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婚約破棄の瞬間に「前世の記憶」が戻りまして。〜ヒロインの座は譲りますので、私は推しキャラの側仕えを目指します!〜  作者: 綾瀬蒼


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第69話 愛する我が子(推し)を奪う気? 夫婦の静かなるマジギレ

 神聖教国のふざけた使者を、領門前でキッパリと門前払いして追い返した翌日。


 フェルド辺境伯爵邸の空気は、表面上こそ穏やかだったが、その実、薄氷を踏むようにピリピリとかなり張り詰めていた。


 もちろん、原因は明白である。


「おかあさま」

 朝食後のあたたかい日差しが入る小さな談話室で、リリアが私のドレスの袖をそっと不安げに引いた。

「きのうの、えらそうな『しろいひとたち』、またきますの?」

「……」

 私は一瞬だけ言葉を選び、それから娘の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

「来るかもしれませんわ」

「……こわい?」

「いいえ、全く心配はいりません」

 私はニッコリと、世界で一番優しい母の顔で微笑み、娘のやわらかい頬へ両手を添える。

「お父様とお母様が、リリアとエルのことを絶対に、何があっても守りますもの」

「ほんとう?」

「ええ。本当に。指一本触れさせませんわ」


 その隣で、エルが静かに小さな拳を力強く握っていた。


「ぼくも」

「……エル?」

「ぼくも、強くなります」

 その声はまだ幼く小さい。

 けれど、芯の通ったしっかりとした声だった。

「父上みたいに強くなって、母上とリリアを、ぼくが守ります」

「まあ」

 私は思わず、尊さのあまり胸をギュッと押さえた。

「その志と家族愛、あまりにも最高で大変尊いですわね……!」

「母上」

「何ですの」

「今は、そういうオタクの限界化の感じじゃないです」

「ええ、分かっておりますわ」

「本当に?」

「多分、半分くらいは」


 エルがジトリと、呆れたような目でこちらを見る。

 ああもう。

 こういう少し冷静でツッコミ気質で、でも根はどこまでも家族思いで優しいところ、本当にクライス様に似てきましたわね。


 だが、内心でうっかり親バカの頬を緩めつつも、私は当主夫人としてちゃんと重く理解していた。


 昨日の一件は、確実にこの幼い子どもたちへ『理不尽な恐怖の影』を落とした。

 リリアはまだ小さく、自分に向けられた大人たちの醜い強欲さを“怖いもの”と本能で素直に感じている。

 エルはエルで、怯えるより先に“自分が強くなって守らねば”と、年齢に見合わない重圧を無意識に背負い込んでしまうところがある。

 どちらも、親としては1ミクロンも放っておけない、あってはならないことだ。


(本当に、はらわたが煮えくり返るほど苦しいですわね……)


 神託だの、聖なる御子だの。

 自分たちの身勝手な権力欲と理屈で、愛するうちの子たちへ不安を植えつけるなど、万死に値しますわ。


 その時。

 部屋の外から、規則正しい重い足音が聞こえた。


 私は顔を上げる。

 クライス様が入ってきた。


「父上」

 エルが、安心したようにすぐに立ち上がる。

 リリアも、パッと顔を明るくした。


「おとうさま!」

「どうした」

 クライス様はまず駆け寄る二人を優しく受け止め、それから私を見る。

 その蒼い目だけで、だいたい今の会話を察したらしい。

「まだ、昨日の奴らを気にしているか」

「少しだけ、ですわね。怖がらせてしまいました」

 私が答えると、クライス様は子どもたちの前へ片膝をついてしゃがみ込んだ。


「エル」

「はい」

「リリア」

「はい」

「昨日の不審な連中は、もうこの屋敷には勝手には入れない」

「……」

「屋敷にも、この領地にもだ」

「……」

「万が一、次にお前たちの前に来ても」

 クライス様の声は低く、ひどく静かで、絶対的な安心感があった。

「俺がすべて叩き斬る。二度と好きにはさせない」


 その絶対の盾の言葉に、エルの小さな肩から少しだけ強張った力が抜ける。

 リリアも、安心したようにコクリと頷いた。


 ああ。

 本当に。

 この人、こういう時の言葉選びが父親として的確すぎるのですわよね。

 過剰に不安を煽らず、でも「話し合いで解決する」などと大人の曖昧な誤魔化しもせず、明確な武力で“絶対に守る”と断言してくださる。


「クライス様」

 私が小さく呼ぶと、

「何だ」

 と返る声音は、子どもたちへ向けた甘い時より、少しだけ硬く冷たかった。


 ああ、ええ。

 長年連れ添った妻ですから、分かりますとも。

 この方、昨日からずっと、文字通り“腸が煮えくり返る”ほどブチギレていらっしゃるのだ。

 静かに。

 ひどく静かに、絶対零度の殺意を煮詰めて。


 ◇ ◇ ◇


 そして、その日の昼。


 私たちの予想通り。

 神聖教国の厚かましい使者は、また来た。


 今度は領門前でのアポなしの押し問答ではなく、正式な文書による『面会要請』という形だった。

 もっとも、“要請”といっても、内容はほとんど上から目線の命令だったが。


『異端の迷いを捨て、再度の面談を強く求む』

『神意を軽んじる愚行を改める、これが教国からの最後の慈悲(機会)である』

『選ばれし幼子の将来を思うなら、賢明な判断を』


 ……ええ。

 一周回って、よくもまあここまで神経を逆撫でする腹の立つ文面を並べられるものですわね。燃やしてやりたいですわ。


「……応接間に通しますか?」

 ハインツさんが、苦い顔で問う。


 私は静かに、手にしていた紅茶のカップをソーサーへ置いた。


「通しますわ」

「いいのか。俺が門前で斬り捨ててもいいが」

 クライス様が、本気で物騒なことを低く問う。


「ええ」

 私はニッコリともせずに、氷の微笑で答えた。

「昨日の時点で、あちらは“こちらが完全に拒絶した”という明確な事実を持ち帰っております」

「……」

「ならば今日の面会は、それを知った上で『向こうがどういう強硬手段に出るか』を確認する、最後の機会です」

「最後」

「ええ」

 私はゆっくりと立ち上がる。

「今日で、あのふざけたカルト教団とは完全に線を引きますわ」


 クライス様の蒼い目が、スッと獰猛に細まった。

 その細まり方は、精神衛生上よくない。

 いや、オタクの私にとっては大変最高でよろしいスチルなのだが、対峙する相手にとっては間違いなく『死』を意味する最悪の顔だ。


「……分かった」

「ただし」

 私は続ける。

「お子たちは絶対に同席させません。視界にも入れさせない」

「ああ。当然だ。空気を汚される」

「今日は、領主としてではなく、徹底的に“怒れるモンスターペアレント”としてお話いたしますもの」

「そうだな。容赦はせん」


 ◇ ◇ ◇


 面会の場に選んだのは、豪華な応接室ではなく、無機質な小会議室だった。


 温度の低い殺風景な石壁。

 飾り気の少ない、ただの固い長机。

 窓は細く、光も控えめで薄暗い。


 歓迎ではない。

 対等な交渉の席でもない。

 “不審者の言い分を聞いてやる最低限の尋問の場”だと、空気で分からせるための部屋だ。


 神聖教国側は、昨日と同じ大司祭補佐のセラフィオンを先頭に、神官二名と重武装の護衛僧兵四名を伴って現れた。

 白い法衣は相変わらず無駄に清らかそうで、逆に胡散臭い。

 そしてセラフィオンの痩せた顔には、昨日よりハッキリと『見下していた相手に拒絶された苛立ちと傲慢さ』が浮かんでいた。


 あら。

 そうですわよね。

 自分の思い通り(想定通り)に他人が屈しないと、こういう独裁的な方はすぐ不快感を表情へ出しますもの。


「フェルド辺境伯爵」

 セラフィオンが、勧められてもいない席へドカッと座るなり言った。

「そして、伯爵夫人」

「ごきげんよう」

 私は極めて事務的に、見下すように返した。

「本日はどのような御用件で? 昨日はお引き取り願ったはずですが」

「用件は昨日申し上げた通りだ」

 男は、物分かりの悪い愚か者を見るように、わざとらしくため息をつく。

「神の奇跡を宿す聖なる御子を、ただちに教国へお預けいただきたい」

「お断りいたしましたわね」

「ええ、聞きましたとも」

「ではお帰りくださいまし。話は終わりですわ」

「こちらの話は終わっておりません!」

「私は終わっておりますの。お耳が遠くて?」


 セラフィオンの口元が、屈辱でヒクッと引きつった。


 クライス様は、入室してから一言も発していない。

 だが、その無言の沈黙がすでに十分な『死の圧』になっていた。

 部屋の温度が、魔法も使っていないのに少しだけ下がっている。

 気のせいではない。

 本当に、物理的に室温が下がっている。


「……夫人」

 セラフィオンが、脅すように少しだけ声を低くする。

「どうやら、まだ事の重大さを全くご理解でないようだ」

「まあ」

 私は小首を傾げた。

「何が重大なのかしら。誘拐犯に子どもを渡さないのは、親として当然の防犯対策ですけれど?」

「神に選ばれた御子を、このような教養のない『凡俗の家庭』で囲い込むなど」

 男は、私たちの領地と家族を鼻で嗤い、吐き捨てるように言った。

「神への反逆であり、大罪に等しい!」


 その瞬間。

 私の中で、何かがスッと、絶対零度に冷え切った。


 ああ。

 いけませんわね。


 今まではまだ、ギリギリ貴族の淑女の笑顔で切り返す余地(理性)がありましたのに。

 “凡俗の家庭”ですって?

 “囲い込む”ですって?


 私たちの、血の滲むような思いで築き上げたこのあたたかい家庭を。

 私たちの大切な子育てを。

 そのように言いましたの、この薄汚い男。


「……セラフィオン様」

 私は静かに、地獄の底から響くような声で名を呼んだ。


 自分でも分かる。

 私、今、全く笑っていない。

 口元から、完璧な淑女の笑みが完全に消え去っている。


 多分。

 この場にいる全員が、その異様な空気の変化に気づいた。


 セラフィオンの目が、私の得体の知れない魔力圧にわずかに揺れる。

 神官たちも息を詰める。

 クライス様は何も言わない。

 でも、隣の空気がさらに一段、致死量まで冷えた。


「今の言葉」

 私はゆっくりと、殺意を込めて問う。

「もう一度、ハッキリと言っていただけます?」

「……」

「私たちの愛する家庭が、何ですって?」

「そ、それは」

「“凡俗”?」

 私は静かに、机を指先でトントンと叩きながら続ける。

「“囲い込む”?」

「……神に選ばれた子らは、教国で英才教育を――」

「言葉を選びなさいまし」


 その氷の一言で、部屋の空気が完全に凍りついた。


 比喩ではない。今度こそ、本当に物理的に凍った。

 窓際に飾られていた花瓶の水面へ、パキッ……と薄く氷が張る。

 神官の一人が、「ヒッ」と短い息を呑む。


 ああ。

 クライス様ですわね。

 静かに、本気で、私と同じようにブチギレていらっしゃる。


「我が子を慈しみ」

 私は一語ずつ、相手の脳髄に叩き込むように区切った。

「愛し」

「……」

「守り」

「……」

「親の愛情を注いで育てることの、一体どこが“囲い込み”ですの?」

「……ッ」

「答えなさい。今すぐここで」


 セラフィオンの額へ、冷や汗が一筋落ちた。

 けれど、この男はまだ引かない。

 いや、引けないのだろう。

 教国という絶対的な権威を背負って来た以上、ただの辺境伯爵夫人にここで言葉で負けて萎れては、自分の存在価値が消える。


 だから、愚かにも、さらに火に油を注ぐ言葉を重ねる。


「か、感情的になられては困る!」

「……」

「無知な母としての、子を手放したくないというお立場は理解しますが」

「……」

「神の偉大なる御業のためには、時として、そのようなくだらない『私情』を切り捨てねばならぬのだ!」


「…………」


 その瞬間。


 隣から、ピシッ……! と不快な音がした。


 視線を向けるまでもない。

 クライス様が手を置いていた分厚い長机の端が、薄く白く凍りついて亀裂が入っていた。

 凍っている。

 殺気だけで、本当に凍っている。


 セラフィオンの顔から、完全にすべての血の気が引く。

 ようやく、その小さな脳みそで理解したらしい。

 今、自分は絶対に踏み越えてはいけない『地雷の線(親の逆鱗)』を踏み抜いたのだと。


 クライス様が、ゆっくりと重い口を開いた。


「私情」

 その声は、ひどく、ひどく低い。

「今、お前はそう言ったか」

「……ッ」

「俺の愛する妻と」

「……」

「俺の命より大切な子らへの想いを」

「……」

「くだらない『私情』と、言ったな」


 部屋の温度が、一気に氷点下まで落ちる。


 神官の一人が、恐怖で椅子の上でガタガタとわずかに震えた。

 護衛の僧兵たちも、本能的な死の危機を感じて武器へ手をかけかけて――ピタリとやめた。

 抜いて触れた瞬間、自分の首が飛んで死ぬと、本能で悟ったのだろう。

 賢明な判断ですわね。


 クライス様は、音もなく一歩だけ立ち上がった。


 それだけで、部屋の重力が変わる。


 圧倒的な圧。

 研ぎ澄まされた純粋な殺気。

 氷の騎士と呼ばれたこの国の最強の男が、父として、夫として、本気で怒り狂った時の絶望的な気配。


「……俺の愛する我が子を」

 クライス様の蒼い目が、真っすぐセラフィオンの心臓を射抜く。

「神という便利な名を使って、薄汚い手で奪おうとするな」

「……ッ」

「二度と言わせん」

「……」

「次に同じことを俺の領地で口にした瞬間」

 その声音は、全く感情のない平坦なものだった。

 だからこそ余計に、ゾッとするほど恐ろしく、絶対的な死の宣告だった。

「教国の使者であろうが、神の代行者であろうが何であろうが。貴様らがここから、五体満足で生きて帰れると思うな」


「――ッ!!」


 神官二人が、悲鳴を上げて椅子ごと音を立てて後ずさった。

 重武装の護衛僧兵まで、完全に顔を青ざめさせてガタガタと震えている。

 セラフィオンの喉が、引きつってゴクリと鳴る音が、妙にハッキリとこの静寂の部屋で聞こえた。


 ああ。

 はい。

 ようやく。

 ようやく“これ以上踏み込んだら、間違いなく物理的に殺される”と分かりましたのね。


 私はその静かにキレる夫の横で、冷たく口を開いた。


「昨日の時点では、まだ最低限の貴族としての礼を尽くしました」

「……」

「一応は、名のある宗教国家の“使者”としてお越しになったからですわ」

「……」

「でも、今日のあなた方は完全に違う」

 私は目を細め、魔王のように見下す。

「我が子を不当に奪う気で、厚かましくも再びここへ来た『誘拐犯(敵)』です」

「そ、それは……教国の総意であって……」

「違うと?」

 私は微笑みもせず、ただ事実を突きつける。

「では、何度でも、バカなあなた方にも分かるように申し上げますけれど」

「……」

「うちの可愛い子たちは、絶対に差し出しません」

「……」

「神託だろうが、巨大な権威だろうが、教義だろうが」

 私は机の上へ、ドン! と冷たく指先を置く。

「この世の何一つ、私の『愛する我が子の命と笑顔』より優先されるものなど、1ミクロンもございませんの」


 セラフィオンの薄い唇が、ワナワナと震えていた。


 プライドを折られた怒りか。

 殺気に対する死の恐怖か。

 多分、その両方だ。


「……必ず、後悔しますぞ」

 男は、負け犬のようにかすれた声で言った。

「神聖教国という、絶対的な権威を敵に回すことになるのだぞ!」

「ええ」

 私はあっさりと、心底どうでもよさそうに頷く。

「でしょうね」

「なら、おとなしく――!」

「でも」

 私は冷酷に遮る。

「それが何か?」


 また、部屋に沈黙が落ちる。


 神官たちの顔が、さらに紙のように白くなる。

 ああ、そうでしょうとも。

 この手合いの権力者は、“教国を敵に回す”という決まり文句を言えば、たいていの国の王侯貴族は震え上がって怯むと思っているのだ。

 それが、彼らのぬるま湯の常識なのだろう。


 でも。

 残念でしたわね。相手が悪すぎましたわ。


 私たち最強のオタク夫婦にとって、愛する子どもたち(推し)の尊い日常を脅かす相手は、神聖教国だろうが隣国の数万の軍隊だろうが、排除すべきゴミとして大差ない。


「お帰りください」

 私は氷点下の声で、冷たく告げた。

「今、この場で、ただちに」

「……ッ」

「そして、二度と同じ要求を口にしないこと。視界にも入らないこと」

「……」

「その約束が守れないなら」

 私はハッキリと、宣戦布告として言い切る。

「次はこちらから、あなた方のその腐った総本山へ、直接(物理で)伺いますわ」


 その一言が、完全なトドメになった。


 セラフィオンは、完全に顔色をなくしたまま、幽鬼のように立ち上がる。

 神官たちも、ほとんど逃げるようにそれに続いた。

 護衛僧兵が扉を開ける手まで、恐怖で震えている。


 ああ。

 ようやくお帰りになりますのね。

 大変けっこうですこと。空気が綺麗になりますわ。


 扉の前で、セラフィオンが最後に一度だけ、恨みがましく振り返った。

 何か言いたかったのだろう。

 教国の威厳を保つ、負け惜しみの捨て台詞の一つでも残したかったのかもしれない。


 だが、そこでクライス様の『絶対零度の蒼い目(明確な殺意)』と、正面からバチリと合ってしまった。


「ッ……ヒィッ!」


 男は何も言えなかった。

 そのまま屈辱に唇を噛み、這いつくばるように扉の向こうへ逃げて消える。


 ほどなく、廊下の向こうから、慌ただしくパニックになった足音が遠ざかっていった。


 ◇ ◇ ◇


 部屋に、ようやくいつもの静けさが戻る。


 私はゆっくりと、毒気を抜くように息を吐いた。

 クライス様も、数秒遅れてドサリと椅子へ腰を下ろす。


 だが、まだ部屋の空気は冷え切ったままだ。


「クライス様」

「何だ」

「机の端が、完全に凍ってひび割れておりますわ」

「……」

「本気で怒りすぎですわよ」

「お前もだろう。魔力が漏れて暴走寸前だったぞ」

「そうですわね」


 私は誤魔化さずに、正直に頷いた。


 だって、無理でしょう。

 親として、我が子を前に、あのような身勝手な誘拐の理屈を平然と持ち出されて、穏やかに笑っていられる母親がどこにいるというのか。


「……ルシア」

「はい」

「子どもたちのところへ行くか」

「ええ」


 その一言で、私の中のドス黒い怒りが、少しだけスゥッとやわらいだ。

 そうだ。

 まずは、何よりもあの子たちを抱きしめて安心させるのが先だ。


 けれど、その前に。

 私はふと、愛する夫、クライス様を見た。


「何だ」

「いえ」

 私は少しだけ、誇らしげにオタクの顔で笑う。

「先ほどの“生きて帰れると思うな”というブチギレのセリフ、スチル付きで大変格好よろしかったですわ」

「……」

「ただし、領主としては少々物騒で血の気が多すぎましたけれど」

「分かっている」

「でも」

 私はそっと、彼の大きく硬い手へ、自分の両手を優しく重ねた。

「ありがとうございます」

「……」

「私も、全く同じ、彼らを全員消し炭にしたい気持ちでしたもの」

 クライス様の指先が、静かに、愛おしそうに私の手をギュッと握り返す。


「当たり前だ」

 低い声。

 でも、その底には、さっきの殺気とは違う、子どもたちと私へ向けるのと同じ『あたたかい温度』があった。


「俺たちの大切な、子だ」


 その一言だけで、十分だった。


 私は小さく、幸福に頷く。


 ええ。

 そうですわね。


 神聖教国。

 絶対の神託。

 聖なる御子。

 そんなふざけた権威が、一体何だというのでしょう。


 うちの可愛い子たちへ不純な手を伸ばした時点で、相手がどれほど大陸規模の大きな権威を背負っていようと関係ない。

 こちらには、本気でブチギレた『最強の母とモンスターペアレント』がいる。

 しかも、本気で国を一つ二つ物理で更地にできる武力を持った、最凶の夫婦だ。


 ――でしたら、絶望して震え上がるのは、向こうの方で当然ですわよね?



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総本山を真っ平らにした後にタイトル『哀れで無教養、雑魚すぎて涙が出ちゃう神様』のデカデカ氷の彫像(永久バージョン)を作ってあげてみてはどうでしょうか笑
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