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転生したけどやっぱり死にたい…  作者: rab
旅の始まり
6/59

道程

今日は皆既月食らしいですね。曇っていて見えませんでした。。

「じゃあね、ノエルくん!出会いは良くなかったけど、会えて良かったよー!」

「もう裸で追いかけて来ないでくださいね!」

「しないですって!早く行ってください!」

「あははっ!」


ローナさん達は馬に乗ってシレン村へと向かっていった。あの後、俺は話し合っていた場所が何処なのか分からなかったので道まで連れて行って貰い、次いでに街道に出てからの西の街への道順を教えてもらった。

さらに、もし西の街のギルドで再会出来たら冒険者の手解きをして貰える約束までしてしまった。最悪な出会い方をしてしまったが、良い人達だったな…怪我の功名ってやつだろうか。意味合ってるのかな。




ローナさん達と別れてから道をしばらく歩くと、街道らしき大きな道に出た。幅が広く、シレン村からの道に比べると少し手入れされていて、俺が歩いてきた道から見るとT字路になっている。街道の周りには草原があると聞いていたのだが、正面の突き当たりは未だ森の中のようだ。どういう事だろう…と街道に出て左の道を見てみると、数メートルくらい行った所に開けた場所があるのが見える。


成程、あの先が草原かな。であればさっさと行こう。草原でちょっと試したいことがあるんだ。


と言うのは、龍に大穴を開けた魔法。それは風の魔法の中では一番弱いというか、規模の一番小さい初級魔法、『風刃』。記憶では、ボーンウルフや人を一人吹き飛ばすのが精一杯だったはず。強靭な身体を持つ龍に穴を開ける程の威力は無い。


龍に襲われた時に、その巨体に穴を開けたのは本当に『風刃』なのか?俺はそれを確かめたかった。


別に必ずしも草原で試す必要は無いんだが、また森の中で人と遭遇しないとは限らないし、何より本当に『風刃』が飛んでもない規模で放たれた時に巻き込んでしまったら大変だ。だからなるべく見通しの良い所で試したい。


T字路からそのまま左に向かい、陽の差す方へと歩く。やがて、街道の側に茂っていた草木は少なくなり、背の低い草花が目立ち始めた。そして…




「うわぁ………」


森に囲まれた街道を出ると、そこは辺り一面が爽やかな緑に覆われていた。風が吹くのに合わせて緑も波打つのがとても美しい。いつの頃か、ジャック達と東の森を開拓して森を抜け出た時を思い出した。あの時もこんな景色だった。


…出来ることならジャック達とこの光景を見たかったな。ジャックは別にこんな景色見たって面白くないって言うだろうけど、俺はただ皆と平和な時間が過ごしたかった。この草原を背景にジャックやクロエ、アリスやアビーの姿を見られたらそれだけで満ち足りるはずだった…そう思うとやはり寂しくなる。…早く、俺も…




…まあ、感傷に浸っていてもしょうがない。さっさと確認しよう。


青く澄み渡る空の下、緑の草原は何処までも広がっている。緑の他には、街道だけがただ中央にひたすら真っ直ぐと伸びていた。遠くの方には、通ってきた森とはまた別の木々が見える。


その場で一回りして周りを確認すると、近くには誰も居ないようだった。少なくとも人の姿は見えない。よし、今のうちにやってしまおう。少し歩いた所で立ち止まり外套から右の手を出して、手の平をすぐ横の草原に向け、そのまま唱える。


「『風刃…うわっ!」


唱えた瞬間、手の平にとてつもない衝撃を感じた。同時にただの風とは思えない空気の震えが全身に浴びせかけられる。そして目の前の草原、というか空間が円形に切り取られていく。円の範囲内にあった草は地面ごと抉られ、立っている場所から見て数十メートルくらい土が露出した所で円形の空間の進みは止まった。


手の平から風の塊が発射された…のか?塊というか衝撃波だ。やはり龍の身体に穴を開けたのはこの魔法だったようだ。しかし、『風刃』は元々こんな威力では無かった…大体これも原因は分かっているんだけど、それでもこの威力は少し信じられない。


俺はその場で念じ、固有スキルのぬいぐるみこと、ニワトリを呼び出す。ニワトリは前世で言う鶏がデフォルメされたような外見なので、俺はニワトリと名付けて可愛がっていた。念じれば何処からでもワープして来る上に損傷らしい損傷をしないので、昨日川の中で呼び出した後はそのまま放流したのだが、そのせいか少し膨れているように見える。水でも吸ったか?元から丸々としていたから気の所為かもしれないけど…


更に念じ、自分のステータスを出す。そしてとある固有スキルに注目した。


【風神の祈りEX】、流石にこれだろう。だってどう見ても風魔法を強化しそうな名前だ。この名前でこのスキルじゃなかったらもう何も信じられない。このスキルのせいで初級の魔法であるはずの『風刃』がおかしな事になってしまったんだ。


その確信を得たかっただけなのだが…目の前に広がる光景を見るとため息が出る。辺り一面、綺麗な緑の海だったのに一箇所だけ茶色い穴が空いてしまった。やっぱりやめとけば良かったな…こうなるって分かっていたら空にでも放っていた。


いや、予想は着いていたので明らかに自分の配慮不足だ…次からは気をつけよう。


俺は後悔を胸に街道を歩き出す。ステータスを出してくれたニワトリは、放らずにそのまま持ち歩く事にした。気の所為か、捨てるなという無言の圧力を感じるのだ。仕方ないので、ニワトリは外套の下で左手に抱えている…大丈夫かこれ。外套の下はポーチとぬいぐるみだけの全裸男とか、誰かにバレたら死ぬまでも無く人生終わりだぞ。西の街に着いたらギルドよりも先に服屋に寄ろう…




────────────────────────




「お腹空いた…」


そう言えば、村を出てもう一日と半分だが何も飲まず食わずで過ごしていた。どういう訳だか昼頃までは特に空腹も感じなかったのだが、いやそもそも何も食べていない事に気がついていなかったのだが、日が暮れ始めた所でようやく腹が切なくなった。


死にはしないけど、眠くはなるしお腹も空くんだよな…いっその事、睡魔も食欲も無視してこのまま歩き続けてみようか。もしかしたら空腹で死ぬことも出来るかもしれない…試す価値はありそうだ。


そう思った俺は、すっかり暗くなった道をひたすら歩き続けたのだった。




────────────────────────




目論見は失敗した。全然倒れる気がしない。お腹が空くことは空いているのだが全く歩けなくなる程では無いし、何より一定の程度で収まるのだ。お腹が空き過ぎて一周する、というたまにあるような感覚でもなく、ただある程度の空腹をずっと感じ続けている。眠気も同様だ。


この状態になってからもう三日は歩き続けているが、未だに西の街らしき影は見えない。ただ、夜も寝ないで進んでいたので、計算では後半日以内には着くだろう…着くかな…着くといいな…


街道は横向きの朝日に照らされている。道の側の草原は陽の光で金色に輝いていた。この景色良い。三日も街道を歩き続けていたので、実はこの景色を見るのは今で三回目だが、何度見ても飽きない。


俺の歩く先には大きな森が見える。街道は途中で幾つかの森を通過するようで、今までに既に三つの森を抜けていた。あの森を抜ければ今度こそ何か見えるだろうか。取り敢えずこのまま行ってみよう。朝日の眩しさに少し目を細めながら更に歩く。この時間帯の空気は何とも言えない心地良さがある。涼しい風が身体に優しい…気がした。




「おお…」


森を抜けると、その先にはようやく街らしき建物が見えた。それだけでなく俺の歩く先では別の街道が合流しているようで、遠くには人の歩く姿も確認出来た。良かった…道、間違ってなくて…




更に歩くと、当然ながら街に近づく。西の街は想像していた以上に大きいようで、建物に見えていたのは街を囲む城壁のように高い壁だった。街道はその壁の下に続いており、壁に当たる部分が門らしい。そして、門には人が疎らに集まっている。他の街道を歩いていた人も皆、門に集まっているようなのであそこが西の街の出入口なんだろう。


よし、俺も早速入ろう。




────────────────────────




門は思っていたよりも大分大きかった。扉が開かれた門の横幅は馬車が四台並んで通れる程広く、高さは天井まで10mはありそうだ。巨人が通るのか?というくらい大きい。シレン村の西門とは比べようが無いな…


しかしその大きさにも関わらず、門番は一人だけのようだった。鎧を身にまとい剣を腰に差してはいる。が、他に同じような格好をした人は門の周りには見当たらなかった。


そして門に集まっている人の多くは行商人のようだ。冒険者や旅人のような格好をした人は見受けられない。俺、浮いてないだろうか…そんな事を考えていても仕方ないか。取り敢えず俺も街へ入ろうと、門に向かう行商人達に着いていく。


門番は目の前を通る人々を見てはいるが、特に引き止めはせずそのまま通している。どうやら街に入るのに特別な許可や通行料みたいなものは要らないようだ…良かった。安心して人々に付いて門の中へと向かう。でも全裸だってバレたら捕まるかな。




そう言えば、西の街、西の街って言っているけど、本当の名前何だっけな。エグ…エグなんとかだったのは覚えてるんだが。ああダメだ、あとちょっとの所で思い出せない…昔、ジャックに見せて貰った地図に書いてあったんだけどな。


「西の街…エグ…西の街…」


うーん、本当に思い出せないな。周りの人にでも聞こうか…あ、丁度門番さんが居るじゃないか。街の構造も知りたい所だったし、門番さんなら街にも詳しいだろう。


そうと決まれば早速話し掛けよう。もうすぐに西の街の門だ。俺は門を潜るタイミングを狙って、門の前に立っている門番さんに声を掛けた。


「あの、こんにちは」

「ん?ああ、ようこそ。西の街へ」


ズッコケそうになった。門番さんも西の街って言うのかよ。


「あの、この街の名前って…」

「ああ、西の街だよ。いい名前だろ?」


ええ…どうなってるんだ。西の街は西の街…?もしかして本当にニシノマチって名前なんだろうか。俺が困惑していると、その様子を見て門番さんは満足そうな顔をした。


「はははっ、冗談だよ。ようこそ、西の街こと、エルトリアへ」


どういう冗談なんだ…最初からエルトリアって言ってほしかった。しかもエグなんとかじゃなかった。


「本当に西の街って言うのかと思いましたよ…」

「いやぁ、こっちの門から来る人は皆、揃いも揃ってエルトリアを西の街としか言わないんだ。だからこっちもつい、からかいたくなるんだよ」


まあ確かに…うちの村でエルトリアなんて言葉、聞いた事すら無かった。西の街は西の街としか認識されていなかった気がする。


「その様子だと少年もエルトリアに来るのは初めてなんだな。悪かったね、いきなり仕掛けちゃって」

「いえ、おっしゃる通りでしたので…あの、聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

「んん?良いよ。なんだい?」


よし、ここからは本題に入ろう。正直なところ街の名前とか何でもいいんだ、早く服が着たい。




門番さんの話によると、どうやらギルドは街の西側に存在しているらしい。西にもここと同じような門があり、そのすぐ近くという事だ。まだ西に向かわなきゃならないのか…


ギルドは西の一箇所だけだが幸いにも服屋は幾つかあるらしい。本当に早く服が着たいので俺はここから一番近い場所を教えて貰った。門番さん曰く余りオススメ出来ないらしいが、服が着られるなら何でもいい。


取り敢えずギルドと服屋の場所を知ることが出来たので、門番さんに礼を言ってその場を後にする。ああ、さっさと服だ、服。もう外套が間違って開いてしまわないように内側を抑えるのは疲れた…精神的に。




「おーい、本当に止めといた方が良いぞ…」


門番さんのそんな声を背に、俺は門を抜ける。そして旅に出て六日目、俺はようやく西の街に入ったのだった。


休日を有効に使えなかったのでストックが薄いです。。今週は投稿のペースが遅いと思います。

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