第6話 牛丼に牛肉は必須だよね
「ふぃ、終わりっと」
クエストは簡単な薬草収集。この程度であれば俺でもすぐに終わる。
「こんなすぐ終わるとは思わなかったな。この後はどうしたものか」
この辺の森は魔力が高いらしい。そのおかげで質の高い薬草を簡単に集めることが出来た。
良い場所だな。少々道に迷いやすいのが難だが、今後は俺の目標のこともあるし、素材集めにも使わせていただきたいものだ。
「どうせだから、素材探すか」
まだ時間はあるため、少しだけ今の世界を探索することにした。
実は、俺には何個か目標がある。
そのひとつはこの世界に牛丼屋を作ることだった。
俺にとって牛丼とは革命的な料理だ。この世界に来てから更にそれを理解した。
グレイトワは飯が不味すぎるからな。日本の料理を経験した身として、ずっとグレイトワの料理とも言えない飯を食う訳にはいかない。
「必要なのは、米、肉、ネギ、タレ……だな」
トッピングに関しては今は後回しでもいいだろう。最低限牛丼を作るためには、この四つが必須だ。
当然日本にある食材はここには無い。てことは代わりのものを一から探すしかないんだろうな。これはまた時間がかかりそうだ。
米……は後回しにするとして、ネギくらいは見つけられないだろうか。
それと肉だな。牛のような生物が居てくれてらいいんだが。
「……何か、騒がしいな」
食材を探して歩き回っていると、突然木々が騒ぎ始めた。
それだけではない。この森に生きる生物たちもザワついている。何かに怯えるような感じだ。
「こっちの方だよ……な?」
動物たちの視線の先を見てみる。
一見何も変わらないが、どこか禍々しい雰囲気を感じるな。
面倒なことは避けたいが、もしかするとお目当ての食材があるかもしれない。
怖いもの見たさというやつか。人というのは面白いものだな。今の俺を含めて。
「わーお、こりゃすげえな」
スキップ気味に歩きながらそのオーラの発生源へと近づいてみると、なんともまあグロテスクな景色があった。
蹴散らされた動物たち、薙ぎ倒された木々、傷ついた冒険者たち、その中心には牛のような巨体の怪物。
……まて、牛のような、だと?
「ラッキーだな」
コイツが居れば牛丼において最も重要なピースである牛肉が取れるかもしれない。
しかし問題がひとつある。
それは冒険者達がまだ生きていることだ。
当然生きていた方がいいのだが、今の状況においては別だ。
「陣形を保て! 王子様を守るのだ!!」
はて、王子様とな? そのような人物は見えないのだが……
冒険者の一人の言葉が気になったので俺は少しだけ木の影に隠れて見守ることにした。
一見するとただの冒険者。実際立て直すまで俺は彼らをそう認識していた。
ただ、その実態はどうやら少し違うようだ。その統率の取れた団体行動、それは冒険者では有り得ないだろうな。
前衛のタンクが牛の突進を防ぎ、アタッカーが攻撃。それをバッファーがサポートして、傷ついた場合はヒーラーが回復させる。
だが、それではダメだった。アタッカーの刃が牛の肉体を傷つけることは出来なかったのだ。
どうやら、魔力によって強化された個体のようだ。そのせいで魔術も発動していないその刃は通らなかったのだろう。
彼らの敗因を考えながら戦闘を見守っていると、俺は気づいた。たった一人、その連携に入っていない奴が居ることに。
「ぐわぁぁ!!」
それに気づいたその時、次第にタンクが耐えられなくなってきて再び組織が崩壊した。
「……流石にマズいな」
その戦っていない一人を除いて全員が倒れた。それを見て俺は危機感を感じて飛び出してしまった。
完全な勘だが、彼に牛が突撃していくのはヤバい。
攻撃を始めようと動き始めた牛と非戦闘員の間に勢いよく着地する。
土煙が舞ったが、これは逆に良いかもしれない。後ろに立っている人間はまだ意識がある。ソイツに俺の姿を見られる訳にはいかないからな。
「さて、コイツは美味いかな?」
土煙で姿が見えないというのに突進しようとしてくる牛に少々感心してしまいながらも俺は一切容赦せず、一瞬のうちに距離を詰めて顔面に拳を食い込ませた。
「グルルァ……」
もう少し手応えがあるかと思ったのだが、たったの一撃で倒れてしまった。まあ姿を隠せている間に倒せたことは良かったと言える。
なのでこの牛を持って早々に退散するとしようか。
「お前……」
一瞬、後ろから声が聞こえた気がした。だが俺の姿なんて見られていないと思われるので、気にせずに移動を始めた。
「今のは……」
先程、特異個体に指定されたブラッド・ブルの討伐に赴いた俺たちだったが、奴の危険度を見誤ってしまい絶望的な状況となった。
部隊のみんなが倒されてしまい、非戦闘員である俺一人になってしまった。
流石に死を覚悟してしまったその時、俺の目の前に一人の男が現れた。
土煙が舞ったせいで一瞬しか見えなかったが、若い男であった。多分、俺と同い歳くらいだ。
そして土煙が晴れる頃には、男も怪物も居なくなっていた。
「アイツは、なんだ?」
俺は一人取り残されたまま、ボーっと抉れた地面を眺めるのだった。




