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アオノミライ ~ネコロマンサーと掃除機が、絶滅どうぶつの魂を今日も集める! 【能力の無駄づかい編】~  作者: 正座回転ドリフト王子
第1章 覚醒

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1/1

歯茎を出して笑っていいのは“アルパカ”だけ (プロローグ)①

 ピカピカの小学一年生が、ぼちぼち汚れてくる時期のある日。


 |絶滅どうぶつ専門の降霊術師ネコロマンサーである青年『リクト』は、降霊の練習をしていた。


 絶滅したはずのケモノが人目についてしまうとパニックになってしまう。

 そう考えたリクトは、アパートの自室で霊の召喚を試みたのだ。


 殺風景な六帖の和室にあるのは、無造作に置かれた求人雑誌だけ。

 いや、もうひとつあった。

 簀巻きにされた少女が転がっている。


「なんでウチは布団に巻かれてるんすか? ご褒美ですか? できれば亀甲縛りにして天井から吊るしてくれってばよ~」


 緑色の髪をした変態少女『マキネ』が文句をたれる。

 簀巻きにされたマキネの姿は、ガビガビに乾燥したカッパ巻きのようだ。


 畳に転がるマキネを無視して、リクトは『絶滅どうぶつ図鑑(学研)』を開く。

 腰をかがめて、霊を憑依させる『猫のぬいぐるみ』を床にそっと置いた。


 リクトは絶滅した動物の召喚を試みる。


「来い、カストロイデス……」

「そんなんじゃ、どうぶつさんは応えてくれないっすよ。ボソボソ喋ってんじゃねぇ! おなかから、ブッと声だせや!」


 変態少女マキネの甘えた声が、リクトに向って飛んでいく。

 マキネの激はリクトには効いていない。

 というより、聞いていない。


 降霊に特別な儀式は不要だ。

 ネコロマンサーであるリクトの呼びかけに、動物が応じれば姿を表す……


 はずだった。


「スケさん、カクさん、アッシは核兵器はんたいなのさぁ~!」


 と言いながら、突如、ギャル風の少女が姿を現した。


 真っ黒な顔に白いアイシャドー。

 目の周りが白すぎて、太く立派なマユゲが霞んでみえる。


 魔女のようなカギ爪で、ガングロの少女は長い銀髪をかき上げた。


「おにいさん、チョリーッス!」


 何かのデモに参加していたらしい。

 リクトたちに気がつくと、開いた指を目元にあてる“チョッパリピース”をするガングロの少女。

 怪訝な表情のリクトに再び挨拶をしてきた。


「おにいさん、これ伝票なんでよろしくぅ」

「なんだこれは」

「どうぶつを呼んだときの料金なのさ~」


 霊の召喚が有料だとは思ってもみなかった。

 料金は六十分で一万五千円。

 出張費3千円。

 指名料二千円。

 計二万円ナリ。


 どうぶつを現世に召喚すると指名料が要るようだ。

 召喚というよりデリバリーか。

 

「わるいがチェンジだ」


 リクトは思わずつぶやいていた。

 目当てのカストロイデスではないから仕方ない。


「りょーか~い!」


 ガングロのギャルが軽く応答する。


 なんだ、素直でいいヤツなじゃないか。

 人を見た目で判断してはいけないことを、リクトは改めて悟った。


「どうでもいいつすけど、リクトくん。なんすかこれ? 呪いをかけてきそうなモンスターっぽいっすけど。グヘヘ」


 マキネが歯茎全開で笑いころげる。

 簀巻きにされているとは思えないほど、軽やかに転がりまわる。

 マキネが体に力を入れるたび、「ブッ」と放屁する。


「マキネ。笑いすぎだ。歯茎を出して笑っていいのは“アルパカ”だけだ」


 ブタ鼻まじりで笑うマキネに、リクトはひんやりした目を向けた。


「リクトくんてばよ。ほかにも変な笑いかたする人がいるじゃないっすか。八十歳を超えたおじいちゃんとか」


 マキネの偏見だろう。

 すべての高齢者が大口をあけて笑うわけではない。


「ハグキだして笑うって超ウケるんですけどぉ」


 ガングロ少女が、携帯電話(ガラケー)をイジりながら、ピンクの歯茎を露わにして破顔ん》する。


「ねえ、リクトくん。ウチのおじいちゃんも歯茎笑い候補にしてくだせぇ。顔面がラクダにそっくりなんす。目をひんむいたうえに歯茎を開放して笑うんすよね。『メシよりクスリの方が多いじゃねぇかっ! クスリで腹いっぱいになっちまうわ!』って文句を言う、そんな祖父なんすけど……。それはいいとして、その子は新種のアライグマっすか?」


 ガングロ少女のグキグキの口元に、マキネが不思議そうに視線をあてた。

 腹筋に力が入ったせいで、「ブッ」と一発ぶっ放す。


「『ヤマンバギャル』とかいう国宝級の生き物だ。動物なのか妖怪なのか。そもそも人間なのか不明だが」


 ヤマンバギャル――

 奇抜なメイクが山姥(やまんば)のように見えることからそう呼ばれたガングロギャルの一種。今から数十年前に姿を消したとされる人類の仲間である。

 リクトは絶滅したはずのヤマンバギャルを、渋谷から召喚してしまったのだ。


 誤って配達されてしまったとはいえ、折角きてもらったし、いい機会だ。

 望みのひとつでも叶えてやるか……。


 スッカリ忘れていた自身の仕事を思い出す。

 呼び寄せた絶滅動物の願いを叶えてやるのが、ネコロマンサーであるリクトの仕事だ。


「何か叶えたい望みはあるか?」

「願いごとぉ? う~ん、そだねぇ~」


 ヤマンバギャルは、ガラケーをいじりながら狭い室内を歩きまわる。

 ケータイの操作に夢中で、マキネを踏みつけても気が付かない。


 腹に乗られたマキネの体が、くの字に曲がる。同時「ブッ」と大き目の一発をかました。


 放屁の音で我に返ったヤマンバギャルが、ふと立ち止まった。


「歩きスマホをしている人間を残らず滅ぼして欲しいんだけど」

「まずオマエが歩きガラケーをやめろ」


 とは言ってみたものの、ヤマンバギャルの放った言葉が刺さったのか、リクトは少し考える。

 歩きスマホはたしかに迷惑だな。

 ホームからの転落など、危険がいっぱい。

 殲滅は世のため人のためになるか……。

 いや、ダメだ。皆殺しはダメだろ。


「呼称を変えるのはどうだ?」

「は?」


 意味を理解していない様子のヤマンバギャルが、歯ぐきを出しながら渾身の「は?」を繰り出した。


「スマホ歩きにするということだ」

「何が違うんすか?」


 またバカなことを言ってるよ、みたいな顔のマキネ。


「歩き食べは危ない。だが、食べ歩きは良しとされている」

「なるほど。飲食店のハシゴってことなら問題ないっすからね。そんな感じでスマホ歩きにしてはどうかってことっすね?」


 と、マキネがふんわりとしたフォローをいれてくる。


「いいんじゃね? スマホが自走してるみたいでよさげ~」


 ヤマンバギャルは納得したらしい。アホで良かった。


「スマホは歩いてますけど。というか、根本的な解決にはなってないんすけどね。ぐへへへ」

「おにいさん、ありがとぅ。これで安心して街をあるけるっしょ」


 ヤマンバギャルは全開の笑顔。

 メイクが濃すぎたようで、左右の頬にパリっとヒビが入った。 


「それは良かった。そろそろセンター街に帰れ。夜も遅いから気をつけて帰れよ」


 こんなヤツが妹だったらカベに何度も頭を打ちつけたくなるな。

 リクトは握った拳に力をこめる。

 だめだ。女子に暴力は振るえない……。


 リクトは、ヤマンバギャルの後頭部を、ハリセンで軽く小突いて除霊する。


「おっけー! おにーさん優しいからこれあげるっしょ」


 ガラケー用ストラップ・光るアンテナを置いて、ギャルはあるべき場所へと帰って行った。


 呪われていそうなストラップにリクトが視線を落とす。

 電話本体よりでかいストラップなんかいらねえって……。




 後半②へ続く……

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