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第19話 ケルベロス


「あのー、くっつくのやめてもらえません?」

「いいじゃない、久々の若い独身の男の子なんだし」

「それはワルツさんの都合じゃないですか」

「なーに、好きな子でもいるの? いいわよ、私は二番目でも。そういうのコーフンするし。あっ、本命さんと三人で……ってもアリかな」

「アンタの脳内それしか考えてないのかよ?」

「うん、そうよ」

「はー、いいから。はい! 距離を保って」

「もーつれないわねぇ」


 というやりとりは三回目である。ちなみにワルツさんは24歳らしく、お姉さんムーブをしてくる。


「おぉ、でかい犬っすね」

「グランは召喚が得意だから。うーん、お願いしていいかしら?」


 俺たちの目の前、大きな砦の門の前には三つの頭を持つ黒犬が聳え立っている。大きな牙、爪もここまででかいと狂気的。おおよそ3メートルくらい。よく見ると、結構顔に個性があって、立ち耳、垂れ耳、丸耳。


「うぅー!」


 心臓に響くような唸り声に、ワルツが体をびくつかせて俺の背中に隠れた。俺は剣を抜かず、魔法の準備もせず考えていた。


——うまいこと手懐けて、うちの番犬にできねぇかな。犬好きだし。


1 一刀両断

2 氷魔法で凍結後、粉砕


 ダメダメ、殺したくないし。


3 縮小魔法 


 俺は思い浮かんだ魔法を思い切りケルベロスにぶつける。「ぐわっ!」とのけぞった大犬はみるみるうちに小さくなっていき、大きな首輪がゴロン、と外れ……


「お前……足短いな?」


 通常サイズになったケルベロスはドーベルマンみたいなスタイリッシュな犬種かと思いきや、意外に足の短い……コーギーみたいな体型だった。


「わんっ! うー! ぐるるるる!」


 番犬の仕事を務めようと唸ったり吠えたりしている彼ら。俺はバッグに入れていた自分用の昼飯だった干し肉を取り出して鼻先にちらつかせる。

 すると、唸ったり吠えたりするのが次第に収まり、俺に向けられる羨望の目。


「食いたいか? うん?」

「わんっ! わんっ! わんっ!」

「よーし、いい子いい子」


 干し肉に食いつく可愛い犬たち、わしゃわしゃとそれぞれの頭を撫ででやればそのうちに俺に懐いてしまう。


「お前ら足短くて可愛いなぁ……」

「本当ね、ケルベロスって一応魔獣なんだけど可愛いわぁ」

「ワルツさん、この子お願いしていいか? 多分、砦の中も魔物だらけだろうし」

「えぇ、おいで〜。あらあらかわいいわね」


 俺は干し肉をワルツに渡し、門を魔法でぶち破った。強固な砦、トラップがたくさんあるというのなら方法は一つである。

 砦の一番上の方、天守閣のような場所が居場所であろうことは魔力の強さでなんとなくわかったので下の方は全部ぶっ壊すことにしたのだ。


 岩魔法の力を拳に宿らせて力一杯砦の壁を殴りつけた。ドゴーン! と硬いものが崩れる音が響き土煙が上がる。俺が拳を当てた一直線はボロボロとくずれ去った。


「よーし、階段まで見えたから進もうか」


 振り返ると、ワルツがあんぐりと口を開けて俺を見つめていた。



***


 トラップはぶっ壊すに限る。砦が崩れないように配慮しつつ、ぶち破って進んでいく。現れたゴブリンたちは、剣で薙ぎ倒し、大きな食虫植物は炎魔法で消し炭にする。迷路のようなフロアは四方八方に大穴を開けてゴールを見つけた。


「圧倒的ゴリ押し……パワープレイ! あぁ、素敵!」

「ワルツさん、この扉の先にグランがいるだな?」


 もう発情しているワルツにも慣れたもので俺は大きな扉を指した。早くこんな仕事終えて犬をもふもふしたい。それだけである。


「ええ、いきましょうか」


 扉をドンとぶち破る。

 中にはどんなあくどい術士がいるのだろうと思ったが、俺の想像とは180度違う光景が目に入ってきた。


 術士の根白は、魔法使いや魔女のそれ……とは違ってまるで「ヲタクの部屋」だった。壁中の本棚には漫画本が並べられ、天井には可愛らしい女の子の絵が飾られている。ゲーミングPCがないだけでほとんど前世の俺の部屋と変わらない。


 そして何よりも驚いたのが、部屋の主。多分、彼女がグランであるということだ。


「ひ、ひぃ!!!」


 ソファーの上、漫画を片手に寝転びながら干し肉を齧っていた女。


——パン1……


 ダウナーな雰囲気の美人ヲタク女子、とでも言おうか。ソファーに寝転がってパンツ一丁で漫画を楽しんでいた最中だったようだ。

 運動不足なのか華奢な体には見合わない……現代ではグラビアやセクシーな動画でもめったにみられないくらいの大きさの胸。黒い髪で隠しきれない山に思わず目が行ってしまう。


「あーらグラン、いいご身分じゃない」

「ひぃ!! ワルツ様?!」

「ハイ、逮捕♡」


 カチャン、と手錠が半裸のままのグランの手にはめられる。


「いや、流石に服は着せてあげてからの方がいいんじゃ……?」

「いいのよ。別にどこに連れ出すわけじゃないし」

「え?」


 俺は足元でわたわたしていたケルベロスを抱き上げてワルツの悪い笑顔を見つめる。彼女は……何をする気なんだろうか?

 いや、そもそも俺はグランを殺しにきたんだよな?


「ごめんね、グランを殺せば呪いが消えるってのは本当だけどそんなことしなくてもいいの。この子が呪いを解除すれば。でも、この子は理由もなく悪いことする子じゃないのよ。私のことは嫌いみたいだけど……だから、ここまで私を連れてきて欲しかったの」

「な、なるほど……? じゃあ、取り合えず着替えてもらって……俺も目のやりどころに困るし」

「うーん、ダメ。とにかく私に任せて」


 ワルツは悪い笑みを浮かべると怯えるグランに向き合った。

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