああ。あやつが若い頃に使っていたものじゃ。ずいぶん無茶をしておったからのぉ」
レイは驚いたように剣を見つめた。
「……そうだったんですね」
「気に入ったのなら、持っていくとよい」
「えっ? ですが、先生の大切な剣なのでは……」
「なぁに、構わん構わん!」
お祖父様は豪快に笑った。
「そんな刃がボロボロになった剣、あいつは今さら気にせんじゃろう。それに、お前はあやつの愛弟子のようなものじゃろ?」
「で、でも……先生の許可をいただいていませんし……」
「大丈夫じゃ! わしから言っておく!」
『……お祖父様、ずいぶん軽いなぁ』
でも、レイは嬉しそうだった。
そっと剣に手を伸ばし、その柄を握る。
「……ありがとうございます。大切にします」
その表情を見て、お祖父様も満足そうに頷いた。
すると今度は、少し離れた場所からダリアンの声が聞こえた。
「……まさか、これがここにあるなんて」
「ダリアン?」
振り返ると、ダリアンは一本の古い鍔をじっと見つめていた。
派手な装飾こそないものの、丁寧な細工が施された立派な鍔だった。
「それは、お前の祖父が使っておったものじゃな」
「……やはり、そうでしたか」
「知っておったのか?」
「いえ……昔、祖父の話を聞いたことがあるだけです。でも、なぜかこれだけは目が離せなくて……」
ダリアンは不思議そうに鞘を見つめている。
「ふむ……そうか」
お祖父様は少し考えたあと、優しく微笑んだ。
「ならば、それも持っていくとよい」
「えっ!? よろしいのですか?」
「ああ。お前の祖父は立派な働きをした男じゃった。その功績を称えて、ここに保管しておるのじゃ」
お祖父様は鍔に目を向けた。
「じゃが、自分の孫が使ってくれるのなら、あやつもきっと喜ぶじゃろう」
「……ありがとうございます!」
ダリアンは深々と頭を下げた。
『ダリアンのお祖父様のものだったんだ……』
なんだか素敵だなぁ。
そう思っていると、今度はランが小さく声を上げた。
「……まぁ」
ランは宝石の並ぶ棚の前で、一つのブレスレットを見つめていた。
細かな装飾が施された、上品で美しいブレスレット。
「ラン、それが気に入ったの?」
「はい……不思議なのですが、先ほどからどうしても目が離せなくて……」
ランは少し困ったように微笑んだ。
お祖父様はそのブレスレットを見ると、驚いたように眉を上げた。
「ほぉ……それを選ぶとはのぉ」
「お祖父様?」
「それはラン、お前の曾祖母が愛用しておったものじゃ」
「……えっ?」
ランが目を丸くする。
「わ、私の曾祖母の……?」
「ああ。あの者も実に立派な働きをしてくれた。これは、その功績を称えて保管しておったものじゃ」
ランは信じられないという表情でブレスレットを見つめた。
「……そうだったのですね」
「お前も持っていくとよい」
「ですが、そのような大切なものを……」
「何を遠慮しておる。お前の曾祖母のものじゃぞ」
お祖父様は穏やかに笑った。
「大切な子孫に受け継がれるのなら、本人もきっと喜ぶじゃろう」
「……ありがとうございます。大切にいたします」
ランは嬉しそうに微笑み、丁寧に頭を下げた。
私は三人を見渡した。
『……なんだか、すごい偶然じゃない?』
レイはアイリオン先生の昔の剣。
ダリアンは自分のお祖父様が使っていた鍔。
ランは曾祖母が愛用していたブレスレット。
そして私は、お祖母様の髪飾り。
『みんな、それぞれ違うものに惹かれたんだね』
しかも、誰一人として、最初からその品物の持ち主を知っていたわけじゃない。
ただ、なぜか気になって、目が離せなくなった。
お祖父様もそれを感じ取ったのか、私たちを見渡して楽しそうに笑った。
「不思議なものじゃな。こうして品物が、それぞれ縁のある者の手に渡るとは」
「……本当ですね」
「ここにあるものは、かつて素晴らしい功績を残した者たちの品々じゃ。じゃが、ただ飾っておくために残したわけではない」
お祖父様はゆっくりと部屋を見渡した。
「こうして次の世代へ受け継がれていくのも、悪くないじゃろう。きっと本人たちも文句など言わんわい」
その言葉に、みんな嬉しそうに微笑んだ。
私も手の中の髪飾りを見つめる。
『……お祖母様、大切にするね』
赤黒い宝石が、光を受けて小さく輝いた。
それから私たちは、お祖父様に案内されながら宝物庫を一通り見て回った。
古い武具や魔導具、歴代の王族が使っていた品々。
どれも興味深く、気づけばずいぶん時間が経っていた。
「さて、そろそろ戻るとするかのぉ」
「はーい!」
私はお祖父様の隣へ駆け寄った。
レイもダリアンもランも、それぞれ譲り受けた品物を大切そうに抱えている。
『ふふっ。今日はみんな、お宝をもらっちゃったね』
私はもう一度、手の中の髪飾りに目を落とした。
『……でも、どうしてこれがこんなに気になったんだろう?』
不思議な感覚は、まだ胸の奥に残っていた。
「お祖父様、ありがとう!」
「うむ。大切にするんじゃぞ」
「うん!」
私は髪飾りを大切にしまい、お祖父様と一緒に宝物庫を後にした。
「そうじゃ、フリージア。久しぶりに一緒に茶でも飲まんか?」
「いいの? 飲む!」
そのまま私たちは、お祖父様の部屋でお茶をいただくことになった。
ランがお茶とお菓子を用意してくれる。
お祖父様と他愛もない話をしながら、のんびりとした時間を過ごしていた。
すると――。




