第39話 妻としての初仕事。悪徳代官の不正をExcel(前世スキル)で完全論破
夜のフェルド辺境伯爵家・執務室には、紙の擦れる音と、私のペンが走る音だけが冷たく響いていた。
無駄に豪華な歓迎の宴を最低限の礼儀で切り抜けた後、私はすぐさま執務室へ籠もり、代官グレゴールが“完璧に整えてきたつもり”らしい帳簿の山と向き合っていた。
机の上には年次収支。月次税収。農地台帳。
食糧備蓄記録。インフラ補修費。使用人人件費。交易収入。臨時支出。
そして、一番上に乗せられた、わざとらしいほど綺麗な筆跡でまとめられたサマリー(一覧表)。
普通の貴族や、現場を知らない人間なら、ここでまず「なるほど、問題なくきちんと整理されている」と思うだろう。
だが。
「……三流の仕事ですわね」
私は一枚目のサマリーをめくっただけで、そう断じた。
クライス様が執務机の向こう、少し離れた位置で腕を組んでこちらを見ている。
「もう分かるのか」
「ええ。こういう小賢しい誤魔化しは、“監査用に整えたつもり”の不自然な跡が濃すぎますの」
「……」
「本当に数字へ強い人間は、こんなに綺麗に並べませんわ。現場の実態と数字の『辻褄を合わせる』ことが先ですもの」
私は羽根ペンの先で、ある欄をコンと軽く叩いた。
「例えば、こちら」
「何だ」
「領都南区画の石畳と水路の補修費です」
私は帳簿をクライス様の方へ傾ける。
「昨年秋に『大規模補修を完了した』と計上されておりますわね。しかもかなりの額で」
「ああ」
「ですが、今日馬車で街へ入る時に見た限り、南区画の石畳は端が割れ、水路は崩れたままでした」
「……確かに」
「補修したなら、あそこまで致命的な傷みが残るのはおかしい。逆に補修していないなら、この莫大な費目は一体どこへ消えたのかしら?」
クライス様の蒼い目が、スウッと刃のように細くなる。
私はさらにページをめくる。
「次はこちら。穀物備蓄の台帳ですわ」
「何かあるか」
「ありすぎますわ」
私はニッコリともせずに、氷の微笑で答えた。
「昨年は特段の豊作でもない年に、領民への『放出量』と倉庫の『備蓄量』が両方とも前年比で増えるなど、よほど神の恵みで麦が無限増殖でもしない限り物理的に起こりませんもの」
「数字だけで帳尻を合わせたのか」
「ええ。それもかなり浅い(頭の悪い)位置で」
前世で私は、月末月初は常に残業まみれの社畜OL(プロジェクトマネージャー兼経理チェック)だった。
請求書と見積書の差異。在庫数と実売の齟齬。
会議資料の都合のいい数字遊び。
ポンコツ上司の“だいたい合ってる”が全然合っていないという絶望的な現実。
そういう『数字の闇』に何年も殴られ続けた人間には、一目で分かる。
横領や不正というものは、決して完璧には隠せない。
クロスチェックをかければ、どこかに必ず“無理やり均した矛盾の跡”が残る。
そして今、私の目の前のこの帳簿には、その汚い跡が山ほど、それこそ星の数ほどあった。
(ああ、血が騒ぎますわね……)
この感覚。
一見すると綺麗にまとまっているのに、別角度から見れば見るほど整合性が崩壊していく感覚。
まるで前世の月末締めで、複数部署のガバガバな数字を突き合わせて論破した時みたいだ。
ただ一つ、あの頃と決定的に違うのは。
(今回は、無能な上司の尻拭いではなく、愛する推しの領地(聖地)を救うためですもの!)
限界オタクの私のやる気は、桁違いにカンストしていた。
◇ ◇ ◇
「ハインツさん」
「はッ」
老家令が、すぐ脇へ控えていた。
彼はすでに、私がただパラパラと帳簿を眺めているだけの『お飾りの妻』ではないと完全に悟っているらしい。
姿勢は硬いが、その目にはこの腐った現状を打破してくれるかもしれないという、強い期待の光があった。
「使用人名簿の現行版と、過去三年分の雇用記録をすべて」
「すぐに」
「あと、厨房への食材の実搬入記録。可能なら、倉庫番の夜間当番表も」
「承知いたしました」
ハインツさんが早足で退室すると、クライス様が静かに問う。
「何が見えた」
「人件費の闇ですわ」
私は別の帳簿を開く。
「こちら、屋敷の専属使用人が『二十八名分』で毎月計上されております」
「多いな。そんなにいないはずだ」
「ええ。今日私が見た限り、今この屋敷で実際に動いている人数は二十名未満。しかも年齢層が高めで、明らかに若手の欠員の穴埋めを過労でカバーしている形跡がありますわ」
「つまり」
「架空雇用による給与の水増し、および横領ですわね」
「……」
「それも、過去三年以上に渡って継続的に」
クライス様は何も言わなかった。
だが、その沈黙は明確に、領主として激しく怒っていた。
私はさらに別の紙束を広げ、真っ白な紙を用意した。
「ここからは、少し楽しくなってまいりますわよ」
「……楽しいのか」
「ええ。悪党の不正のロジックを完全に叩き潰す瞬間は、いつだって少し楽しいものです」
前世のExcel的思考(スプレッドシート処理)。
それは別に、異世界における特別なチート魔法ではない。
だが“表を並べて差分を見る”“軸を変えて同じ数字を多角的に見直す”“金の流れと物理的な結果が噛み合うか確認する”――この社畜の基本スキルは、異世界の中世レベルのガバガバな横領においては、もはや無敵の大魔法に等しい。
私は紙を縦横に置き換え、定規で素早く別紙へ線を引き始めた。
「収入を月別でソート」
「……」
「支出を用途別でソート」
「……」
「そこへ穀物放出量と備蓄増減の推移グラフを重ねる」
「……何をしているんだ?」
「『見える化(可視化)』ですわ」
「みえるか?」
「ええ、とてもクリアに」
私は素早く、誰が見ても一目で分かる『完全な比較一覧表』を作り上げた。
月ごとの税収、備蓄、補修費、使用人給与、交易収支。
それぞれを横並びにし、ズレる(矛盾する)箇所へ赤いインクで印をつける。
すると、途端に悪事の全貌が浮き彫りになってくる。
秋。
インフラ補修費が急増。だが実物の補修は手抜きで不十分。
同時期、人件費も急増。なのに現場の人手は明らかに足りていない。
さらに穀物放出が増えていることになっているのに、領民の痩せ細り方から見て、無料配布は全く機能していない。
「……あらまあ」
私は氷のような目で細めた。
「一本ではございませんわね」
「何本だ」
「少なくとも三本」
「三本」
「補修費の中抜き横流し。架空雇用による給与着服。そして、人為的な備蓄の横流し(闇市への転売)」
私は赤い印を指でトントンと順に示す。
「しかも全部、見事に『同じ時期』に数字が膨らんでおります」
「代官が、一人でやったのか?」
「いいえ」
私は即答した。
「一人でやるには手と目(承認プロセス)が多すぎます。誰かしら倉庫番、書記、下級役人を共犯として抱き込んでおりますわ」
「……そうか」
その時、ハインツさんが戻ってきた。
抱えている紙束の量で、彼が代官に隠れてどれだけ真面目に記録を保管してきたかが痛いほど分かる。
「奥方様、お待たせいたしました」
「ありがとうございます、ハインツさん」
私はすぐに受け取る。
「では、最後の答え合わせ(デバッグ)とまいりましょうか」
使用人名簿と実際の給与台帳を照合する。
厨房への食材搬入量を見る。
倉庫の夜間当番表を重ねる。
――やはりだ。
帳簿上では毎月一定数が購入されているはずの肉や小麦が、実際の厨房の搬入記録では明らかに少ない(差額は懐へ)。
雇用されているはずの下働きの名前が、実際の勤務表にはただの一度も出てこない(架空名義)。
そして、倉庫番の夜間当番は、月末の『棚卸し』の直前だけ、不自然に特定の人物に交代している(横流しの実行犯)。
「ビンゴですわね」
「……何だそれは」
クライス様が問う。
「前世の言葉です」
私はニッコリと、一切の光のない目で笑った。
「“あなたたちの人生は完全に終わりましたわね”という意味で使っていただいて差し支えありません」
◇ ◇ ◇
深夜になる頃には、もう十分すぎるほど『処刑の材料』が揃っていた。
私は新しい紙へ、簡潔で一切の逃げ道のない【不正一覧表】を作り上げる。
一、石畳および水路補修費の過大水増しと、実工事の未実施。
一、架空名義の雇用による長期的な給与横領。
一、穀物備蓄の帳簿改ざんと、闇市への不正流出。
一、帳簿間の筆跡差分と、監査前日の不自然な追記の痕跡。
一、月末のみ交代する特定の倉庫番当番の集中配置。
そして、それらが全部、見事に『代官グレゴール・バルデンの決裁印』と時間軸が完全に一致している。
「完璧ですわ」
私は羽根ペンを置いた。
「これで逃げ場(言い訳)は1ミクロンもございません」
「……尋問するか」
クライス様の声音が、絶対零度まで冷え切っている。
私はゆっくりと頷いた。
「今夜のうちに」
「夜中だぞ」
「だからこそですわ。人は、逃げ道のない数字で追い詰められた直後の深夜が、一番判断力が鈍ってよく崩れますもの」
「……やけに慣れているな」
「ええ。前世で、そういう横領犯を詰める修羅場を嫌というほど見ましたので」
ハインツさんが、少しだけ「ヒッ」と身震いした。
あら。そんなに怖い、マフィアのボスのような顔をしておりましたかしら?
「ハインツさん」
「は、はいッ」
「代官グレゴール・バルデンと、その直属の書記二名、および倉庫番長一名を、ただちにこの執務室へ」
「今から、でございますか」
「ええ。今からです。寝ていれば叩き起こして引きずってきなさい」
「……承知いたしました」
老家令が急ぎ足で去ると、クライス様が私を見る。
「……怒っているな」
「当然ですわ」
私は静かに、だが青白い炎を燃やして答えた。
「愛する推し(夫)の神聖な領地を荒らされて、怒り狂わない限界オタク妻がこの世のどこにおりますの」
「……」
「しかも、領民の口を削ってまで自分だけ豚のように肥え太っているのですもの。推しの顔に泥を塗るなど、許し難いにもほどがございます」
クライス様はしばらく私を見ていたが、やがて呆れたように、だがどこか嬉しそうに低く言った。
「ほどほどにな」
「善処いたしますわ」
「今の顔を見る限り、全く信用できん」
「そこはご夫婦の愛と信頼を」
「ない」
「即答ですわね」
「今のお前は、魔王より目が怖いぞ」
それはまあ、自覚はある。
でも仕方ない。私、今かなり本気でブチギレているのだから。
◇ ◇ ◇
ほどなくして、代官グレゴールが執務室へ呼び出された。
夜着に着替えるにはまだ早いが、歓迎の宴の酒は抜けきっていないのだろう。
顔色はやや赤く、だが深夜の呼び出しという状況の異常さは察したらしく、部屋へ入った瞬間に焦りを取り繕うような脂ぎった笑みを貼り付けた。
「これはこれは、旦那様に奥方様! このような夜更けに、一体何事――」
「座ってくださいまし」
私はニッコリと微笑んだ。
「少しだけ、楽しい『数字』のお話をいたしましょう」
「数、字、ですか?」
「ええ。あなたが一番お得意な分野でしょう?」
その時点で、後ろに控えていた書記二人と倉庫番長の顔色がサッと土気色に変わった。
よろしい。自覚はあるようですわね。
クライス様は壁際に立ったまま、一切口を開かない。
だが、その存在だけで部屋の温度が氷点下まで下がった気がする。
私は目の前の紙を一枚、スーッと代官の目の前へ滑らせた。
「まずは、領都南区画の石畳補修費」
「は、はあ」
「昨年秋、大規模補修済みと計上されておりますわね」
「ええ、その通りで」
「では、なぜ現地の石畳は割れたままなのでしょう?」
「そ、それは……辺境の寒暖差は激しく、すぐに劣化が……」
「補修後わずか半年で、全面再劣化?」
「そ、それは」
「しかも、工事の人件費まで多大に上乗せ済みですのに」
私は別紙を重ねた。
「同時期の雇用記録には、その『工事人足』の名前が一人も存在しません」
「なッ」
「おかしい(ゴーストタウン)ですわね」
代官の喉が、ヒクリと鳴る。
私は間髪入れず、次の紙を滑らせた。
「では次はこちら。使用人給与」
「……ッ」
「二十八名雇用となっておりますが、勤務表上で実在を確認できたのは二十一名のみ」
「き、急な欠勤や、入れ替わりが激しく」
「三年連続で、毎月ピッタリ七名分?」
「……」
「しかも、給与受取印の筆圧とインクの掠れ方が、七名全員ほぼ同一」
私はニッコリ笑った。
「ずいぶんと筆跡の癖の似た方が多い、奇跡的な職場ですこと」
後ろの書記の一人が、ブルッと震えた。
ああ、この人ですわね。多分、印をまとめて偽造して押していたのはこちら。
「そ、それは書記が気を利かせて代筆で……」
「では、その七名からの『代筆許可書』は?」
「……」
「ない」
私はピシャリと言った。
「はい、次です」
「ちょ、ちょっと待ってくださいましよ!」
代官がとうとう、焦りを隠しきれずに声を上げた。
「奥方様は、王都育ちゆえに領地経営というものを少々机上で綺麗にお考えすぎる! 現場では多少の『融通』というものが――」
「融通」
私は笑顔のまま、さらに決定的な一枚を突きつける。
「穀物備蓄が『帳簿上では増えている』のに、『実倉庫では減っている』のも、融通ですの?」
「そ、それは盗難や、大規模な虫害が!」
「なら、その被害報告書と処分記録は?」
「…………」
「ない」
「ッ」
「しかも、月末の監査の直前だけ、倉庫番の当番が不自然に『特定の人物』に交代している」
私は倉庫番長を射抜くように見た。
「あなた。その三日間だけ、毎月毎月“偶然”夜勤なのですって? 働き者ですわね」
「……ッ」
倉庫番長の顔が、見る間に青ざめ、ガクガクと震え出す。
よろしい。
完全にメンタルが崩れてきましたわね。
私は最後に、最も簡潔な一枚を机の中央へ置いた。
先ほど作った、『差額の完全一致一覧表』だ。
「よく見てくださいまし」
「……」
「補修費の差額。人件費の差額。穀物の差額。それぞれ全く別の不正に見えて、全部、お金が消えた『時期と金額の増減カーブ』が完璧に一致しております」
私は一つひとつ、定規でピタリと示した。
「つまり、お金も、物資も、あなた方の中で循環して『一つの巨大な黒い懐』へと消えている」
「……そ、それは」
「しかもご丁寧に、すべて『代官決裁印』つきで」
「……ッ」
「まだ“現場の誤差”で押し切るおつもり?」
代官グレゴールの額から、滝のような脂汗が伝った。
「あ、あなたは……」
「何ですの?」
「なぜ、そんなに……ただの小娘が……」
「なぜ見えるか、ですって?」
私は少しだけ目を細め、絶対強者の顔で言い放った。
「前世で修羅場をくぐり抜けてきた『プロの社畜』を、舐めないでくださいまし」
「ぜん、せ……?」
「こちらの話ですわ」
私は椅子の背に深くもたれた。
「さて、グレゴール・バルデン代官」
「……」
「もう一度伺います」
私の声は、驚くほど穏やかで、冷酷だった。
「どこへ流しましたの?」
「…………」
「領民のための補修費を」
「…………」
「架空の給与差額を」
「…………」
「生きるための穀物を」
「…………」
沈黙。
誰も息をしていないみたいな、死の静けさの中で。
代官の太い指だけがブルブルと痙攣するように震えていた。
私は最後の一押しを加える。
「答えなければ、明日の朝、領民と使用人を広場に全員集めますわ」
「……ッ」
「この不正の証拠の紙をそのまま読み上げ、あなたが彼らの口を削って肥え太った過程を、一つひとつ一桁まで公開いたします」
「や、やめ……」
「どちらがよろしい?」
私は悪魔のように笑った。
「今この密室で白状するか。明日、飢えた領民の皆様の前で、物理的に身ぐるみを剥がされるか」
代官の顔が、絶望でグシャリと醜く歪んだ。
その横で、耐えきれなくなった書記の一人が、先に泣き叫んで膝をつく。
「わ、私は命じられただけでございます……!」
「おい!? 貴様っ!」
「代官様が、代官様が“帳簿は俺が通す、印も俺が持つ、お前らは口答えせずに数字を合わせろ”と! 穀物の横流しも、補修費の中抜きも、全部代官様の指示で……!」
「黙れ貴様ァッ!!」
「静かにしろ」
クライス様の静かな一言で、空気が完全に凍りつき、代官の怒号が物理的に押し潰された。
代官も、書記も、倉庫番長も、一斉に恐怖で口をつぐむ。
そして私は、優雅に扇を広げて静かに笑った。
「終わりましたわね。完全論破です」
代官グレゴール・バルデンは、ついに椅子の上から滑り落ちるように床へ崩れ落ちた。
「お、俺は……」
「ええ」
「少し、出来心で借りただけで……」
「領民の命を削って?」
「だ、だって辺境は税収が足りず、付き合いの金が……」
「ではなぜ、あなたのその成金趣味の指輪は増えたのです?」
「……ッ」
「なぜその腹だけ立派に肥え太っているのです?」
「……ッ」
「なぜ玄関だけ綺麗に磨かせ、奥は埃まみれなのです?」
「……ッ」
容赦ない言葉の一つひとつが刺さるたび、代官の顔が完全な土色へ変わっていく。
私は立ち上がった。
「クライス様」
「何だ」
「証拠と自白は十分に揃いましたわ」
「ああ。完璧な仕事だ」
「代官、書記二名、倉庫番長。全員の身柄をただちに拘束なさってくださいませ」
「そうしよう」
クライス様が、静かな足音で一歩前へ出る。
その瞬間、代官はとうとう床へ這いつくばり、私の足元にすがりつこうとした。
「お、お許しを……! 魔が差したのです! どうか慈悲を……!」
「無理ですわ」
私は一片の慈悲もなく、汚物を見るような目で見下ろして言い切った。
「あなた、よりによって私の最愛の推し(夫)の領地を荒らしたのですもの」
「……推し?」
代官が涙目で顔を上げる。
しまった。
最後だけ少々限界オタクの本音が出ましたわね。
だが今さらである。
私はニッコリと、これ以上なく美しく、冷酷に微笑んだ。
「ええ。万死に値しますわ。牢獄で震えて夜明けをお待ちなさい」
そうして、フェルド伯爵領を長年食い荒らしていた悪徳代官の不正は、私の前世スキルによって、たった一晩で完膚なきまでに暴き出された。
残るは、領民たちの前での正式な裁き。
そして――。
この最強の夫(クライス様)が、明日。
領民たちの前で、どういうドヤ顔で私を“世界一の自慢の妻”として紹介してパニックを起こすのかを。
私はまだ、この時知らなかったのである。




