第64話 突撃!お宅訪問
「早速今日、私の家で勉強会だ。場所は京と愛が知ってるから問題は無いだろう。少し準備があるから……そうだな。2時半に来い。遅刻は許さん」
森川先輩はそう告げると、足早に部室を出て行った。
その前の森川先輩曰く。
「次の「バルティナの歪み」まではあと3日。ひとまず討伐は五十鈴に任せ、京と一子の学生の本分を全うさせねばなるまい。これは、退魔部員を預かっている私達の使命だ。そうだな、五十鈴?」
露草先輩はといえば。
「そうね。お任せしちゃうわ♪」
と、物凄く楽しそうに返事をしていた。
私達はといえば……
返事は「はい」しか言えなかった。
そんなことがあって、私達は森川先輩の家に向かっている。
メンバーは、愛さん、京さん、千里に私……
つまり、露草先輩を除く退魔部員全員だった。
どちらかといえば、戦々恐々な私に対し、京さんのテンションは上がり切っていた。
「ぃぃやっほぉぉぉおおお! 久しぶりに、リンリン先輩の授業が受けられるぜ!」
「こら、京ちゃん。先輩だって、忙しい中やってくれるんだからね。あっ……まさかとは思うけど、このテストの点数って、それを狙ってやってるんじゃ」
「そんなことは無いっ! この結果は、まさにボクの実力なのだ!」
「それはそれで、褒められることじゃないよ……」
「がーん!」
ショックなど受けていないかのように、気分上々に言い放つ。
「まぁ、リンリン先輩の授業はわかりやすいからねー。もう、これさえ受けてれば、普段の授業なんていらないよ!」
「確かに、先輩は本当に教えるのが上手よね。あ、ここです」
2人の会話を聞いているうちに、いつの間にか到着していた。
私達の目の前にあるのは、5階建てのマンション。
比較的新しい建物で、防犯設備もきちんとしている。
まずはエントランスに入り、左手に見えた数字の並ぶプッシュトーンに部屋番号を入力する。
ピンポーンとチャイムが鳴り、程なくして併設されたマイクから声が聞こえる。
聞き間違えることのない、森川先輩の声だった。
「来たな。入ってくれ」
ガチャリと言う音と同時に、ドアが開いた。
「すごっ! なんで分かったんだろ?」
「外から見てたんでしょ……」
愛さんの、ため息にも似た呆れ声。
そんなことは気にも留めず、京さんは階段を猛ダッシュしていった。
「京ちゃん、いつもああやって5階まで走っていくのよね……」
私たちは別にエレベーターで上がっていく。
5階についたその時には、既に京さんが部屋の前でチャイムを鳴らしているところだった。
「森川せんっぱーい! おっじゃまっしまーーす!」
「そんなに大声を出すな。近所迷惑だ」
チャイムを押して本当に間もないはずなのに、既に扉を開けている森川先輩。
さすがに京さん慣れしていると言うべきなのだろうか。
「お邪魔しまーす!」
京さんの後ろにくっつく形でお家にお邪魔する。
入ってすぐに、驚きを隠せなくなってしまう。
玄関……というより、家全体がとても綺麗だった。
まるで新築そのもので、床だけでなく、備え付けの家具も、全てが輝いてるように見える。
ただ…………
掃除が行き届いている、という印象よりも、生活感が無い、というのが正直なところだった。
しかしながら、それ以上に驚いたのは、森川先輩の私服。
青と白の横ストライプのシャツ、デニムのロングスカートというシンプルな服装ながら、あまりに自然な着こなしに思わず絶句してしまう。
いつもは掛けていない丸メガネもあって、雰囲気がガラッと変わっていた。
そんな、いつもとはちょっと違う、先輩の部屋に通される。
「そこにテーブルを用意した。少し座って待っててくれ」
「はーい!」
元気良く返事をしたのは京さんだけ。
愛さんは申し訳なさそうに頭を下げている。
千里と私は、物珍しげに部屋の中を見ていた。
中央に大きな四角いテーブル。
私達用に用意してくれていたであろう座布団が用意されている。
向かって左側には大きなテレビ、その向かいにソファーがあり、リビングであることを物語っている。
入り口すぐ横にある本棚には、図鑑や辞書といった本が所狭しと並んでいた。
そんな堅苦しそうな雰囲気を和らげるように、綺麗なクロスと観葉植物、間接照明を随所に散りばめ、明るさを出している。
一言で言えば、とても素敵な部屋だった。
そんな素敵な部屋に見とれていると、森川先輩がたくさんの参考書を持って戻ってくる。
ドッサリと本を置き、座布団に正座する森川先輩。
私達の顔を一瞥し、小さく笑みを浮かべる。
「待たせたな。では、始めようか」
「はい、よろしくお願いしますっ!」
ついに、勉強会は始まった。




