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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第一章 聖女の証

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第三話


「セラスティアにも同じものがあったんです!」


 そう、この薔薇の痣がセラスティアが聖女である証だった。

 この証を持って生まれてきたから、セラスティアは聖女としての運命を辿ったのだ。

 これを見ればきっと、先生も思い出してくれるに違いない……!


 ――そう、思ったのに。


 先生は眉間を押さえ深く溜息を吐いた。


「何かと思えば……ミス・クローチェ。早く仕舞ってください。淑女のすることではありませんよ」

「え? あ、ごめんなさい……」


 慌てて胸元を隠す。

 下着が少しだけ見えていたことに気付いて今更ながら頬が熱くなった。


「まさかとは思いますが、他の方の前でも同じことを?」

「し、してません!」


 ぶんぶんと思いきり首を振る。


「この話は、先生にしか……」

「その方が良いでしょうね」


 その呆れかえったような冷たい声音に私は首を竦める。


「あの……これを見ても、何も思い出しませんか?」

「何も」

「そう、ですか……」


 この聖女の証を見たらきっと思い出してくれると思ったのに。


(思い出すどころか、はしたない子だと思われた……?)


 期待していた分ショックで、丁度痣のあるあたりがちくちくと痛くて、昨夜の夢のように私は項垂れた。


「何かにかぶれたのでは? きっとすぐに消えますよ」

「……」

「ミス・クローチェ?」

「……先生は、私のこと変な子だって思ってますよね」


 ついそんな言葉が口をついて出てしまった。

 でもすぐに後悔する。

 これで肯定されてしまったら――。


 ふぅ、と先生は短く息を吐いた。


「物好きもいたものだとは思っていますが」

「え?」


 ゆっくりと顔を上げる。


「自分で言うのもなんですが、こんな歳の離れた堅物よりも、もっと貴女に相応しい相手がいるでしょうに」

「いません!」

 

 きっぱりと否定すると先生は少し驚いたようだった。


「先生以外の男の人になんて全く興味ありません!」

「……確か、貴方には許婚がいたはずでは? ファヴィーノ家の」

「あれは! あくまで親が勝手に決めたことで、ラウルはただの幼馴染で友だちです!」


 強く言い切る。

 そこは勘違いされたくない。


「では、クラウスは」

「え?」


 先生の口からその名が出るのは初めてな気がして、思わずおかしな声が出てしまった。

 

「貴女はクラウスという騎士に憧れを持っていて、彼に似ているらしい僕のことも想っているのだと勘違いしているのではないですか?」

「そ、そんなことは……!」


 否定しようとして、なぜかそのあとが続かなくなってしまった。

 クラウスとユリウス先生を別の男の人として考えたことなど、今までなかったから。


(私はクラウスもユリウス先生も、ふたりとも大好きで……)


 そんな私を見て、先生は続けた。


「何度も言いますが僕はクラウスではありません。その生まれ変わりでもありません。残念ながら、僕は貴女の想い人ではないのですよ」


 淡々と紡がれる言葉に私は大きく目を見開いていく。

 と、先生は教科書を手に立ち上がった。 


「さぁ、そろそろ始業時間ですよ。教室へ」

「私は」


 先生の言葉を遮って私は言う。


「私は、セラスティアの想いをクラウスに届けたくて」


 ――クラウスの生まれ変わりであるユリウス先生に、その切な想いを伝えたくて……。


 薔薇の痣のある場所を強く握りしめていると、先生がもう一度息を吐いた。


「セラスティアではなく、貴女自身の気持ちをもっとよく考えてみてください、ミス・クローチェ」


 初めて聞いたユリウス先生の優しい声音は、まるで子供をなだめるかのようで。


「人生は一度きりなのですから」


 その言葉は、私の胸に重くのしかかった。



  ⚔⚔⚔



 人生は一度きり。

 セラスティアは……前世での私は、その一度きりの人生を王国のために捧げた。

 だから今世では、自分のために、自分の気持ちに正直にいたいと思った。でも。


 ――私、レティシアの気持ちは……?


「レティ?」

「え?」


 アンナが隣から私の顔を覗き込んでいた。


「授業終わったわよ?」


 言われて、教室の窓から見える空がいつの間にか夕焼け色に染まっていることに気付く。

 思い出したようにクラスメイトたちの話し声が耳に入ってきて。


「今日ずっと上の空だけど、何かあった?」

「あ……えっと」


 友人が心配してくれている。

 でも前世の話をしていないアンナに、今感じているこのモヤモヤをどう説明していいかわからない。


(今更、自分の気持ちがわからなくなったなんて……)

 

「なんだ? とうとうすっぱり振られたか?」


 軽い笑みを浮かべ私たちの前に現れたのはラウルだ。

 私はそんな彼を睨みつける。

 

「別に、振られてなんていないもの」

「どうせ全然相手にされてないんだろ。いい加減諦めたらどうだ? というか、やめとけあんな男」


 カチンときて、私は視線を逸らし机の上に出ていた教科書や筆記用具を片づけ始めた。

 

「ラウルには関係ないでしょう」

「俺はな、忠告してやってるんだよ」


 ラウルの声音から小馬鹿にしたような雰囲気が消えて、私は顔を上げた。


「忠告?」

「知ってるか? アイツの噂」

「ラウル!」


 隣でアンナが慌てたような声を上げた。

 ラウルが珍しく神妙な顔をしていて。


「例の誘拐事件あるだろ。アイツがその犯人なんじゃないかって噂になってんだよ」



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