第87話 魔王城到着。罠だらけのダンジョンを物理で更地にする
瘴気の漂う暗黒大陸を快適なキャンピングカー馬車で進み始めて、三日目の夕刻。
ついに、私たちは世界滅亡の震源地である『魔王城』の全貌をその目で捉えた。
「……まあ」
私は、小高い丘の上に停めた馬車の窓から、その禍々しい城を見上げて、率直にそう漏らした。
黒い。
とにかく黒い。センスが中二病ですわ。
空を覆う不吉な赤い雲の下、遠くにそびえる城は、まるで闇夜そのものを切り取って積み上げたような色をしていた。
尖塔は不気味に歪にねじれ、壁面はところどころ脈打つような紫の魔力の光を放ち、城を取り囲む巨大な外壁には、見るからに“侵入者は歓迎しておりません(呪います)”と言いたげな禍々しい紋様が走っている。
しかも、城の正門へ続くはずの道は途中から完全に崩落しており、代わりに口を開けているのは、落ちれば即死の底の見えない断崖絶壁と、そこへ無理やり架けられたような細くて不安定な石の吊り橋だけだ。
「……相変わらず、悪趣味で最悪の動線ですわね」
私は扇で口元を覆い、静かに毒づいた。
「母上、今日もそれ言うんだ」
向かいの席で、エルが呆れたように小さく呟く。
「だって、本当に趣味が悪くて不便なのですもの」
私は真顔で即答する。
「ラスボスとしての威圧感を出したい演出の意図はオタクとして分かりますけれど、実際の生活の『機能美』というものを1ミクロンも考えていただきたいですわ。毎日の買い出しはどうしていますの?」
「……神話の魔王城に、生活感と機能美を求めるの?」
「大変重要でしてよ? 老後の足腰に響きます」
「そうなんだ……」
エルは、もはや半分くらい「母上の思考回路は理解できない」と諦めた顔をしている。
ああ、本当にこの子、順調に父親譲りの“冷めた静かなツッコミ”のスキルを育てていらっしゃいますわね。頼もしいですわ。
「おかあさま!」
リリアが、窓にへばりついてキラキラした目で外を見ていた。
「すごいです! ほんとうに、くろいおおきなおしろ!」
「ええ」
私は娘の銀髪を優しく撫でる。
「だいぶ、衛生観念的にあまり中に入りたくない種類のお城ですけれど」
「おとうさま、ここでおわるいひとと、たたかうの?」
「必要ならな。すぐ終わらせる」
隣でクライス様が、愛剣の柄に手を置いて短く答えた。
その声音はいつも通り低く、静かだ。
でも、この魔王城が視界へ入ってからというもの、彼の蒼い目はずっと極寒に冷えている。
当然だろう。
ここが、愛する我が家の平和な日常(老後計画)を理不尽に脅かしている、元凶のゴミの本丸なのだから。
「ルシア」
「何ですの、クライス様」
「あの中の構造は」
「……」
私は、前世の忌まわしい記憶を思い出して、少しだけ遠い目になった。
「はい。攻略本と徹夜のプレイ記憶で、バッチリ知っておりますわ」
「どうなっている」
「面倒です」
「……」
「吐き気がするほど、ものすごく面倒ですわ」
乙女ゲームのファンディスク版・隠し最終シナリオ『魔王復活』。
このルートの何が一番嫌だったかと問われれば、私はまず間違いなく即答でこう答えるだろう。
――魔王城のラストダンジョンが、無駄に長くてギミックが面倒くさい。
初見殺しの即死の罠。
見えない隠し扉。
特定のアイテムがないと無限にループする回廊。
毒の沼地の落とし穴。
一歩踏むと魔物が無限湧き(エンカウント)する呪いの床。
左右どちらを選んでも、結局あとで合流するだけの意味のない無駄な分岐。
そして、一度見た景色と全く見分けがつかないくせに、微妙に階層が違う“プレイヤーへの嫌がらせのためだけに存在する”立体迷路の螺旋階段。
(本当に、ファンディスクの制作陣の性格がよろしくないですわよね……!! プレイヤーへの殺意しか感じませんわ!)
前世の社畜だった私は、このクソダンジョンを攻略するために、貴重な休日前夜に何度エナジードリンクを飲んで徹夜したことか。
最推し(クライス様)のルートの完走特典の激甘スチルCGが欲しくて、眠い目をこすりながらマッピングツールで必死にマップを埋めたあの日々を思い出すだけで、今でも少しだけこめかみがキリキリと痛む。
「面倒なら」
クライス様が、私の不機嫌を察して低く言った。
「どうする」
私は、ゆっくりと窓の外の悪趣味な魔王城を見上げた。
どす黒い巨大な城壁。
いかにも“侵入者はここで迷って絶望して死ね”と言わんばかりの複雑な構造。
真面目に正面から内部に入れば、きっとまた長く、うねうねとしたストレスの溜まる回廊と罠が続いているのだろう。
だが。
今の私は。
前世の、コントローラーを握って画面の前でキレていた非力なゲームプレイヤーではない。
攻略対象の男たちの足を引っ張って守られるだけの、か弱い一般ヒロインでもない。
規格外のチート悪役令嬢として生まれ変わり、最推しと結ばれ、貧乏領地を大富豪に立て直し、あの神聖教国まで物理的に更地にしかけた、最強のフェルド辺境伯爵夫人である。
つまり。
「攻略が面倒ですね」
私は、ニッコリと満面の笑みで笑った。
「はい」
「でしたら」
私は馬車の扉を開けて、赤い風の吹く外へ優雅に降り立つ。
「物理で、全部まとめて『更地』にいたしましょう」
「母さん」
馬車の中からエルが、少し引きつった声で言った。
「今の、すごく嫌な予感がするんだけど」
「大丈夫ですわ」
私は振り返って、母の慈愛の笑顔で微笑む。
「面倒なダンジョン攻略を、チートでちょっと『簡略化』するだけですもの」
「母さんのその“ちょっと”が少しも信用できない」
「最近、本当に私に対するリスク分析が鋭いですわねえ。頼もしいですわ」
「褒めてない。注意してるの」
「でしょうね」
リリアは、エルの心配をよそに逆に大変楽しそうだった。
「おかあさま、またおっきなまほうで、すごいことする!?」
「ええ」
私はフンスと胸を張る。
「お父様の最高に格好いい見せ場(登場シーン)へ、余計なルート分岐や雑魚戦を挟ませないために、ママが露払いをしてさしあげますわ」
「やったー!」
「やったーじゃないと思う。お城がかわいそう」
エルが同情するように呟く。
クライス様は、やれやれと小さく息を吐きながら馬車を降りた。
「ルシア」
「何ですの」
「城ごと跡形もなく吹き飛ばすなよ。魔王がどこにいるか分からなくなる」
「さすがに、そこまで頭の悪い脳筋プレイはいたしませんわ」
「信用しきれん」
「失礼ですわね」
私は心外そうにパチパチと瞬いた。
「玄関から玉座まで、『一直線の安全な通路』を作るだけです」
「その異常な建築解体を、普通のことみたいに言うな」
「でも、ボスの部屋への『最短経路の確保』は、RPGにおいて一番大事でしょう?」
「言葉の意味は分からんが、理屈はそうだな」
「でしょう?」
「……」
「しかも」
私は真顔で、親としての正論を続ける。
「可愛いお子たちに、あんな“無駄に長くて暗いダンジョンの嫌がらせ(トラウマ)”をわざわざ身をもって体験させる必要も、1ミクロンもございませんもの」
「……それは、確かにそう」
エルが、ものすごく複雑な顔で、ぐうの音も出ずに頷いた。
よろしい。
家族会議としては、だいたい強引に同意を得たようですわね。
◇ ◇ ◇
魔王城の正面の石橋へ近づくと、いかにも“ここから先は侵入者殺しのデッドゾーンです”という不気味な瘴気の空気が濃くなった。
ひび割れて崩れ落ちそうな石橋。
途中で途切れてジャンプを要求される足場。
意味ありげに不気味な青い炎を灯して並ぶ黒い燭台。
門前の床には、一歩踏んだ瞬間に毒矢か槍が飛び出しそうな怪しい紋様。
そして、城門そのものが妙に歪んでいて、侵入者を喰い殺すために口を開けた怪物みたいに見える。
「あからさますぎて、逆に萎えますわね」
私は立ち止まり、巨大な城門を見上げた。
「ええと、確かこの玄関の先が」
「何だ、何の罠がある」
クライス様が、剣に手をかけて問う。
「まず、入ってすぐが“無限回廊”ですわ」
「無限」
「その名の通り、特定の隠しスイッチを押さないと、永遠に同じ暗い廊下をぐるぐる歩かされる、プレイヤーへの嫌がらせ区画です」
「ふざけているな。却下だ」
「ええ。時間の無駄ですわ」
「その次が」
「解毒薬必須の、毒矢の廊下」
「却下」
「落ちたらマグマの落とし穴迷宮」
「却下」
「自分の幻影と戦わされる、呪いの鏡部屋」
「却下」
「それから」
「……まだあるのか。しぶといな」
「ございますわ」
私は前世の徹夜を思い出して、心底疲れた遠い目になった。
「先へ進むと、四つある壁のうち、正解の壁だけを叩き壊して進めという、ノーヒントの理不尽な『音当て区画』までございますわ」
「俺の剣を何だと思っている。全部却下だ」
「ですよね」
「最初から、そんなふざけた迷路に付き合う気はない。全部却下だ」
「私も全く同意見ですわ」
リリアが、私たちの会話を聞いてキョトンと首を傾げる。
「おかあさま」
「何かしら、リリア」
「そんな、こわい罠がいっぱいあるのに、あるいていくの?」
「普通なら、ですわ」
「でも?」
私はニッコリと、魔王より邪悪に笑った。
「我が家は、普通ではございませんもの」
「うん! かぞくりょこうだもんね!」
「……そこは即答で納得なんだ」
エルが小さく、ツッコミを諦めて呟く。
私は一歩、前へ出る。
魔王城の正面。
城門の少し手前。
ちょうど、内部の最奥にある『玉座の間』までを、頭の中の3Dマップで『一直線』に結べる完璧な位置。
城の内部構造は、まだ覚えている。
嫌というほど、死に覚えゲーで覚えている。
玄関ホール。
無限回廊。
動力源の魔力炉の間。
空中庭園を模した、見晴らしの良い罠部屋。
その先、中央螺旋塔の階段。
最上層近くの扉の奥に、ラスボスである玉座の間。
面倒くさい。
本当に、心の底から。
思い出しただけで腹が立って蕁麻疹が出るくらい、面倒くさい。
でしたら、ええ。
物理的に『壊して』しまえばいいのです。
「お子たちは、パパの後ろへ」
私が短く言うと、クライス様がすぐに無言で二人を自分の背中の後ろへ寄せる。
「父さん」
エルが、少し怯えたように聞く。
「母さん、これから何するの」
クライス様は、少しだけ呆れたように目を細めてから、事実だけを答えた。
「城を、近道にする」
「それ、近道って言うのかな……」
「母さんの辞書では、そう言うんだろうな」
「……ああ、うん。物理だね」
息子の理解が早くて大変助かりますわね。
私は両手を、巨大な城門へ向けて真っ直ぐに突き出した。
チート魔力で、巨大な魔王城全体を、ただのブロックの『線と図形』として捉える。
城門から最上階の玉座まで。
邪魔な壁。
毒の床。
太い柱。
罠のある天井。
その全部を、“旅行の通行の邪魔になるゴミ”として認識する。
必要なのは、無秩序な破壊(爆発)ではない。
完璧な『整地』だ。
真っ直ぐで、見通しの良い、誰もが安全に歩ける一本の『大通り』。
「《構造把握(3D・スキャン)》《直線指定》《広域魔力圧縮――》」
大気が、ビリビリと震えた。
魔王城の漆黒の外壁を走る紫の紋様が、異常な魔力に危険を察知して一斉に激しく明滅する。
城そのものが、強大な侵入者の術式へ防衛反応を示したのだろう。
上等ですわね。
どうせ、こちらも1ミクロンも遠慮はいたしませんもの。
「《断面開削》!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッ――!!!!
次の瞬間。
魔王城の巨大な正面が、見えない巨大な筒で内側から綺麗に打ち抜かれたみたいに、一直線に爆ぜた。
「うわっ!」
「まあ!」
お子たちが、轟音と地響きに同時に声を上げる。
だが、私が事前に張っておいた結界が、飛んでくる瓦礫の破片と爆風の衝撃を完全に逸らして無効化する。
堅牢な城門が、消し飛ぶ。
その奥の広大な玄関ホールが、罠の壁ごと消し飛ぶ。
さらに、その先の無限回廊も、毒の床も、迷路の壁も、天井も、まとめて巨大なドリルでくり抜かれたように『一直線』に貫かれていく。
ドガンッ! バキンッ! ゴゴォォォッ! と連続する、凄まじい建物の破壊音。
黒い石材が空へ舞い、紫の防衛呪紋が途中で機能不全を起こして悲鳴みたいに弾け飛ぶ。
「……本当に、面倒な構造ですね」
私は、荒れ狂う破壊の嵐の中で、至って穏やかな声で言った。
「だから、すべてを無視して、真っ直ぐ行きますわ」
「母上」
エルが、完全にドン引きした声を出す。
「……今の、だいぶ『真っ直ぐ』の規模がおかしいんだけど」
「ええ」
私は誇らしく、ドヤ顔で頷く。
「大変、定規で引いたようにまっすぐですわ」
「いや、そういう意味じゃなくて。城に風穴が空いてるよ」
「おとうさま!」
リリアが、そんな兄をよそにパチパチと無邪気に拍手していた。
「おしろ、おっきなトンネルで、まっすぐになった!」
「そうだな」
クライス様も、どこか諦めて納得したように頷く。
「お前のことだから、ああいう脳筋な形で来るとは思っていた」
「予想してたんだ……父上も大概だね」
エルのツッコミを放棄した遠い目が、今日もたいへんよろしいですわね。
だが、私の土木工事(整地)はまだ止まらない。
玉座まで一直線。
必要なのは、ただ風穴を開けて貫くだけではない。
貫いたあとの左右の壁の崩落が、後からパラパラと落ちてきて、お子たちの歩く視界を邪魔しては親として困るのだ。
「《側壁固定》《落下遮断》《視界確保》!」
砕け散った壁の断面が、私の魔法で綺麗にガラスコーティングされたように押し固められる。
崩れた床の石は左右へ平たく均され、まるで最初からそこへ存在した王都の大通りのような、立派な『一本の道』が生まれた。
城門から。
致死量の罠も、無限ループの迷路も、すべてを無視して。
まっすぐ、ずうっと先の最上層まで。
遠く遠く、最奥の『玉座の間』の扉まで障害物なしで見通せる、信じがたい直通トンネル。
赤い空の下、禍々しい黒い魔王城の真ん中をぶち抜いて。
一本の“安全なパレードロード”が、堂々と開通した。
「……まあ」
私は額の汗を拭い、軽く満足げに息を吐いた。
「我ながら、完璧な施工ですわね」
「母さん」
エルが、静かにジト目で聞いてくる。
「それ、ダンジョン攻略って呼んでいいの?」
「ええ」
私はニッコリと悪びれずに笑う。
「プレイヤーの特権である『ショートカット(裏技)』ですわ」
「ショートカットって、物理的に壁を壊すそういう意味なの?」
「我が家ではそうです。タイムイズマネーですわ」
「……もう何も言わない」
「大変よろしい判断です。考えるだけ無駄ですわ」
リリアは、すっかりご機嫌だった。
「すごい! きれいな、どうろ!」
「ええ」
私は娘の銀髪を撫でる。
「魔王城直通・VIP家族優先通路ですわ。ベビーカーでも安全に通れますのよ」
「かっこいい! これであるいていけるね!」
「そうでしょう?」
「おかあさま、てんさい! だいくさん!」
「大工は少し違いますが、ありがとうございます」
「おとうさまの、みせばも、とおくまでまっすぐみえる!」
「その通りですわ!」
私は力強く、オタクの顔で頷いた。
「無駄で理不尽なギミックで、推しの格好いい戦闘シーンの体力を削らせるわけにはいきませんもの! 最初からフルパワーで魅せていただきますわ!」
その時。
一直線に貫かれた城の奥の奥。
玉座の間らしき空間の向こうから、遅れてパニックになった爆音と怒号が響いてきた。
「な、何だ!? 何が起きた!?」
「壁が! 防衛システムが!」
「天、天井が消し飛んだぞ!!」
「侵入者だ! 迎撃しろ!」
「いや、侵入って何だこれは!? 城に風穴が空いてるぞ!?」
ああ、ええ。
そうでしょうとも。
自分たちの絶対の自信作であるダンジョンの構造物が、数秒でまとめて更地にされたのですもの。
中にいる魔王軍の皆様も、さぞ状況が理解できずにお困りでしょうね。
クライス様が、そのトンネルのように一直線の通路を見て、呆れ果てたように小さく息を吐いた。
「ルシア」
「何ですの」
「やはり、やりすぎだ」
「どこがですの。とってもエコでスマートな攻略ですわ」
「規模と全部だ。城が半分無くなっているぞ」
「でも」
私はフンスと胸を張る。
「クライス様の見せ場、この一本道なら最高に映えますわよ?」
「……」
「ご覧くださいまし」
私は扇で、その開通した通路の先を示す。
「イライラする罠なし」
「……」
「無限ループの迷路なし」
「……」
「視界の悪い薄暗さもなし」
「……」
「ラスボスの玉座まで、一直線のレッドカーペット」
「……」
「完全に、最強の主人公のための『登場演出』でしてよ?」
クライス様は、しばらく何も言わなかった。
だが。
ほんの少しだけ、その端正な口元が緩んだ。
あら。
やはり、分かってくださいますのね?
「父さん」
エルが、その父親の横顔を見てボソリと言った。
「……ちょっと嬉しそう」
「そうか? 気のせいだ」
「うん。絶対ウズウズしてる」
「おとうさま、かっこいいどうろ、できたよ!」
リリアも全力で無邪気に追撃する。
「……」
クライス様は、降参したように小さく息を吐いた。
だが、その耳が、ほんの少し照れて赤い。
ああもう。
だめですわね。
ここまで来ると、城を半分更地にしてしまったことすら、全部オタクの正解に思えてまいります。
私は、自分の作った完璧なパレードロードを見渡した。
不吉な赤い空。
黒く禍々しい魔王城。
その中心を真っ直ぐに貫く、一筋の安全な光の道。
迷いも、罠も、制作陣の嫌がらせもない。
ただ、最奥に構える『魔王の玉座』だけが、一直線の先にはっきりと見えている。
ええ。
これでよろしいのです。
だって、本当に面倒くさいではありませんか。
ゲームの画面の中ならともかく、現実の肉体でまで、あんな無駄に長くて暗いダンジョンへ一歩ずつ付き合う必要など、世界一忙しい私たちにはないでしょう?
私は、オタクの笑みを深くした。
「さあ」
その一本路の先の、一番奥の玉座を見据える。
「魔王様」
「……」
「大変長らくお待たせいたしましたわ」
「……」
「こちら、フェルド辺境伯爵家の『家族旅行兼・討伐遠征』のご一行ですの」
クライス様が、スッと静かに剣へ手をかける。
お子たちは、その後ろで「パパ頑張って」と目を輝かせている。
最悪で面倒なダンジョンは、もうない。
ここにあるのは、魔王の玉座まで続く、一直線の最高に映える舞台だけ。
――でしたら、あとはもう、私の最推しの最高に格好いい見せ場を、特等席で拝見するだけですわね!




