表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/196

第百四十九話 神代回帰

第百四十九話 神代回帰




 優美とは程遠い、無骨なりし岩の城。


 荒削りであるからこそ、荘厳と呼べる石柱の並ぶ大広間。よもや、平地での合戦でこのような舞台に立つこととなろうとは。


 それも、敵の総大将と相対する形で。


「一応お聞きします。降伏なさる気は?」


「ない!」


 剣を腰だめに構えるこちらに、アダム様は無邪気とさえとれる生き生きとした声が返ってくる。


「父、カールが本隊と合流しました。彼の指揮のもと、貴方の軍は殲滅されつつあります。ギルバート侯爵は死に、物資も焼けました。これ以上の戦闘継続は不可能でしょう」


「ほう、ギルバートが死んだか。面白い男だったが、つまらんことを気にする奴でもあった。仕方のないことだろう」


 声音に、嘲りが混ざるのを感じた。罅だらけの兜の下で、彼が歪な笑みを浮かべていることが手に取るようにわかる。


「問題ない。物資も兵士も、クリスから玉座を奪い返せば手に入る。ストラトス家以外の家は、俺に従うだろうな。帝国とは、そういう国だ」


「国が荒れます。他国が黙っておりません」


「勘違いするなよ、クロノ。お前は『国』や『領地』の未来を考えているようだが、俺は俺という『個人』のことしか興味がない」


 あまりにも皇帝に、為政者に相応しくない発言。


 だが、驚きはなかった。彼は、アダム様の中に入っている人物は、そういう人格だと察している。


「俺が皇帝となったら……まあ、国内が荒れ、その後に他国が攻め込んでくるだろうな。帝国というパイを奪い合い、大陸全土を巻き込んだ戦争が起きるだろう。実に────魅力的だ」


「そうですか」


 やはり、問答の通じる相手ではなかった。


 もとより、期待はしていない。形式上、貴族として言うべきことを言ったに過ぎなかった。


 であれば、と。重心を低くする。


 応とも、と。彼もまた、剣を握り直した。


「貴方を殺します」


「そうだ、それで良い。お前に殺されるのなら、それも一興……!」


 駆け出したのは、ほぼ同時であった。


 瞬間、アダム様の右腕が閃く。その回数、三度。迫る不可視の斬撃全てを切り払う技量は、自分にはない。


 ゆえに。


「■■■■■■■─────ッッ!!」


 雄叫びを上げながら、全身から魔力を溢れさせた。


 海の中で真水をインク代わりに絵を描くような、精緻な技巧から繰り出される魔力の刃。


 だからこそ、強い『波』を起こせば形は崩れ、霧散する。


 衝突の寸前で弾けた魔力の刃が四散し、石の床や柱を粉砕する。舞い上がる礫も煙も置き去りに、アダム様へと斬りかかった。


 互いの魔剣がぶつかり合い、火花を散らす。轟音が響く中、間近に迫った兜のスリットから、喜悦に歪んだ瞳がこちらを見つめた。


「ははは!なんだ、その力技は!面白い奴!」


「ガ、ァアアアア!」


 咆哮を上げ、強引に彼の刃を跳ね上げる。同時に横回転し、遠心力を加えた斬撃を叩き込んだ。


 アダム様は刀身で衝撃を受け止めきり、両足で床を削りながらもバランスを崩すことはない。


 それでも、攻める。間合いを開ければ、再び不可視の刃が放たれることは明白であった。


 この防御術は魔力を使い過ぎる。薄く伸ばしただけの相手とは、消費魔力に大きな差があった。


 袈裟懸けに斬りかかったこちらの斬撃が、横薙ぎの刃に弾かれる。そのまま二合、三合と剣がぶつかり、火花と共に衝撃波が散った。


 周囲の石材を打ち砕きながら、互いに足を動かす。


「ハッ!」


 笑い声と共に繰り出された彼の魔剣を受け止めれば、膂力に重量が釣り合わず強引に押し込まれ。


 背中で幾つかの石柱を打ち砕いた所で、強引に剣を切り払う。間髪容れずに唐竹割りの斬撃を放つも、アダム様は半歩横にずれるだけで回避。反撃に繰り出された切っ先を鍔で弾き、彼の側面へと回り込もうとする。


 それを妨害するように放たれた剣と鍔迫り合い、ギチギチと互いの刀身が軋みを上げた。


 足裏で床を踏み砕いた直後、相手の膝蹴りがこちらの腹に直撃する。鎧越しに強い衝撃が内臓を襲い、吹き飛ばされた。


 石柱を1本へし折り、2本目に衝突する寸前で体勢を立て直す。しかし、先程まで彼がいた場所には誰もいない。


 耳に届いた音を頼りに、上を向く。建ち並ぶ石柱を足場として鋭角な軌道を描いて迫るアダム様。落下に合わせて振り下ろされた魔剣を受け止めれば、両手足に凄まじい負荷がかかる。


「ぐ、ぁぁああ!」


 苦悶の声を雄叫びに変え、刀身を傾け受け流す。床を叩き割ったアダム様が返す刀で首を狙ってくるが、膝を大きく曲げることで刃の下を潜り抜けた。


 勢いよく立ち上がった彼に対し、しゃがむような姿勢から逆袈裟の斬撃を浴びせる。上体を反らしながら飛び退かれ、避けられてしまった。


 十数メートル離れた彼の胴鎧に、切れ込みが入る。同時に、こちらの額に指一本分の傷が横に走った。


 勢いよく血が噴き出るも、顔を傾けていたおかげで目には入らない。左手の親指で拭い、彼を睨みつける。


「いい、いいぞ、クロノ!」


 肩を揺らして笑ったかと思えば、猛烈な速度でこちらに駆けるアダム様。それに対し、自分も走り出す。


 刀身がぶつかり合い、勢いのまますれ違った。直後に片足を軸にして振り向きざまに剣を振るえば、鏡写しのように同じ動きで魔剣が迫っていた。


 金属同士がぶつかる甲高い音が響き、斬撃の衝撃波が近くの石柱を二本へし折る。それで今更お互い止まるわけもなく、何合も連続で切り結んだ。


「ぐ、■■■■■■■……ッ!」


「素晴らしい!ノリスやガルデンと戦った時以上だ!嗚呼、これだ!これを俺は求めていた!」


 戦闘中に、随分とよく喋る。


 こちらにそんな余裕はない。歯を食いしばり、全身に全霊の力を籠めた。


「■■■■■■──ッッ!!」


 鍔迫り合う姿勢から、アダム様の剣を横へどかす。その勢いのまま柄頭を彼の胸にぶつければ、お返しとばかりに金色の籠手が脇腹を抉った。


 衝撃に肺の空気が押し出されるも、床を踏みしめ剣を横薙ぎに振るう。だが、相手が密着してきたことで前腕が彼の肩で止められた。


 死角に入るアダム様の魔剣。直感に従い左足を後ろに振り上げれば、鉄靴が刀身を下から弾く。


 ラップショットを防いだのも束の間、彼の頭突きをくらい視界が揺れた。更に左の拳が側頭部を抉り、殴り飛ばされる。


 石柱を砕き、床をぶち抜いて下の階へと落とされた。もうもうと粉塵が舞う中跳ね起きた自分に、魔力の刃が迫る。


 視覚ではなく、魔力感知で把握。全身から魔力を放出し、不可視の斬撃を押しのけた。


 周囲で岩の城が壊れる中、アダム様本人が斬りかかってくる。後ろへ跳んで回避した直後、彼は床を蹴りつけ間合いを即座に詰めてきた。


 逆袈裟の刃をどうにか刀身で受け流し、相手の勢いを利用して肩からぶつかりにいく。


 しかし、アダム様はぐるりと横回転して回避し、勢いのまま柄頭でこちらへ殴り掛かってきた。咄嗟に左前腕で相手の右前腕を受け止める。


 かと思えば、彼の左腕がこちらの右腕と腕を組んできた。まずいと思った頃には、体が振り回される。


「ハハハッ!」


「づっ……!」


 足払いと共に引っ張られ、横に並ぶような姿勢に。どうにか膝をつくのを堪えている自分に、アダム様が右腕を引き絞り、切っ先を繰り出す。


 仰け反りながら左の籠手で受け為すも、装甲が切り裂かれ肉が抉られた。まだだ、骨は斬れていない。


 そのまま剣を押しやり、こちらは右手の魔剣を手放す。勢いよく彼の拘束から腕を抜きながら、続けて繰り出された顔面狙いの刃を屈んで回避。


 左手で剣を拾った直後に、金色の膝が額に迫る。


「■■■■■■────ッ!」


 ならば、とこちらから踏み込んでタックルを仕掛ける。彼の膝が胸を打つも、耐えられない程ではない。


 そのまま石柱に叩きつけ、数メートル進む。密着状態ゆえに、アダム様が腕を振り上げたのがわかった。


 すぐさま踵で床を抉りながら彼から腕を離せば、タックルの慣性が残っており相手の体が先行していった。どうにか踏みとどまった自分の眼前を、アダム様の左腕が通り過ぎていく。


 体を起こしたこちらと目が合った瞬間、互いに剣を振るっていた。火花が散り、大気が震える。まるで万雷の拍手でもしているように、戦闘の余波をあびた岩の城が音を立てて罅割れていった。


 はたして何度目か。刀身をぶつけ合い、鍔迫り合う。ギチギチと軋みを上げる魔剣を挟んで、アダム様と睨み合った。


「あの時、俺はこれで終わっても良いと思った……!ノリス達のような強者との戦いで果てるのなら、と。だが、お前だ!お前が塗り替えてくれた!感謝するぞ、クロノ!今すぐベッドに連れ込みたい程に!」


「生憎と、好みではありませんので……!」


「塗り替えてやるさ!お前も!」


 アダム様が刃を強引に振るい、弾き飛ばされる。


 数秒だけ宙を舞い、足裏で床を抉りながら滑走。彼がこちらを追いかけ、疾走する。


「転生して良かった!永遠に楽しみたい!この、悦楽を!」


「■■■■■■……ッ!」


 間合いに入った彼が、左右にぶれる。フェイント。振るおうとした剣を引き戻し、正中線を防御。直後に衝撃が走り、刀身が押し込まれ右肩の鎧が切り裂かれた。


 装甲の隙間から鮮血が舞う。勢いのまますれ違ったアダム様を背に、自分は前方へ踏み出した。


「なにをっ」


 彼の問いに答えず、罅の入った石柱を掴む。


 そのまま、両足で床を踏みしめ背筋も使い引っこ抜いた。


 ボコリと大きな音が響き、破片が舞う。左手で長さおよそ7メートルの柱を振り上げ、アダム様に殴り掛かった。


「■■■■■■────ッッ!!」


「無茶苦茶だな、お前!」


 喜色を含んだ声をあげる彼の頭へ、思いっきり振り下ろす。


 横へ飛び退いて回避されるが、床に先端がぶつかる前に切り返した。追撃する石柱を、アダム様は屈んで避ける。


 空振りした柱が別の柱に衝突し、互いに砕けて半分の長さに。むしろ丁度いいと、続けて彼に振り降ろす。


 横に回避され、床が弾け飛んだ。轟音と共に破片が舞う中、金色の鉄靴が石柱を踏みつける。


 こちらの得物を足場に、アダム様が跳躍。首狙いの斬撃に上体を反らし、そのまま石柱を上へと振るった。


 彼の背中に柱が衝突し、殴り飛ばす。十数メートル先の石柱に衝突したアダム様が、床へと叩きつけられた。


 一息に間合いを詰め、石柱を片手槍のように突き出す。瞬間、縦に亀裂が走り石の柱は粉々に砕け散った。


 立ち上がり様に切ったというのか。彼は頭上に掲げた剣を、こちらの頭蓋目掛けて振り下ろそうとする。


 前へ踏み込んだ勢いで、左右への回避は不可能。防御も、間に合わな────。


「■、■■■■■■……ッ!」


 まだ……!


 止まれないのなら、更に前へ。懐へ跳び込み、鍔元の刃が左耳を切り落とすも、構わず接近。


 左掌に残った拳大の石を、全力でアダム様の顔面に叩き込んだ。


 手の中で石が砕けると共に、快音を金色の兜が上げる。吹き飛んでいく彼を追いかけ、跳躍。並ぶ石柱を足場に加速し、床と平行になったアダム様へと真上から斬りかかった。


 渾身の斬撃。しかし、紅の刀身が受け止める。


 床へと彼の背中が叩きつけられた瞬間、戦闘の影響で刻まれた罅が瞬く間に床を覆った。


 轟音と共に、階下へと落ちていく。足場が消え去り重力に引かれる中、互いに体勢を整えた。


「ハハッ!」


「■■■!」


 小型船程の石材の上で、衝突。勢いで押し込むも、受け流されて下に。次の石材に飛び移る間に、周囲を落下する瓦礫がまた下の階へと床に大穴を開けた。


 加速度的に周囲の瓦礫が増える中、それらを足場に戦闘を続行する。次々と石くれを蹴りつけて勢いをつけ、アダム様へと斬りかかった。


 刀身で受け流されるも、彼の乗る石材を踏み抜く。衝撃で足場の上下が反転する中、2人揃って別の瓦礫に。


 空中で相手へと同時に斬りかかり、弾き、拳を放つも避けられてカウンターの肘を胸に受けた。


 鎧が軋み、骨が折れる音がする。だが、肺には刺さっていない。


 彼の肩を掴んで頭突きを叩き込み、兜の罅を広げる。直後に膝蹴りを腹に受け、喉にまで血の味が上ってきた。


 密着状態からラップショットを放たれるも、相手の肩から手を放しそのまま鍔を殴りつけて防御。回し蹴りをアダム様に打ち込み、先に1階の床へと落下させた。


 瓦礫の雨が降る中着地した彼に、真上から斬りかかる。半歩ずれて避けられるも、返す刀で首を狙った。


 しかし、しゃがまれたことで空を切る。同時に繰り出された足払いを跳んで回避すれば、あちらも落下してきた瓦礫を避けて別方向に跳躍。


 奇しくも、ここもホールのような空間だった。その中央に瓦礫の山が、轟音と共に出来上がっていく。


 響き渡る振動に骨が軋み、負傷箇所が悲鳴を上げた。肩で息をしながら、両手で剣を構え直す。


 10秒もしないうちに、床の崩落が止まった。


 ホールに充満していた土煙が、アダム様の剣圧で押しのけられる。粉塵を吸い込むまいと口を閉じながら、飛ぶ斬撃に備えた。


 だが、魔力の反応はない。視界が晴れれば、瓦礫の山を横に彼は立っていた。


 兜が数々の衝撃に耐えかねたのか、砕け散る。アダム様は頭に巻いていた布を左手で取り去り、額から垂れた血をベロリと舐めた。


「素晴らしい……感動したよ。お前にも、この肉体にも……!股座がいきり勃つ……!」


「はぁ……はぁ……!」


 未だ呼吸が乱れている自分を見ながら、彼は陶酔したような笑みを浮かべていた。


「……気持ち悪い」


「傷つくなぁ。酷い奴だ」


 漏れ出た本音に、アダム様は苦笑した後。


 見開かれた瞳でこちらを見つめ、口角を耳近くまで吊り上げた。


「さあ、まだ動けるな?力み過ぎるなよ?剣を握る手は優しくだ。しかし体幹にはガッチリと意識しろ。呼吸を整え、神経を研ぎ澄ませるのだ」


「……ふぅぅ……」


 息を深く吐き、構えを正す。


 それを見たアダム様は、大きく空気を吸い込んだ後。


「ぬんッ!」


 魔力を一瞬だけ放出し、罅だらけの鎧を内側から粉砕した。


 上半身は、血の滲んだ布の服のみ。腰から下だけに鎧を残し、彼は剣を構える。


「さあ……第二ラウンド、というやつだ。まだまだ遊ぼう……俺の、人竜」


「……これで、終わらせます」


 貴様のものになった覚えなどない。その意思を籠めて、睨みつける。


 それすらも快楽に変えているかのように、目を血走らせるアダム様。その、内側にいる存在。


 床の崩壊も、剣戟の音も止み、岩の城に静寂が訪れる。


 互いの呼吸音と、床を擦る鉄靴の音。鎧がぶつかる、金属音。それらが、妙に響いた。


 だが、ここは未だ戦場。銃声と男達の怒声が、未だ外では轟いている。


 遠くから、砲声が届き。


 自分達は、共に床を蹴りつけた。




読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やはりの転生者、この世界での生をゲーム感覚でしか考えてないんだろうなぁ。 飛ぶ斬撃への対処は全方位魔力放出ですか。 膨大な魔力を持つクロノ君ならではですな。
やはり人竜の戦いには石柱が欠かせないよなあ…! 石柱は盾!石柱は槌矛!石柱は城!片手に魔剣、片手に石柱が人竜クロノのストロングスタイル…!
致命的な傷は受けてないけど一撃与える間に二回三回と攻撃を受けてるからジリ貧になりそう。 にゃ~ん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ