↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/50

1プロローグ

鼻先に突き刺さる独特な刺激臭。

獲物の気力を奪うために放出される、コカトリスの特殊な吐息だ。

巨大な怪鳥の濁った眼が、地面にへたり込む私の姿を至近距離で覗き込んでいた。


「あ……はは」


壊れたように、乾いた笑いが漏れた。

無駄だと分かりながら、細かく震える手を動かして、足を動かして距離を離そうとする。


全部、知識としては知っているのに。

田舎から王都へ出てきて、死に物狂いで勉強して、魔物の生態には誰よりも詳しくなったはずだった。

獲物をすぐには襲わない慎重さも、逃さないために見据える真っ直ぐな眼光も。


(本当に、馬鹿だ)


いつもならこんなドジを踏むはずがないのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

ゆっくりと近づく巨体を前に、覚悟を決め、諦めるように瞼を閉じる。

どうせ無事だったところで、私にはもう──。


「どけっ!納品に間に合わねえだろうが!」

「ひゃああっ!?」


突然背後から轟いた怒声。

同時に、私の小さな身体をすっぽりと覆い隠すほどの巨大な影が差した。

耳に入った意味不明な言葉を理解するより先。

硬直しかけていた身を反射的に捩り、横へ転がるように避ける。


「ハッ!!」


背後から現れた“大男”が、その背丈に匹敵する特大の剣を高く掲げていた。

そして、コカトリスへと一切の躊躇なく剣を振り下ろした。


『ギャッ?!グワアアアアア!!!!』


劈くような悲鳴が上がった。

私の目の前には、巨躯の男が佇んでいた。

怪鳥コカトリスだったものは、首を完全に吹き飛ばされて地面に倒れ伏した。


「ふぅ……間に合ったか?」


その魔物の恐ろしさを知っている私からすれば、あまりにも現実離れした光景だった。


「あ、え……えっとっ、ありがとう……ございます……っ!」


助けてくれたんだ。私が襲われているのを見て、この人は駆けつけてくれたに違いない。

まるでお伽噺の勇者のように───。


「いいから、手伝ってくれないか」


───に?

聞き間違いでなければ、「手伝って」と聞こえた。

きっと「大丈夫かい?」と爽やかな笑顔で手を差し伸べてくれることを想像していた私は、不格好な笑みを浮かべながら硬直してしまった。


「ええと…?」

「その格好、魔工ギルドだろ。ほら、これ貸してやるから、『解体』」

「え…?かっ、解体っ!?解体って…?」


放り投げられた妙に重厚感のある肉切り包丁を、私は慌てて両手で受け取る。

というか…冷静になって気づいたけど…ずっとエプロンを付けてる…?!

包丁の重みに身を引きながら、不相応な緑色のエプロンを見つめていると、男は背を向けたまま手際よくコカトリスに刃を入れ始めた。


「ふう。今から三十分後に、『コカトリスの羽』を納品しなくちゃならねえんだ。全然見つからなくて手間取っちまったが……これで間に合ったか」


男はふっと息をついて、そんなことを語り出した。

……あれあれ、じゃあさっきの「間に合った」っていうのは、コカトリスの素材の『納品』の話だった?!


いや!でも、私は助かったんだ。

例え最悪の現実に引き戻されるとしても、苦しんで死ぬよりも、いくらかはマシかもしれない。


私は重たいに区切り包丁を手に、おずおずと立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。