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第27話 大胆不敵な告白と決断

 私はハンマーを持ったまま考えていた。

 工房で試作品の安全防具を作っているのだけど、全部鉄で作ると重たい。

 硬質な素材はほかにもいくつかあるし、なんならメタル系の魔物から取れた素材も試したい。

 軽量魔法をかけると魔法が切れた時の不具合が怖いので、なるべく魔法なしで作りたいところ。

 それに魔法の付与はエカード先生がいないと出来ないしね。

 求められているのは、軽くて丈夫な防具。甲冑ほどの大仰なものじゃなく、もっと子供や女性にも使えるような……ころんだ時に怪我をしない、とか。そういうレベルのものがいいの。

 洋服型にするか、帽子型にするかで悩む。


 でも、思うように手や頭が働かないのは、エカード先生のことが心配だから。

 お昼も過ぎて、そろそろお茶の時間っていう時間だ。

 パウラとリタはお買い物に出ているので、少し不安になってしまう……。


 すると、工房のドアが静かに開いた。


「ただいま」

「わ! エカード先生! おかえりなさい!」


 私は驚いてハンマーを落としそうになる。

 エカード先生は疲れた様子で私の作業台へやってきた。


「カトリーナ」

「はい」


 やけに重たい口調だわ。

 やがて彼は息をつき、固い声音で言った。


「僕はこれまで君と創作ができて楽しかった」

「え? はぁ……」

「思いのほかいい物ができて、おまけに結構いい儲けになっている」

「それは良かったです」


 なんだろ、急に。

 鈍い私はまだ彼の真意が読み取れない。


「正直、ここまでうまくいくとは思わなかったんだ。それで、今回みたいな騒ぎに対応するのが遅れた。看板登録もできず、結果、掃除魔道具の特許をヴェルデに譲渡しなくてはならなくなった」

「それは全然いいんですよ。まだ気にされてるんですか」

「……僕は、自由な創作がしたい」


 ぽつりと言う先生の言葉に、私はやはりまだ汲み取れないでいる。

 でも、先生の重い表情を見ると相槌を打つのが憚られた。静かに待つ。


「君にも自由にさせたい。ただ、物を作って売るにはいろんな条件がつきまとう。お遊びじゃなく、本気の職人として生きていく覚悟を持たなくてはならない。そのために看板登録が必要だ」


 彼は顔を上げ、私をじっと見つめる。その紫色の瞳が真剣で、目をそらせない。


「えーっと、先生? 一体何があったんですか?」


 ひとまず説明を聞きたいところね。

 そんな私に、エカード先生は「あぁ、すまない」と柄にもなくうろたえていた。


 それからニーゼン商会であったことをすべて話してくれた。


「……そういうことでしたか。それで看板登録すれば丸く収まるということですね」

「ただ、君の身柄が保証できない」


 そう。つまり、私がまだ貴族であること、家出して所在不明として扱われていること、お義母様に居場所がバレて、もし周囲に何かがあったらタダでは済まないということが危ぶまれる。


「そのシュリヒト子爵の企み……いえ、第三者が誰か分からない以上、看板登録に二の足を踏む気持ちはよく分かります。シュリヒト子爵の裏に、お義母様がいる可能性だってありますからね」


 お義母様は王様やウィルバート殿下ともつながりがある御方。

 今は静観しているように見えて、私を捕らえる隙を虎視眈々と狙っているかもしれない。

 私の存在はどうにも重たい。そのせいで、先生に不自由を強いているのは不本意だわ。


「なるほど、ハリエット夫人が裏にいる可能性もあるか……」


 私の自責に構わず、顎をつまんで言うエカード先生。

 彼の推察には私も同意するし、用心するに越したことはない。


 まさか私が作ったものが、知らないところで勝手に改造されているなんて……ゾッとする。こんなこと、あってはならないわ。


「君はまだライデンシャフト家のご令嬢だ。籍も残っている。それについては別に僕は構わないが、もし君が今後、実家へ連れ戻されるようなことがあったら、職人としての地位はなくなる。そこで今一度、君に問いたい」


 一拍置いて、先生は息を吸う。

 私はごくんと唾を飲む。


「カトリーナ。僕と一緒にこれからもずっとこの工房で、職人として生きていく覚悟はあるか?」

「もちろんです」


 私はすかさず言った。これにエカード先生は眉をひそめて詰め寄る。


「分かってるのか? 僕は君がいないと何も生み出せない。看板登録をしたら、もう後戻りはできないんだぞ」

「何を今さらおっしゃるんですか。私はすでにそのつもりですよ」


 私の心はわずかに安堵していた。

 ここで解散宣言されたらどうしようかと思ったから。


「まったく、神妙に言うから何かと思えば」

「本当に分かってるんだろうな? 君がもしハリエット夫人に連れ戻されても、僕は君を探し出して連れ戻すからな。互いにどんな魅力的な縁談があっても、絶対に離しはしない。僕と一生一緒に生きてもらう」


 エカード先生は私の手を取り、真っ直ぐな目で言った。

 その視線が強く、私の胸が熱くなっていく。

 普段はクールなエカード先生が、こんなにも大胆に言うなんて。

 これは……よほどの覚悟がないと職人なんて務まらないってことね!


「僕は君の名が知れ渡り、ハリエット夫人に見つかることを危惧していた。でも、共同名義で看板登録をして、自分たちの製品と主義を守るほうがいいのではと考えたんだ」

「私も賛成ですよ。むしろ、先生の方からそう言っていただけて嬉しいです」


 エカード先生の手を握り、私はキリッとした目で見つめた。


「もちろん、君に何か危険があれば僕が君を守る」

「えぇ。私たちの自由と創作愛を守りましょう」


 こうして、私たちは看板登録をすることを決めた。


「──ところで、エカード先生。先ほどからかなり情熱的ですが……あの、私、結婚まではまったく考えていなくて」


 私は自分で言いながら恥ずかしくなっていた。

 これは確かめるチャンスだわ!

 でも、恥ずかしい!


 そう思っていると、エカード先生はキョトンとした。


「何寝ぼけたことを言ってるんだ」

「え?」

「あんなの、言葉の綾に決まってるだろう。僕は結婚に興味は無い」


 キッパリ言われ、私は頭の中で落雷を描写した。


「そ、そうですよねえ……あははは」


 まあ、どのみちお断りだったんだけど、いざこうしてまったく意識されずに言われると、なんだかなあ……なんだか、悔しい。


 そんなわけで、エカード先生が私に思いを寄せている疑惑は思いもよらぬ形で明らかになった。


 私のときめきを返してよ!

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