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1.獣人族の引っ越し(準備)

魔王・デスが居なくなってから早一時間、まだダウンロードは終わってなかった。


「長いな」


「そうだね、電波悪いのかな?」


「いや、澪?電波ってそもそもどこから受信してるの?」


ダウンロードするからには発信元があるはず、しかし、ここは異世界。


「うーん、強いて言うなら俺から受信してることになるのか?」


「え!?明くんパソコンだったの!?」


「いや、違うけど」


「本当に?良かった、さすがに私でもパソコンとは子づく……」


「ところで、この後獣人の村に戻るがミーアはそれでいいか?」


澪が久しぶりにあれな発言をするので、言い終わる前に被せる、こうゆうので平和を実感するのは如何なものか。


「村に帰るのは思うところはあります、ですがこの身は明様に捧げていますので、異論はありません」


「あ、そう、あまり気負わないようにな?」


「はい、ありがとうございます!」


あー、やっぱりミーアを置いていけないだろうか?


「それにしても遅いわね!」


鈴が我慢の限界が来たらしく、ホムンクルスの瞳を再度覗こうとしたとき急に頭が持ち上がった。


「うひゃあ!びっくりした!」


鈴が驚いて飛び退く、ホムンクルスはしばらく目を開けず首をかくかく動かしていた。


〈マスターお待たせしました、これよりナビゲーションシステム再開します〉


瞼を開けるとそこにはエメラルド色の瞳があった、髪は黒のロングヘアー、全体的に人形ぽさをのぞかせている。


「声はいつも聞くナビさんの声なんだな」


〈はい、音声データもダウンロード済みです〉


「本当にアプリみたいだな」


ナビさんと話をしていると、困惑していた澪から質問がくる。


「明くんはこの人?の事知ってるの?」


「あー、そこら辺も話さないとな、まずは……」


〈マスター先に獣人の村に戻る事をおすすめいたします、話は落ち着きながらの方がよろしいかと〉


「それもそうだな」


鈴達特に澪の疑問に満ちた目はとりあえず置いておいて、先に村への報告を優先する、道中ミーアがぎこちないように見える。



「ご無事で何よりです工藤様」


「ただいま戻った」


村に戻るとエレナ姫とクロエ、そして村長が待っていた。


「ミーア……」


「村長……」


感動の再会か……。


「お帰り、あっちにスープがあるんで良かったらいただきなさい」


「はーい」


「あ、ちゃんと手を洗うんだよ?」


え?何この学校から帰って来たよ的な会話。


「ちょっと待て!」


『え?』


ミーアと村長が二人してきょとんとしている。


「感動の再会はどうした!?」


「感動?」


「そうだ、会うの久しぶりだろ?」


「いえ、三日前に会いました」


「は?」


三日前?超最近じゃん!?


「明様、確かにわたしは城に常駐を命令されていました」


「あ、ああ、だから会えないだろ?」


「しかし、一週間に一回村に帰るように約束していたのです」


「そうだったのか」


「はい、でないと寂しいからとお爺様が」


「そのお爺様って……」


「こちらの村長です」


じいさん、魔王に頼むって何気に神経図太いな。


「デス様の前で皆が引くぐらい大泣きして、しまいには寝転がって駄々を……」


訂正、ダサいな。


「あの時は、若かったのぅ」


若いって問題じゃなくない?


「俺の感動返してもらっていい?」


目頭が熱くなって損した。




村入り口での一悶着後、村長宅にて腰を落ち着けて話をする事に。


「……なるほど、では工藤様はこれからエルフの森に?」


「ああ、そうゆう順番らしいからな」


「わかりました、では早馬でお母様にお伝えいたします」


「頼んだ」


「はい、ところでそちらの方は?」


そう言ってナビさんを見るエレナ姫、澪達も首を縦に振って、催促をする。


「こちらはホムンクルスだ、魔王・デスがいらないって言うんで貰って来た、中身はナビゲーションシステムと言って、今まで俺のサポートスキルとして助けてくれていた人(?)だ」


〈マスター、ここでご提案があります〉


「提案?」


〈はい、肉体を得ると言う悲願を達成しました〉


「肉体を得るって悲願だったんだ……」


〈はい、具体的には第1章4話33行目付近です〉


「いや、そこまで具体的に話すのはやめて貰っていいかな」


〈失礼しました、改めて悲願を達成した暁に、この身に名前を下さい〉


「じゃあナビさんで」


〈え?〉


ピシッと音が聞こえそうな程ナビさんの動きが止まる。


〈いえ、いえいえそうではなくマスター〉


「ナビさんで」


〈いえ、あの〉


「ナビさんで」


〈マスター……〉


「改めてナビさんだ」


今度は澪達に向かって紹介する様に言う、一連のやり取りを見ていた澪達は苦笑いである。


〈………ナビです〉


「あ、はい、よろしくお願いします」


「な、何て言うか、親しみやすい名前でいいと思いますよ」


「う、うむ、そうだな親しみやすさは大事だな」


「そ、そうだね、僕も大事だと思います、あの、ハンカチどうぞ」


どうやら無事打ち解けられたようで何よりだ。


〈まさか、肉体を得て初めて流す涙がマスターによる物とは〉


「人聞きの悪い事言うなよ、後とりあえず着替えたら?」


ナビさんの格好はデスの趣味なのか、薄手の白いワンピースのみである。


「クロエ、着替えを用意してやれ」


「畏まりました、ナビ様こちらへ」


クロエはナビさんを様付けなんだな。


数分後、着替えを済ませたナビさんとクロエが戻って来たが、あー、これはツッコまずにはいられないな。


〈ただいま戻りました、マスター〉


「うん、おかえり、で聞きたい事があるんだけど、なんでメイド服なの」


「ご説明いたしましょう!」


クロエが前に出る、なんでこんなにテンション高いの?


「聞けばナビ様は、明様がこの世界に下り立ってから仕えていたとか」


うん、仕えていたが正しいか分からないが、何せスキルだしな。


「そんなナビ様が着るものにメイド服以上の物はありません!」


「力説している所悪いけど、まったく分からん」


〈マスター〉


「うん?」


ナビさんの方を向くと、くるりと回って見せた。


〈どうでしょう?似合いますか?〉


「無表情じゃなけりゃな」


〈……解せません〉


やっぱりナビさんはナビさんでした。



「もういいや、とりあえずもういい、問題は……」


頭を抑えながらミーアの方を見る。


「ミーアさん?その格好は何かな?」


「はい、明様メイド服でございます」


「お前もか」


クロエにナビさんを頼んだ時、ちゃっかり着いていってたのは見えていたがやっぱりか。


「まぁ、いいそれももういい、が、村長はいいのか?」


「………」


「村長?」


「………」


「やばい!息してないぞ!」


「ぎゃー、心臓マッサージ!」


「あぁ、お爺様、ゆっくりお休みください」


「身内が一番諦めるの早い!?」



何とか村長の蘇生を試みる。


「ゴホァ!」


「良かった何とか戻って来た」


「おぉ、天使が、天使が下りましたじゃ」


「大丈夫だ、そんな奴いても俺が斬り倒す」


「お爺様大丈夫ですか?」


「お、おぉ、天使……」


「天使って自分のミーアの事かよ!?」


「そしてまた息を引き取った!?」


「いい加減にしろ!じじい!」


拳で村長の胸を殴打する。


「ゴホァ!」


大丈夫、歴とした蘇生術の一つだ、他意はない。



「いや、いや、ご迷惑をお掛けしました」


「あぁ、本当にな」


「お爺様が無事で何よりです」


「お前諦めてたろ、それで村長、あんたの孫はついてくる気みたいだけどいいのか?」


「はい、かわいい孫には旅をさせろと言いますし」


「微妙に違う気がするが」


「しかし、条件があります」


「嫌な予感がするが聞こう」


「週に一度帰って来て貰いたいのです」


「やっぱりか、それは無理だ、幾らなんでもそんな余裕ないだろ」


「では、だめですじゃ」


「そうですか、では仕方ありませんね」


お?以外とミーアはすんなり諦めるのか?そうか、クロエみたいになっていたのは一時的なものだったんだな、さすがにあんなの大量に居たら堪らないからな、当然か。


「お爺様、お命頂戴!」


「何でそうなる!?」


「障害を排除してでも貫きたいものがあるのです!例えそれが身内であっても!」


「かっこいいなおい、でも、そこまでのものじゃないからね?」


「くっくっく、お主にできるかな?」


「じいさんもかっこいいな」


そしてじいさん強!ミーアの割りと本気の拳を避けてる!?


〈村長はミーアの武術の師でもあるそうです〉


「あー、ミーアの戦い方ってなんかの拳法じみてるなと思ったけど、そうだったのか」


「それより、明!止めなさいよ」


「明様、ここはお任せください」


クロエが前に出る、クロエもそれなりに強いしこれで止まるだろう。


「ミーア、力添えします」


「ありがとうございます、クロエ先輩!」


違った、止まるのは村長の心臓の方だった。


「いつの間に先輩、後輩の関係に……」


〈先ほど、着替えの際に〉


「そんな短時間で、あそこまで連携のできる往年のダブルスみたいに成るものなの?」


〈それほどまでに深い絆が芽生えたのでしょう〉


「明くん、これどうするの?」


「もうほっとこう、俺達は先に引っ越しを手伝おう」


「いいの本当に?」


「なら、あの中に入りたいか鈴?」


現在三人は、拳と暗器の応酬をしている。


「うん、ほっとこう」


さあ、引っ越し、引っ越し。


ナ〈改めてナビです……〉


す「わぁ、驚くほどテンション低い」


み「そこはかとなく不満そうだね」


ナ〈私も、私もキラキラネームが欲しかった!〉


す「以上、ナビさんの魂の叫びでした」


み「では、また次回!」

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