第20話 グランとワルツ
グランの部屋、俺は彼女たちに背を向けケルベロスを抱いたままため息をついた。部屋に響くのはグランの悲鳴に近いような、時に苦しそうにうめくような声。
「し、しぬぅ……壊れるぅ」
「じゃあ、どうしてレッドファミリーの女の子に呪いをかけたのは言おっか?」
「言えないよ、だって契約だもん」
「じゃあ、私も手を止められないなぁ〜」
また嬌声が響く。俺は何を聞かされているんだ。そしてワルツは魔力封印の手錠をかけられたグランに一体何をしているんだ。
「たっ、たっ、頼まれたの! お願いされたの! 殺すわけじゃないし眠らせるだけなら犯罪じゃないでしょ!」
「えぇ、そうね。犯罪じゃないわ。でも、依頼者は犯罪になる可能性があるわ。だって、その子がクエストの報酬になったんだもの」
「ひぃっ、私はそんなこと知らないものっ」
「じゃあ、依頼者は誰?」
「言ってはいけない契約なの」
「ふーん」
「いやぁぁぁぁ!」
バタバタとソファの上で足をばたつかせるような音、今度は質問をせずにワルツはしばらくグランに何かをし続けた。
「ダメ……死ぬっ」
グランの声は息も絶え絶えで途切れ途切れになっていた。激しい運動や水泳でもした後みたいに。
「人間は痛いと死ぬけど、痛くないでしょ? 死なないよ。うふふ、グラン? そろそろ吐かないと……もっと? ね?」
「わがった! わがった! もう言うから言うからやめてぇ」
「あらいい子ね。じゃあ、貴方にレッドファミリーの御令嬢に呪いをかけるように言ったのは誰?」
「あの子の……あの子の母親よ!」
「で? 貴女はどうして協力したの?」
「初版本……私の命より大事な漫画のサイン付き初版本を人質に取られてたの! ひどいわ。数ヶ月前に泥棒が入ってそれで……うぅ」
「で、非人道的な呪いを女の子に?」
「そうで……す」
「じゃあ、悪い子のグランちゃん。私と司法取引をしましょう。これからレッドファミリーの家に行って犯人と証拠を見つけるから貴女はそれに全面協力をすること。そうしたらサイン付きの初版本も帰ってくるし、多分まぁ処罰もしないであげるわ。私が司法部に託けをしてあげる。いいわね」
「はい! はい! そうします! 牢屋にでもなんでも入ります!」
「よーし、いい子。じゃあ洋服をきて準備をしてね。マレンさーん、もうこっち向いていいわよ」
しばらくして俺が振り向くと、怯えて汗だくのグランとなんだか楽しそうなワルツがこちらを向いていた。
「あの、呪いの解除方法は?」
「それが……呪いの依代は依頼者のレッドファミリーの夫人が持ってるんです。だから私には……」
グランの言葉にさっきまでルンルンだったワルツが真剣なトーンで答える。
「多分、強い冒険者にグランを退治させて証拠を消してから娘さんの呪いを解除して厄介払いする気だったのよ。私がハッタリで『術士を殺さないと解除できないかも』と予言したら嬉しそうだったし」
「ハッタリだったのかよ?!」
「私は占い師よ? もちろん、魔法を使って未来を占う本物だけれどほとんどの顧客は『本当の未来よりも自分に都合のいい未来を教えてくれる占い師』が好きなの。だから相手が欲しい言葉をかけてあげることが求められるわけ。多分、レッドファミリーの夫人が欲しい言葉をあげたのが私=それが都合がよかったのよ。呪いに自らの命をかける術者なんていないのにね」
「なるほど、そんで強い冒険者相手にクエストを出してグランさんを殺させそのタイミングで依代を壊して娘の呪いを解除する。端金で厄介払いか」
「馬鹿よねぇ。私とグランの師匠が同じことなんてギルド協会で調べればわかることなのにね」
なんでもワルツとグランは同じ魔女の下で修行をした仲間らしい。引きこもりとセクシー陽キャ、あまりにも性格が違いすぎるが。
「ご、ごべんなさい……」
「いいわよ。別に、でもまぁ十分オシオキはしたから」
「ひぃっ!」
「あの、何したんだ……いったい」
「そりゃ、くすぐってた、だけ。ね? わかるでしょ?」
ワルツは満足げに微笑むとグランの手をがっしりと掴んで先に砦を出ていった。俺は部屋の中の漫画たちに興味を惹かれつつも可愛いケルベロスをきゅっと抱きしめて彼女たちの後に続いた。




