エピソード2 開店準備をする日常
ゆるっとお楽しみ下さい。
珈琲豆は焙煎後は時間経過と共に酸化し香りも風味も落ちていく。食品 (飲料)なので当然である。
よく長期保存するなら小分けにし冷凍保存するといいと言われるがそもそも小規模であっても喫茶店となるとその量は冷蔵庫や冷凍庫に入れられる量ではない。それ以前に保管のための冷蔵庫などを置くスペースがある店舗など珍しい。
そのため『ゆとり』では密閉もしくはそれに近い蓋のある金属製の筒に入れて保管、その日使う分だけ、別容器に移しすぐに挽けるように珈琲を淹れるスペースの、客から見える位置に見栄えするように整然と並べている。
「……すみません、ホントに」
「いやぁ、まぁ、次気を付ければ」
三崎が申し訳なさそうに頭を下げる。
須藤は苦笑しつつも必要以上に責めたりしなかった。
自家焙煎珈琲豆を販売し、さらにオリジナルブレンドの配合もしてくれる珈琲豆専門店から『ゆとり』は豆を仕入れている。週一〜二回、開店前にその店から直接納品してもらっている珈琲豆。
今日がその日だった。
『ゆとりブレンド』のベースとなっているフルシティローストのブラジル産の豆は、ストレート、アイス珈琲のブレンド豆としても使っているため基本的に一度にキロ単位で発注する。
「マジですみません」
「大丈夫、凹むことではないっすよ! 俺も同じことやってるんで」
基本的に火曜日納品で一週間で使うだろう量をまとめて納品してもらい、金曜日納品は土日で欠品にならないよう、在庫過剰にならないよう、調整する。
ブラジルやベースになる豆がキロ単位で他の豆は基本的にグラムでの発注となる。一番使うブラジル以外は一キロ未満であることが殆どで、発注する際は500グラムなら『0.5』キロと記載し、FAXで発注となる。
発注表のブラジルの下にはコロンビアが記載されている。今回コロンビアは『0.4』キロだった。
届いたコロンビアは4キロ。
三崎の記入ミスにより、十倍届いたのである。
届けてくれた焙煎店のお兄さんが『コロンビアでブレンドでも作るんですか?』と言いながら袋をカウンターに置いた時、須藤と三崎が互いに不思議そうに顔を見たのは言うまでもなく。
お兄さんには悟られないよう当たり障りのない会話でその場をしのぎ、お兄さんが店を出た瞬間に須藤と三崎が納品書ではなく先日の発注書が入っているケースのところに向かったのは自然の流れだった。
三崎の字で『4.0』と書かれていた。
「あー……マジでやらかした……本当店長すみません」
「だから次気を付ければ良いんですって。安田さんもさんも同じことやらかしてるし」
そう、実は避けては通れない、発注ミス。
日々気をつけて数字を書いているのに、気が散漫としていたのか、寝不足だったのか、気になることがあったのか、それは誰にもわからない。
でも所詮人間なので、間違うし忘れるし、ポンコツな時はある。
なので気をつけよう、そのひと言に尽きる。
発注、侮るなかれ。
後日、焙煎店のオーナーさんにこの話をしたら、以降ブラジル以外でキリの良いキロ単位の豆の発注は電話で確認が入るようになるという、焙煎店の仕事を微妙に増やしてしまった『喫茶ゆとり』である。
「で、このコロンビアどうしますか」
「仕入れ価格でよければ、買います?」
「600グラム豆のままで買います」
「600って多くないですか」
「罪悪感を少しでも払拭するためです、実家と友達に分けます」
そう言えば、安田が発注ミスをした時も罪悪感から普段の倍、買ってくれた事を思い出した。
発注ミスによって生まれる罪悪感は余計な出費を生み出すんだなと須藤は思いつつ、改めて自分も発注ミスには気をつけようと気を引き締めた。
発注ミス、気をつけましょう。今もFAX発注って普通なんですかね?それとも専用メールやアプリでの発注なんでしょうか。
長編
・『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです
短編
・仮面を外す日
・主人公も悪女も好きに生きたっていいじゃない
長編は本当に長編です、興味のある方は気合を入れてぜひ。
短編は時間潰しにでもぜひ。




