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田舎特有の無人駅。最近そこで活躍する一台の改札にICカード読み取り機が搭載されたが本当に必要か首を傾けてしまう。おそらく今からこの駅にやってくる男はピッとスタイリッシュにICカードを改札にぴったり付けて通るのだろうけど。
私はチープな電灯に照らされながら真っ直ぐ伸びる線路を見ていた。少し体を動かせばぎしと音を立てる安っぽいベンチの音。はぁ、と息を吐けばまだ白く染まらない。
シャンシャンシャンとうるさい(おそらく夜行性の)田舎虫は本日も絶好調。同じくらいうるさい蝉の死骸は沢山見かけるのに田舎虫の死骸は見かけないのは世界三大ミステリー。
まぁ私自身がこのシャンシャンシャンとうるさい田舎虫の正体をよく分かってないというのもあるけど。
今日は華やかな街で就職しやがった森弘樹がこのクソ田舎に帰ってくる日。その事を知ってか周りの友達はニヤニヤニヤしていてウザい。別に楽しみになんかしてないし。っていうくせに本当はこの日をベッドで指折り数えていたなんていう事実は私だけ知ってればそれでいい。
ぷあと情けない音を立てて、19:32着の電車がこのクソ田舎無人駅に近づいてくる。早く扉が開いて欲しいと思いと共に、弘樹が乗っていなかったらどうしようなんて考えてしまう自分よ。
「小夜子」
わざとらしくそっぽを向いていたのに、そう呼ばれると顔をあげざるを得ない。はいはい、しょうがないなぁなんて余裕ぶっこいたフリして弘樹を見る。スーツで帰ってきたの?それは少し刺激が強すぎるんじゃないの。
「ただいま」
小さい頃から何回も何回も聞いたことのある四文字。なのに優しい笑み付きで数カ月ぶりに言われると、涙が出そうになってしまうのはどうしてなんだろう。
「小夜子が言ってたあっちで有名なチーズケーキ買ってきた」
かさ、という音ともにオシャンティなビニール袋の中に入ったピンクの箱を彼は指差す。都会じゃケーキの箱と袋もオシャンティなのね。業務用スーパーの袋に入ったよく分からないフィリピン産のケーキで大喜びな私にはちょっとオシャンティレベルが高すぎやしませんかね。
「別に都会のお土産なんて欲しくないのよ」
安っぽいベンチから立ち上がって、ポケットに両手をつっこみながらわざとらしくそう言ったものの、弘樹は後で一緒に食べようね。なんて笑うだけ。やはり数カ月ぶりの弘樹は本当に心臓に悪い。
「チーズケーキねぇ。てっきり木綿のハンカチーフでも買ってくるかと思ってたのに」
だいたいの事って言った後に後悔するのに、今言葉を紡ぎながら後悔してる。時差ゼロ。弘樹は少しだけきょとんとした後に、ああね。なんて言って笑った。意味なんて分からなくてよかったのに。
「どこに行っても、俺は小夜子以外の子を好きになったりしないよ」
そう言って笑う弘樹に対して湧き出した感情は「死んでくれ」だった。物騒だけど。
気恥ずかしさも上限を超えると殺意に変わるらしい。そしてまた笑いながら「耳まで赤い」なんて言われれば殺意が増強。別にメンヘラクソビッチなワケでもないけど、死んで欲しい。久々に帰ってきた恋人に抱く感情ではないけど切に。数ヶ月も恋い焦がれていた相手。砂糖を吐くような言葉をかけてくるのは昔からだけどとにかくいまの私には刺激が強すぎる。でも本当に死なれたら困るからファッション殺意ではあるけど。
「小夜子、寒くなかった?」
「寒かった、あー凍死しそー」
わざとらしくそう言えば、じゃあ手を繋ごう。なんて言ってご丁寧に手を差し出して下さるなんてあんたは中世の王子様か。
少しだけ俯いて、両手をポケットに突っ込んだままでいれば弘樹が少しだけ寂しげな顔をしたので迷いに迷いに迷った上で手を差し出す。弘樹は何故か笑った後に私の手を取った。
もう片方の手でぴっと改札にICカードを当てる弘樹。そこに表示された金額にぎょっとしたのは私だけのよう。このクソ田舎に帰ってくるの、こんなにお金かかるんだね。当たり前か。
私は180円の入場券を改札に飲み込ませる。
弘樹は駅前にある自動販売機をみて「帰ってきた」なんて笑う。自動販売機でそれを感じるなんてほんとに田舎ですよね。
「……仕事だったの、今日?」
「あ、うん。午前中だけ」
「ふーん」
どうにも必要と思えない、田舎の道路にまっすぐ伸びる白線。私はその上を歩く。
空を見上げれば、綺麗な星空でいてくれればいいのに。真っ黒な空にセンスの悪い灰色の雲ががかっていて。小学生の図画工作の課題「星空」でこんな空を書けば担任から「大丈夫?」と言われそうな空である。
弘樹が帰ってくる日なんだから、気を使ってくれてもいいのに。
横にあるく弘樹をみる。相変わらずの色素薄目のお綺麗な顔に見入ってしまう。
「弘樹」
「なに」
「あんたってさ」
「うん」
「……ほんとに変わらないね」
弘樹がこのクソ田舎町を出ていったあの日を思いだす。
見送る時に、情けなくも泣いてしまったあの日を。
私は今でもあの日の生暖かい風に吹かれて一人で泣きながらホームのベンチに座っていた事を鮮明に思いだす事ができる。弘樹、私言ったよね。都会に出るならもう帰ってこないで。なんて。
そんな私の言葉に何も返さず、弘樹は電車を一本遅らせて。次の電車が来るまで私の隣で何も言わずに泣いていた。今までの人生の中で初めて見る弘樹の涙だった。
「何も変わってないかな……一応さ、俺も今日のために髪切ってきたリしたんだけど」
も、って所を強調してくる所がウザいね。
私も今日の為に髪を切った事、弘樹様にはどうにもバレバレだったらしい。
「都会に出るなら、もう帰ってこないで。っていう小夜子ちゃんのお願いはいつ聞いてくれるんですかね」
わざとらしくそう言えば、弘樹は声を出して笑った。
帰ってこない方がよかった? なんて私の顔を見て笑う弘樹。帰ってこなくてよかったよ。なんて言えば、弘樹はまた笑った。
弘樹が大学生の時は本心だったけどね。もう今はなんというかさ、ほんとにさ。
「大学四年と、勤めて三年で……もう結構経つね、本当に」
「ほんとあんた、何回帰ってくんの? 木綿のハンカチーフいい加減送ってきてよ」
「また言ってる」
田舎の夜道ってどんなのか知ってる?
私は嫌ってほど知り尽くしてる。
田んぼが広がってるせいで、明かりは少ないしぽつぽつとあるぼろっちい電灯だけが頼り。
車もほとんど通らなくって、人通りなんてもってのほか。
だからさ、隣で弘樹がご機嫌にかましている鼻歌なんかがこの世界の全てに思えてくる。
「俺には小夜子しかいないよ」
「そんな言葉信じない」
「なんで? 信じてよ」
弘樹がこれまた、ははと声をあげて笑った。
何が面白いんだか。なんて思いつつ私はまっすぐに伸びる白線の上をいつもよりゆっくりな足取りで歩く。
「電話もいまいちでないし、既読無視もされるし。心配なのは俺の方なんだけど」
なに言ってんだか。
そんな言葉は心にしまって。
「あんたが都会でほんとに好きな人、作ってることくらい知ってるし」
「それ誰情報?」
「小夜子の野生の勘」
「アテになんないね」
弘樹はまた笑った。
そういや弘樹の家はここを曲がるんだったね。
チーズケーキががさがさ揺れる音を聞こえるから「持とうか?」なんて言えば、大丈夫。なんて返ってくる。そしてなぜか握りしめられている手に入る力が強くなった。
「俺は、亮太が小夜子に『森がいないなら俺にしとけば?』的な事言ってた事、知ってるけどね」
小さく「でた」と言えば弘樹はまた笑う。
それ、もう4年前の話だからね。
リョータだって別に深い意味でもなかっただろうに。いつも通りリョータのとこの店で買い物をして。そうしたら弘樹の話になって。冗談交じりに言われた「森がいないなら俺にしとけば?」なんていう言葉で。それに対して「頭の片隅にでも入れとくよ」なんて言って笑ってたのに。
数日後には、どこから漏れたのやら。どこのどいつがチクったのやら。大層焦った様子の森弘樹氏がこの町の駅の砂利を踏んでいたから笑える。
その姿を見て驚き散らかした私とは別に、リョータは爆笑していた。
「田舎ネットワークがあるから、弘樹はずるいよね」
「ずるい?」
「だって私の事はすぐわかるのに。弘樹が都会でキャサリンと浮気してたって、誰も私に教えてくれないじゃん」
ほんとにね。
私になにかあれば、誰かがすぐ人気者の弘樹に言うのに。
都会の人間は誰も弘樹の事を私に教えてくれないじゃん。まぁ知り合いもいないから当たり前なんだけれど。
この田舎町で繰り広げられていた、バレンタインウォーズを思いだすよ。
あんたは誰に何をもらっても「ありがとう」って返事をして。ちゃんとお返しをして。
そんな性格なんだから、私と付き合った後も後輩に告白され続けて。それでも「俺には小夜子っていう超キュートな彼女がいるんだ!小夜子以外は見てないぜ!」なんて断り方じゃなくて「ありがとう。嬉しいよ。でもごめんね」なんていうご丁寧極まりない断り方で。
「私は帰ってきてほしく、ないんだよ」
「……」
「あんたが都会で他に恋人いたって、誰も教えてくれないじゃん。帰ってこなかったらもうそれで諦めつくのに」
弘樹は何も答えなかった。
弘樹は優しいから、喧嘩もさせてくれない。
私がどんな事を言っても受け止めてくれる。私はそこが嫌い。
田舎には似合わない、弘樹のスタイリッシュな実家。
弘樹がいない時には、前を通る事すらいやになるけれど。
弘樹が扉を押せばカランカランと扉に突いた鐘の音がなる。懐かしい弘樹の家の匂いがする。
玄関の靴箱の上に置いてある綺麗なガーベラ。可愛さのかけらもない狸が置いてある我が家とは大違い。
ただいま。なんて小さく呟く弘樹。玄関に置いてある靴の数が少なくて相変わらずこの男は。と思った。
「あ、やっぱさっこ付き」
リビングからにょっと顔をだした、これまたこの片田舎には似合わない弘樹シスター。
ちなみに私の小夜子という名前を「さっこ」というよく分からないあだ名で呼ぶのはこの人だけ。
弘樹によく似たその顔。どう考えてもこの田舎にいるべきの顔じゃないけど本人はそろそろ近くの農家に嫁に行ってトラクターに乗るのを楽しみにしているもんだから人生よくわからない。
ねーちゃん、もったいないよ。ねーちゃんなら都会でテッペンとれるよ。なんて言っても弘樹シスターは「この町から出るのめんどくさいんだもん。それに出る理由もないし」なんてコーヒーの湯気に紛れながら呟いて居た。
私はどうもその言葉が、なんで弘樹がこの町を出ていったんだろうね。なんていう意味を孕んでいるようにしか思えない。
「アタシ、あの人の家に行ってくるよ」
「うん」
当たり前だと思わないでくれない、なんて弘樹を小突いた後弘樹シスターはふんふんと鼻歌を歌いながら、指でくるくる車のキーを回して。
美人に似合わない履き古したスニーカーに足を突っ込んで「どうぞごゆっくり」なんて笑った。
弘樹は誰もいなくなった実家にまた「ただいま」と言った後に革靴を脱ぐ。
私は何も言わずに、まるで当たり前のように彼の後について、彼の部屋に入る。
そういえば昔は、ここでよく勉強を教えてもらってたよね。
弘樹が大学時代には、それなりに弘樹のものが残っていたが今はすっからかん。
昔使っていた勉強机とベッドと私達が一緒によく勉強していた冬にはこたつになる式の便利な机しかこの部屋にはない。
「つかれた」
そう言いつつも笑っている弘樹は、チーズケーキを机の上に置く。
私は昔みたいにぺたんと床に座って、小さな机の上に頬杖をつく。
「弘樹」
「なに」
「別に、なんにも」
「そっか」
この会話、必要だったかな。と体操座りをしている膝と膝の間に顔をうずめながら思う。
ジャケットをハンガーにかけ終えた弘樹が私の隣に腰を下ろす音が聞こえた。次には「小夜子」と私の名前を呼ぶ声がした。
なに、なんて顔をあげればぎゅうっと抱き寄せられて。切ったばかりの髪を撫でられて、黒歴史と化したファーストキッスとはくらべものにならないキスがやってくる。
肩をとんと押せば、唇が離れる。目を細めて頬を親指で撫でられれば私はなおさら弘樹にこの町に帰ってきてほしくなくなる。
「弘樹、かえってこないでよ」
「だからなんで?」
くすくすと綺麗な顔で笑う弘樹。
うっざいわ、本当に。その余裕に満ちた笑みが。
私がこの町でちょっと火遊びなんてしちゃえばすぐに弘樹の耳に入るだろうし。それを知ってのその笑みでしょ。
「帰ってきたら」
「うん」
「……帰るじゃん」
弘樹はちょっと愉快そうに「まあ当たり前だね」なんて笑う。
弘樹が帰った後、私がどんな気持ちでいるのか知ってんの?なんて言いかけて、言わなかったのは私のほんの少しのプライド。
「この町と違ってさ」
「うん」
「俺の就職したとこは凄い大都会でさ」
「自慢ならいらない」
「駅も綺麗で、店も綺麗で、ほんとに何もかも綺麗なのにさ」
「でしょうねぇ」
「小夜子以上に綺麗な人を見た事はないよ」
ときめくとでも思ったわけ?
あんたは70年代のフォークソングだけを聞いて育ったのか弘樹。サムイよ。イケメン補正にも限度があるからね。
「クッッッサ!!!! やめてよキザっぽい事いうの!!! 鳥肌立つわ!!!!」
「本音だけど?」
真顔でそう言われると黙っちゃう私、バカじゃない?
そして、もう一回重ねられる唇をすんなり受け入れちゃう私、バカじゃない?
「帰りたくないな」
「……」
「小夜子と会って。その後に都会に帰っても町の明かりが全部灰色に見える」
だったら、だったら。
そこまで言ってくれるなら。なんでこの町から出ていっちゃったの。
ずっとずっと言いたくて、いえなかったこと。
そしてこれからも言うつもりのないこと。
「あのさ、私」
「うん」
「本気で帰ってきてほしくないんだよ」
自然消滅でいい。
遠距離恋愛特有のゆるやかな終焉でいい。
徐々に連絡を取らなくなればいい。徐々に帰る回数が減ればいい。
そう願っている。
そうしたらもう、弘樹が帰ってくる日を指おり数えて待たなくてもいい。
弘樹の乗ってくる電車の時刻をバカみたいに気にしなくていい。
弘樹の乗っていく電車の後ろ姿を見て泣かなくていい。
言わないけど。言えないけど。
弘樹はせっかく買ってきたんだし。なんて言ってチーズケーキの箱を開ける。
私は前に「これあんたの会社の近くのとこのだよね」なんて送っただけなのに、弘樹の中では「小夜子が食べたかったチーズケーキ」に変換されるらしい。まぁ間違ってないんだけど。
開ければそれはホールケーキ。
流石にこれは無理でっせ弘樹さん。と思っていればすぐに表情を読み取られたらしい。弘樹は笑いながら残りは家族への分だから。なんて言った。
「キッチン言ってお皿持ってくる。あ、小夜子もコーヒー飲む?」
「……うん」
「じゃあそれ、切り分けといて」
付属されていた頼りないプラスチックのナイフで、弘樹ファミリーの分まで切り分けろとはなんという重大任務。
私がコーヒー入れるのに。なんて思ったけどここが弘樹の実家である事を今さらながら思いだした。
それにしても雑誌の中で見ていたチーズケーキが目の前にあるって変な感じ。
私はどうやって等分するか空気に指で書いていたのに、そんでイメトレまでばっちりしていたのに、実際切ってみればあれれな出来上がり。
暖かいコーヒーの入ったマグカップととりわけ用のお皿をご丁寧にお盆で持ってきた弘樹が私の等分したチーズケーキをみて「俺は小さいのでいいよ」なんて笑ったから私の不器用さはお察し。
弘樹は何も言わずに、一番大きいチーズケーキを私に渡してくる。親不孝ものめ。両親にのこしておけよ。なんて不等分チーズケーキを作り出した張本人がコーヒーを飲みながら考えている。
「……これ、おいしいね」
「だね、俺も初めて食べたけど」
「会社の近くにあるのに?」
「同じ市内なだけだからね」
弘樹はそう言って笑った。
「会社の近くにある店」ではなく「小夜子が食べたいと言っていた店」で本当だった。本当にこの男のやさしさときたら。
「でも、ほんとに俺の会社の近くにもおいしいケーキ屋あるよ」
「へぇ、こんど買ってきて」
「帰ってこないで、って言ってたのはどこのどの人?」
弘樹が笑う。
私はこっぱずかしさで、弘樹に肩をべしと叩きたくなる衝動に駆られたが、彼が優雅にコーヒーを飲んでいるものだから我慢する事にした。
「でもやっぱりケーキなんて、焼き立ての方が美味しいだろうし」
「まぁね」
「今度は小夜子が食べにきて」
表情を何も変えずにそういえるのが、この男の恐ろしい所。
「ついでによかったら、俺の家に泊まってってよ。まぁ頑なに小夜子はこっちに来ようとしないけど」
「なんか勘違いしてない? あんた、俺の家に泊まっていってよなんて言ったの初めてだから」
「……そうだっけ?」
だから都会のキャサリンとの浮気疑惑に胸を痛めてるんだってば。
弘樹は、電車賃もかかるしさ。とか俺の部屋汚いしさ。とかつらつら言い訳を述べていた。すると突然少ぴんと何かひらめいたような顔をして私を見る。
「分かった。俺、小夜子があのホームで待ってくれてる姿がたまらなく好きだからだ」
「あっそ!!!!!」
そうだそうだ、だからだ。なんて弘樹はまるで超難解受験問題を解けたときみたいな表情をしている。
そんな理由かよ。と思ったがどうにも彼には重要な事らしい。
まぁ私もこんな性格だから自分から「弘樹の部屋に泊まりたい」なんて言わなかったのも悪いけど。
「……まぁチーズケーキのため、ならねぇ行ってもいいけど」
チーズケーキさん、素直になれない私を許して。
そしてチーズケーキのせいにする私を許して。
「そんなに好きなら、毎日俺の部屋でチーズケーキ食べればどう?」
「……」
「大富豪の豪邸じゃなくても、よければ」
「……」
「ここにいるより、都会にいく方が大富豪になれるかと思ったけどそうでもなさそうだし」
「弘樹、あんたってバカなの?もしかしてそれだけの理由で都会の学校行って都会で就職した訳?」
「いや冗談。学校も仕事も俺のやりたい事はここじゃ無理そうだったし。でも、遠距離でも小夜子を好きで居続ける自信はあったし」
そう言って笑う弘樹がチーズケーキの箱とはくらべものにならないほど小さい箱を持っていた。
つまりはまぁ、そういうこと。
高校生時代の自分、ごめんね。
リッチで毎日ブランドものの洋服やカバンに囲まれて、運転手付きの外国車に乗りたかったよね。
天蓋付きのプリンセスプリンセスなベッドで眠りたかったよね。
どうにも、大富豪の嫁になりたいという夢は叶いそうにありません。