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はるか遠く  作者: seru
5/9

* 5

「あのさ、昨日は悪かったよ」


 放課後、他に誰もいなくなった教室で、僕は宮本に言った。なんとなく、二人きりならば、話しかけてすぐに答えてくれるような気がした。彼女は窓から僕へと視線を向けて、その薄い唇で「何が」と言う。


「いや、だって、普通の女の子ってなんだよって感じだよな」

「……うん」

「でも、やっぱ、もっと喋ったりした方が良いと思う」


 僕が頭を掻きながらそう言うと「なんで」という言葉が返ってきた。宮本の目が、すっかり据わっている気がする。


「なんでって、宮本、美人だし勿体ないよ」

「勿体ないって、何が」


 間髪を入れずに宮本が言う。どことなく、不愉快だと言われている気がした。


「あー……宮本は、なんでまだ帰んないの」


 このまま、その話題を続けるのが怖くなって、僕は話題を変えることにした。が、昨日もほぼ同じ質問をしたことを思い出して脱力する。


「帰りたくないから」

「あー、だから、なんで」


 宮本は眉根を寄せる。彼女はそのまま、顔を窓の外へと向けた。


「私、いらない子なんだよ」

「……え」

「必要のない子。今は二人きりだから、悠くんの喋り相手になってるけど、必要のない子は必要のない子らしくするべきでしょ」


 澄んだ声は芯まで冷え切っている。

 いらない子って、なんだよ、それ。必要のない子って、なんだよ。なんだか無性に腹が立ってきた。それは……それは、自分をいらないと認めているってことだ。そんなもの認めるなよ、ここに居るなら、自分を諦めるなよ。


「もしも、誰かが私を必要とするなら、嘘でしょって言って笑うと思う」


 宮本はそう言うと席から立ち上がり、教室の出入り口へと向かって歩き出した。僕は自分の中に生まれた怒りに似た感情を抑えながら、その姿を睨む。彼女は、教室を出る直前、こちらを見ることなく、静かにこう言った。


「悠くんも、あんまり私に話しかけない方が良いよ」


 一人取り残された教室で、僕は机を思い切り叩いた。

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