2.帰る準備、荷物的意味で。
クレープと夕食を食べ終わり今後について話し合う。
「二日後、ベアトリスに戻る」
「いや、これ話し合いじゃなくて報告だよね」
「話し合いさ、意見があれば聞くぞ?」
「はい!もっとゆっくりしたい!」
「却下」
「今、聞くって言ったじゃん!」
「聞いただろ?」
「ぐぬぬぬ」
鈴で遊んでいると、エレナ姫がおずおずと手をあげる。
「私もできればもう少しゆっくりしたいです、久しぶりにカティと話がゆっくり話がしたいですし……」
「それは平気だ、他に意見は?」
「え?」
「無いなら明日は帰国の準備だ、各自しっかり休むように、では、解散!」
有無を言わさず自室に戻る俺を呆然とエレナ姫達は見送る。
「えっと、どうゆう事でしょう?」
「うーん、あまり考えない方がいいと思うよエレナちゃん」
「そうだね、ほら、もう鎖国じゃなくなったからいつでも会えるよって意味だよ多分」
「本当にそう思いますか?」
「………」
「………」
「……澪さん、鈴さん、どうして目をそらすんですか!?司さん、敦さんも!」
「さ、さぁ僕らも休もうか?」
「う、うむ、そうだな?明日は忙しいしな?」
「う、うん、おやすみ!」
「じゃ、じゃあまた明日ね?エレナちゃん」
「皆さん待ってください!」
エレナ姫の悲痛な叫びは夜の闇に消えるのであった。
明くる日の朝、俺とエレナ姫は大聖堂に来ていた。
「と言うわけで明日帰国する事になった」
「そうですか、大したおもてなしもできず申し訳ありません……」
クリスティア王女が頭を下げる。
「別に構わないさ、それより結界は大丈夫なのか?」
「はい、非常用の魔宝石がありましたので直ぐに対応出来ました」
「そうか、なら大丈夫そうだな、では準備があるのでこれで失礼する」
「はい、いろいろありがとうございました」
エレナ姫と大聖堂を後にする、あとは手はず道理いくはずだ。
大聖堂から出たあと市場に来ていた、もちろん出発の準備のために。
「って普通買い物するんじゃないの?」
「そうだな」
「あたし達、今何してる?」
「売り子だな」
そう、俺達は偽装のために持って来た物を売っている。
「準備しないでいいの?」
「クロエ達メイド部隊が準備してくれている、俺達は忙しいメイド達の代わりに荷物を軽くするため販売だ」
「普通逆じゃない?」
「俺達素人よりもプロに任せた方がいいんだよ」
そう、プロにしか準備できない荷物もあるのだ。
「それにしても、これ何だ?」
「ブレスレットかな?」
「鈴、これはブレスレットじゃなくてサークレットだよ」
「平たい話、冠か」
「一応アクセサリーになるのかな?」
今目の前にあるのは、サークレットやブレスレット、ミサンガっぽいもの等である。
「にしても品質が良すぎないか?回りはもっと性能の低い物しか売ってないぞ」
明らかに屋台で売る物ではなく、ちゃんとした店で売るべきレベルである、俺が多少の入れ知恵をしたとはいえ、恐るべしメイド技術。
「確かに、これなんて回復の付与が付いてるよ?」
「こんなの売ってて大丈夫なのか?」
「それは問題ないと思います、一応カティには話していますので」
「そうか、てゆーか一国のお姫様が売り子をやってる時点で問題か」
「一度でいいのでお店で働いてみたかったのです」
エレナ姫はエプロン姿ではにかんでいる、なんて言うか……
「似合ってるな?」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、最初に見たお姫様の格好より似合ってる」
「……それは少し複雑です」
苦笑いを浮かべるエレナ姫、そこにナビさんから報告が来る。
〈マスターどうやら招かれざる客のようです〉
ん?イベントか?さっきフラグ立ってたからな。
〈どうやら一昨日からのこのお店の品揃えを聞いた貴族が来たようです〉
確実に面倒事だな。
〈ハイ、目的は恐らく商品の不当買収かと〉
了解、暇だし少し相手してやるか。
イベントはいい物も悪い物も好きだからな、悪い物でも回り回っていい事になるからな。
「工藤様?どうしました?」
「イベント発生だ」
「イベント?」
「とりあえず、下がっててくれ」
エレナ姫を下がらせしばらく待つと、いかにも貴族と言った風貌の男と護衛らしき人物が店の前に来る。
「ここか?怪しげな物を売っていると言う店は?」
「怪しげな物とは失礼な、ちゃんとした装飾品を売っているつもりだが?」
「ふん、この店は品質のよすぎる物を売っているらしいな?」
「品質が良くって何が悪い?」
「良すぎるのが問題なのだよ、どこで手に入れた?」
「うちのものが作ったんだが?」
「嘘をつくな!こんなもの普通の平民風情が作れるはずなかろう!何処から盗んだ!」
なるほど、やはりいちゃもんを付けたいらしい。
「ちゃんとした許可を教会にとって売っているんだが?」
「ふん、お前ら平民が許可を取れるわけ無いだろう」
「なら、俺の後ろに居る奴に聞いてみろ」
と、エレナ姫を前に出す、貴族ならこれで黙るはずだろう。
「ん~?何だ?この小汚い娘は」
「こ、小汚い!?」
「くくく……」
「笑わないで下さい、工藤様!」
「とにかく、ここの商品はワタシが頂く」
さて、どうやらこのイベントも終了らしい。
「なら、あんたの後ろに居る人に確認を取ってくれ」
「うしろ?」
貴族が振り替える先には、騒ぎを聞き付けてかカトリア王女が居た。
「一体何の騒ぎですか!?」
「おぉ、これはカトリア様、今不届きものに鉄槌を下すところでして……」
「不届きものとは、私の友人達の事ですか?」
「……ゆ、友人?」
「えぇ、そうです、そこに居る……」
「小汚い娘だな」
「……か、かわいい娘は、私の友人エレナ姫です!」
「カティお願いですから無理にかわいいを強調しないで下さい、惨めになります」
「ご、ごめんなさい」
「こ、この方がベアトリス女王国の王女様……」
「見えないな」
「工藤様?」
「はい、はい、余計な事は言わず黙ってるよ」
エレナ姫からのにらみを受けしばし口を紡ぐ。
「ハァ、とにかくこの方々は許可を取って商売をしています」
「し、しかし、この様な物をここで売られては付近の店に迷惑ですぞ」
「確かに、余りにも品質が違い過ぎますね……」
「そ、そうでしょう、この者達は市場を荒らしています!」
「困りました……」
ふむ、これは使えるな。
「ちょっといいか?」
「な、なんですかな?」
「確かに品質が良すぎる物を売っているかもしれない、だがこれはメイドが作った物だぞ?」
「メ、メイドが!?」
「多少の鍛冶スキルはあるが後は普通のメイドだ、そんな物に劣る物しか作れないのが問題なんだよ」
「うむむ……」
「そこでだ、うちの技術を教えようじゃないか」
「工藤さん、宜しいのですか?」
「もちろんだ、こういった技術が発展することでゆくゆくは魔物や魔王の脅威をはねのける力になるからな」
カトリア王女の言葉に爽やかな笑みを浮かべ答える。
「何だろう、爽やかな笑顔がこれ以上無いほど似合わない」
「鈴さん、私あの顔の下に悪魔の笑顔が見えるんですけど……」
「うん、エレナちゃんあたしにも見える」
「カトリア王女様に注意して上げた方がいいよエレナちゃん」
「は、はい澪さん」
澪や鈴に促されカトリア王女に声を掛けようとするエレナ姫、だが、もう遅い。
「カ、カティお話が……」
「す、素晴らしいです!なんと慈悲深いのでしょう!!」
「技術を市場に流してくれるのなら、まぁ良いだろう」
「では、後程メイド達の技術まとめた物をお渡ししよう、それで今回の騒動を幕としようじゃないか?」
「はい、よろしいですね、ウレイト卿」
「はい、カトリア様」
今更ながらに貴族の名前が判明。
「ところでウレイト卿?技術が悪用されないように取り締まりをお願いしたいのですが?」
「おぉ、そんな大役を宜しいのですか?工藤様」
「えぇ、もちろんです、ただ、もしも私が困ったら手を貸していただければ」
「もちろんですとも!」
よし、これで言質は取った。
「明が、私だって、鳥肌が立つ」
「工藤様、確実に何かの準備してますね」
「明くんが下手に出てるからね」
カトリア王女とウレイト卿と今後について話し合っている後ろで、エレナ姫達が俺の様子を話し合う、あながち間違いじゃないから文句は言えないな。
「さて、では、私はそろそろ失礼します工藤さん、エレナを今後もよろしくお願いいたしますね?」
「あ、あの、カティあまりそうゆう事は……」
「もちろんだカトリア王女、任せてくれ」
「く、工藤様!?」
「ふふふ、じゃあねエレナ」
軽く手を降りながらカトリア王女が帰って行く、本当にエレナ姫と仲が良いんだな。
「では、わたくしも失礼します、工藤様」
「あぁ、ウレイト卿、後程製造技術について纏めた物をお渡しに行きます」
ウレイト卿も去り、俺達は販売に戻る。
「にしても明が普通に話してたのは以外ね、あの貴族みたいな人嫌いだと思ってた」
「日野みたいに態度だけの役立たずは嫌いだよ、ウレイト卿みたいな役に立ちそうな奴は別だな」
「なるほど、基準は役に立つかなのね」
「さぁ、とっとと売ってしまおう」
その後は何事もなく、夕方には全ての在庫を売る事ができた。
売る物を売り切り、宿屋でくつろいでいるとクロエ達が準備を終え帰って来る。
「ご苦労様、準備は出来たか?」
「ハイ、抜かりなく」
「そうか、くれぐれも気を付けて扱うように」
「畏まりました」
「俺はこれからウレイト卿に製造技術を書き留めた物を渡してくる、少々時間が掛かると思うので先に休んでてくれ」
「ハイ、皆様にも伝えておきます」
さて、さっそくウレイト卿にも働いてもらおうか。
す「旅の準備ってこんな感じだっけ?」
み「私達結局何も買ったりしてないしね」
す「……澪、今気づいたけど、メイドにしか準備できない物って何?」
み「え?あ、確かに」
す「……まさか」
み「まさか?」
ナ〈それ以上は次回をお楽しみに、では、また次回!〉




