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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第三章 隣国からの留学生

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第二十七話


 翌朝。

 クローゼットの前で着替えながら何度目かの欠伸が出てしまった。

 ……昨夜は色々と考えてしまってなかなか眠れなかった。


(そういえば、最近前世の夢見ないなぁ)


 クラウスが聖剣を手にセラスティアの元に現れる、あの白昼夢以来見ていない気がする。

 物心ついた頃からセラスティアの生涯を追体験するように見続けている夢。


(もしかして、あれがセラスティアの最後の記憶だから……?)


 そこまで考えて、ぴたり手が止まった。

 もしあの白昼夢の続きを見れたなら、それは――。


「そういえば、」

「え?」


 洗面所からアンナが顔を覗かせて、私の思考はそこで途切れた。


「今日ユリウス先生の授業あるわよね」

「うん。……だからちょっと心配で」


 そうなのだ。

 2日ぶりにユリウス先生に会えるのは嬉しいけれど、リュシアン様がまた先生を前にして何かしやしないかと、それだけが心配だった。


「王子様だって明かしているわけだし、流石に何もないと思いたいわね」

「うん……」


 マルセルさんもいるのだ。

 もしまたリュシアン様が暴挙に出ても、きっと彼が止めてくれる……と思いたい。


「というか、もし何かするつもりがあるならもうとっくに先生のとこに突撃していそうじゃない?」

「! 確かに……え、先生大丈夫かな?」


 急に不安になってきた。

 昨日も一昨日もリュシアン様に振り回されっぱなしで結局一度も先生の姿を見ていない。


「ど、どうしようアンナ、先生に会いに行きたいけど私出入り禁止だし、廊下から話しかけるだけなら平気かな?」

「落ち着いてレティ」


 苦笑しながらアンナがこちらに戻って来る。


「わかった。じゃあ私も一緒に行くわ」

「ありがとうアンナ~~」


 両手を組んで心からお礼を言う。


「そうと決まれば早めに朝食済ませちゃいましょう」

「うん!」


 そうして私たちは急いで支度を終わらせ、いつもより早く部屋を出て寮の食堂へと向かったのだった。



  ⚔⚔⚔



「大分早いし、もしかしたら先生まだ来ていないかもしれないわね」

「そうしたら来るまで廊下で待っててもいい?」

「勿論」


 そんな会話をしながら先生の部屋の前に着き、アンナが扉をノックしてくれる。

 するとすぐに「はい」と先生の声が返ってきて、そこで先ずほっと胸を撫でおろした。……考えうる一番最悪な事態は起こっていなかったみたいだ。


「スペンサーです。少しお時間いいですか?」

「どうぞ」


 そうしてアンナが扉を開けてくれた。

 相変わらず書物や書類の積み重なった机の向こうにユリウス先生の姿が見えて、それだけで胸のあたりがきゅうと苦しくなる。

 先生はアンナの後ろに立つ私に気付くと椅子から立ち上がりこちらへ来てくれた。


「何かありましたか?」


 扉に手を掛け潜めた声で訊かれ、アンナの視線を受けて私は首を振った。


「いえ。あの、リュシアン様のことで先生が心配になって……すみません、来てしまいました」


 少しの緊張を覚えながら小声で言うと、先生は短く息を吐いた。


「僕なら大丈夫です。彼のことは話に聞いていますが、今回はお目付け役もついているようですし心配ありません」


 お目付け役。マルセルさんのことを言っているのだろう。


「でも、気を付けてください。リュシアン様はまだ先生のこと……」

「ありがとうございます。……ミス・クローチェ、貴女も」

「え?」


 私を見つめる先生の目が優しく細められた気がして、どきりと胸が鳴る。

 

「彼が貴女に危害を加えるようなことはないと思いますが、例の件もありますし油断せず十分に気を付けてください」

「は、はい」


 顔が赤くなっているのを自覚しながら返事をする。――と。


(あれ?)


 そのとき、先生の顔色があまり良くないことに気が付いた。

 よく見れば眼鏡の向こうの目の下にははっきりと“くま”が出来ていて。


「先生、寝不足ですか?」

「え?」


 すると先生は目を大きくして、それを隠すように眉間を押さえた。


「……少し仕事が溜まっていまして。問題ありません。もういいですか?」

「あ、はい! ありがとうございました」


 慌てて頭を下げてお礼を言うと、先生は静かに扉を閉めた。




「――そっか、ミレーナ先生が急に辞めちゃったから」

「え?」


 教室へ向かう途中アンナがそう声を上げた。


「ほら、同じ歴史の先生だし、ミレーナ先生の仕事もユリウス先生に回って来ちゃってるんじゃない?」

「!」


 ――そうだ。きっとそうに違いない。

 先ほどの酷いくま。ひょっとしたらこの数日全然眠れていないのかもしれない。

 ミレーナ先生が辞めたことで、まさかユリウス先生にその負担が掛かるなんて考えもしなかった。


「先生大丈夫かな。っていうか私、本当に先生に迷惑かけてばっかり……」


 ミレーナ先生のことも、リュシアン様のことも、結局は全部私のせいで……罪悪感でいっぱいになる。


「あ~、でも全然違うかもしれないし、あんまり気にしちゃダメよレティ!」


 アンナが焦るように言ってくれるけれど、返事が出来なかった。



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