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閑話 皇帝の

閑話 皇帝の



サイド なし



 戦場の中央を、黄金の影が疾走する。


 迎撃として放たれたライフル弾を物ともせず、砲撃を置き去りにし、土嚢もろとも兵達を切り裂いてクリス派の戦線に大穴を開けた。


「金色……!下がれ!下がれ!」


「後退しろ!アレと戦うな!」


 騎士や一部の貴族が声を上げ、紅と金色で彩られた鎧の人物から距離をとる。


「……ふむ」


 それらを一瞥した後、アダムは兜の下でニタリと笑った。


「まあ、そうだろうな」


 彼は右手に握る魔剣で視界内にいる者を無作為に斬り捨てながら、前進する。


 わざわざ進路上にいない者や物まで両断し、瞬く間にクリスのいる本陣へと足を踏み入れた。


「さて……」


 誰1人兵士のいない、もぬけの殻となった本陣。彼は、とりあえず中央にある皇帝用の天幕を切り裂いた。


 魔力の刃が飛んでいき、衝撃で骨組みが崩れ張ってあった布が飛んでいった。


 当然のように、その中には誰もいない。アダムはそれをしげしげと眺めた後。


「それ」


 振り向きざまに、上空へと3度剣を振るう。


 飛翔した魔力の斬撃。その1つが、降って来た砲弾を切り裂いた。彼から遠い位置で叩き割ったこともあり、分かたれた鉄塊は随分と離れた地面に落下する。


「これを仕掛けたのは、アナスタシアかぁ?ノリスとガルデンの『おまけ』……良い女になっていたら、味見するのも一興か。たしか、人竜と婚姻を結んだと聞いたが……セットで楽しめたのなら、この世の極楽であろうな」


 魔剣を肩に担ぎ、アダムが息を大きく吸い込む。


「クぅぅぅリぃぃぃスぅぅぅ!貴様の言う『弱者』がぁ、遊びに来てやったぞぉ!」


 大気を震わせ、拡声魔法もなしに声を数百メートル先にまで届かせるアダム。


 彼は兜の下で嘲りの笑みを浮かべながら、砲撃を警戒し神経を研ぎ澄ませた。


「どこに行ったぁ!それとも、逃げ出したかぁ!?」


「ここにいるぞ!」


「あん?」


 声と魔力反応にアダムが振り返れば、地面が盛り上がり小さな丘ができあがる所であった。


 その頂上から、金髪の人物が彼を見下ろす。


「臆病者でありながら、よくぞここまで来た!褒美にたっぷりともてな」


「誰だお前」


 瞬間、魔力の刃が飛ぶ。頂上に立っていた人物は咄嗟に剣を構えるも、僅かに間に合わず左肩を抉り取られた。


「っ!」


「ここに来て影武者とは……情けないにも程があるな」


 目の前で親衛隊の1人が負傷したのを見て、跳び出しかけたクリス。その口を手で塞ぎながら、アリシアが止める。


「クリス様。堪えて……」


「っ……!」


 小声でアリシアが制止し、負傷した隊員が剣を持ったままの手をクリスに向け『来るな』とジェスチャーをした。


 主が落ち着いたのを見て、副隊長であるアリシアは彼女の口元から手をどける。


「……貴様には、ボク自ら手を下してやる価値などない。降伏するのなら、逆賊ではなく皇族として死なせてやろう」


「これはなんの茶番だ?」


 魔剣が振るわれた瞬間、丘の上部分が横に切り裂かれる。慌ててそこにいた親衛隊とクリスが下に降りた所で、丘の上部分が崩れ落ちていった。


「伏兵は?次の砲撃は?臆病で弱いお前は、俺にどんな()()()()を用意したのだ?今も誰かの後ろに隠れることしかできない、愚図でのろまなクリスよ」


 わざとらしく両腕を左右に広げながら、悠然と丘にむかって歩いていくアダム。


 どこからでもこいとばかりに、彼は足を動かす。しかし事実、親衛隊にはその歩く姿に隙を見いだせなかった。


 構えてすらいないというのに、どう斬りかかっても返り討ちにあう未来しか視えない。


 地上全てを掌握している。そう思える程、アダムの、コーネリアスの魔力感知は優れていた。


「ああ、貴様なら」


 それを、双眼鏡で見つめる、泥にまみれた人物。


 迷彩柄の外套を頭からかぶり、地面にうつ伏せとなった彼女が、ニタリと笑う。心底人を陥れることが大好きな、悪魔のような顔をした。


「そうやって、煽りには煽りで応じると思ったよ。子供爺」


 彼女、アナスタシアが被っていた外套を翻し、厚手の白い手袋に包まれた右腕を大きく振るう。


 それを見た同じく迷彩柄の外套を纏ったドロテアが、勢いよくT型のハンドルを箱型の装置に押し込んだ。


 もしも、この場に21世紀を知る者がいれば、昭和の工事風景を思い浮かべながら、ある単語を呟いたかもしれない。


 発破、と。



 ─────どぉぉぉぉん……ッッ!!



 戦場全体を揺るがす程の大爆発が巻き起こる。誰も彼もが音のした方向を振り返り、唖然とした。


 どのような大魔法でも起こしえない、天の怒りとでも言うべき光景に大半の動きが停止する。


 クリス達がいた丘よりも上に土砂が舞い上がり、曇天へと大きな煙が立ち昇っていた。


「フハハハハハ!」


 高笑いをしながら、ドロテアを巻き込むようにして掘っておいた穴に跳び込むアナスタシア。


 クリスがいた本陣。そこに、昨夜爆薬をありったけ埋めておいたのだ。アダムへの挑発が成功した際、起爆させる為に。


 しかも、ただの爆発ではない。


 舞い上がった土砂に混じって、親指大の金属片が地面に降ってくる。


「貴様の為に即席で『クレイモア擬き』を用意してやったのだ。地獄で喜べ子供爺!」


 穴の中に隠れながらそう吠えるアナスタシアだが、彼女は後ろ手にドロテアからレイピアを受け取っている。


 瞬間、土砂を切り裂いて何かが飛んできた。


「っ!」


「お嬢様!?」


 火花を散らしながら、アナスタシアが後ろに倒れる。それを慌ててドロテアが支えれば、彼女の手を主の赤い血が濡らした。


「……そんな気はしていたとも。化け物め」


 脇腹から大量の血を流しながら、アナスタシアが口元を歪める。


 刃こぼれしたレイピアを杖代わりにしながら、彼女はドロテアと共に穴の向こう側に向かった。避難用のそこは、トンネルとなって離れた場所に繋がっている。


「引くぞ。クリス陛下への義理は果たした。後は、運次第だな」


「はい。お嬢様」


「……いや、運というよりは」


 ドロテアに肩を貸され、アナスタシアは小さくため息をついて。


「うちの人竜の頑張り次第、か」


 そう言って、笑みを浮かべた。



*    *     *



「やった……の……?」


 爆音で痛む耳を押さえながら、クリスが恐る恐る丘の上から爆心地を覗き込む。


 未だもうもうと煙が立ち込める地上では、生物の姿を視認できない。普通に考えれば、かつて帝都で暴れた双頭竜すら確実に殺せる爆発であった。


 丘の裏側中腹に待機するクリスの兵達は、これで勝ったと顔に安堵を浮かべている。


 だが。


「クリス様!」


 地上を覗き込んでいるクリスを引っ張り戻し、抱きかかえるアリシア。その頭上で、大地が弾けた。


 その光景に、クリスは見えない斬撃が丘を貫通したのだと理解する。


「そんな……!?」


 隠す気のない怒気が籠められた雄叫びが、木霊する。


 無茶苦茶に振るわれた魔力の刃が煙を蹴散らし、硝煙香る地面が見えるようになった。


 だが、一ヵ所だけ。他よりも幾分か綺麗な地表が存在している。その上に立つ、紅と金色の鎧を纏った人物と共に。


「……流石に、驚いたな……!」


 磨き上げられていた鎧の各所に罅が入り、肩を僅かに上下させるアダム。無傷なのは右手に持つ魔剣だけであり、銃弾の雨すら気にも留めなかった彼が明確に動揺していた。


 しかし、それだけである。鎧の隙間から血が滲むこともなく、その肉体が万全であることを示していた。


「マジっすか……」


 削れた丘の上からそれを目撃し、アリシアは兜の下で頬を引きつらせた。


 そして、すぐさま判断を下す。


「プランBに移行!各員、遅滞戦闘を開始せよ!レジーナ、クリス様を!」


「はい!」


「待って、アリシア!それって……!」


「これも一応予定通りっす。いや、『想定内の想定外』って言った方が正しいっすけど……!」


 仲間にクリスを押し付けたアリシアが、ライフルの薬室に弾を装填する。


「レジーナ以外、命捨んぞ!」


「了解!」


「クリス様こちらに……!」


「っ……!」


 歯を食いしばり、クリスは喉までせり上がった言葉を堪えた。


 皇族として、こういう瞬間を覚悟しなければと教わってきた。姉妹同然に育った家臣達を見殺しにしてでも、生き残らねばならない。


 謝罪ではなく、感謝を言うべきだろう。しかし、彼女の口は思うように動いてくれなかった。


 遠ざかる主の顔に、アリシアはひらひらと手を振った後。


「さて、と。どうしたもんか……」


 あの爆発にすら耐えた存在に、どう立ち向かったものかと彼女は思案する。兵達は混乱中であり、指揮官の法衣貴族が必死に統制を取ろうとしている所だ。


 兎に角何もさせまいと、アリシアともう1人がアダムに向かってライフルを撃っている。足止めにもならないだろうが、魔法の詠唱を止めつつ注意を引ければいい。


 鎧が罅割れている為か、アダムは魔法で地面を動かし壁を作った。


 土の壁に弾丸をめり込ませながら、アリシアは違和感を覚える。


 ───あれ。今、詠唱って……。



「逃がすとでも思ったか?」



 地面が、揺れる。


 近衛騎士の体幹でもってしても立っていることすらできず、クリス派の兵達がその場に倒れ込んだ。


 銃を構えられず、地面に手を突いたアリシアは目撃した。


 大地震もかくやという中で、アダムだけが平然としている。身体能力故ではない。彼の立っている場所だけが、揺れていないのだ。


 土が固まって足場となり、僅かに浮いている。その上に立ち、彼は指揮棒でも振るうように剣を動かした。


 刹那、景色が一変した。


 地面から幾つもの大岩が突き出し、土も砂も海のように流動し、地上にいる者達を飲み込もうとする。


「う、うわああああ!?」


「なんだよ、これ!たすけっ」


 一般兵達があっという間に飲み込まれ、親衛隊もどうにか自分の身を守るので精一杯であった。


「う、おおおおおお!」


「レジーナ!」


 仲間と主の悲鳴に、アリシアが顔を上げる。そこでは、膝まで砂に埋まりながら両腕で頭上にクリスを掲げるレジーナの姿があった。


 アリシアはライフルを背中に担ぐなり、流動する地面を駆ける。砂が意思を持っているかのように彼女の足をとろうとするが、強引に踏破。


 続いてナイフを前方に投擲し、地面に突き刺さったそれが飲み込まれる前に足場として跳躍した。


「レジーナ!」


「まか、せます!」


 放り投げられるクリス。直後、真横から迫る大岩にレジーナが轢かれた。


 受け身も取れず、右腕が歪な方向に向いた彼女は倒れ、土の渦に飲み込まれていく。


「レジーナ!?」


「口を閉じて!舌を噛む!」


 空中で主をキャッチしたアリシアは彼女を抱え、追いかけてくるように伸びる岩を蹴りつけた。


 次々と地面から生えてくる岩を次々蹴りつけ、移動。槍のように鋭い岩が迫ってくるも、空中で身を丸めることで回避した。そのまま縦に一回転し、足場として疾走する。


「はっ……はっ……!」


「そんな……皆が……!?」


 これらは、3分もしない間の出来事であった。


 しかし、クリスの本陣があった場所は魔法で作った丘を飲み込む形で、幾つもの岩が突き出した城のような光景に変わっていた。


 まるでホールのように開けた場所に降りたち、アリシアはクリスをゆっくりと下ろす。


「なんなんすか、これ……!詠唱は、いや、そもそもこの規模。それに岩……!」


「そう驚くことでもなかろう」


「っ!」


 嘲りのこもった声に、アリシアはクリスの盾となった。


 ほぼ同時に、彼女の右腕が斬り飛ばされる。肘から先が飛んでいき、アリシアは僅かによろめいた。


「アリシア!?」


「さえずるな。殺しはせん」


 悠然と歩いてくるアダム。それにアリシアは銃口を向けるも、彼は剣を肩の上で遊ばせていた。


「詠唱とは、魔力の波長を刻む行為だ。掌なり足の裏なりで、魔力をそのように動かしてやれば魔法は発動する。簡単なことだろう」


 でたらめだと、アリシアは内心で吐き捨てた。


 机上の空論でしかない。そんなことができる人類など、今まで歴史上存在しなかった。勇者アーサーですら、不可能なはず。


 しかし、そうでなければ説明できない。だからこそ、彼女は『でたらめだ』と歯を食いしばる。


 眼前に立っているのは、人間ではない。


「いやはや、しかし我ながら驚いたぞ」


 しげしげと、アダムが周囲の岩々を眺める。


 天井こそないが、周囲には巨大な柱のように岩が上に向かって伸びていた。それらが集まり、壁のようになっている。


「生前では、これ程の広範囲どころか、『岩盤から岩をもってくる』なんぞできなかったぞ。剣を振るう方が早いと、錆びつかせていたが……意外と役にたつものだ」


 アナスタシア達により地面が爆発する瞬間、彼は足元の異常に気付いた。


 土の中にある『異物』を遠ざけると同時に、自身の周囲に風の防壁を展開。それでも防ぎきれない分は、鎧と剣術で受けきったのだ。


 単純に頑強さで耐えきった以上に、バカげた防御方法。アリシアは内心でこの推理をたて、罅割れた兜の下で歯を食いしばる。


「まあ……流石に魔力切れ寸前だ。最近魔法を使っていなかったせいで、加減を間違えたな。これは」


 やれやれと首を横に振った後、アダムがクリスを見る。


「で?次はどうする。もう品切れだと言うのなら、まずは手足を切り落とすが」


「っ……!」


「その後は……そうだな。裸に剥いて、棒に括りつけるか。ここでお前を犯すと、面倒そうだ。生け捕りにした親衛隊達で、今日は我慢するとしよう。お前の具合を確かめるのは、その後だ」


 無理な禁欲は体に毒なのだが、と。アダムが肩をすくめる。


「しかし……やはり顔は良いな、クリス。胸の方はどうだ?育ったか?尻の方は、多少肉付きが良いようだが。城の料理係には、お前にキッチリ栄養を取らせるように何度も言い含めておいたが」


 じろじろと見てくる視線を不快に思いながら、クリスは腰のホルスターに手を伸ばす。


「……勇者教で、近親による性行為は『血の呪い』を受けるとされていますよ。父上」


「おいおい。今の俺はアダムだぞ?なぁに。血の呪いと言っても、1代や2代なら問題ない。現に、アダムは健康に育っただろう?」


 自身の胸を指し示し、彼はおどけてみせた。


「……まさか」


「なんだ、気づくのが遅いな。まあ、女なのだし仕方がない。ああ、いや。健康に育ったというのは語弊があるか?調整の結果、コレの意識がある間はまともに動けんかったからな」


 クリスの瞳に、憤怒が宿る。


「貴方は、自分の子供を、孫を、なんだと……!」


「己の劣化コピーと思っているが、それがどうした?」


「───」


 あまりにもあっさりと答えるアダムに、クリスがポカンと口を開ける。


「なんだなんだ。まさか、俺に何か感動的な事情を期待していたのか?これだから凡人というのは困る。自分に振り上げられた拳には意味があると、思いたがるのだ。そんなものはないというのに」


「……クリス様」


 ぼそりと、アリシアが小声でクリスに話しかける。


 彼女は視線と銃口をアダムに向けたまま、言葉を続けた。


「返事をせずに聞いてください。周囲の魔力の配置を探りました。まだ生きている親衛隊がいます。どうにか彼女らと合流を」


「聞こえているぞぉ?」


「っ!」


 飛んできた魔力の斬撃を、アリシアは咄嗟にクリスを押し倒すように回避する。


 倒れ込みながら反撃に発砲したものの、その弾丸は鍔によって受け止められてしまった。


「ほう。魔力の流れを読んだのか?素晴らしい。女ではあるが、お前も強者だな。良い母体となるだろう」


「……お褒めに預かりどうも、っす」


 次弾を装填しようにも、片手でやる隙がない。銃を捨て、アリシアは逆手で剣を抜く。


 それを見たアダムが、切っ先を彼女らに向けた。


「せめてもの情けに、教えてやろう。いいか?クリス。お前のような弱者は、穴と袋としての存在価値しかないのだ。お前の母親もそうであった。顔と体は最高だったが、それ以外に褒める所などない。無駄に小賢しいだけの、雑魚であったよ」


「……皇帝に、武勇は必要ありません」


「この状況でそれを言うのか?なんとまあ、頭の足らん娘だ」


 クリスが、剣を構えるアリシアの背後でよろよろよ立ち上がる。


 彼女の言葉に対して、アダムは兜の下でせせら笑った。


「知力。財力。権力。様々な力が世界には存在するが、それらは全て『ある力』がなければ成立しない。意味をなさない、弱者が自分を慰める道具でしかないのだ。『ある力』こそが、絶対である」


「それが暴力であると、貴方は言う気ですか」


「言うとも!」


 大仰に、アダムは両腕を広げる。


「純粋な武力!それだけが正義である!知恵者が策を巡らせようが、金持ちが金貨を集めようが、王が国を支配しようが、全て武力がなければ無価値!策は無意味と化し、金貨は奪われ、国は崩壊する!それこそが、この世界の真理だ!力なき道理など、犬のクソにも劣る!」


「……ボクには」


 クリスが、その碧眼でアダムを睨みつける。


「ボクには、勉強嫌いの子供が、棒を振り回しながら駄々をこねているようにしか思えません」


「……ふむ」


 その答えに、アダムは小さく頷いた後。


 クリスに向かい、軽く剣を振るう。


「っ!」


 咄嗟にアリシアが割って入るも、剣がへし折れ彼女の兜が叩き割られた。


 後ろに倒れ込む彼女を支えて、クリスも尻もちをつく。


「お前の反論に、俺は武力で応じたわけだが……次の反論は?」


 兜の下で、アダムが嗤っているのがクリスにはわかった。


 彼女は歯を食いしばり、アリシアを抱えて後退する。


「クリス、様……あーしが、足止めするんで……逃げてください……!」


「どうした、クリス。そこの親衛隊を置いて逃げるか?であれば、その娘を犯しながら追いかけるとしよう」


「……その必要はないよ、アリシア」


 アリシアを左手で抱いたまま、クリスがホルスターから銃を抜いた。


 優美な装飾が施された、ソードオフショットガン。とある人物から送られた、彼女の宝物。


 短い銃身のそれを見たアダムが、思わずと言った様子で噴き出す。


「なんだ、その短小なブツは?まさかそれで俺と戦うとでも?」


「いいえ。時間は、十分に稼ぎました」


 クリスは銃口を向ける先を、アダムから天へと変える。


 そして、発砲。黒色火薬特有の間延びした銃声が響き渡った。


「……それで?その銃声を頼りに、他の親衛隊が駆け付けると?」


「たしかに、彼女らのことは信頼も信用もしています。ですが、今呼んだのは別の人です」


「……ほう」


 アダムが、興味深げに息を漏らした後。


「なんだお前ら、そういう仲だったか」


 大きく後ろに跳び退いた。


 直後、彼がいた位置にクレーターが出来上がる。轟音と共に岩の城が振動し、葉脈のように罅が周囲に広がっていった。


 舞い上がる土煙。その中にいる人物へ、アダムは声を上げる。


「待っていたぞ!そこの雑魚に付き合って、会話に興じた甲斐があった!」


 歓喜の声を上げ、彼は乱入者を出迎える。


「良いぞ!良いぞ!!その不敬を俺は許そう!我が愛しき強者よ!俺に会う為にやってきたいじらしい人竜よ!お前が会いに来てくれなければ、どうしようかと思っていたぐらいだ!」


 アダムの振るった剣により、土煙が晴れる。


「これが歌劇であったのなら、ここからが本番だ!散々脇役どもの話を見せられた観客が、席を立ってしまう頃だろう!それらを引き戻す、看板役者とは正にお前のことだ!ああ、なんと華のある闘気!猛々しいその魔力の奔流!」


 もしもアダムの顔が見えていれば、そこには恋する乙女のような笑みが浮かんでいたことだろう。


 熱のこもった声で、瞳で、彼は眼前の少年に語りかけた。


「クロノ!この戦の、トリを飾る者!さあ!始めよう─────俺とお前の、逢瀬を!」


 元は、白銀に金と青の鮮やかな装飾が施されていた鎧。それはもはや見る影もなく、泥と血で汚れている。


 返り血を擦った布地は変色し、猛烈な死の臭いをまき散らしていた。


 防具に身を包まれたその人物は、首から上だけが外気に触れている。土で汚れた黒髪の下で、青い双眸がアダムを睨みつけていた。


 クロノ・フォン・ストラトス。殺意と情欲を向けてくるアダムに意識を向ける彼だが、その言葉がかけられたのは


「お待たせしました」


 背後にいる、主であった。


 人界の竜。血濡れの銀竜。ストラトス家の人竜。


 数々の異名をもつ彼だが、後世で最も語られる二つ名はこれであろう。


「絶対に、お守りします。クリス様」


「───うん!」



『皇帝の守護竜』





読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
最高の舞台に最高の場面で登場した我らが主人公(クロノ君) さぁあとは勝利するだけ。 とはいっても苦戦必至なんだよなぁ。 飛ぶ斬撃どう防ぐのかも分かってないし、相手の魔力が枯渇しそうだと言ってるけどブラ…
皇帝(を絶対に必中)の(種付けする)守護竜
>セットで楽しめたのなら、この世の極楽であろうな これどの辺りまでをセットに含んでいるのやら(震え) >ドロテアが、勢いよくT型のハンドルを箱型の装置に押し込んだ "Fire in the hole…
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