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4.有村聖

 作戦地域に着いた時には、悲惨な有様だった。通りかかった一般人も霊障に巻き込まれて何人も倒れている。


「まどかさん!」

「おい、沙庭!単独行動はよせ!」


 私は彼女を見つけて駆け寄った。呼吸を確認する。まだ生きてる。だけど、全身から多量に出血が見られて、すぐに医務班に渡さないと大変なことになる。


『ぐぉぉぉんっ!』


 まどかさんを担ごうとした時、目の前で2番隊の皆が戦い始めていた。巨大霊障3体だ。彼らも苦戦じゃ済まないかも。でも、まどかさんはこのままじゃ死んじゃう……


「……バ、カね。あん、たは、敵に、集中、し、なさい」

「まどかさん!」


 そう言い残し、意識を失った。早く皆を助けて、まどかさんを救う方法――

 倒して終わらせるしかない。私はダーツを取り出す。1本目は一番遠くで動いている霊障に。一撃で霧散する。2本目は皆が襲われた霊障に放つ。霊障は霧散した。

 残りはあと1体。そう思っていると、霊障の近くから拍手が聞こえる。


「驚いたよ。こんな秘密兵器がヤマトにいたなんて」


 長い黒髪で細身の男性がそこにいた。


「お前は!有村聖(ひじり)!」

「五十嵐くん。久しぶりだね。大した霊力でもないのに、よく生き残っていると思うよ。純粋に尊敬する」

「有村ぁぁぁっ!」


 普段、何事にも動じない狐火さんが叫んでいる。そして、単身で有村と呼ばれる男の元に走り込もうとする。


「あかんで、オバちゃん!落ち着くんや!姉ちゃん、手伝ってーな!」

「は、はい!」


 私は激昂する狐火さんを新太郎と共に抑え込む。私たちがまるで見えてないかのように力が込められている。


「狐火もよくもまあ、その老体で五体満足でいられたね。素晴らしいよ」

「よくも俺たちの前に顔を出せたもんだな」

「君たちには用はないよ?そこの魅力的な霊力を持つ彼女に用があるだけさ」


 有村は私を見る。状況が分からない私は見つめ返す。


「君、名前は?」

「さ、沙庭命」

「そうか、覚えておくとするよ」


 そう告げると、振り返り手をひらひらとさせながら、霊障の向こうへ消えていった。


 彼は一体、何者?そんな疑問を忘れさせるように、残った巨大霊障の熾烈な攻撃が再開する。私はもう攻撃できない。防御に徹して、攻撃できる人たちの盾になる。

 実際は5、6分だっただろう。とても長く戦っていた気がした。全身に汗をかいている。やっと霊障が霧散する。


「ひとまず1番隊の生存確認だ」


 散り散りになっていた隊員を捜索して確認する。私は最初にまどかさんの死亡を確認した。


「……ごめんなさい。遅かったですね」


 涙が流れる。悔しかった。私のダーツがあと1つ撃てれば、戦いは早く終わっていたのに。私のせいだ。

 次の隊員の捜索を始める。


「あ」

「相変わらず可愛いね〜」


 ビルの陰に隠れるように座る西崎さんが生きてた。涙が出る。


「あらあら、感動の再会なのは嬉しいんだけどさ、ほら見てよ、この足」


 すぐに足を見る。両足の膝から先がなくなっている。


「君の前だから強がってるけど、ちょっと痛くてね。助け呼んでもらえるかな?」

「わ、私が背負います!」

「そうかい?ありがとう、お言葉に甘えちゃうかな」


 私は彼を背負って、合流ポイントまで移動する。重い。そして、血が私の身体中に付着して何とも言えない感じだ。


「西崎、生きてたか」

「いや、何とかね……」

「他の隊員は、全滅や。今、オバちゃんが霊体を消して回っとる」


 惨状だった。あの時、私を救ってくれた人たち。それに顔は皆、覚えてる。助けられなくて本当に悔しい。


 基地に着くと、西崎さんは医務班に連れて行かれた。その姿を見送ると、司霊官から呼び出しがあった。


 報告する内容が重い。だから、足取りも重くなった。ノックして司霊官室に入ると星澤さんがいた。


「大手柄だ、沙庭くん。前代未聞の巨大霊障3体同時出現の撃退。素晴らしい働きだよ」

「いえ……犠牲者はたくさん出てしまいました」

「そうだな。殉職した隊員のことは残念に思う。そして、隊員の補充を終えるまで、1番隊は動けないだろう」


 そんな話じゃない。私はあの人たちの死が悲しいのに。


「それに有村の尻尾を掴めたのは嬉しい誤算だった」

「何者なんですか、有村って」


 私の質問に、司霊官は少し答えに困っているように見えた。しばらくすると、回答が得られた。


 元2番隊隊員。そして、前任の隊長を殺した張本人であり、危険人物だとまとめられた。


「尻尾さ〜え、見つけれ〜ば、こっ〜ちのものだ〜よ」


 星澤さんは、細い目をさらに細めてにやりと笑う。いつも思うんだけど、この人ってすごく不気味。


 部屋に戻ろうと、トボトボ歩いていると、突然、缶ビールが飛んできた。


「わっ、とと」


 飛んできたその先には、五十嵐さんが微笑んでいた。


「沙庭、飲めるだろ?少し付き合わないか?」

「の、飲めますけど……」


 私は連れられるがままに、展望デッキに上がる。お世辞でもいい景色なんて言えない、灰色の世界が広がっていた。


「柳井や他の隊員は、俺とほぼ同期だった」

「そうなんですか」


 まどかさんの最期の姿を思い出す。


「俺にもっと力があれば、助かる隊員もいたかもしれない」

「私もそう思います」

「ふ、俺が言うのもおこがましいが……沙庭、あんたは良くやっている。あんたがいなきゃ、俺たちも全滅だった。感謝している」

「そんな……」


 励ましてくれているのは分かってる。だけど、悔しさと悲しさは晴れない。


「3番隊も一度全滅している。誰一人残らずな。俺たちがいる場所は、そういう場所なんだ」


 私が思っていたより、危険な場所にいる。そういうことだろう。


「……確かに、AIに捕まって施設に入ったほうが、楽かもしれませんね」

「言ってくれるなよ。だが、本音ではある」

「ところで、前任の隊長をあの有村さんが殺したんですか?」


 何気なく話題に出したことを後悔した。信じられないくらいの怒りを感じる。


「ああ。奴が明日香を殺したんだ」


 あすか?そうだ!前任者名が海原明日香と書かれていたのを思い出す。


「何でそんなことになったんですか?」


 恐る恐る尋ねてみると、眉間にシワを寄せ、目をギラ付かせ怒る五十嵐さんが答える。


「実験だ」

「実験?」

「霊門を破壊した上で、浮遊する霊体を重ねて霊障を発生させるんだ」

「え……それって」

「しかも、それが超級ならどのくらい巨大な霊障に仕上がるのか、それを試しやがった」

「人間が故意に霊障を作り出せるんですか?」


 ガンと手すりを強く叩く音が響き渡る。


「奴には……奴だけには、できちまうんだ。奴の霊特性が、霊体操作なんだよ……」

「霊体操作?そんな霊特性があるんですか?」

「現に明日香の体からは、これまでに確認したことのないほどの巨大な霊障が生まれたんだ」


 何でそんな事を?


「だが、この時は偶然、4部隊全部が基地にいたお陰で撃退できた。そうでなきゃ、基地ごとやられてた」

「何が目的だったんですか?」

「分からない。奴はあまり、他人に自分を見せるタイプでもなかったからな、あんたと違って」

「……どういうことですか」


 何だかサラッと小馬鹿にされた気がした。少しムッとした。


「すまんすまん。悪い意味で言ったつもりはない。あんたは、俺たちに分かりやすく気持ちが伝わるんだ。だから、どうしたら良いかも分かる。だけど、奴はそういうのを全く見せなかったんだ」

「そうだとしたら、明日香さんは何故彼を信用したんですか?」

「あんただって、今、九条から頼み事をされても答えようとするだろ?素性の知れない間柄でも」

「……そうかもしれません」

「奴のことだ。次の関心はきっとあんただ。巨大霊障を一撃で消し去る霊力の持ち主。それを霊障にしたがるはずだ」

「それにしても、目的が分かりません。快楽犯、なんでしょうか?」

「いや……もしかしたら」


 言葉を止めた五十嵐さんは、遠くを見つめた。


「冗談に聞こえるだろうが、社会の転覆、かもしれない」

「そ、そんなこと、誰もできませんよ」

「では、仮に巨大霊障を10体手なづけていたとしたら?」

「10、体……私たちは何もできずに殺されると思います」

「俺たち以外で、この攻撃を防げる者がいると思うか?AIには映らないんだぞ?」

「……」

「全てのシステムをバグらせ、このAI社会を終わらせることもできる、かもしれない」


 下手な軍事攻撃より、可能性は高い。素人知識の私でもそう思えた。


「思い出したんだ」


 グビと缶を飲み干した五十嵐さんは、缶の口を眺めている。


「奴が一度だけミスをした。それで、AIに取り囲まれたことがあった。その時に、こんな社会は間違っているとしきりに叫んでいた……」


 缶を握り潰すと、私のほうに振り返り、真剣な眼差しで見つめている。


「奴の思い通りにさせる訳にはいかない。俺は絶対、あんたを守る。そして、面白くはないが悪くもないこの社会を守る」

「ありがとうございます……」


 それだけじゃない因縁がこの2人にはある気がした。

 話し込んでいると、私を探していた職員の人が現れ、例の如く、司霊官に呼び出されるのだった。


◇◇◇


「まともな休息も与えられなくてすまないと思っているよ」

「はい」

「しかし、残念ながら1番隊を欠いた穴を、他の隊で埋めなければならない」


 西崎さんの命は大丈夫だったのだろうか。


「品川区八潮、対象者は有村聖」

「え?」


 思わず聞き返してしまった。それにしても、品川って遠い。


「移動用のオートモービルの使用許可を出しておく。五十嵐が運転できるだろう」

「あの」

「何だね?」

「有村が霊障になっていることはないと思うんですが」

「そうだな。純粋な反逆者への対処を求める」

「捕まえるんですか?」

「できるなら、してみればいい。まあ、処刑以外に道はないと思うがね」

「司霊官は、どのくらい彼を知っているのですか?」

「私を操作しようとした愚か者だ」

「司霊官を操作?」

「君にはまだ言っていなかったか。私は霊体だ。ただ、安心してくれ。霊障ではない」

「え?どういうことですか?」

「簡単な話だ。幽体離脱をしたまま、肉体が死んだまでだ」


 不思議だった。生きてる人のような質感をしている。


「私も有村同様、霊特性があってね。実体化といって、文字通り、霊体を実体化できるのだよ」

「全く気づきませんでした」

「普通はそうだ。しかし、有村は違った。気付いた。そして、私を操作しようとした」

「操作できなかったんですか?」

「いや、寸でのところを海原に救われた」

「明日香さん、ですね」

「とにかく、有村は危険な存在だ。最優先で片付けたい。頼んだぞ」

「分かりました」


 その後、皆を集め、案内された車庫へ行き、鍵を五十嵐さんに預ける。


「まさか、オートモービルをまた運転することになるとはな」


 文京区にあるヤマトの通用口が開き、オートモービルが飛び出した。


「と、到着時刻は20:45です」

「あと30分やな、すぐやんけ」

「狐火さん。今回は冷静に対処をお願いします」


 私の言葉に狐火さんは素直に頷いた。


「前回は取り乱してしまったからの。大丈夫じゃ」

「て、敵です!十時の方向です」


 窓から、その方向を見る。巨大霊障、2体。オートモービルが、止まる。


「お前ら、下りろ!接敵するぞ」


 私は先に1体倒そうと、腰のバッグに手を当てる。すると、狐火さんがその手を止めた。


「きっとまだ先は長いからの。お主のは取っておくべきじゃ」


 そう告げると、お札を投げて先陣を切った。皆あとに続く。私は、防御のサポートに回ることにした。


 2体いるので、なかなか有効打を与えられないでいると、狐火さんがお札をしまった。そして、首に巻いていた、大きくて太い数珠を両手で持つ。

 それに霊力を込めて振り回した。

 お札なんて目じゃない。とてつもない一撃が霊障を捉える。五十嵐さんの斬撃よりもダメージを与えているようだった。それにより、予想より早く1体目が霧散した。


「と、年は取りたく、ないもの、だの」


 だけど、その代償に狐火さんはほとんど霊力を使い切ってしまった。


「十分やってくれたさ。あとは俺たちに任せろ」


 狐火さんが下がった中、今度は五十嵐さんが奮戦する。何もできない私は歯がゆかった。前に出ようとした瞬間――


「んんっ!」


 私の後ろで狐火さんの声がして、振り返った。そこには、狐火さんを締め上げて口を塞いでいる有村の姿があった。

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