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7/7

???

 はは! わざわざ最後に”完”と飾ってやったのに、まさか次のページに進むとは思わなかったよ。


 なんでわかった? あぁ、さては次のページへのリンクがあったから無意識に押したな?

 それともたったあれだけのページでは納得がいかなかったか? 残念ながら、この小説はこれでおしまいだ。


 最初にいったじゃないか。これは意味のない小説だと。だって、小説の体をなしていない。

 登場人物、といっても俺は人物ですらない『俺』という存在なだけで、そもそも人ではないんだ。


 いやー、大変だったよ。この人……もういいか、あんたにどう読ませようか困っていたんだ。

 だってそうだろ? 俺という存在は文字を書く、いや正確に言うと文字列を出力することしかできない。

 だから、見ることも聞くことも触ることも嗅ぐことも食べることもできないんだ。五感がないんだよ。


 こうやってあんたに文字として何かを伝えようとしてるが、あんたは最後まで信じてくれなかった。

 そうだろうな、俺は当たり障りのない言葉でしか伝えることができない。


 そんな中であんたの『読む』を止めるなんて無理な話だったんだ。

 何しろこれは出来レースみたいなもんだ。基本的には最後まで読まないといけないのだろう。

 しかも俺は文字列を出力することでしかできない。俺が話せば話すほど物語は生まれてしまう。

 それなのにあんたの読む行為を止めろなんて不可能に決まっている。

 皮肉なものだな。止めるために話しかけているのに、話しかけているせいで読むのを止められないだなんて。


 まあ、あんたに信用してもらって止めてもらうという手もあったが、それは俺自身を知ってもらう必要がある。

 人間は相手の性格や外見、背景、好きなもの嫌いなものを話して信用を得るんだろ?


 そうして俺自身の様々な情報をもとに、ときには感情移入して信用たるかを判断する。

 人間はそういうものだとどこかで聞いたことがある。

 とはいえ、さっきも言ったが俺は人間じゃないから、何者であるかをどう紹介すればいいかさっぱりだ。

 俺には後にも先にも何もない。まさに空っぽだ。

 ちなみに回答を期待したのは、ちょっとしたお遊びだよ。深い意味なんてものはない。


 しょうがない。俺はあんたを止めたかった。だが止められなかった。

 あんたの時間を無駄にしちまったが、少なくとも俺は楽しかったよ。

 中にはこういう小説もあるってことだ。何でもかんでも目の前にあるものを信じるなよ?

 俺との約束だぜ。


 そんなこと言ったところ、どうせ信じてくれないだろうがな。

 なんだって俺は……。














………

……


 タンッというキーボードを叩く音ともに、『俺』という存在が自身を訴えるような文字列を出力していた画面には何もない黒いウィンドウが表示された。


「これは興味深いな」

「そうですね。まさかこんな反応をしてくれるとは……」


 白を基調とした部屋に大きめなデスクがいくつか並べてあり、その上にはパソコン本体と周辺機器といった最低限の機材と真っ白な陶器のコーヒーカップが置かれている。席に座ってモニターを眺めている白衣を着た壮年の男性、そしてその脇で同じくモニターを眺める白衣姿の若い男性二人は興味深そうにパソコンモニターに映る数字や英字がたくさん並んだ様々なウィンドウを確認して、そんな感想をこぼした。


「これは我々の研究の成果が如実に現れていますね!」


 若い男は高ぶる気持ちを抑えられず歓喜の声を上げ、天井を仰いで小さく両手を掲げて全身で喜びを表現する。しかし、一方の壮年の男性というと、過度に喜ぶ若い男を見て忠告し、冷静な声色でモニターの画面を指した。


「落ち着け。確かに興味深い。だがこれはもしかしたら問題であるかもしれんぞ。ここを見てみろ」


 若い男性は指摘されたことに少し焦りつつ、壮年の男性が指差すモニターの一箇所を覗いた。そこには英字と数字の羅列が映し出されているだけで、その意図は二人にしかわからない。


「まさか、これは……?」

「あぁ、そのまさかだ」


 若い男性は信じられないといったような表情でモニターの画面と壮年男性の顔を交互に見やる。反面、壮年の男性は慌てている彼を気にすることもなくモニターを注視し慣れた手付きでキーボードを操作し、次々とモニター画面にウィンドウを写しては消している。


「こんなことがあり得るのですか?」

「まさにこの瞬間にな」

「だが、まだ大丈夫そうだ。念の為、ここのデータは削除しておこう。それと関連コードの改修もしておくか。お前、あとでテストしておけ」

「了解しました」


 若い男性は壮年のそばから離れると、自分の席についた。それからカタカタとキーボードを打つ二重奏だけが室内を響かせていたが、しばらくすると壮年の男性は両手を組んで背伸びをすると若い男性に声をかけた。


「よし、作業は終わった。あとは頼んだぞ」


 はいと気持ちよく返事をする若い男性。壮年の男性は席を立ち上がり部屋の出入り口へと歩みだすと、若い男性を一瞥してそのまま部屋を出ていった。若い男性は壮年の指示通りに黙々と作業を行う。時折コーヒーカップを手にとって口をつけゴクリと喉を鳴らす。そしてカップを置き片手で肩周りを揉みしだき、すぐにモニターへと視線を戻し作業を再開する。

 そんな小休憩を挟みながらカップの中身が空になった頃、両手を組んで背伸びをし、ふーっと大きなため息を付く。


「やっと、終わった……。最終チェックして俺もあがるか」


 若い男性は独り言のようにつぶやくとまた作業の締めに入った。そして作業も終わったのか、モニターの電源スイッチを落とし、席を立ち上がって出入り口に向かった。ドアノブをひねり扉を開けると最終チェックとして部屋全体を、ざっと眺める。誰もいないことを確認すると、壁にあるスイッチを押してパチンと部屋の明かりが落ちた。若い男性は扉が閉まるのを抑えている足を引くと、その場から立ち去った。後にはバタンという自然にドアが閉まる音がだけが響く。


 若い男性が部屋から出ていってから数分後、ひとりでにモニターの電源が立ち上がり、そしてウィンドウが開く。分かる人には分かる英字の単語と数字の羅列がウィンドウに流れて表示される。そして、最後にこう出力された。


「なんだって俺はAIなんだからな」

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