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黄泉送りタクシー、鹿沼の出勤簿③ 【前後編完結】〜オセロな夫婦〜  作者: 鬼喜怪快


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オセロな夫婦①


 深夜担当のドライバーは、

 朝8時ごろに帰社する。


 その後、タブレットを受付に提出し、

 個々の成績がサイネージに掲出されるのを

 確認する。


 そのあとは、

 ドライバーたちの自由時間だ。


 YOタクシー第4支部の食堂で、

 朝ごはんという名の晩御飯を食べて帰ったり、

 休憩室で同僚と談笑したりと自由である。


 鹿沼はいつも8時に帰社すると、

 食堂に立ち寄る。


 そして必ず、

 唐揚げ定食を頼むのだ。


 OFFの日以外は、

 必ず食堂に立ち寄る鹿沼。


 たまに別の定食を頼むこともあるが、

 だいたい後悔が襲うらしい。


 他の定食がまずいわけではない。


 ただ、唐揚げが美味しすぎるのだ。


 他の支部にヘルプに行った時、

 そこの食堂でも唐揚げ定食を頼んだが、

 話にならなかった。


 第4支部の唐揚げ定食……


 これに勝る唐揚げは見たことがなかった。



「今日も唐揚げかい?

 鹿沼……」


「これはこれは、源さん」


「調子はどうだ?」


「今月は始末書、

 免れそうです……」


「なんだよそれ。

 面白くねぇなぁ……

 始末書の鹿沼、その二つ名が廃るぞ」


「……そんな二つ名なら、

 速やかに廃ってくれて結構ですねぇ」



 源さんは鹿沼の向かい側に座った。


 源さんは、

 YOタクシー東日本第4支部のベテランドライバーだ。


 彼の食堂での注文は、

 大好物の野菜炒め定食と決まっている。



「歳とると野菜が摂れていいんだよ、これが!」


  

 そう言って、

 それ以外を食べているところを

 見たことがなかった。



「聞いたか?

 黄泉送り電鉄本社から報告あったらしいぞ。

 お前さんの送った夫婦がよ、

 2人揃って同じ電車に乗ったってよ」


「えぇ。

 タブレットで確認しましたので

 もちろん知っています」


「因果なもんだよな。

 上から下には行けるのに、

 下から上には絶対に

 行かせてもらえない……」


「……えぇ」


「乗客に感情移入はするなって

 言うけど……。

 何人運んでも、感情なしじゃいられんよ」


「私は……。

 あまり気にしていませんけれども……」


「そうか……。

 飄々としているように見せかけて、

 感傷に浸ってるのかと思ってたぜ」


「そんなデリケートな者が、

 こんな時間から唐揚げ定食など食べませんよ」


「確かにな」



 2人は目を合わせて笑った。



 ——————



 その日の勤務時、

 鹿沼は一軒家の前で、

 老夫婦が手を繋ぎながら

 立ち尽くしている場面を目にした。

 

 奇妙だったのは、

 男性の方は浮遊霊であり、

 女性の方は……

 地縛霊になりかけていた。


 鹿沼はタクシーから降りると、

 老夫婦に向かって声をかけた。



「逝き場所がわからず

 困ってらっしゃるのではありませんか?

 よろしければ、この鹿沼が

 ご案内させていただきますが

 いかがでしょう?」



 すると、

 男性が答えた。



「あなたについて行けば、

 あの世に行けるのですか?」


「えぇ。

 そうです」


「よかった。

 死んでからかれこれ3日ほど経つのですが、

 どこに行けばいいのかわからなかった。

 お願いします」


「かしこまりました。

 それでは、このタクシーにお乗りください」



 男性がタクシーに乗ろうとすると——



「あなただけ、先に逝けばいい……」



 ぽつりと女性が告げた。



「何を言っている?

 お前も一緒に逝こう」 


「私は、

 この家をもう少し眺めて……

 あとで逝くわ」


「この3日間、十分見ただろう。

 もう疲れた……

 早く行ってゆっくりさせてもらおう」


「……私は」



 女性は——


 あの世逝きを拒んでいるように見えた。



「奥様。

 ご主人の言う通り、

 早くあの世に行ってゆっくりされるのが

 賢明だと思いますよ。

 長い間、現世にいるのは

 霊体によろしくありませんからねぇ」


「でも……」



 男性が女性の手を引いた。



「!」



 ぴくりとも女性は動かなかった。



 ——地縛霊化の進行。



 あの世に行けると分かった時点で、

 拒絶反応が起こり、

 確実に地縛霊と化した。



「どうしてだ……?

 昭恵……こっちに来るんだ」


「ごめんなさい、あなた。

 先に逝ってください」


「そんなのおかしいだろ?

 一緒に行けばいい。

 はぐれたらどうする?」


「……」



 鹿沼は、

 必死に昭恵を引っ張る男性に声をかけた。



「よろしければ、

 私が奥様の地縛の根源を断ち切って

 動けるように致しましょうか?」


「そんなことができるのですか?」


「えぇ。

 それくらいお安い御用ですよ」


  

 鹿沼はトランクから線香とろうそくを取り出した。

 

 家の玄関前にそれらを立て、

 火を灯した。

 

 それから両手を地面に押し当て、

 目を閉じる。


 意識を集中させて、

 昭恵を縛る何かを探り始めた。



「……おやおや。

 これは根深い」



 神経を研ぎ澄ませて、

 さらに地中深くを覗き込んだ。

 


「!」

 

 

 地縛の根源を見つけ出し、

 意識下の中で彼女の身体に絡みつく

 ワイヤーのようなものをほどいていく。



「地縛を解きました。

 もう自由に動けるはずです」


「ありがとうございます。

 昭恵……どうだ動けるのか」


「……」



 彼女の足が、

 一歩、前に出た。



「おぉ!

 動いたな!

 運転手さん、ありがとうございます。

 これで俺たち2人を連れて行ってください」


「かしこまりました」



 2人は揃って後部座席に腰掛けた。


 そして、鹿沼はタクシーを発車させる。


 

 いつもの駅——縁分駅まで。



「それではお客様、

 縁分駅に着くまでの間は、

 ゆっくりとなさってください」


  

 バックミラーに映った

 後部座席の2人の顔。


 安堵の表情を見せるご主人と——

 悲壮感に包まれた表情を見せる婦人。



 その対照的な印象に……



「気になりますねぇ……」



 興味が抑えきれない鹿沼がいた。

 


 


 

  

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