閑話 帝都の花々 下
閑話 帝都の花々 下
サイド なし
帝都にある、グランドフリート侯爵家の別邸。
侯爵家の者が帝都へ来た際に泊まる為の建物であり、その管理も侯爵家の親族が行っている。
正確には、行っていた。
当主であるギルバート侯爵が謀反に参加した際、ここの管理をしていた親族も彼に合流。現在、この屋敷の周囲は近衛騎士団帝都守備隊の面々が見張っている。
ギルバート侯爵が何か残していないか。帝都に残っている侯爵家の者達がよからぬことを企てていないか。そういったことを警戒しての措置である。
だがその影響で、大聖堂を襲撃した民衆もこの屋敷に押し寄せることはなかった。中にある調度品を始めとした財産はほぼ無傷である。食料品のみ、元の管理者が全て持ちだしたが。
現在はクリス皇帝とシャルロットの結婚もあって、民衆が屋敷に何かしようという気配もなくなっている。念のため帝都守備隊が数名屋敷周辺を巡回している程度だ。
元々シャルロットが連れていた使用人達が屋敷の管理をしており、一部が義勇軍部隊の隊長達。つまりシャルロット派の貴族達の住居として貸し出されている。
それでも、侯爵家。それも皇族と婚姻関係になる程の家というだけあって、グランドフリート侯爵家の屋敷は巨大であった。
ゆえに、秘密の『お茶会』をしても誰かに勘付かれることはない。
「ふっふっふ。今日はよくぞお集まりくださいましたわー!」
そう高らかに笑うのは、シャルロット・フォン・クロステルマン。
結婚して名字が変わっても、当然ながらこの屋敷の所有権は彼女にある。お茶会を主催したのも、シャルロットであった。
「……ええ。お招きいただき大変嬉しく存じます。皇妃様」
表情筋をどうにか制御して、綺麗な営業スマイルを浮かべるアナスタシア・フォン・オールダー。
本日は軍服姿ではなく、赤地に黒い意匠を加えたドレスを着ている。
「私のようなものまでお招きいただけるとは、光栄です」
そう穏やかに笑う、グリンダ。この中で唯一貴族ではない彼女だが、その表情には余裕がある。
白と薄緑で彩られたドレスはゆったりとしたデザインがされており、膨らんだお腹を締め付けないように作られていた。
そして、このお茶会に参加した最後の1人。
「うぅ……ど、どうして、ボクまで……!」
クリスティナ、という。シャルロットの遠い親戚の令嬢……という名目の、クリス皇帝である。
青色をベースに白色と紺色を各所に使った、いわゆる『甘ロリ』と呼ばれる服装をしていた。
キラキラと輝く金髪に、海のような碧い瞳。きめ細かな白い肌もあって、まるで神域に踏み込んだ人形師が、全身全霊をかけて作り上げた人形のようである。
もっとも、羞恥で揺れる瞳やほんのりと赤くなった頬が、彼女が生きた人間であると強く主張しているわけだが。
恥ずかしそうにしているクリスに、シャルロットは高笑いをする。
「おーっほっほっほっほ!『クリスティナ』様はこれまで女の子らしい格好が中々できなかったとか。であれば、息抜きにちょっとぐらいオシャレしても罰は当たりませんわぁ!」
「こ、これはちょっとじゃないし、万が一にも秘密が露見したら……!」
「その対策として、このフロアは親衛隊に固めていただいておりますわ!給仕役までシルベスタ卿がやってくださるのだから、鉄壁ですわよ鉄壁!」
無言で優雅に一礼するシルベスタ卿。形から入るタイプなのか、はたまた悪ふざけなのか。何故か執事服を着ている。
恐らく両方だと、長い付き合いのクリスは察していた。普段男装している主君を前に、銀髪の麗人はいつもの無表情のまま男装の執事としてお茶を淹れる。
「それで、このお茶会ではどのようなお話をなさるのでしょうか?私はこういった機会にあまり恵まれず、経験が浅いもので……ご教授いただけると幸いです」
全力の営業スマイルを維持したまま、そんなことを言うアナスタシア。
自分自身の発言にドレスの袖の下で鳥肌を立たせる彼女に、グリンダは頬が引きつりそうになっていた。1人だけ『笑ってはいけないお茶会』とか考えている。
「……とりあえず、好敵手と書いて友と読む我が宿命の相手、アナスタシア様」
「まあ。私などが皇妃様のお友達だなんて。とても光栄です」
「なんか怖いので、普通に喋っていただいて大丈夫でしてよ。ライオンさんが兎のふりしていても不気味なだけですわ」
「……そうかね」
口角を吊り上げ、背もたれに体を預けるアナスタシア。
内心思う所はあれど、猫を被らずに済むならと彼女は自分を納得させた。
ついでにグリンダも内心で助かったとため息をついている。後で某人竜にアナスタシアの様子を伝えると心に誓いながら。
「主催殿のお許しが出たわけだし、そちらにいるのは『片田舎の男爵令嬢であるクリスティナ殿』という体で、話させてもらおうか」
「ええ。それで構いませんわ」
「なぜこのようなお茶会を開いたのか、いい加減教えてほしいものだな、皇妃殿下」
鋭い視線をアナスタシアによって、部屋の温度が数度下がったような錯覚が他の参加者を襲う。
暖炉の火で温められている室内に、剣呑な気配が渦巻いた。シルベスタ卿が無意識に戦闘態勢へ入りかけた程の圧が、彼女から放たれている。
「まさか、ただそこのクリスティナ殿を着せ替え人形にする為だけに、我々を集めたわけではあるまい。そこまで軽率ではないはずだぞ、貴殿は」
先日の不本意な噂もあって、クリスの男性説は帝都にて強まっている。
しかし、それでも女性であるという疑いが消えたわけではない。クリスが女性の姿で行動することは、非常に危険であった。
クリス陣営の正統性が揺らげば、ストラトス家も道連れにされかねない。
そうなればオールダーも危ういと、アナスタシアはシャルロットを強く睨みつける。
「まあ。本当にお茶会の経験があまりないのですね」
それに対し、この場で唯一シャルロットだけが余裕の表情を崩すことはなかった。
長い髪を軽く掻き上げて、コロコロと笑う。
「いきなり本題に入るだなんて、令嬢が集まってすることではありませんわ。殿方が行う軍議とは違いますもの」
「…………」
「それでも貴女は納得できないでしょうから、あえてお伝えしましょう。このお茶会は、『クロステルマン家とストラトス家の未来について』語り合う為の場ですわ」
「……承知した」
アナスタシアが一旦瞳を閉じ、数秒。
シャルロットへ、小さく頭を下げる。
「無粋な真似をした。そのことを謝罪しよう」
「構いません。この程度で目くじらをたてるようでは、皇妃などやっていられませんわ」
室内を漂っていた鋭い気配は霧散し、元の温かな空気が流れ始めた。
それに安心した様子で、クリスが口を開く。
「それで、その。今日はアナスタシア殿達に確認というか、お願いというか……相談が、あるんだ」
「何ですかな、クリスティナ殿。うちの旦那様を種馬として貸し出せ、という内容ですかな?」
「た、種馬!?」
アナスタシアの返しに、クリスが顔を真っ赤にする。
「そ、そんな、その、そういうことじゃなくって!あ、でも、その、結果的には正解なの?でもでも、クロノ殿をそんな風に言うだなんて……!あ、けど、ちょっとそれはそれで……」
「アナスタシア様。クリスティナ様は初心なのですから、あまりストレートをぶつけないであげてくださいまし」
「失礼。だがまあ、乙女かどうか言ったら、グリンダ殿以外は全員乙女なのだがね」
ちらりと、アナスタシアが隣のグリンダへと視線を向ける。
それに対し、彼女ははにかみながら答えた。
「いやはや。そう言われると恥ずかしいですね。なんだか、私だけ歳が離れているみたいで」
「……グリンダ殿もクロノ殿と同じく転生者だから、実際歳が離れているんじゃないのか?」
クリスが首を傾げながら放った言葉に、グリンダの表情が固まる。
しかし、数秒程で諦めたように小さくため息をついた。
「……やはり、お気づきになっていましたか。何の反応もしないあたり、アナスタシア様も既に知っておられたのですね?」
「当たり前だ。ある程度聖書の内容を知っている者がストラトス家の内側に入れば、気づかないわけあるまい」
ひじ掛けに頬杖をつきながら、アナスタシアが呆れた様子で続ける。
「表向きは親子3代で作り上げたとされる港も、蒸気機関も、鉄砲も。明らかにクロノ殿が物心ついた辺りで突然開発が加速、あるいは開始されている。その上勇者アーサーを彷彿とさせる魔力量。あげく、その同年代に貴殿の存在。なんだこれはと、最初は頭を抱えたよ」
「だよね。グリンダ殿はラーメンを始め、色んな料理を作ったと言われているし。何よりクロノ殿に匹敵する魔力量だもの。そうだろうな、って。思っていたよ」
「……人竜がもう1人いたと知った時は、笑うしかなかったがな。私は」
アナスタシアが、若干遠い目をする。
もしも連合と帝国でぶつかった時にグリンダが妊娠せずに参戦していたら。いいや、オールダー撤退戦で参戦していたら。
勝負にもならず、帝国が圧勝していた。人竜2枚体制など、どう対応しろというのか。
実際はグリンダに人を殺めることは精神的に難しいのだが、そんなものは『慣れ』だとアナスタシアは考えている。その為、初撃ならともかくそれ以降は大魔法を連射されて陣形を滅茶苦茶にされるだけだ。
彼女が知るグリンダという人物は、クロノに深い愛情を向ける妻であり、お腹の子を大切にする母である。愛の為に怪物となる姿が、ありありと浮かんだ。
「…………」
「ん?」
そこで、妙に主催者が静かなことにアナスタシアが気づく。
ほぼ同時に、クリスも異変に気付いた。
「シャルロット殿?どうしたの?」
「…………」
笑顔のまま固まったシャルロットの肩を、クリスが軽くつつく。
しかし反応はない。
そっと近づいたシルベスタ卿が、彼女の口元に手をかざした後、首筋に触れ。
「……御臨終です」
「えええええええええええ!?」
その後頑張って救命措置をした。
* * *
「ふぅ。死ぬ程驚きましたわ!」
「それはこっちもだよ……」
なぜかドヤ顔で紅茶を一気飲みするシャルロットに、クリスがげんなりとした様子で肩を落とす。
なお、そもそもシャルロットが死にかけたのは彼女の天然が原因なのだが、本人は気づいていないようなのでアナスタシアはスルーした。
グリンダは『本当にこの人達お笑い芸人みたいだなー』と考えていた。全力で不敬である。
あと流石に心肺停止まで体を張る芸はない。それはただの事故だ。
「おっほん!ですわ!話を戻しますけど、これハチャメチャにやべぇですわね」
キリっとした顔で、グリンダへと視線を向けるシャルロット。
言動はともかく、その瞳は皇妃に相応しい輝きが戻っている。
「元々、このままではストラトス家が力をつけすぎる。それを問題視しておりましたが、転生者が2人。しかもその子供までいらっしゃるとなると、事態は更に深刻ですわ」
「……そうでしょうか。ストラトス家に、野心などございませんが」
無意識にお腹を庇いながら、グリンダは営業スマイルを維持する。
しかし、体内で魔力の循環を開始。いつでも迎撃できるように警戒を始めていた。
「ああ、勘違いなさらないでくださいまし。ワタクシもクリス様も、貴女や貴女のお腹の子に危害を加える気はありませんわ」
それを察知したシャルロットが、慌てて両手をぶんぶんと振るう。
「人の道に反するというのもありますが、それ以上にストラトス家と全面戦争などごめん被りますもの。帝国内のパワーバランス、もうとっくにひっくり返っておりますから」
「そう……ですか」
まだ警戒はしつつも、グリンダは魔力の流れを一旦普段通りに戻す。
全力戦闘などしたくないというのが、彼女の本音だ。調整を誤ればお腹の赤子に悪影響が出る。
何より、いつの間にかシルベスタ卿がグリンダの背後に立っていた。今はもう移動し、素知らぬ顔でワゴンの近くに立っているが。万が一グリンダが魔法を使おうとしていれば、即座に首へ全力の蹴りを放っていただろう。
ラーメン信者とも言える程、ラーメンに夢中のシルベスタ卿だが、オリハルコンの理性で職務を全うする覚悟を決めていた。麺みたいに細いオリハルコンである。
若干の緊張感が戻った室内だが、その空気を無視してクリスが口を開いた。
「その、このままじゃ、帝国は大変なことになる。ストラトス家は、別に新しい王朝を作るとか、国を乗っ取るとかは考えていないんだよね?」
「ええ。無論ですとも、クリスティナ殿」
不敵な笑みを浮かべて、アナスタシアが答える。
「あくまでストラトス家は帝国貴族の一角に過ぎません。我らの忠誠はクリス皇帝陛下へと向けられておりますとも」
教科書通りの答えだが、少なくとも前半は本音であるとシャルロットは察した。
ストラトス家はとっくに統治限界を迎えている。それを現地登用と学校から前倒しで卒業した者達、更にマニュアルの作成でどうにか誤魔化しているにすぎない。
しかし────20年後はどうなのか。
それこそが、シャルロットの、そしてクリス達の不安であった。
「ええ。ワタクシ達も、ストラトス家の献身的な姿勢をずっと見てきました。それこそ、市井の者達が『ストラトス家こそ帝国の屋台骨』と考える程に」
「それはそれは。旦那様に伝えればさぞ喜ぶことでしょう。しかし、民衆は皆知っているはずです。当主であるクロノ・フォン・ストラトスは、クリス陛下にただの臣下以上の感情を抱いていると」
「はぅ……!?」
アナスタシアの言葉に、クリスが一瞬で真っ赤になる。
「そ、それはその……あ、ありがとう?」
「……どういたしまして?」
わけもわからずお礼を言うクリスと、逆にどう返せば良いのか迷ったアナスタシア。
一瞬だけ弛緩した空気が流れ、それをシャルロットは好機と捉え踏み込む。
「確かに。クロノ様とクリス様はとっても仲良しですわね」
「そ、そうかなぁ?そ、そこまでかなぁ……!」
「だからこそ、もっと『仲良し』になるべきではないかしら?」
「……前置きはそろそろ良いだろう」
アナスタシアは内心で舌打ちをした。
この場で『敵』となり得るのはシャルロットだけだと考えていたが、クリスのペースがどうにも掴めない。
かと言って、身分を偽っていようが相手は皇帝である。暴走されては困る以上、無視はできない。
対してシャルロットは10年近く接してきただけあって、クリスの天然さをある程度掴んでいた。
このままではまずいと、アナスタシアが強引に話を進める。それこそシャルロットの狙いだと気づいていたが、変な方向に話が逸れるよりはマシだと考えた。
「貴殿と……恐らくそこのクリスティナ殿に旦那様の子種をよこせという話だろう。その見返りはなんだ?」
「ワタクシ達だけではなく、親衛隊にも、ですわね。そうでなければ、皇族とストラトスのパワーバランスは拮抗しませんわ」
「随分と欲張りだな。では、その大量発注に見合った代金はなにかね。まさか、貴殿らを抱けるのだから当主が喜ぶだろう……というだけではあるまい?」
グリンダは『え、駄目なの?』と一瞬思ったが、お口にチャックして流れを見守った。
「貴族の、それも魔法資質の高い貴族の種は大きな富を生み出す。お家の繁栄に関わるからな。人竜の種ともなれば、はたしてどれ程の額になるかな?」
試すような視線を向けるアナスタシアに、シャルロットは無言であった。
静かに目を伏せ、誰かの発言を促している。それに気づき、猛禽類じみたアナスタシアの瞳がもう1人へと向けられた。
「ボクは、『薄い銀』について少しだけ心当たりがある」
クリスが放った言葉の意味が、アナスタシアにはよくわからなかった。
しかし。
「ぶふぉ!?」
グリンダが、飲んでいた白湯を盛大に噴き出す。
射線上にいたシャルロットが奇声を上げながら仰け反って回避するのを横目に、アナスタシアは何故グリンダをこの場に呼んだのかに気づいた。
クリスは、彼女が転生者であることを知っている。そして、クロノと共に様々な『神の国』の技術をこの世界で再現していることも。
ゆえに、『薄い銀』────アルミニウムの価値に気づくだろうとも。
「帝城で保管している旧版の聖書の一節に、勇者アーサーが薄い銀を作ろうとしていたという記述があるんだ」
クリスは、瞳をキラリとさせながら続ける。
「結局勇者アーサーは作り出すことも、材料を揃えることもできなかった。それを聖都の人達はよく思わなかったみたいで、今の聖書にはその記述がないんだ」
「……その薄い銀に関する情報に、どれ程の価値があると?」
「グリンダ殿の反応からして、十分過ぎる程にあると思うな」
ニッコリと、クリスがほほ笑む。
「あっぶねーですわ……紅茶やコーヒーなら致命傷でしたわね……」
「す、すみませんシャルロット様!」
「ノープロブレムでしてよ!ナイスなリアクションでしたわ!」
妊婦ということで1人だけ白湯を飲んでいたグリンダに、サムズアップするシャルロット。
ドリルヘアーの令嬢の視線が、アナスタシアに戻ってくる。
「残念ながら、薄い銀その物を作る技術は帝国に……というか、現在の大陸に存在しませんわ。錬金術師達が色々と研究中らしいですけどね」
「でも、勇者アーサーが語っていた材料の1つ……赤灰色の鉱石……いや、岩石って言った方が良いのかな?その目撃情報を手に入れたんだ」
クリスの瞳が、更に輝く。
「その岩石を割るとね?豆みたいな形の物体が幾つもあるんだ。色は場所によって異なるんだけど、間違いなくあれば薄い銀の材料だね。恐らく何らかの薬品に、熱を使ってこの材料を溶かすんじゃないかな?それで────」
「ストップ。ストップですわ、クリスさ……クリスティナ様」
早口で語り出したクリスを、『どうどう』とシャルロットが抑える。
「クロノ様が陛下に依頼していた、『山火事になったら大惨事になる泥や沼地』について調べている際に、偶然この情報が入ってきましたの」
ニッコリと、彼女はアナスタシアとグリンダに笑みを向けた。
「どうでしょう。薄い銀に関する情報。それと、クロノ様の子種を交換しませんこと?」
「……ふむ」
アナスタシアは背もたれに体重を預け、胸の下で腕を組む。
「────足りんな」
キッパリと、そう返す。
隣でグリンダがギョッとした顔をするが、彼女はそれを一瞥で黙らせた。とりあえずこの場は、自分に合わせろと。
「なるほど。確かにその薄い銀とやらは、『神の国』で重宝されていたのだろう。だが、ここは人間の国だ。そこまでの価値があるとは思えんね」
「あら。それは困りましたわね。ではこれ以上、ストラトス家は何を望むのかしら。皇帝の椅子?それとも皇領の全て?」
「さてね。私はあくまで現当主の婚約者に過ぎない。明確な答えは出せないとも」
笑みを浮かべたまま探るような目を向けてくるシャルロットに、アナスタシアは皮肉気に笑いながら肩をすくめた。
「ここは『お茶会』だろう?詳しい話は、殿方達の話し合いに任せるとしようじゃないか」
「……それもそうですわね。一本とられましたわ!おーっほっほっほっほ!」
シャルロットが高笑いをし、クリスは眉を『八』の字にする。
元より、この場だけで話が済むとは思っていない。交渉というのは、何回も顔を合わせて、更にはその合間に様々な搦め手を打ちあうものだ。
アナスタシアは、薄い銀について全くの無知である。勇者アーサーが『本物の銀より安く手に入って金策に良いんじゃね?』という軽い気持ちでアルミニウムに手をだし、『銀より用意するの大変じゃん!?』と断念したことなど知る由もないのだ。
グリンダも前世で色々な工場を回っていたが、具体的な製法までは知らない。だが、その『便利』さはよく知っている。
今より時代の針が進めば、アルミニウムは非常に重要な資源となるのは明らかだった。地球に近い環境のこの星なら、そのうち安価に手に入る日がくるだろう。
だがそれまでは、戦略物資と言える程に取り合い必至の代物であった。
「もうアナスタシア様も、すっかりお茶会マスターですわね……もうワタクシから教えられることはありませんわ!」
「……それはどうも。光栄だな」
「流石ワタクシのライバル!!」
「はっはっは。貴殿のライバルなど、私には荷が重いなぁ」
「謙遜は不要でしてよ!同じ赤い髪に、高貴な産まれ。そして才色兼備なクールビューティー!まるで双子のようですわ!」
「はっはっは。そんな馬鹿な」
「これはもう……魂の姉妹!!」
「笑っているうちにやめろよ、貴様」
「なんか怒ってます!?」
能力は認めているが、トンチキ令嬢と一緒にされるのは嫌なアナスタシアであった。
そんな彼女らを横目に、クリスがグリンダに話しかける。
「その、グリンダ殿。お腹はどう?大丈夫?具合悪くない?」
「大丈夫です、陛下……じゃなかった、クリスティナ様」
「……やっぱりまずいんじゃないかな。ボク、カール殿に『女としての幸せは捨てる』って誓ったのに」
「良いではないですか。今ここにいらっしゃるのは、クリスティナ様という男爵令嬢なのですから」
「詭弁じゃないかなぁ……」
「気にしても仕方がありません。文句があるのなら、カール様が直接言いにくれば良いのです」
朗らかに断言するグリンダに、クリスが頬を掻く。
そして、少し視線を彷徨わせた後。
「あのね、グリンダ殿……ダメだったら、ダメって言ってくれて良いんだけど」
「はい、なんでしょうか」
「お腹……触ってみてもいい?」
その問いに、少しだけ驚いた後。
「はい。優しくお願いしますね」
「……!ありがとう!」
互いに、笑みを浮かべた。
「そう言えばアナスタシア様。貴女がワタクシより先へ進んだと、風の噂で聞きましたわ。それで同列に語られるのが嫌でしたのね……!」
「は?なんのことだ」
「誤魔化しは不要ですわ!この前、ワタクシ達の結婚式へ向かう馬車の中でお盛んだったそうではありませんか!」
「……あっ」
自分が肩パンをしたせいでガタガタと揺れた馬車を思い出し、アナスタシアが固まる。
「不潔ですわぁああ!人の結婚式へ参加する直前にそのようなことをするだなんて!スケベ!スケベ元女王!」
「誤解だ!そのようなことはしていない!グリンダ!貴様からも何か言ってやれ!」
「安心してください、アナスタシア様。貴女のお尻はとても立派です。思わず頬ずりしたいぐらい魅力的ですよ」
「なにを安心しろと!?というか貴様目が変だぞ!?やめろ!手をワキワキとさせるな!背筋がぞわっとする!」
「アナスタシア殿……!お、大人だ……!」
「誤解するなこの天然皇帝!私はまだ処女だ!!」
「まあ……そんな大声で処女だなんて……はしたないですわよ!我がライバルともあろうお方が!」
「表に出ろこのトンチキがぁあああ!!」
この後、本当に屋敷の前で殴り合いを始めようとした2人をシルベスタ卿とアリシアが止めたのは、また別のお話である。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。




