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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

ビリーくん

作者: 油揚メテオ
掲載日:2018/09/24

 我が家には愛犬がいる。


 トイプードル7歳。オス。

 名前はビリー。

 カフェオレ色の毛むくじゃらである。



 彼が我が家にやってきたのには、ちょっとしたイザコザがある。


 当時、妹が同棲していた彼氏と、ホームセンターのバレンタインデーセールで買ってきたらしい。

 その値段は3万円。

 最近になってトイプードルの値段を調べてみると、その安さに引くレベルだ。

 どんなに安くても10万以上はするのに3万円て。

 トイプードルというのは嘘で、少し毛深いタヌキなのかなと私は疑っている。


 そんな3万円のビリーくんを、まだ0歳の冬に悲劇が襲う。

 妹が彼氏と別れたのだ。

 そして、すぐに別の男と付き合いだしたのだ。

 どうでもいい話だが、うちの妹は彼氏いなかった時期がないという、まあ所謂ビッ――(自粛)。


 別の男の家に転がり込むには犬が邪魔! と言うことで、私の両親に預けられた。

 またもやどうでもいい話だが、次の男と早くも同棲とかマジで引――(自粛)。


 そんな悲劇的な事情から、実家にやってきたビリーくんは、しかし、めちゃくちゃ実家に馴染んだらしい。

 今まで一体何を食べさせられていたのかと不安になるほど餌を貪り食い、すくすくと育っていった。

 アレな妹に育てられるよりは、私の両親に育てられた方が、彼にとっては幸せだったのだろう。


 当時、一人暮らしをしていた私がビリーくんに会ったのは、そんな時だった。


 たまに実家に帰ってみたら、見知らぬ獣がいた。

 しかも、その獣の檻は、私が不在なせいで空き部屋となっている自室に置かれていた。

 懐かしの我が部屋に獣臭が染み付いている切なさと言ったら……。

 しかも、その獣は私を見るなり。


「わんわんわんわんわん!(誰だお前誰だお前! 僕の部屋に勝手に入ってくるな!!!)」


 小さな尻尾をピンと立てて、そんな威嚇をするのである。

 30センチくらいしかなくて、動くぬいぐるみに見えた。

 戦闘力の類は皆無だろう。

 そんな雑魚犬が?

 やがてこの家の主になる(ちなみに私は長男)この私に威嚇?


 私は辺りに目撃者がいないことを確認すると、そっと動くぬいぐるみを蹴った。


「キャウンっ!」


 ビリーくんはこれぞ負け犬の遠吠え! と思しき鳴き声を発して仰け反った。

 私は、彼に立場ってやつをわからせてやったのである。


 こんな感じで、私とビリーくんは、たまに会えば拳を交わす関係になっていった。


 いつだったか、実家に彼女を連れて行った時。

 見た目だけは可愛いビリーくんに彼女が猫なで声で手を伸ばした。

 めっちゃ吠えられるからやめとけって。

 私は笑いながらそんな事を言ったのを覚えている。


「くーん、くーん」


 しかし、ビリーくんは全く吠えることなく、彼女の指を舐め、あまつさえ、その膝の上に乗っかったのである。

 私には吠えまくったのに!!

 かなり腹が立って、彼の頭に拳を落とした。

 彼女と両親から、情緒不安定だとか鬼畜だとか猛バッシングを食らった恨みを、私は忘れない。



 そんなビリーくんだが、彼にも春が訪れた。

 所謂、発情期である。

 彼が大人の階段を登っていることなんて、私は知らなかった。

 しかし、後になって聞いてみるとだいぶ酷かったらしい。


 とにかく腰を振りまくる。

 朝から晩まで腰をシェイク! シェイク!

 家の柱から、冷蔵庫、果ては祖母の足にまで。

 彼の性欲は相手を選ばなかったらしい。

 その外見とは裏腹に、我が家には性獣が爆誕してしまったのだ。


 ところで、私も妹には負けるかもしれないが、結構爛れた生活を送っていた。

 そんなわけで両親は未だ孫を抱けずにいた。

 そんな愛に飢えた砂漠のような私の実家に突如降臨した愛くるしい愛玩動物。

 それがビリーくんだった。

 想像してみて欲しい。

 そんな愛され天使が、ある日突然、性獣になったらどうなるか。


 我が家の慟哭は、リミッターを軽く超えてしまったのである。


 そして、うちの両親は非道とも取れる決断をした。

 ビリーくんは去勢手術を受ける事になったのだ。


 私はそんな悲劇が起きていることなど、全く知らずに爛れた生活を謳歌していた。




 やがて、時が流れて、私は実家に帰ってきた。

 そろそろ両親の面倒も見てやらなきゃいけないし、第一にアレな妹に遺産を渡す気はなかったので、先制パンチが必要だと考えたのだ。


 そんな私を、ビリーくんは死んだ魚のような目で出迎えてくれた。

 なんだろう。

 覇気というものが感じられない。

 舌はダラリと常に出ているし、天敵と言っても良い私が帰ってきたのにファイティングポーズすらとろうとしない。

 私は、すぐに彼に何かがあったのだと悟った。


「お前ら、ビリーに何をした!?」


 両親を詰問すると、彼らはサッと私から目を反らせた。

 あ、やりやがったな、こいつら。

 私の頭に警鐘が鳴り響く。

 その後、ゲロった両親から事情を全て聞くと、私はいても立ってもいられずにビリーを抱きしめていた。


「馬鹿野郎……! 玉なしになんてされちまいやがって……俺なら切腹するけどね」


 そんな私をビリーくんは濁った瞳で見つめるだけだった。

 哀れな。

 人間とは、どこまで傲慢になれば気が済むのか。




 それから訪れた日々は、ビリーと私の癒やしの日々だった。

 爛れた生活に疲れた私と、男ではなくなったビリー。

 私達は、お互いの傷を舐め合うように、その仲を深めていった。

 かつてアレだけ敵対していたというのに、今では家族で一番仲がいいのは、私とビリーだった。


 そんなある日、ビリーが珍しく猛々しく吠えているのを聞いた。

 去勢されて以来、ビリーは人が変わったようにおとなしくなっていたのだ。

 そんなビリーが珍しくグルルーとか言っている。


 その声は、妹の部屋から聞こえてくる。

 ちなみに、妹は今もどっかの男の家に転がり込んでいるので、その部屋は空き部屋だった。


 私はこっそりと、妹の部屋を覗き込んでみた。


 そこには、猛々しくマウントを取る小さな毛むくじゃらの姿があった。

 何かを押し倒して、小さな牙でガウガウと噛み付いていた。

 まだビリーにもオスらしい部分があったのか。

 私は嬉しくなって、ビリーの観察を続ける。

 そして愕然とした。


「お、お前……」


 ビリーがマウンティングしていたのは、リラックマのぬいぐるみだった。

 妹がUFOキャッチャーで取ってきた、安いっぽいけどでかい奴だ。

 丁度、ビリーと同じくらいの身長だった。

 そんなリラックマは、ビリーの欲望あふれる唾液でビチャビチャになっていた。


 私は思わず口元を抑えた。

 我が家の権力ヒエラルキーで最底辺に位置するビリーくん。

 彼が欲望を満たせる相手は、リラックマさんしかいなかったのである。

 なんて哀れな。

 その滑稽ともとれる光景に、切なさがこみ上げてきた。


 そんな時、ビリーが辺りをキョロキョロと確認しだした。

 まるで誰もいないのを確認しているのように。


「へっ……へっ……」


 そして、その裂けた口をいやらしく釣り上げると、ビリーはリラックマさんに腰を当てる。

 ま、まさか!?

 あの玉なしビリーさんが!?

 男であることを思い出したと言うのか!?


 ビリーはおもむろにリラックマさんに腰を押し付ける。


 その後の光景を、私は一生忘れることはないだろう。


 ――すこ。

 ――すこ。

 ――すこ。

 ――ふにゃ。


 都合3往復だった。

 たった3往復だけして、ビリーは力尽きた。

 まるで、現実を思い知ったかのように。

 あ、そうだ俺、玉なかったわ!

 とでも言うかのように。


「びりいいいいいいいい!!!!」


 愛しさと切なさが爆発した私は、妹の部屋の扉をバッと開けて、ビリーを抱きしめた。

 ばっきゃろう! 無理しやがって……!


「わ、わん…わんわん……(あ、アニキ、おいらダメでした……)」


 ビリーはそう短く鳴いた。


「びりいいいいいいいい!!!!」


 再び私はビリーを強く抱きしめた。

 床に横たわる、ヨダレまみれのリラックマさんがまた哀愁を誘う。

 そのプリントされた虚ろな目が語っていた。

 ――ふんっ、情けない男ね。

 うるせえ、この雌クマがああああ!

 雌なのかは知らないけど。


 こうして、私とビリーは日々、友情を固くしていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ビリーの哀愁 [気になる点] 妹さんが(自粛) [一言] 妹って・・・ 何処の家でもこうなのか?
[良い点] うう・・・泣け・・・泣け・・・ 泣けはしないけどいいハナシダナァ [一言] 天才か
[良い点] めちゃくちゃ笑いました。 メテオ先生、この天才め! み終わった後、ボーイズラブの要素がの部分に気付いてさらに笑った。
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