第37話 後始末のち種明かし
その後、いろいろなことがあった。
私とトーマンが呆けている間、エカード先生や使用人たち、お義母様の執事であるモーリッツなどが手際よく処理を進めていた。
拘束されたウィルバート殿下は国王様からの使いによって王城へ連れて行かれた。
私は何が起きているのかさっぱりわからない。
ただ、お義母様が倒れる生々しい瞬間だけが頭の中にこびりついていて、衝撃で何も考えられない。
そんな中、唐突にエカード先生が現れた。
「カトリーナ。しっかりしろ」
私の目の前でしゃがみ、同じ目線になる。トーマンは椅子に座り、顔をうずめていた。リタとパウラは血塗れのまま戻ってきた。
「先生……私、お義母様が……」
「大丈夫だ。心配ない。これは作戦通りだ」
「作戦? どういうことですか?」
言ってる意味がわからない。あの悲劇的な結末が作戦だったなんて、わけがわからないわ。
「すべては、あのウィルバート王子の悪事を暴くための、ハリエット夫人の作戦だ」
エカード先生は淡々と話した。
「あの王子がもともと何かを企んでいたのは確かだったが、その裏が掴めなかったらしい。そこでハリエット夫人は国王と共謀して、君を王子の懐に潜り込ませようとした。婚約破棄をきっかけにそういうつながりができたらしい」
それはつまり、私が勝手に婚約破棄したから……?
「かなり時間は経ったが、君のスキルに目をつけた彼の尻尾を掴むため、今日唐突に作戦が実行されたというわけだ」
お義母様が私を利用していたのはその通りだったけど、それはウィルバート殿下を欺くために、ここまで用意周到にみんなを騙し密かに暗躍していたということ。
そういうことだったのね。
「でも、じゃあどうしてお義母様は、すすんで殿下の攻撃を受けたんですか? あそこまでする必要あったんですか?」
私はエカード先生にしがみついて訊いた。
「むしろ、あの王子のせいで誰かが怪我をしないと事が成り立たない、ということらしい」
彼は気まずそうに目を逸らして言う。
「僕もこの屋敷に着いて、ハリエット夫人から直接聞かされた。君を取り戻すつもりだったが、君が王子と篭城しただろ。その時に夫人がそう言っていたんだ。それで僕らは彼女に手を貸すことにした」
あの短い時間でそんなことを話していたのね。
ここまでの事情は把握した。でも、事態はまだうまく飲み込めない。
「お義母様の怪我は、尋常じゃありませんでした……あの大怪我で、お義母様は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。彼女も覚悟の上だったんだ」
「覚悟の上って、そんな……どうしてこんなことを、お義母様がしなくちゃいけなかったんですか?」
言いながらも、私はとっくに気づいてる。
こんなことをしなくてはならなかったのは、私のせいだ。
「私が自分勝手なことをしたせいで、その後始末をするために、お義母様が泥をかぶることを?」
「違う、カトリーナ」
「違いません! きっとそうだわ……私のせいで、こうなってしまったんだわ……」
「しっかりしろ、カトリーナ! そうじゃないんだ」
エカード先生が私の肩を強くつかみ、真っ直ぐに見つめてくる。
私の視界は涙でにじんでいて、先生がどんな顔をしているかはっきりとはわからない。
「先生は、私をかばってくださるから、そう優しく言ってるだけ……」
もう涙をこらえきれなかった。
「お義母様の言う通りだったわ。私は何もできない。だって、もうスキルも使えないし……」
そうだ、スキルもなくなった私になんの価値があるんだろう。
自分勝手なことをして、自由に自分らしく生きるだなんて言って、結局はこの家に縛られるしかなかった。そんな私の無力さが情けない。お義母様と考えが合わないなんて、ただただ幼稚で浅はかな考えでしかなかった。
やっぱり、お義母様がぜんぶ正しい。
そのとき、キンと冷たい氷のような声がした。
「バカな娘ね」
お義母様が何事もなく立って歩き、こちらへやってくる。
横でトーマンが椅子をふっとばして立ち上がった。
「母上!」
「お義母様……!」
私たちは急いでお義母様のもとへ向かい、あちこちを調べる。
「お義母様、なんともないんですか!?」
「母上、大丈夫ですか? 歩いて平気なんですか!?」
「二人とも、みっともないわ。うるさい、圧が強い」
お義母様は嫌そうに眉をつり上げ、私とトーマンを押して遠ざけた。
「だって、お義母様! あんなにいっぱい血が出てました!」
「そうです! あんなの聞いてませんよ!」
「うるさい。落ち着きなさい」
ピシャリと言い放たれ、私たちは一定の距離を保ち、お義母様に向かい合う。
「そこのエカードが言ったとおりよ。私は最初から、カトリーナを利用してウィルバート殿下の悪事を暴くつもりだった。それだけのことよ」
サラリと言われてしまえばもう何も言えない。
そしてお義母様が言うならそうなのね、と納得せざるを得なかった。
「癪だけど、エカードの薬のほうが効き目がいいから彼も使うことにしたの」
「なるほど……だからあんな大怪我したのにピンピンしてるんですね」
トーマンが感心したように言う。
少し考えたら分かることだったわね……。
「わかった? あなたは私の傀儡だったわけ。もうあなたに利用価値はないし、婚約が嫌ならさっさと荷物をまとめてどこへなりとも行っておしまいなさい。未来あるトーマンの邪魔よ」
お義母様は私に威圧するように言う。
その恐ろしい眼力に私は気まずく目をそらした。
「お義母様が、そうおっしゃられるなら……そうですね」
お義母様の目的が達成された今、私はもうこのお屋敷にも居場所がない。
そういうことなんだわ。
「母上、それはちょっと……」
「おだまり、トーマン」
私はお義母様に一礼し、食堂の扉を開ける。
「カトリーナ」
エカード先生が引き止めるように言うけれど、そんな彼にも私は苦笑を向け、その場を後にした。
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