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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第四章 聖女の真実

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第四十三話


「その剣でどうやってレティを救うつもりだよ!」


 飛んできた怒声はラウルのものだった。

 アンナの声がそれに続く。


「そうよ! だって聖剣は聖女を貫くためにあるんでしょう!? レティに何かあったらいくら先生だって、クラウスさんだって許さないんだから!」


 彼は顔を上げ、まっすぐに私を見つめた。


「私を信じてください」


 その言葉に私は頷いていた。

 自分の……レティシアの意思とは関係なく。


「 貴方を信じます 」


 それはおそらく、セラスティアの言葉。


 次の瞬間、私の身体は糸が切れたように倒れ込んだ。

 でもそんな私を彼の腕が優しく支えてくれる。

 そして仰向けに抱えられた私の胸元に、鋭い剣先があてがわれた。


「やめろ!」

「いやあ!!」


 皆の悲鳴を耳にしながら私は静かに目を閉じる。


「呪いは今世で絶ち切ります」


 あの夢と同じ衝撃と共に、瞼の裏に薔薇色の光を見た気がした。




「終わりましたよ」

「――え?」


 ぱっと目を開けると、彼が安堵するような優しい表情で私を見下ろしていた。

 確かに衝撃のあった胸元を見るが、そこにはもう剣は刺さっていなかった。

 恐る恐る触れてみるが痛みも、傷口もない。


「これで、貴方が今世起こした奇跡の浄化は出来たはずです」

「今世起こした……?」


 私が今世起こした奇跡。

 それは、ラウルを助けた時のことだろうか。


 と、彼は私をその場に優しく寝かせてくれた。


「疲れたでしょう。少しこのまま横になっていてください」


(終わった? 本当に……?)


 あまりにあっさりと終わったせいか、なんだかピンとこない。

 皆も、呆気に取られているのだろうか。誰の声も聞こえない。


 でも何か。

 何かを忘れているような。

 言いようのない気持ちの悪い感覚。不安。


 そして気付く。

 私の腕にはまだ禍々しい茨の蔓が存在していることに。


「あ……」


 この不安を彼に伝えたくて、口を開いたそのときだった。

 風を切る音と、肉を断つような嫌な音がした。


「ぅぐ……っ」


 ――え?


 呻き声と共に彼の身体がぐらりと倒れていく。

 その向こうに、剣を構えた【彼】が立っていた。


「――くくっ、ははははは!」


 【彼】が笑う。人が変わったような大きな声で。

 それは。彼は――。


「マルセル……?」


 リュシアン様の呆けたような声が聞こえた。


「このときを待っていました。邪魔な騎士を先に排除し、今世でも聖女を葬るこのときを!」


 狂ったような笑い声を耳にしながら、私はゆっくりと起き上がり目の前に力なく倒れている身体を見下ろす。

 その背中からどす黒く広がっていくものを焦点の合わない目でただ見つめる。


「マルセル、お前、一体……」


 リュシアン様が震える声で訊ねると、彼はぴたりと笑うのを止め主の方へと首を向けた。


「私ですか? 私も昔、あなた方と同じ時を生きた転生者ですよ」

「!?」

「まぁ、私はあなた方とは違い、一市民でしたけれど。――聖女亡きあと、貴方が滅ぼした王国のね」


 リュシアン様が息を呑む。


「滅ぼした?」


 ラウルの呟きに、彼はまた笑う。


「そう。リュシアン様……いいえ、ルシアン様率いる帝国軍によって私は家族友人諸共皆殺しに遭いました。しかし貴方を恨んではいません。それもこれも全部、王国を守る存在であるはずの聖女が、私たち国民を裏切ったためですから」


 くく、と彼が肩を震わせる。


「貴方には寧ろ感謝しています、リュシアン様。前世の話を信じたというだけで、ここまで信用してくださって。お蔭でこうして易々と聖女に近づくことが出来ました。くく、いいですねぇ、その絶望した顔。貴方のその顔が見られてマルセルは大満足ですよ」


 そのとき、アンナの震える声が聞こえた。


「まさか、レティに花瓶を落としたのって」

「あぁ、私ですよ」


 あっけらかんと返されてアンナは言葉を失ったようだった。


「留学の手続きに学園を訪れた折、久しぶりにその御姿を目にしたらつい手が滑ってしまいまして。まぁ、軽い挨拶ですよ」

「てめぇ……っ」


 ラウルの低い唸り声。


「さぁて。いつもしつこく邪魔をしてくる騎士は死にました。あとは今世でも貴女を葬るだけです」

「レティ! 逃げて!!」

「ラウル様!?」


 アンナの絶叫が上がり、ラウルがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

 でも私はその場から動けなかった。


 ――彼が、ユリウス先生が、死んだ?


 目の前の現実が、まだ理解できていなかった。

 信じることが出来なかった。


「……だって先生、私まだ聞いていません。おめでとうって。お誕生日おめでとうって……私聞いてないです」


「聖女セラスティア姫。来世でまたお会いいたしましょう」


 マルセルさんが私に向かって剣を振り上げた。――そのとき。


 パンっ、という乾いた音が辺りに響いた。



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