第86話 朝生零華
朝生零華。
私の妹になっていたかもしれない子。
とても可哀想な子。
たまたま先に取り上げられたばかりに、悪魔に転生してしまい、果てにディアボロスになってしまった悲劇の子。
私が無事に生まれたことを恨んでいるのだろうか。
私の代わりに悪魔になったことを恨んでいるだろうか。
ううん。
そんなことは無い。
この子は、私に希望を託したんだ。
だから、この子とは戦わない。
零華とは争わない。
妹とは…………
絶対に戦わない。
千里が呟いた言葉。
「一子の妹が、悪い子には思えないです」
その言葉が、私の中でずっとくすぶっていた。
だから、考えてみた。
想像してみた。
私が零華と同じ立場だったら、どうしているだろうかと。
私がディアボロスとして、同じ状況に立った時、どうするかを。
そうして思考を巡らせるうちに、ある事実が浮かび上がった。
それは…………
ううん。
まずは検証してきたことをもう一度整理してみよう。
ディアボロス、ローレライ。
この悪魔の動きには、どこかムラがある。
1つは、ユニコーンがローレライを呼び出した、あの殲滅戦。
3体ものディアボロスが揃った状況。
それこそ、ローレライが本気であの呪歌を唄えば、私達はその場で全滅していただろう。
それをしなかったのは何故か。
その理由は、私達を生き残らせるためだ。
元よりキーパーの殲滅を目的とするなら、あの時既に達成出来ていたはずなんだ。
それにも関わらず、あの時点で呪歌を高唱しなかった。
つまり、ローレライは、私達を倒す気が無いということだ。
ゲートを通過するために歌った呪歌は、自分が消えないようにするために仕方なく使った手段でしかない。
2つ目に、あの時、森川先輩を相手取ったのは何故か。
それは、露草先輩にケルベロスを相手させるためだ。
攻撃力の森川先輩、防御力の露草先輩というイメージは私達の中でも強い。
ケルベロスの攻撃は雷。
攻撃面に優れた森川先輩より、防御に徹した露草先輩ならば、凌げるだろうという考えがあったのだ。
それに、シングメシアに対して相当な耐性を持っているローレライ。
本気で戦えば、それこそ森川先輩は、その時に倒されていたはず。
これらのことは「私達を倒す気が無い」という行動原理が無ければ取れる行動ではない。
零華は、私達を倒す気など毛頭無かったのだ。
森川先輩がディアボロスになったあの日。
零華が私に語った言葉。
「700日願いを持たなければ消えてしまう」
つまり、零華は、消滅しないようにする上で、最低限の願いしか持ち込んでいないということ。
「悪魔のままで消えたくない」
これは、私への願いだ。
カルマを持ち込むことで人間に戻れるというわけではないだろう。だからこその、次の言葉。
「全てを覆す、お前の願い。持てるものなら持って見ろ」
そう。
この言葉こそ、零華の想い。
そして、私が託すべき願い。
その願いを託すためには…………
愛さん。
京さん。
千里。
露草先輩。
森川先輩。
皆から貰ったたくさんの教訓を。
今ここで、全て生かすんだ。
そうして、私自身を持って。
私のために。
みんなのために。
私はこの願いを叶える…………!




