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僕は化け物の胃の中  作者: 漣職槍人
第二章
17/17

018.巨人への祈り

 ホビットたちが落ち着いたころ。

この壇上の上で巨人へのお祈りの催しを行うとのことで壇上を降りた。

階段の終わりでイネスさんとゴーザさんが立っていたので挨拶をする。二人も手を振って挨拶を返してくれた。

「イネスとゴーザはこれからあなたたちの補助兼護衛に付いてもらいます。常に一緒に行動してください」

「常に一緒ですか?」

 イネスさんはこの街の治安を守る警備隊長だ。そんな二人に警備してもらうとか大げさ過ぎないだろうか?常に一緒のゴーザさんだって重要な役職にあるに違いない。

「この街の警備隊長と副隊長。ホビット族最強の夫婦の護衛ではたりませんか?」

 ゴーザさん副隊長で実質ナンバーツーだった!

「ホビットは屈強な戦士というわけではありません。ですが決して弱いわけではありません。息を潜めひそかに近寄り人を殺せるだけの暗殺者としての力があります」

 ホビッチョさんの言うことは本当だろう。指輪物語で魔法使いのガンダルフはホビットを『忍びの物』と位置づけて例えた。それはホビットがいわゆるロールプレイングゲームにおける盗賊(シーフ)とか暗殺者(アサシン)の職業に適した種族ということを示している。それを表すように物語では仲間のドワーフがゴブリンに攫われる中を一人気づかれずにやり過ごしたり、闇にまぎれて息を潜めて忍び寄り敵を突き刺したりする描写が書かれている。

「なぜかイネスはパワーファイターですが・・・・・」

 一瞬戸惑いを顔に浮かべて呟いたことを聞き流す。

「ここから先ホビット族が無事に移住できるかはあなたたちにかかっています。何かあってからでは困りますからね」

 それもそうか。パリアンが側にいる時点で大丈夫な気はするけど。ホビッチョさんの心配する気持ちもわからなくはない。とりあえず護衛を受け入れることにした。

「ちなみに娘もつけますのであとはよろしくお願いします」

「え!?」

 とってつけたように言うホビッチョさん。その顔は清々しいものだった。厄介ごとを押し付けられたような気がする。


「キミカワイィーネー!」

 なんかイラッとする奇怪な声が聞こえた。

「パリアンがかわいいのは当たり前なのです。女は好きな人の前ではかわいく痛いものなのです」

 心なしか一部が願望の『いたい』ではなく、人として痛々しいの『痛い』に聞こえたのは僕の脳がおかしいのだろうか?パリアンの場合その変換で間違っていないだけに否定もできない。というか妙にしっくりくる言葉だ。

 振り返るとホビットがパリアンをナンパしていた。金髪に白のタキシード。中に黒シャツ赤ネクタイ。顔はイケメン。まるで歌舞伎町のホストクラブにいそうなやつだった。残念なことにホビットなので身長が小さい。これで僕よりも身長が高かったら負けていた。どうやったらパリアンに近づいたことを後悔させられるだろうか?と考えながら近づいていく。

「旦那様が着たのです。パリアンは既婚者で世帯持ちなのです」

 僕の接近に気がついたパリアンが腕に抱きついてくる。パリアンがこれ見よがしに腕を胸で挟むから周囲のホビットたちがうらやましそうな視線を向けてくる。一部奥さんにヘッドロックまたはアイアンクローを受けているものもいた。というか婚約はしたけれどまだ入籍も結婚式もしていない。うそはいけないよパリアン。

 イケメンホストはふっと笑って。

「すぐにお姫様を夢中にさせて見せるさ」

 うん、こいつ敵だ。本能がイケメンを敵と認める。

「俺の実力見せてやるよ。そこで見てな、ベイビー」

 ピストル形にした手でバキューンとキザな動作を取るが残念。パリアンは見ていなかった。


 イケメンホストが取り巻きをつれて舞台へと上がった。

「見た目だけでなく実際に頭が残念な彼ですが、あれでも有力な一族の出の者になります」

「有力な一族ですか?」

 やっぱりかと頭が残念な事実はわかっているので本題を聞き返す。

「はい。いわゆる名士や豪族ですね。ホビット族の起源についてはお話しましたね」

 ホビット族は神々が人族(アタン)を生み出す時に最初の試行錯誤で生まれた存在。うなずき返す。

「生み出した神々の数だけホビットも種族がいます。神の多い地域では特に生まれたホビットの数も多く。地域ごとにその土地を治める有力な一族がいました」

「そのうちの一つが彼の家ということですか?」

「そういうことです。ちなみに全ホビット族が合流した際には文化の違いでいざこざが起きましてね。ホビットの頂点を決める天下一武闘会ホビットドッカンバトルが開催されました。バギンズ家は月を見て巨大猿化した孫家を倒し、見事この街の町長の座を得ました」

 どこかの漫画のような展開の出来事があったらしい。

「ちなみに順位は三位でした」

「三位ってその上に二人いますよね!?」

「街は複数用意されていましたからね。結果的にこの街以外は先に逝かれた巨人様たちと共に滅びました」

 三位でも街と一族が生き残ったバギンズ家は勝ち組だ。その運の強さは指輪物語の主人公のバギンズ家並といってもいい。うらやましくもある。

「運がいい一族だとでも思いましたか?」

 まるでこちらの考えを見透かしたような言葉に動揺する。

「あたりですか?また表情に出ていますよ」

 ボビッチョさんに言われて口元を手で覆う。

「驚かせてすみません」

謝罪と共に視線をそらされる。

「いえ。気にしてませんよ」

 視線を追った先。舞台上ではイケメンホストたちが舞台準備をしていた。

「・・・・・・頭の中なんて読めませんよ。ただの思い込み。被害妄想です。人はいいところにしか目がいきませんから。この立場にいると。たまに見る目というものに悩まされます。何がうらやましいのやら」

 目は口ほどに物言う。有力者の一族にしてこの街を収める町長ともなれば、ホビット族の頂に立つ存在だ。ホビッチョさんを妬ましく思う人がいてもおかしくない。そんな視線にさらされ続けたせいで人の目に敏感なってしまったんだろう。だから僕の視線に何かを感じ取った。

「本当に運がいいのなら傷つくことも起きないのだからこんな思いも知らないでしょう。妻が死ぬこともなかった。娘が口を閉ざすことも。私は悪運とよんでいます」

「悪運ですか・・・」

 妙にしっくりと来る言葉だった。最後まであがいて運よく生き残った自分にも当てはまるからかもしれない。

「さて、話を戻しましょう。この町には巨人様たちの死と共に避難してきたホビットの名士たちがいます。いわゆる元町長ですね。現在のホビット族の長はこの街の町長である私ですが、有力者である彼らはこの町でも重要な役割を受け持っています」

「重要な役割ですか?」

「例えばイネスのコトン家とそこに婿入りしたゴーザのスメアゴル家は街の治安を守る警備隊を率いています。ただ二人のように協力的な名士もいるのですが、中には私がホビット族を取り仕切っていることを快く思わない人もいますので覚えて置いてください」

 なるほど。それでこんな話をしていたのか。しかしゴーザさん婿養子だったのか。ますます尻に敷かれているイメージが強くなる。

「ちなみに彼らはゼウス神の地域から来た一族になりますが、見ての通り巨人様へのお祈りの役割を受け持っています」

 ホビッチョさんが舞台で指揮を取るイケメンホストを示す。ゼウス。ということはギリシャ神話に関連するホビットということか。

「どうやら準備ができたようです」

 ホビッチョさんの声につられて僕は舞台の上を見た。


 舞台の上に手の甲を上にして人差し指と親指を立てた腕を水平にしてポーズを取ったイケメンホストが立っていた。

「セイント家のセイヤいかせていただきます」

 セイント!?ギリシャ神話系ってことは女神アテナと関係ないよな。そして名前セイヤ・セイントっていうのか。

 キャーキャーと黄色い声が飛ぶところを見るとセイヤは人気があるらしい。

「ちなみにセイヤは北街でホストクラブを経営しています」

 本当にホストだったのか!?声を上げている女性たちはもしかしたら常客なのかもしれない。

 脚を開いて腰を落とす。そしてセイヤは空を仰ぎ見た。右手の人指し指をピーンと立てて空を打ち抜いた。

「ナイトステージ・オン」

 あたりが夜に包まれた。

 天気ってこんな簡単に変わるの!?

「この街には住民が暮らしやすいようにアシスト機能が付いています。強い思いを感じ取るとたまに発動するんですよ。彼はアホで単純な分強い思念を出せるので八割成功します」

 的確なタイミングでホビッチョさんが説明してくれた。


「やろうども。コールいくぜ」

 ハイッ!ハイッ!ハイハイッ!ハハハイッ!

 セイヤの合図と共に周囲に取り巻きのホストが現れ手合いの手を入れる。

「お猪口タワーハイリマース!」

 観客に向かってセイヤが宣言するとライトアップされた箇所に巨大な木の升の中に作られたお猪口タワー?お猪口で作られた三角錐ピラミッドが現れた。

 女性たちの黄色い声が響き渡る。

 取り巻きによって一番上のお猪口に酒が注がれる。一つ目のお猪口からあふれた酒が下のお猪口へと流れていく。

「巨人様のいいとこ見てみたい」

『ハイッ!』

「ロンリー?」

『ロンリー!』

「ロンリー?」

『ロンリー!』

「ロンリーウルフの巨人様ったらかっこいい!」

『かっこいい!』

「暴れひしめく巨獣さえも~いちころ~」

『ハイッ!いちころ~ハイッ!いちころ~』

「巨人様ったら無敵」

『無敵っ!無敵っ!』

「巨人様のいいとこ見てみたい」

『ハイッ!』


 二番に入るところで僕は見ることも聞くこともやめた。


「パリアン知っているのです。これぞ現代魔法ホストコールなのです。ノリと勢いで楽しい雰囲気の中にいると女性を錯覚させる幻惑魔法なのです。傍から見たらばかばかしく、やってる本人も理解の上で仕事だからやっているという苦汁の魔法でもあるのです」

「パリアン詳しいね」

「パリアンはユーゴ一筋なのです。お局様から聞いたことがあるだけで決してホストクラブに行ったことはないのです」

「うんうん。そんな慌てなくても大丈夫だよ」

 パリアンはかわいいな。慌てふためくパリアンの頭を撫でることで視線を舞台から遠ざける。

「ふごぉ~ユーゴデレデレなのです」

 鼻息を荒くして喜ぶパリアン。これだけ興奮してればセイヤのコールなんて耳にも入らないだろう。なでなで。

「どうだい?ベイビー俺の巨人様へのコールは」

 セイヤが現れた。どうやらお祈りが終わってパリアンにちょっかいをかけにきたらしい。僕がパリアンを撫でる手を止めるとセイヤの姿をパリアンは目にして。

「パリアンはくずはくずかごにという言葉を知っているのです」

「そこまで嫌!?」

 セイヤに罵声を吐いたのだった。


「次のお祈りが始まるのです」

 撃沈されてうな垂れるセイヤは放って置くとして、パリアンにつられて舞台の上を見る。白衣に赤い袴と僕の故郷(日本)の巫女装束に似た衣装の女性たちが並んでいた。

「巨神教会に勤めるシスターたちです。見ての通り巫女装束と呼ばれる変わった服を着る風習があります」

 本当にまさかの巫女装束だった!?いやもしかしたら翻訳スライムが僕に分かりやすいように巫女装束と変換しているだけかもしれない。

「驚きましたね。僕の故郷は世界的に見れば小さな島国なのですが、そこにも巫女装束があります。しかも神様を祭る神社という場所で働く女性が着るところまで似ています」

「そうですか。ちなみに大陸から分離した小さな島から来た名士の一族が伝えた風習だそうです。もしかしたら起源が同じなのかもしれませんね」

 鍵盤楽器があるようでパイプオルガンに似た音が流れ始めた。ゆっくりとシスターたちが歌うのはこちらの世界の聖歌、いや賛美歌のゴスペルに似ていた。歌の中にはホビッチョさんの言ったリクエストも混じっていた。次は魚が食べたいです。健康のために野菜も食べてと巨人の体調を気遣う部分もある。

 聖歌隊か。この世界でも歌う祈りというものがあるんだな。と感心していると急に切り分けるように大きく一つの音を鳴らしてオルガンがの音がリズミカルになる。なんだこれは!?このロックとゴスペルを合わせた歌には聞き覚えがある。

「パリアンも天○にラブソングは大好きなのです」

 パリアンが答えを口にした。そうだ。殺人事件を目撃したクラブソング歌手がかくまってくれた修道院で騒動を巻き起こす映画にそっくりなんだ。青森のおじさんが大好きだと言ってよく見せられたっけ。

「というかなんでパリアンその映画のタイトル知ってるの?」

「お局様に私の年代の映画は見れないっていうのかと脅迫気味に見せられたのです」

 ここでまさかのお局様!?なるほど。そういうのもあるか。僕はこうしてパリアンのネタ知識の根源を一つを知るのだった。

 聞き入っているとそこで重要なことに気づく。

「そういえばホビッチョさん」

「なんでしょうか?」

「このお祈りは実際に巨人の耳に届いているのですか?」

「ええ届いていますよ。実際に胃にリクエストされたものが流れきます」

 やはりそうか。なら巨人と会話ができるのでは?と考えたところで。

「ただ、残念ながら一方通行でしてね。ユーゴさんが期待するような巨人様と会話ができるわけではありません」

「そうですか」

 考えを読んでいたホビッチョさんに僕の期待はあっさりと否定されてしまった。抑えることもできずため息が出る。肩もがっくりと落ちてしまった。


 やがてお祈りも終わるとシスターたちが撤収を始める。

「本日のお祈りはこれで終了になります」

 ホビッチョさんが終わりを教えてくれた。

「一度屋敷へ戻りましょうか」

「そうですね」

 今後の予定決めのためにも一度屋敷に戻ることにした。パリアンに伝えようと振り返る。

「トウッ!なのです」

 なにやらハスキーな切れのいいボイスでパリアンが垂直に飛んだ。そして両腕を上げた万歳ポーズのまま落ちてくる。なぜかぴったりと足に張り付いてスカートがめくれることはなかったが、五メートル近く飛んだため、その着地衝撃は消せなかったらしい。ぶるるんとすごい大きく胸が数回上下して目を奪われる。パリアンのそういう無防備なところがすごく心配になる。視界の片隅で上を向きながら首の後ろをトントンするなんかすごい純情なホビットがいた。

『・・・・・』

 周囲を沈黙が埋め尽くすと。ハッと急に何かに気づいた顔をするパリアン。

「パリアンうっかりなのです。パリアンは昭和の仮面○イダーではないので垂直に飛んでも空中で突然敵に向かってベクトルが変わったりしないのです」

「うっかりとかそういうものじゃないよね?というかその例えは何なの?」

「むむむむ。つまりは山形(やまなり)曲線を描くように斜め方向に飛ぶ必要があるのです」

 僕はそこでパリアンが何をやろうとしていたのか理解する。広場中央の舞台に向かって山形(やまなり)に飛ぼうとしていたのだ。

「今度こそ!左手は添えるだけなのです。トウッ!なのです」

「パリアンそれバスケのシュートの打ち方だから!しかも飛ぶのはボール!」

 僕のツッコミもなんのその。パリアンは見事に山形に飛んで舞台の上に着地。その手に握られたマイクに嫌な予感がはしる。

「みんな!パリアンの歌を聞けええ!なのです!」

 僕は舞台に飛び乗ってパリアンを羽交い絞めにした。

「だめだパリアン。ここはカラオケの場所じゃない」

「なぜとめるのですか?パリアンはオレンジシャツばかりのガキ大将や青い猫型ロボットに負けないくらい歌がうまいのです」

「それどっちも騒音被害出す歌がへたくそなキャラの代名詞じゃないか!酷い未来しか見えないよ!」

 というかいつも思うけど。パリアンは世界滅亡前に人類滅亡間近まで言った荒廃した世界でどうやってその知識を手に入れるの?さっきの映画についてはお局様って言ってたけど。さすがにアニメは違うよね。

「じゃあパリアンはいつ歌えというのですか!」

 え~と。このまま穏便に済ますには。

「次回の任務でとか?」

「わかったのです。次回の任務の異世界で歌うのです」

 なんとかマイクを治めてくれたようだ。でも次回の任務によけいなフラグをたてたような気が・・・忘れよう。うまくいけばパリアンも忘れてくれるかもしれない。

 僕はパリアンが忘れてくれることに期待して問題を後回しにした。


ちなみにセイヤのコール二番(仮)

考えていたけれども字数の無駄と途中でやめました。


「巨人様のいいとこ見てみたい」

『ハイッ!』

「ライブリー?」

『ライブリー!』

「ライブリー?」

『ライブリー!』

「ライブリーな巨人様ったら無邪気すぎ!」

『無邪気すぎ!』

「ライブリー?」

『ラブリー!』

「ライブリー?」

『ラブリー!』

「愛し愛され巨人様!」

『ラブリーーーーーーーーーーーー』


ちなみに内容は1番と合わせて狩のうまい巨人様お肉プリーズというコールになります。


早く第二章進めたいのですが、仕事してると執筆遅くてダメですね。

裏でヌンサも久々に執筆中。

複数書いてるのも影響してますね。(_ _)

気長に読んでいただけるとありがたいです。

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