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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第一章 聖女の証

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第五話


 翌朝、早速ユリウス先生を監視するため私はいつもより早起きをした。

 これまでもほぼ毎日のように先生の元を訪れていた私だけれど、潔白を証明できるまでは直接会うのを我慢して、少し離れた場所からその行動を見守ろうと決めたのだ。


 といっても流石に先生たちの寮の中までは入れないので、先生が寮から出てくるところから監視スタート。

 それから授業合間の休み時間、ランチタイムと、まるで小説に出てくる探偵さながらその姿を追っているけれど、今のところ先生の様子におかしなところはない。――ただ。


(遠くから見ていても、やっぱりカッコいいなぁ……)


 ひとつひとつの仕草に思わず見惚れてしまって、つい本来の目的を忘れそうになってしまうのが少々困りものだった。


 そしてあっという間に放課後になった。

 空に一番星が輝き始めた頃、寮へと帰る先生を渡り廊下の柱の影からじっと見つめていると。


「一体なんの真似ですか、ミス・クローチェ」

「え!?」


 ぴたり足を止めたかと思うといきなり名指しされてびっくりする。

 焦って言い訳を考えていると、先生は呆れたように大きなため息を吐きながらこちらを振り返った。


「昨日お話ししたこと、ちゃんと理解していますか?」

「し、しています!」


 でもそれとこれとは話が違う。

 先生の昨日の言葉はずっと胸につかえているけれど、今は私の気持ちどころではないのだ。


「朝からこそこそと。はっきり言って目障りなのですが」

「がーーん!」


 酷過ぎる物言いに思わずそんな声が出てしまった。涙もちょっとだけ出た。


(というか、朝からバレてた……?)


 そうとわかったら急に恥ずかしくなってきて、顔の熱が一気に上がった。


「で、でも、これは先生のためでもあるんです!」

「僕の?」


 先生が訝しげに眉を寄せて、しまったと慌てて口を噤む。

「先生、皆から誘拐犯だと疑われています!」 なんて言えるわけがない。

 先生だって流石にショックを受けるに決まっている。


「――き、昨日先生に言われて、私自分の気持ちを確かめたくて……。だから、気持ちがはっきりするまでは、目障りかもしれませんが、見つめるのだけは許してください!」


 一か八か、必死な思いで頭を下げる。

 すると、


「はぁ……もう勝手にしてください」


そう呆れたふうに言って先生はくるりと背を向けた。


「はい! ありがとうございます!」


 心の中でやった! と歓声を上げる。

 これで本人公認で監視が出来る……!


「……そういえば、昨日言っていた痣は消えましたか?」

「え?」


 こちらに背を向けたまま、先生は続けた。


「言っていたではないですか。聖女の証がどうとか」

「あ!」


 痣のことなんてすっかり忘れていた私は、襟を少し引っ張って胸元を見下ろした。

 聖女の証である薔薇の痣は変わらずそこにあった。――けれど。


「あ、消えたみたいです。ありがとうございます。もう大丈夫です!」


 先生がこのことを覚えていてくれて、気にしてもらえただけで嬉しくて、だからこれ以上変な心配を掛けたくはなかった。


「それなら良かったです。それでは、また休み明けに」

「はい! さようなら」


 挨拶をしながら気が付いた。

 そうだ。明日は休日だ。



  ⚔⚔⚔



「え!? もうバレちゃったの?」


 部屋に戻ってから今あったことを話すと、アンナは声を上げて驚いた。


「大丈夫! なんとか誤魔化せたから」

「そ、そう……でも、明日はどうするの?」

「明日は先生が外出されたらすぐにわかるように、ここからなるべく見張っていようかなって」


 言いながら私はふたつのベッドの間にある窓から外を見下ろした。

 幸い、三階のこの部屋の窓から正門へと続く道が見えるので誰かが学園から出ようとすればすぐにわかる。


「も、もし、先生が外出されたら?」

「勿論、ついて行くつもり」


 即答するとアンナは瞳を大きくして、それから思い切るようにして口を開いた。


「もしそうなったら、私も一緒に行くわ」

「え?」

「だって、レティが心配だもの」

「アンナ……ありがとう」


 そう言って笑い合っているときだった。

 ふと視界の端に映ったものに、私は大きく目を見張った。


「アンナ、早速なんだけど……」

「え?」

「ユリウス先生、外出されるみたい」

「え!?」


 暗がりで、しかも帽子を被っているけれど私にはわかった。

 あの背筋のピンと伸びた綺麗な歩き方はクラウスに……いや、ユリウス先生に間違いない。



  ⚔⚔⚔



「なんで俺まで……」

「元はと言えばラウルがレティを焚き付けたんでしょ!」


 そんな幼馴染ふたりのこそこそした会話が背後から聞こえてくる。


 ――あの後急いで支度をして寮をこっそりと出てきた私たち。

 その途中、知らない女の子(多分、下級生)と楽しそうにお喋りしているラウルを見つけ、アンナが無理やり引っ張って連れてきたのだ。

 いつもならこの時間学園の門は閉まっているはずだけれど、先生が出て行った後だからか、それとも休日の前夜だからか簡単に開いて助かった。


 そしてユリウス先生はというと、今は週末で賑わう大通りから一本入った静かな路地をひとり歩いていて、私たちはそれを尾行していた。

 これでバレたら流石に怒られるのは確実なので、距離は大分開けている。


(先生、どこに向かっているんだろう)


 先生は大人だから、最初はバーとかお酒の飲めるお店に向かっているのかと思ったけれど、この路地にそんなお店はありそうにない。

 街灯も少ないし、とにかく薄暗くてなかなかに不気味な雰囲気だ。

 

「そういや、確かこの辺りだったような……」

「え?」


 ラウルの呟きが聞こえて振り返ると、彼は驚くほど硬い表情をしていた。


「例の誘拐のあった場所だよ。確かこの辺の通りだったはずだ」

「!?」


 アンナが息を呑むのがわかって、丁度そのときだった。


「 みいつけた 」


 そんな異質な声が間近に聞こえてゾワリと全身に怖気が走った。 



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