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僕は放課後まで、机に突っ伏して過ごした。授業なんか聞いちゃいない。ときどき、顔を横にして、窓の外を眺める。澄んだ空が、少しだけ恨めしい。
「俺、もう帰るから、元気出せよ」
山下が僕の肩を叩いて、教室から出て行く。彼の足音を最後に、教室内はしんと静かになった。僕の他にもう誰もいない教室は、昼間の雰囲気を残すことなく、閑散としている。
宮本は、いつもこんな教室に、一人で残っていたんだなぁと思う。空の向こう側、遥か遠くを夢見て、ずっと窓の外を見ていたんだなぁ。
窓の向こうに見える空は、薄暗くなって来ているのにどこまでも綺麗だった。
ふと、僕の耳に小さな足音が届く。その音は段々と大きくなって、やがて教室内へと入ってきて、僕の背中あたりで止まった。
「……悠くん」
澄んだ声、鈴を転がしたような綺麗な声。僕は窓へと視線を向けたまま、目を見開いた。
「昨日の話、嘘でしょ」
僕が振り向くと、宮本が少しだけ泣きそうな顔をして、笑っていた。