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転生したけどやっぱり死にたい…  作者: rab
旅の始まり
8/59

少女ミオ

休暇が欲しいです。本当に。

「あら、それってギルドの紹介状じゃない。アナタ冒険者志望なの?」

「はい、そうですけど…」


ポーチの中のお金をリュックに詰め替えていると、底の方から取り出した紹介状を見て、メリッサさんが話しかけてきた。


「そうなのね…この店に来るお客さんだから、てっきり既に冒険者なんだと思っていたわ」

「もしかしてここって冒険者用のお店なんですか?」

「冒険者用ってワケじゃ無いんだけど…ウチはギルドと契約しててね、ギルドから魔物の素材を仕入れて服を作っているの。だからその服を目当てに来るお客さんも、丈夫な魔物素材の服が欲しい冒険者が多いのよね」


確かに店先の看板には魔物の名前もあったな…ギルドから仕入れていたのか。


「で、アナタに渡したその服なんだけど…冒険者駆け出しには勿体無いくらい上等なものだから、大事に使ってね?」

「あ、やっぱりそうですよね…大切にします」


この翼竜の服、恐らく着心地が良いだけでは無い。壊れにくいとか長く使えるとか、耐久性も優れているのだろう。まだ冒険者になってすらいないのに、俺が着ていて良い服じゃ無さそうだとは思っていた。


メリッサさんと話している内に荷物の整理が終わった。と言ってもリュックに金を詰め、肩がけのポーチに紹介状を入れ直しただけだ。


「メリッサさん、色々とありがとうございました」

「あら、もう行っちゃうの?」

「はい。取り敢えず今日のうちにギルドには行っておきたいので、そろそろ」


俺はリュックを背負い、テーブルの上のニワトリを持とうと手を伸ばした。が、横から金属の篭手がニュっと伸び、手首を掴んだ。


「……………ダメ」


篭手の主は猫耳少女だ。何かを訴えかけるように緋色の目で俺を見ている。いや、ダメも何もこのニワトリは俺の固有スキルなんだけど…ニワトリを気に入っているようだし気持ち的にはこの少女にあげても全然良い…のだが、問題はこのニワトリ、どうせ不明な方法で移動して俺に着いてくる。結局俺の手元で管理することになるなら、そもそも無闇に人に預けない方が良い気がするんだ。


「あのこれ、ぬいぐるみだけど俺の固有スキルなんだ」

「………………」

「だから申し訳ないんだけど、あげられないんだよ」

「………………」

「あの…」

「………………」


無言の圧はやめて欲しい。何か言ってくれないと負けるぞ。俺が。どこかの悪魔みたいな幼馴染のせいで、無言で見つめられるのは軽くトラウマなんだ。


小さく震えながら暫く少女と見つめあっていると、ようやく少女は小さく口を開いた。


「…ギルド」

「え、ギルド?」

「…ギルドまで、もふもふさせて」


もしかして着いてくる気なのか。どれだけニワトリを触りたいんだ。


「うーん…」

「良いじゃない。アナタ、ギルドに行くんでしょ?こう見えてミオちゃんは冒険者なのよ。だからギルドについても色々知ってるわよ?」

「…案内する」


篭手なんて付けてるものだからもしかしたらそうかと思ってはいたけど、やはり冒険者だったのか。しかしギルドの案内か…正直、門番さんに場所は聞いたけど、それ以外は本当に何も分からないんだよな…現役冒険者に教えて貰うのが一番嬉しくはある。あるのだが…


「………………」


このミオと呼ばれている猫耳少女、大分控えめというか、無口だ。先程メリッサさんが問い掛けた時も、ニワトリに夢中で生返事だった。ニワトリを渡した途端に話してくれなくなったらどうしよう。でも元々一人で行くつもりだったし、居ないよりは有難いか…


「はい、どうぞ」


ニワトリをミオさんに手渡した。


「……!もふもふ……」

「ギルドの中までは貸すから、案内お願い…いや、お願いします」

「…ん」


ミオさんは篭手を外して腰に装着すると、ニワトリを揉みしだき始めた。本当に案内してくれるだろうか。


「じゃあメリッサさん。俺達はギルドに行きます」

「うん、頑張ってね!…あ、最後に名前だけ聞いても良いかしら?」


名前…そう言えば名乗っていなかったな。


「ノエルです。ノエル・イーストウッドって言います」

「ノエルくんね!覚えたわ!」


ピンクの髭を撫でながら、メリッサさんは微笑んだ。最初こそ恐ろしかったが、俺が初めて見たタイプの人種だっただけでとても良い人だったな。


俺は木製のドアを開けて店の外に出る。後ろからニワトリを持ったミオさんが連なり、更にメリッサさんも出てきた。


「ノエルくん、もしまた服が欲しくなったらウチを宜しくね!冒険に役立つ小物も扱ってるから、贔屓してくれると嬉しいわ!」

「はい、是非!ありがとうございました!」

「ミオちゃんもね!」

「…ん」


メリッサさんは暫く店の外に出て俺達を見送っていた。しかしあの巨体とピンク色は目立つな…遠くからでもメリッサさんだと分かる。商店街を歩く他の人々と比べると体格が二倍くらいありそうに見えた…いや、あるな。下手したら三倍はある。




「…さて、ギルドに向かおうかな」


服屋『白兎』を離れ、俺達はギルドのある街の東へと向かった。少し歩くとすぐに商店街は終わり、綺麗な住宅やお洒落なレストランが立ち並ぶ通りに出た。しかし商店街と変わらず人は多い。ミオさんは相変わらずニワトリに夢中だが、一応俺に着いてきている…答えてくれるが分からないが、道中で色々聞いてみようかな。


「ミオさん。幾つか質問しても良いですか?」

「………………」

「み、ミオさん…あの」

「………………」


マジかよ。もう反応しなくなってしまった。どうしよう…少しでもいいからギルドについて聞きたかったんだけど、この調子だとこのまま無言で歩き続けるしか無さそうだな…


いや、こちらの興味がある事だけを話そうとするからいけないのかもしれない。もう一度話しかけよう。


「ミオさん、ぬいぐるみがお好きなんですか?」

「………………」

「そ、そのぬいぐるみも小さくて可愛いですよね…」

「………………」


あ、もうダメだ。俺の心が悲鳴をあげている。村が滅んだ時の絶望を抱えているお陰か、心が折れる所まではいっていない。しかしそれでも無視は辛い。ヒビが入った。


ベチッ。


「いたっ!」


歩きつつ軽く打ちひしがれていると、後ろから何か軽い鞭のようなもので背中を叩かれた。え、何だ?


見ると、それは白い毛むくじゃらの鞭…というか猫の尻尾のようだった。そしてそれはミオさんの腰辺りから伸びている。猫っぽいとは思っていたが、耳だけではなく尻尾もあったのか…店にいた時には全然気が付かなかった。


しかし何故叩かれたのだろう。偶然当たったとか?そう思っているとミオさんがこちらを見つめて立ち止まった。俺も立ち止まる。


「ミオさん?どうかしました?」

「…それ」


え、どれ?

ミオさんは心無しか不機嫌そうに見える。頭の獣耳も水平に伏せられていた。


「どれでしょうか…」

「…その話し方、ヘン」

「話し方ですか?」

「…さっきはそんなじゃなかった」


ああ、この敬語の事か。確かに最初は同い年位だと思って特に気にせず話していたのだが、冒険者の先輩だと分かったので敬語に切り替えた。ただ、それが気に食わなかったようだ。


「ええと、じゃあミオさん。最初の話し方にしま…するね」


そう言うと、ミオさんの不機嫌オーラは消えた。耳も前を向き、元の状態へと戻る。


「…ん。あと、ボク」

「ボク?」

「…名前、ミオ。ミオサンじゃない」

「ああ、うん。分かったよ、ミオ」


『ボク』…少女かと思っていたけど少年だったのか?それともボクっ娘?銀色の髪は肩まであってそこそこ長いし、顔は無表情だが可愛らしい。どっちだ?


…ダメだ分からん。メリッサさんに襲われた時にミオの一人称を知らなくて良かった。あの場面で繰り出されていたら確実に脳の処理が追いつかずパンクしていた。


俺達は再び歩き出した。


「…しつもん」

「え?」

「…聞きたいこと、あるって」


どうやら答えてくれるようだ。ああ、無視されていた訳じゃなくて良かった。


「じゃあ…まず、ミオのそれって本物?」

「…?」

「その耳と尻尾」

「……………そう」


やはり自前だったか。とすると、ミオは獣人…そう呼ばれるのかは分からないが、昔少しだけ聞いたことのある亜人だとか異人とかに分類されるのだろうか。


「……………ヘン?」


片手をニワトリから離して自らの耳へと伸ばし、こちらを上目遣いで見る。相変わらず無表情だが少し不安そうにも見える。いや、やっぱり分からん。ただ、耳はまた微妙に伏せられ、尻尾は下がっていた。


「変じゃないよ。ただ俺には無いからちょっと気になったんだ…ごめん、変なこと聞いて」

「…ううん」


そう言うとミオはまたニワトリに視線を戻した。しまったな、何か気にしている事でもあったのだろうか…やはり軽率に身体的特徴に触れるのは良くない。そう言えば昔、クロエにも似たような事で怒られたことがあったな…


「…ほかは?」

「あ、うん…ミオはいつから冒険者をしてるの?」

「…一週間くらい」


一週間…ということはまだ冒険者に成り立てだったのか。いや一週間かよ。


「ミオも駆け出しだったんだね」

「…ん」

「…何で冒険者になろうと思ったの?」


冒険者とは危険な職業だ…と聞いただけだが、俺と同い年位の少女がなりたいと思うような職業では無いと思う。あ、いやでも居たな…一人、悪魔みたいな幼馴染が。


「……………やらなきゃいけないことがあるから」


ミオは少し考える素振りを見せた後、そう言った。成程、『なりたい』では無くて『やらなきゃいけない』か…何か複雑な事情がありそうだ。俺も人のことは言えないけど…




その後は幾つかギルド関連の質問をした。話し方が独特で断片的にしか知ることが出来なかったが、どうやらミオも誰かから紹介状を貰って冒険者になったらしい。そして冒険者になる前に、ギルドからちょっとした試験が課せられたという話だ。しかも冒険者になるには、その試験を突破する必要があるらしい。そういうのはすっ飛ばせるってローナさん言ってたのにな…


因みにギルドの仕組みについて聞いたら、


「…ギルドに聞いて」


と言われた。それはそうだ。

でも本当はそれが一番聞きたかったんだけどな…

そういう話をさっきしてなかったっけ…




────────────────────────




「…ここ」


え、どこ?


唐突に立ち止まるものだからビックリした。見ると、ミオはニワトリを掴んだままとある店を見上げていた。看板には『フレズ・シュクレ』と書かれていた…何語?やけに広い窓から店内を見ると、若い女の子達が美味しそうにクリームの乗ったケーキをほうばっている。


この世界、ケーキなんてあったのか…シレン村じゃ、たまに街から来る行商人から買えるようなクッキー位しかお菓子なんて無かったからな。ちょっと…いやかなり気になる。店からは生地の焼ける匂いと甘い香りが漂っていて、少し忘れていた食欲を刺激する。


…あれ?でも確実にギルドでは無いぞ。どういう事だ?と、ミオに視線を戻すと、既に隣にはミオの姿は無かった。


「ち、ちょっと待って、ミオ!」


ミオは何食わぬ顔で店に入ろうとしていた。おかしいな…俺達はギルドに向かっていた筈なんだけど。もしかしてここがギルドなのか…そんな馬鹿な。呼び掛けられたミオはこちらを振り返り、首を傾げた。


「…?」

「いや、ここギルドじゃないでしょ」

「…ん、おなかすいた」


コクン、と頷くとミオは躊躇いなく扉に手をかけ、問答無用で中に入った。嘘だろ。


「待って、ミ───」

「いらっしゃいませ!お二人様ですか?」


追って入ったのがダメだった。この店員、待ち構えていたかのような速さで出迎えてきたぞ。笑顔も百点、店員の鑑だ。くそ…


「…ん、ふたり」

「あのすみません、俺達は客じゃ…」

「かしこまりました、お席へご案内しますね!こちらへ!」

「…こっち」

「ぐえっ!」


シャツの前を凄い力で引っ張られ、引きずられていく。本当に女の子か?やっぱり少年じゃないのか。いやそれよりも服が伸びる。買ったばかりなのに。




気が付くと窓辺の席に座らされていた。うわぁ、周りの席は女の子ばっかりだ。どうするんだよこれ。こんなにも華やかな店内なのに、全身真っ黒な服のせいで俺だけ浮いている。


「…」


正面に座ったミオは機嫌良さそうにニワトリを揉んでいる。無表情だが楽しそうだ。楽しそうだけどね、ニワトリを揉むその手の下にメニューがあるんだよ。無理矢理連れ込んだのだからせめてそれを見て欲しい。お腹がら空いたんじゃないのか。


「あのさ、ミオ…」

「……ん」


「ギルドに行くって話だったよね」

「……ん」


「ここはどこ?」

「……ん」


「………………」

「……ん」


自由か。全く話を聞いてくれない所か、見えない何かと話し始めた…俺は早くギルドに行きたいのだがミオは何か食べる気のようで、ようやくメニューを手に取ると睨めっこを始めた。そして俺もここまで入っておいて何も食べずに出る度胸なんて無い。大人しくミオが満足するのを待つしか無いのか…思わずため息が出そうだ。




「はぁ………」

「……ん」




ため息にまで生返事をするな。




────────────────────────




俺は死ぬ為にこの街に来た筈だ。


両親は死に、幼馴染達は死に、唯一残された妹ともう一人は何処に居るか分からない。何よりも、俺自身がもう生きることに疲れていた。二度も俺の周りで災厄が起きたなら、三度目だっていつか起こるだろう、そんな事も考えてしまう。


身体ではない、心でもない、魂が疲れていた。一度死んだ筈の魂は何故か呼び寄せられて奇跡的に転生し、この世界に生を受けた。だが、その奇跡すら、今は余りに辛かった。


固有スキルを渡してくれたクロエ達には悪いが、ギルドで情報を集め、この不死身の身体を殺してくれる存在を探す。それが今の俺の目的だ。


もう一度言う。

俺は死ぬ為にこの街に来たのだ。


決して、ミオが適当に頼んで食べ切れなくなったホールケーキの処理をする為ではない。分かっているのか。おい。




「……ん」


分かってるなら良いんだ。………本当か?

こっちは今、ミオが十口くらいで『飽きた』と抜かしためちゃくちゃ甘いホールケーキを頑張って食べているんだよ…そんな俺の苦労も知らずに、ミオは暇そうにニワトリを揉んでいる。気まますぎるだろ。


このホールケーキ、イチゴっぽい果実が沢山乗っていたり、側面にはやけに凝った装飾がしてあったり、白いクリームとカスタードがこれでもかって程塗られていたりしてとても気合いが入っている。店員さんがめちゃくちゃ頑張って作ったんだろうな…と思うと残すなんて俺には出来ない。


でもつらい。三口目までは確かに美味しかったんだけど、余りに甘すぎていつからか感情が無くなってしまった。死について考え込む位にはつらい。






「…ねえ」

「え、何?」


ミオが唐突に話しかけて来た。甘い筈なのに苦い顔をしてケーキを食べる俺を見つめている。


もしかしてやっぱり食べたくなったのだろうか。いいよいいよ、全部返すよ。正直な所、ケーキなんてもう沢山だ。前世から数えて十五年振り位に食べたが、更にこの先十五年は食べなくて良い。


そんな俺を少し落ちた目蓋の奥から、緋色の瞳が見つめる。いいよ、そんなに食べたいなら返すって…




「…まだ?」

「……………………………………………」




残りは無理矢理テイクアウトにしてミオに押し付けた。

そのケーキを食べ切るまでニワトリは没収だ。




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