第21話 母と娘
「ワルツさんって、何者なんです?」
「しがないギルドの占い師よ」
「でも、手錠なんて持ってるし。それガチのやつですよね?」
「うーん、プレイに必要だし♡」
のらりくらり、そんなふうに言い逃げられて核心に迫れない。けれど、彼女はグランとのやりとりで「司法取引」とか「逮捕」とか明らかに何か権力があるようなそんな素振りがあったから気になっているのだが。
「もし、レッドファミリーの夫人があれなら警察とか連れて行きません?」
「必要ないわ。私がいるし」
「ワルツさんって」
「私はただの占い師よ。うふふ」
俺が質問を繰り返そうとしたのを止めたのはグランだ。俺の肩をつんとつつき首をブンブンと横に振った。俺は、彼女に「わかった」とアイコンタクトで返す。
***
レッドファミリーのお屋敷、応接間に集まった俺たちは真剣な表情でレッドファミリー夫人に視線をやっている。そう言えば、彼女の名を知らない。彼女だけは俺たちに名を名乗らなかったからだ。
「レッドファミリーの皆さん、この術士グランへの尋問(?)によりソフィナさんを呪いにかけた犯人がわかりました」
目を輝かせる息子のアイデンとボス・ラウザー。母親だけ目を泳がせた。
「そ、そのグランを殺せば……」
「ご婦人、犯人は貴女です」
「何を言い出すの! やっぱり庶民になんて頼むんじゃなかったわ!」
激昂する夫人、醜く顔を歪ませ俺を罵ったが事実は変わらない。
「どういうことです? マレンさん、ワルツさん」
「ラウザーさん。この術士のグランが娘さんに術をかけたことは事実ですが、彼女に依頼した人間がいると判明したのです。グラン曰く、あなたの奥様が依頼人であり娘さんの呪いの源である『依代』も奥様が保持しているとのことです」
「嘘っぱちよ。アイデン、貴方。こんな下賎な冒険者のことを信じるの?」
夫人の言葉に一瞬だけ揺らいだアイデンの背中をぐっと押したのはラウザーだった。
「その依代というものが我が家から見つかれば、信じましょう。どうぞ、お探しください」
ワルツはすっと立ち上がり、にっこりと微笑む。
「グラン、依代の特徴は?」
「ひぃっ……、娘さんが大事にしていた小さい手鏡ですぅ。術をかけるためにおふだをつけてます。トラップはありません。だってだって、素人が保管するっていうからぁ」
「おっけ〜。ラウザーさん。奥さんの部屋は?」
「3階の奥です」
「俺はご婦人が何かしないようにここで見張ってるよ。ラウザーさん、二人に付き添いをお願いします」
俺は婦人とアイデンと三人、部屋に残った。夫人は冷や汗をかきながら慌てた様子で色々と弁解を口走っていたが息子には距離を置かれ、こちらまで焦りが伝わってきそうなほどの慌てようだ。
「母上、どうして」
「ちがうの。誤解よ」
「でも……」
「あの子が、あの子が悪いのよ」
「ソフィナは何も悪いことなどしていませんよ」
「貴方は遠征や仕事でほとんど家にいなかったでしょう? 何を知っているというの? あの……女狐の」
アイデンと俺は顔を見合わせた。まさか、自分の娘に向けての言葉ではなかったからだ。
「女狐……?」
衝撃で言葉を失ったアイデンを見て、俺は前世で見たことを思い出した。
***
「蓮、ほら従姉妹の優ちゃん。結局東京に行ったらしいわ。馬鹿よねぇ、せっかく隣町の大きな農家さんの息子さんと縁談があったのに」
俺が高校生、従姉妹の優ちゃんが18の時のことだ。従姉妹というと親父の兄貴の子でいわゆる「本家」の人たち。正月と盆くらいしか合わなかったがヲタクな俺にも優しくしてくれる素敵な姉ちゃんだった。
けれど、彼女は東京へ逃げた。それから2度と帰ってくることはなかった。それもそのはずだ。優ちゃんは『女の子でどうせ嫁に行くんだから』と高校すら少ない選択肢、予備校だって行かせてもらえないでいた。大学なんてもってのほか、彼女の両親が決めたのは隣町の男性との縁談。相手は離婚歴三回の歳上だった。
優ちゃんが『私は家にとってなんなんだろうね。ママの言うように私が男の子じゃなかったからいけないのかな』という言葉が今でも頭に残っている。
一方で彼女の年子の弟には私立高校へ進学、中学生から予備校など姉弟内での差別は明らかだった。跡取りか跡取りでないかの違いで自分の子供に差をつけられる理由が俺にはわからなかったが、俺の母すらさも当たり前のように「残念な子だったね」と言ったのだ。
家のために、3回も離婚している好きでもないおっさんと結婚することが、まだ18歳の彼女の正解だったのか?
俺は違うと思う。
***
「ララ・レッドさん。貴女を逮捕します」
そう言って彼女に宣告したのはワルツだった。罪状はややこしくてよくわからなかったが、ようやくすると「クエスト依頼違反」と言うことだった。なんでも自分で原因を作り出してそれを解決するようにギルドに依頼を出すのはダメらしい。
クエスト受領者保護法がとうとかこうとか。
「あの子が悪いの!」
「もうやめなさい、みっともない」
「婿養子で自由に生きてきた貴方にはわからない。私や私の母がどんなに苦労してきたか。生まれた時から自由を奪われどんなに辛く生きてきたか。好きでもない婿養子をとって子供を作るのがどんなに苦痛だったか! それなのにどうしてあの子ばっかり自由にできると思うの? あの子も私や母のように同じようにするべきよ!」
なるほど、嫉妬か。先輩にいじめられて辛かった一年生が、自分たちが先輩になったとき一年生をいじめるあの謎の現象。
されて嫌だったくせに「こいつらは辛い思いをしないのはずるい」なんていうゴミみたいな理由で。
「可哀想な人だな。あんたって。自分が嫌な思いしたなら娘や息子にはそんな思いさせないようにするのが親……人ってもんだろう? あんたは先人に苦しめられた結果先人たちと同じ狂った化け物になったんだ。もう人じゃないよ、あんたは」
俺の言葉に「下劣な庶民にはわからない」と言い返すが、もう彼女を人として見ている者は誰もいなかった。




