第35話 ヒーローは遅れてやってくる
婚約が成立したということでお義母様を呼び、話をした。
「まぁ、それならすぐにでも荷造りして殿下のお屋敷へお引越しね」
何も知らないお義母様は嬉しそうに手を合わせて言う。いや、もしかしたらお義母様も一枚噛んでるのかも。
私は暗い表情を隠せない。戻ってきたパウラが悲しげな顔をするけれど、私は苦笑を返して王子に連れられて屋敷を出る。
「カトリーナ、これからの輝かしい毎日が楽しみだね」
大門が開き、太陽の光が差し込んだ。
その眩しさに目を細める。まばたきをしたその瞬間、目の前に人影が並んでいた。
「カトリーナ、迎えにきたぞ」
いつものローブを着たエカード先生、その彼を挟むように立つのはあらゆる武器を持ったヴェルデとショイ、リタ、グレルがいる。
「みんな!」
ちょっと待って、パウラったらなんて手紙出したの!? ていうか、早すぎない!?
思わず背後にいるパウラを見ると、ブンブン首を横に振っていた。
あ、これもしかしたら私が連れ去られてすぐこっちに来たのかも。
いやでも、とんでもないタイミングだわ! なんかすごくいい感じに登場してくれたけど、今ここで何も知らない彼らが前に出たら危ない。
戦争になっちゃう!
「なんだ、君たちは」
ウィルバート殿下の機嫌が一気に悪くなる。
すると、エカード先生が殿下を見てわずかに動揺するも、すぐに目をキリッとさせて言う。
かなり頭を回転させてこちらの状況を読んだようだわ。
「申し訳ありません、ウィルバート王子。カトリーナは渡せない。返してください」
「何それ。君のカトリーナじゃないよね? たった今、彼女は私のものになったんだ。邪魔だてするなら容赦しない」
そう言うと、殿下は持っていた偽魔石ライトを先生たちに向ける。
「ダメ! 先生! みんな、逃げて!」
こんなところで彼らに殿下を襲わせることはできない。
でも、殿下の攻撃で彼らに怪我をさせることもできない。
だったら……。
「殿下、敵襲です。一旦、屋敷へ避難しましょう!」
私はウィルバート殿下の腕を掴んで大門を戻った。
「えっ、カトリーナ!?」
エカード先生が驚きの声を上げる。
同時にウィルバート殿下も素っ頓狂な声で私に言う。
「カトリーナ? 私はあんなやつらなど相手にならないぞ」
「それでも! 殿下のお体に何かがあれば心配です!」
「なんと、君のその献身ぶり、実にいいことだな!」
感心してる場合じゃないのよ!
私は彼を連れてホールを抜け、食堂へ向かった。
広いけど物が多いから隠れるところも多いし、いざとなったら私のスキルで防壁を作ることもできる。
私は椅子を使い、ひとまず扉を塞いだ。
「カトリーナ、私はこの武器を試したいんだが」
「ダメです! 彼らはかなりの手練ですよ! あのシュリヒト子爵の子分たちを魔法や武器で一撃だったんですから!」
私は必死になって言った。その激しさに、ウィルバート殿下も「そうかい」と困惑気味な笑顔を見せる。
よし、これで殿下を言いくるめることは成功した。
あとはどうにかパウラが彼らに状況を伝えてくれたら……。
「姉上ーーーーーっ!」
まだ塞ぎきれてなかった扉から、元気な大声とともに銀色の防具の塊が転がり込んできた。
「えぇっ!? トーマンんんんっ!」
忘れてた! 本当に忘れてた!
「姉上! ご無事ですか!?」
「ご無事です。ご無事ですが、ちょっとあなたが出る場面じゃなかったわ」
近づくトーマンは、なんだかとてもスッキリした顔をしていた。
いつものように銀色の剣を腰に差し、いつもとは違う完全防備で立派な騎士のよう。
「ていうか、あなた今までどこにいたのよ」
「自室でスヤスヤ寝てました。多分、母上から刺されたあの針、睡眠薬が塗られてましたね」
「んもー! 心配して損したわよ!」
いやそんなことよりも、今はこっちだわ。
「トーマン、あなた、先生たちを足止めしてくれない? 私を取り戻すために乗り込んできちゃったのよ」
「なんですって!?」
トーマンは目の色を変え、キリッとした顔つきになると私の肩に手を置いた。
「このトーマン、必ずや姉上のお役に立ちましょう。殿下、どうか姉上をお守りください!」
あぁ、殿下のことも見えてたのね。良かったわ。
トーマンはウィルバート殿下に一礼すると飛び出したドアを戻り、「おのれ、エカード・エアフォルク〜〜〜〜!」と叫んで大門へ走っていった。
すぐにそのドアを閉める私。
ごめんなさい、エカード先生。愚弟を頼みます。
さぁこれでひとまずは安全だわ。いろんな意味で。
「殿下、これで安心ですわ」
私は冷や汗を拭き、ウィルバート殿下に爽やかな笑みを向けた。
初めて彼に対して笑顔を見せられた気がするわ。
そんな私に対し、彼は背後から近づき、私の腰に手を回した。
「カトリーナ、私が使いを寄越せばあんなやつら、一網打尽だよ」
「いいえ! これは我が家の問題ですので!」
私は彼の手をやんわり離し、その手を取った。
するとウィルバート殿下は眉を潜め、ムスッとした顔で言う。
「そうか。そこまで言うなら……」
彼は偽魔石ライトを私に手渡した。
「これを改造して君専用の武器にしてみろ。あいつらを圧倒するものを作るんだ。そして、君がやっつけてきて」
「えっ」
「できないの?」
じっとりとした目で見られれば先ほどの恐ろしい殿下の顔を思い出してしまい、従わざるを得ない。
私は偽魔石ライトを受け取り、覚悟を決めた。
こんなことになったのも私の自業自得。せっかくエカード先生たちが来てくれたのに、私が作った武器を彼らに向けなきゃいけないなんて……やるしかないのね。
私は思い切って偽魔石ライトを椅子の上に置いた。
ハンマーはないので、手のひらでスキル発動して作らなきゃいけない。
まぁ、そうなると一回作っただけですぐ壊れちゃうわ。なんとか側だけでも強そうな武器を作ってみよう。
イメージする。
大きな武器。全員を圧倒できるもの。
私が今まで作ったものといえばクロスボウ。魔風砲も使いようによっては武器かも。
偽魔石ライトは魔風砲に似たような性質だったわ。
じゃあ、その性質を利用した大きな魔風砲を作ってみようかしら。
風の力なら、そう大した怪我にもならないと思う。
「あ、言い忘れてたけど、その偽魔石ライトは鉛玉を詰めてあるからね。それを使うのもいいかもね」
ウィルバート殿下が後ろから明るい声で助言してくる。
これは、大きな鉛玉も作って詰めないとダメなやつでは。
あぁ、道を塞がれた。私の行動、なんでもお見通しなのね、この人。
こうなったら作るしかないじゃない……!
私は息を吸い込み、手のひらに魔力を込めた。
「……ん?」
いつもなら腕を通して魔力が流れる感覚がある。
でも、それがない。
「あれ?」
「どうしたの、カトリーナ」
低い声が忍び寄る。
ウィルバート殿下の冷ややかな声音が首筋に当たり、私は硬直した。
「まさかこの期に及んで、私を出し抜こうなんて思わないよね?」
思ってない。作ろうとしてる。
でも、なぜか力が出てこない。スキルが発動しない。
どうして……?
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