表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

16.

※ 男女のそういう雰囲気があります。







 

 サイドテーブル置いていた個人端末のアラームが鳴る。アラームを止め、時間を確認したルドヴィクの口から、小さく「やべ…」と漏れ出た。

 個人端末を腕につけベッドから出て、床に散らばった服を拾い集めていると、膨らんだ布団の中でモゾモゾと動いた。


「起こしたか?」

「んーん…」


 布団の中の人物、アリエリアナは白い腕だけ出して着るものを探すが、何も無いところで手を動かしても意味がない。服は全てルドヴィクが持っている。回収した中からシャツを一枚投げてやると、アリエリアナはやっと顔を出した。


「……行くの?」

「あぁ。一旦家戻って、飯作ってから仕事」

「フィリと殿下は?」

「ブレンは大事とってそのまま医療棟。今日帰ってくる。フィリは同僚のところに預けた。って、昨日言ったはずだけど」


 きっとその頃はそれどころじゃ無かった。

 体の痛む場所をさすりながら、アリエリアナはベッドから這い出て、受け取ったシャツを羽織る。支度をして既にドアの前にいたルドヴィクのところまで見送りに来た。


「その格好で外出るなよ。大問題だよ」

「誰が出るか!……こんな状態で言うのもアレだけど、ごめんなさい…」


 ルドヴィクはアリエリアナの顔を見下ろすが、アリエリアナは気まずそうにしていて、目を合わせようとしない。


「15年も経ってて、貴方にも自分の生活があるでしょうに……その…私の事はもう気にしないで…」

「は?お前、男でもいんの?」


 不機嫌そうなルドヴィクの言葉に、アリエリアナが焦る。


「な!?は!!?いないわよ!私は貴方以外に…」


 早口で否定するアリエリアナの顎を片手で掴み、ルドヴィクはアリエリアナの唇を塞いだ。

 長い。肺活量が常人より無いアリエリアナは、両手をわたわたと振るが離してくれる気配が無い。苦しさのあまり目から涙が滲む。少し気が遠くなりかけた頃、やっと解放された。

 ひーひーと酸素を貪るように肩で息をしていると、それを見たルドヴィクは少し面白そうに


「アリエラ、浮気は絶対許さない。………返事は?」

「………はい」


 やっと目を合わせたアリエリアナには、ニヤッと笑ったルドヴィクの顔が、タチの悪いいじめっ子に見えた。






 午後になり、帝国の使節団から連邦軍へ、再びブレンに面会要請が来た。

 圧迫感が無いようにと、軍本部のカフェテリアを貸し切り、最小限の人数。今度はフィリアは呼ばれず、ブレンとルドヴィク、アリエリアナの3人で行われた。保安のため、ブレンの目につかない場所に側近や軍人達を配置している。


「ちゃんと本人に謝れ」

「昨日はびっくりさせてしまってごめんなさい」


 アリエリアナは深々と頭を下げる。顔は見えない状態だが、悔しそうだ。


「いえ、むしろなんか…すみません」

「でん…じゃなくて、ブレンさんが謝る必要なんて無いんですよ!」


 弾かれたように顔を上げる。


「あの、普通に話してもらって良いですか。ちょっと慣れなくて」


 アリエリアナの立場上、皇子に普通の口調で話すなど、舌を切り落とされても不思議では無い。しかしこれは皇子が望んでる事…と、「あー」だの「うー」だの唸りながら考えている。


「ダメですか…?」

「……検討いたしますわ」


 小首を傾げながら尋ねるブレンが、小さな頃のマヌエルに重なったのか、アリエリアナは折れた。


「ええと、待って。えぇ、うん。オッケー。じゃあ、ブレンさん…いえ、ブレン。昨日ちゃんとお話できなかったけれど、貴方をすぐに帝国に帰国させてあげる事はできないの。国が混乱してしまうから。それに、こうなってしまった原因を調査しないと、貴方の身に危険が及ぶかもしれない」


 アリエリアナはブレンの目を見ながらゆっくりと説明し、ブレンもわかる部分は頷いて聞いている。


「陛下…貴方のお父様も、貴方を2度も失いたく無いとお考えで…。解決するまでエイン中佐のお家でお世話になっていてもらいたいの。あー、この男怖くて嫌だったら言って。別の人探すから!」

「おい」

「いえ…最初は怖かったですけど、ルドヴィクさん、結構優しいです。料理教えてくれるし」


 はにかんだように笑いながら答えるブレンの頭を、ルドヴィクは雑に撫でてやった。その様子を見て、アリエリアナは内心少しホッとした。


(良かった…殿下にとって良い環境みたい)

「そう……ブレンは、一般知識に問題は無いのよね?なら、他国で生活するにあたって、いつまでも身体はもたないというのは、わかるわね?」


 真面目な話だ。ブレンも緊張した表情になる。

 ブレンはいつから連邦にいるのかわからない。つまり、ブレンの命のタイムリミットがわからない状態だ。


「本当なら、ゆっくり思い出してもらいたいけれど、そうも言ってられないの。それで、記憶が戻るよう、私が頻繁に連邦に来て、こうやって色々お話しすることになったの」

「お前の事が怖いと感じた場合は、チェンジがあるのか?」

「ルドヴィク・エイン中佐、さっきの仕返しのつもり?そういう意地悪するの本当どうかと思うわ」


 大人2人がにこやかに火花を散らす様子を見て、ブレンはプッと吹き出してクスクスと笑った。


「仲良いですね」


 そう言われて少し気まずかったのか、アリエリアナは両手で顔を覆う。


「とにかく、ね!」


 気持ちを切り替えたようだ。


「無理をさせたいわけでは無いけれど、貴方のためにも協力をお願いします、ブレン」

「頑張ります」







 無許可の海域離脱、無許可の海上侵入。ブレンの件が絡んでいるらしく、フィリアへの処分はなあなあになっていた。しかし、完全に処分が無いというのも良くないという事で、軍本部に反省文の提出が命じられた。ほぼ、始末書だ。

 内密という事で学校を通してではなく、直接軍本部に提出し、面接も受ける。面接の担当は、前回の聴取担当の兵長だった。形式的なやり取りを少し交わし、部屋を退出する。


「何があってこんな軽い処分になったのか分からないが、今後のためにも、こんな事は2度としない方が良い」

「はい、すみませんでした」


 この兵長、実は優しい人っぽいな。この間は嫌な態度取っちゃったかなぁ。

 多少反省しながら出口に向かっていくと、途中の休憩コーナーに帝国軍の軍服を着た人間が1人で座っていた。アリエリアナだ。座りながら目を瞑っている。


「……アリエリアナ様?」

「あら、フィリアさん。こんにちは」


 フィリアに声をかけられたアリエリアナは、目を開けて嬉しそうに微笑んだ。


「今日はどうしたんですか?」

「仕事よ。さっきまでブレン…と、貴方のお父様とお話していたの。これから帰国するから、今は側近たちを待っているの。何か飲む?」


 そう言って、アリエリアナはカップ自販機に向かう。


「甘いものが良いかしら…ココアとか?」

「えっと…脱脂粉乳好きじゃなくて」

「あぁ…連邦はそうよね。貴方の口には確かに合わないかも」

「え?」


 なぜ知ってるんだろう?聞き返したが、アリエリアナは気付かなかったみたいだ。


「あら、オレンジジュースある。好きな人がいるのね」


 ふふ、と面白そうに笑った。


「ありがとうございます」


 2人分の飲み物を両手に持ち、アリエリアナが戻ってきた。


「フィリアさんは、今日はどうしたの?訓練生も頻繁にここへ?」

「いえ、この間の…ブレン助けた時に、けっこう色々やっちゃって。それの反省文と面接に…」

「あぁ、あれ…そうね。状況の報告書読ませてもらったけれど、確かに無謀だったもの。訓練生で良かったわね。帝国だと訓練中でも鞭打ちになるのよ?」

「えっ、怖」


 帝国軍怖っ


「貴方のこれから生きる世界は、義務と、怖い事ばかりの世界なの。今回はブレンの事があったから感謝しているけれど、貴方に何かあったら、悲しいわ」


 アリエリアナは両手でコーヒーのカップを包み込み、中の黒い液体を眺めながら話す。その姿は、ただ形式的に言っているものには見えなかった。


「何で、アリエリアナ様が?」

「………指揮をする者として、兵士の命を粗末にしたくないのよ」


 顔を上げ、目の前に座っているフィリアを見ながら微笑んだ。

 フィリアの周りの大人は大体優しい。だから、大人とはそんなものなのか、と思った。


「これから、ブレンの記憶が戻るようにって、頻繁にこちらへ来る事になるわ。フィリアさん、これからよろしくね」


 そう言って、アリエリアナはフィリアの頭を優しく撫で、立ち上がった。


「お時間ですよ、閣下」


 フィリアの後ろには、いつの間にか昨日ブレンが運ばれた時に一緒に着いてきたファビオというアリエリアナの側近が立っていた。


「ファビオ、ご苦労様。お礼に飲みかけコーヒーをご馳走しましょう」

「閣下の残飯なんて誰が欲しいんですか。自分で飲んで下さいよ」

「言い方〜。それじゃあ、またね。フィリアさん」


 姿勢良く立ち上がると、待機しているファビオのもとへカツカツとヒールを鳴らして歩いて行った。

 こういう時、敬礼すれば良いのか、手を振った方が良いのか…その場に残されたフィリアの手は、どうして良いか分からないまま宙を泳いでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ