後編
私――エララ――は奮闘していた。
お茶会のカップの持ち方。姿勢。お話を聞く態度。席の座り方、立ち方。
貴族への言葉遣い。お辞儀の仕方。
知らないことばかりの私にアナスタシア様たちは丁寧に、根気強く教えてくださった。
下町でスカートめくりをする悪ガキをモップでぶっ飛ばして教育していた私とは大違いだ。(危険ですので皆さんは真似しないでください)
練習の成果があり、二か月が経過する頃にはだいぶ形になって来たと思う。
そして同時進行で魔法の使い方も教わっていた。
魔法の授業はあるが、それは魔法の基礎学習を済ませた貴族向けの授業。正直、私はついていくのが辛い。
光属性なんてただの明かりくらいにしか思っていなかったのだから、仕方ない。
「力は使い方を知らなければ、他人に利用されるだけですわ」
このアナスタシア様の言葉を胸に、自分の力は自分で使えるようになろうと決めた。家族のためにも、将来、魔法省に入るためにも。
だけど、アナスタシア様が私に肩入れするようになったおかげで、別の噂が立つようになった。
――レオンハルト殿下の次はアナスタシア様か。強かな平民だ。
――アナスタシア様にまで取り入ろうなんて、なんと図々しい。
――平民は分をわきまえるということを知らないのね。
――アナスタシア様は平民に肩入れして、何のおつもりなのか。
私のことは何と言われても構わないけど、アナスタシア様まで悪く言われたくはないんだよな。
そのためにも、しゃんと背筋を正して、教わったことを実践しなければ!
夏休みに入ろうとしていた今日この頃、魔法の先生から告げられた。
「夏休み明けの魔法大会に、エララ君を推薦しておいたから」
は? 私より魔法が上手な人は大勢いるでしょ。
先生はにやにやしている。
その鼻の下のくるりん髭をむしり取ってやろうか。
「まあ、すごいわ!」
隣にいたシェリル様が嬉しそうな顔をする。ちらりと視線を私に送った。
なるほど、ここは喜んでおくところか。
「ありがとうございます! 精進します」
私は笑みを浮かべて頭を下げた。
先生が離れると、シェリル様の顔が険しくなった。
「何を考えているのかしら。あの先生、第二王子派の貴族ですよ」
シェリル様はこそっと貴族事情を教えてくれた。
なるほどぅ、私をぼろ負けさせて笑い者にしたいのだな。そうはいかないぞ。
ふと、誰かが近づいてきた。確かローズとかいう隣のクラスのお嬢様。
ブラウンの髪がふわりと揺れる。
「エララさん、大丈夫? 魔法大会なんて。魔法の練習、お手伝いしましょうか?」
「御心配には及びません。アナスタシア様のご指導がありますので」
私はきっぱりと断った。第一王子派と第二王子派の相関図は頭に叩きこんでいる。
彼女は第二王子派の家だったはずだ。
困ったときは名前を出していいとアナスタシア様から許可を頂いている。
アナスタシア様の名前を出したら、ローズ様はすぐに引き下がっていった。
よし、引き下がってくれた。地位万歳。
でも、その背中が辛そうだったのはなぜだろうか。
アナスタシア様に事の次第を報告したところ、輝く笑顔を振りまいた。
ま、眩しい!
「特訓ですわ!」
ほ……?
――夏休み。
なんということでしょうぇぇぇぇぇ!?
アナスタシア様のお屋敷、広っ!?
こ、これが公爵家。これが権力。
なんということでしょう。下町何個分?
これから魔法省にお勤めのお兄様から指導を受けられるとのことだ。
なんて贅沢な特訓なんだ。
あのくるりん髭をぎゃふんと言わせてやる!
と、意気込んだものの、アナスタシア様のお兄様はお強い。
光属性は防御に長けていると言われていても、高度な魔法の使い手には及ばない。
光属性は治癒の魔法も使える。
私は自分の傷を自分で治し、何度もアナスタシア様のお兄様と手合わせをした。
夏休みが明けた私は、仕上がっていた。
もちろん宿題もちゃんとした。なんなら、座学までアナスタシア様と一緒にお兄様から見てもらった。
休み明けテストもばっちりである。
そして始まった魔法大会。学年関係なく、トーナメント方式で戦わされる。
すり鉢状の観客席の下に広がる運動場。そこが会場だ。
私の相手は三年生だった。最上級生と当たるように仕組まれた気がしなくもない。
しかし、磨き抜かれた光属性魔法に死角はなーい!
「勝者、エララ!」
まだまだぁー!
「勝者、エララ!」
根性ぉー!
「勝者、エララ!」
ファイトォ、いっぱぁぁつ!
「優勝者、エララ!」
歓声とどよめきが会場を包む。
ふふふ、げに恐ろしき特訓の成果。
お前たちは本物の魔法使いを知らないのだよ。死ぬほど恐ろしいぞ。
優勝者に与えられるのは優勝メダルのみ。
なんだ、副賞とか期待してたのにな。残念。
まあいい。あのくるりん髭が唖然としている間抜け面を拝めただけでもよしとしよう。
私はそれだけで良かったのだが、例の「私を取り込もうとする勢力」はそうでもなかったらしい。
アナスタシア様の情報網によれば、私の家族を人質にしようという物騒な計画まで出ていたそうだ。
それが、今回の魔法大会で明らかになった私の実力を見て、その計画は白紙に戻された。
危ない。家族を危険にさらすところだった。アナスタシア様のお兄様には感謝だ。
で、今日のお茶会にはなんでレオンハルト殿下までいらしているのですか?
しかも、恥ずかしそうなアナスタシア様を膝の上に乗せて。
「見事だったよ。光属性はやはりすごいな」
笑顔でレオンハルト殿下が褒めてくださった。
「あのぅ、殿下。アナスタシア様が困っていらっしゃるのでは?」
恐る恐る、私は聞いた。私の質問に、シェリル様とアナスタシア様のもう一人の近しいお友達、カリーナ様がピクリと肩を動かす。
「大丈夫。ずっと私にかまってくれないから、かまいに来ただけだから」
何が大丈夫なんだ?
アナスタシア様、顔が真っ赤なんですけど?
なんて可愛らしい一面をお持ちなんだ。
まあ、婚約者同士だし。イチャイチャするのは結構なんですけどね。
はっ……!
殿下にかまっていられなかったのは、私が原因か!?
よく考えなくても、アナスタシア様がなんやかんや私に付きっきりだったことを思い出す。
なんてお邪魔虫になっていたんだ私は!? 平民の分際で!
アナスタシア様がコホンと咳払いをした。
「優勝はエララさんの努力の賜物ですわ。お兄様も褒めておりました。魔法省でも活躍できるだろうと仰っていましたよ」
優しく微笑むアナスタシア様はやはり慈悲の女神だった。
お兄様にも太鼓判を押してもらえたとはありがたい限りである。
「期待してるよ。稀代の魔法使いさん」
殿下も爽やかな笑顔を浮かべた。
「はい! 精進します!」
くるりん髭先生に言った時とは違い、心の底からそう思った。
三年間の課程を修了した私は、気付けば魔法の実技で一番の成績になっていた。
魔法技術、学年一位の称号を引っ提げて、私は魔法省の門をくぐるのだった。
◆◆END◆◆
お読みいただきありがとうございました!
レオンハルト殿下は引いてダメだったので、押してみることにしました。仕事はできる御仁なのです。本当は。
ローズは叱られてしまったかもしれませんね。ごめんよ。
就職したエララを応援してくださる方は★の評価、感想、リアクション等よろしくお願いします。励みになります。




