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アオノミライ ~ネコロマンサーと掃除機が、絶滅どうぶつの魂を今日も集める! 【能力の無駄づかい編】~  作者: 正座回転ドリフト王子
第1章 覚醒

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2/2

歯茎を出して笑っていいのは“アルパカ”だけ (プロローグ)②

 ネコロマンサーになったばかりのリクトは、たまに違う動物を召喚してしまう。

 気を取り直してリクトは“真の動物”の降霊に挑んだ。


 図鑑のイラストを再度確認する。

 動物の名を叫ぶと、球状のモヤが人形の鼻に吸い込まれた。

 すぐさま、六畳間に敷かれた絨毯にジワリと楕円形の大きなシミが浮き出てくる。

 霊の宿ったぬいぐるみが、みるみる巨大化する。


「狭くてきったねぇ和室にデカイ動物を呼ぶなってばさ!」


 マキネが部屋の中心まで転がって来る。

 あきれた様子でマキネが文句を飛ばす。

 ついでに尻からガスも飛ばす。


「邪魔だ」


 リクトは、マキネを転がして部屋の隅まで追いやった。


「けりかたが甘いっす! できればウチのオシリをフルスイングでおねがいしやす……」


 マキネは頬を赤らめる。

 動物の守護聖人だと彼女は言い張るが、ただの変態である。

 言動や行動が微妙なため、今日も今日とてリクトにシバかれるのだった。


 ほどなくして、「ハァー! ビバビバ!」と呟きながら、びしょ濡れの巨大ビーバーが出現した。


 ゴワっとした茶色の体毛。

 丸い顔に丸い鼻。

 見事な出っ歯。


 頭にタオルを乗せているため、温泉地にいるオジサンっぽい。

 ビバノンノン! と合いの手をいれてしまいそうな程のビーバーだ。

 体のいたるところに泡が付着している。

 どうやら入浴中に呼ばれたらしい。


 『ジャイアントビーバー』とも呼ばれる齧歯(げっし)類のカストロイデスは、およそ一万年前に絶滅したとされる。


 ネコロマンサーであるリクトは、得体のしれない霊の召喚が可能だ。


 実体化したカストロイデスを乗り物として使おうか。

 歯でエンピツを削ってみようか。

 何か良い使い道はないかと、体長二メートルのカストロイデスを観察する。


 大きな体のわりには脳が小さかったカストロイデス。

 複雑な思考や行動ができなかったと考えられている。

 要するにアホだ。


「よし、帰れ!」


 リクトは、棒状のものでカストロイデスの体をつつく。


「なんでだよ! 」


 リクトの足元まで転がってくると、マキネは不満そうな顔で上を眺める。


「俺は動物アレルギーだ」

「いいから任務を遂行しろってばさ」

「仕方ないな……」


 仕事をさっさと終わらせたいリクトは、さっそく本題に入る。


「何か叶えたいことはあるか?」

「たくさんあるんでゲスけどねえ……」


 ガキ大将の子分っぽい変な口調でカストロイデスが答える。

 出っ歯のホワイトニングがしたい。

 タバコは辞めようと思ってるんでゲス! などと言いながら、カストロイデスは天井を見上げる。


「無理だ。却下だ。禁煙しろ。歯をへし折るぞ」


 リズミカルなリクトの回答に、部屋の隅っこに転がるマキネが「ウェ~イ」と付け足した。


 アゴに指を添えたリクトが「ふむ」と一言もらす。

 オツムが弱いという点は自分も同じ。

 歯茎を出して笑わないカストロイデスに、どこか親近感を覚えてしまう。


「もう一度訊く。叶えたいことはなんだ?」

「金歯のラッパーになってみたいでやんす!」


 カストロイデスは漆黒の目を輝かせ、存在感のある黄ばんだ歯を誇らしげに見せてくる。


「ひとつと言っているだろうに。まあ、ラッパーなら叶えてやれるが」


 そう言って、リクトは台所へと向かった。

 戻ってきたリクトの手には食品用のラップ二種類が握られている。


「ザランラップとグレラップ。すきなほうを選べ」

「ザランラップにするでゲス」

「マキネはこれを持て」


 リクトは、マキネを簀巻き状態から開放する。

 グレラップをマキネに手渡した。


「ウチになにをさせるんすか?」

「バトルだ」

「ああ、ラップバトルっすか? ウチはやんねぇっすよ?」

「足みじかっ! ナニえもんでゲスか?」


 カストロイデスは、全身が露わになったマキネを二度見する。

 マキネのド短足に驚きを隠せない様子だ。

 カストロイデスには、マキネが未来から来た猫型ロボットっぽく見えたらしい。


「てめぇ! もういっぺん言ってみろい!」


 顔を真っ赤にしたマキネがラップをふりまわす。

 こうして、マキネ(グレラップ) VS. カストロイデス(ザランラップ)のラップバトルが始まった__


 マキネがグレラップを振り下ろす。

 カストロイデスは口に咥えたザランラップでマキネの斬撃を受け流した。


 マキネはグレラップを放り投げ、でかいビーバーに特攻をかける。

 カストロイデスは後ろ足だけで立ち上がる。

 取っ組み合いのケンカに発展。


 カストロイデスの頭突きが、マキネの腹を直撃。

 案の定、マキネの尻から「ブッ」と音が出る。


 カストロイデスは二メートル。

 小柄なマキネには分が悪い。

 加えてド短足だ。

 ビーバーの背に乗ってラップで殴ろうとするも、マキネは脚が短すぎてうまく跨れない。

 すぐに振り落とされ、カストロイデスからフルボッコにされてしまう。


 さすがにもう飽きたな……。

 黙って見守っていたリクトが漏らす。


 そんなときだ。


「ガス欠っす。もう気力もオナラもなにも出ねぇっす……」


 マキネの一言でバトルは幕切れを迎えた。


 結果はカストロイデスの圧勝。


 そろそろカストロイデスにはお帰り願うか……。

 リクトは、わずかな時間で土産を準備していた。

 お気に入りの歯磨き粉(カレー味)、新品のハブラシをカストロイデスに渡した。


「除霊する。準備はいいか?」


 言いながら、リクトはマキネを片手で軽々と担ぎあげた。

 小柄で体重が軽いマキネを、リクトは武器や道具として利用することがある。


「だからね……。霊をぬいぐるみから追い出すために動物を張りたおすのは分かるんすけど、ウチを武器みたいに扱わないでくだせぇって……」


 通常はハリセンを用いるが、頑丈そうなカストロイデスにマキネをぶつけてみようかと、リクトは考えたのだ。


 カストロイデスの後頭部めがけて、武器と化したマキネを振り下ろす。


 カストロイデスとマキネがぶつかった瞬間、「ブッ」とマキネの尻から軽快な音が出る。


 もう何も出ないとマキネは言っていたが、餞別と言わんばかりにガスを振り絞ってみせたようだ。


 オデコを強打したマキネは、とびきりの笑顔で白目をむいて寝息を立てる。


 ウソ寝を疑うリクトは、目を覚まさせようと、マキネの腹部を強めに押してみる。

 期待を裏切ることなく、マキネの尻から「ブッ」と大きな音がする。


「うわビックリしたっす!」


 爆音でマキネが目を覚ます。

 一方、後頭部をハタかれたカストロイデスは元気そうだ。

 肛門からプスっとガスが飛び出した。このガスがカストロイデスの霊である。


 マキネから出た気体は、ただの屁である。


 リクトは、霊の入っていた猫のぬいぐるみがコロリと転がる様を確認する。

 いまだ宙に浮くカストロイデスの霊を特殊なクリーナーで吸引した。


「また来週! 歯みがけよ!」


 ちゃらい歯科医師のような言葉を残して、でかいビーバーは別の世界へと旅立った。


 成仏しろよ……。


 手を合わせて小声で呟くと、リクトは少し寂し気な表情で巨大ビーバーが消えてゆくさまを見送った。


 マキネは顔面がバクハツしそうなほどの笑顔だ。

 ネコロマンサー三原則の第三条を遵守しているのだ。


「笑顔で見送れって言ってるでしょうがぁ。リクトくんてば、オメエは相変わらず笑わねぇなぁ」

「そんな感情は十年前に無くした」


 ネクロマンサーとは、絶滅した動物の霊を呼び出し『猫のぬいぐるみ』に憑依させる術を操る者のことである。


 主な仕事は絶滅した動物の願いを叶えること。

 彼らの願いを叶えたり、叶えなかったり__。


 これは、ネコロマンサーの青年と守護聖人の変態少女が、地球を救ってしまうかもしれない物語。


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