表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
368/378

368 可能性のひとつ

 不滅に近しい不死。そのワードに私の、いや私たちの喉がごくりと鳴る。それは高揚か恐怖か。そのどっちもブレンドされたものかもしれない。


 不滅っていうのは、正真正銘の「絶対に死なない」ってこと。この世の全てを司る基理くらいしか──正確に言うなら基理をそもそも生物として捉えることに無理があるけど──存在していないというのが女神の話だった。あれ? そうだったよね? そういう話をした……よね、うん。


 なので女神も不滅じゃない。神という私たちからすれば絶対的な存在に違いない彼女でも死ぬときは死ぬ。消滅する可能性は、ある。だけどそれは限りなく小さな可能性であり、言うなれば彼女の不死性は不滅にも近しい超高水準のものってわけだ。ただまあ、それでも消滅可能性があるって時点で本物の不滅ではなく、そこに区別はしっかりと付けなくちゃいけないようで。だから女神は自身を決して不滅の存在だとは語らない。


 大元である神でさえもそうなんだから、その神の力で仮初・・の神力を宿しているに過ぎないしもべ──つまり私たちのような「灰」はなおさら不滅には遠い。その不死性も精々が人類種を含めた大半の生物よりも頑丈で、傷も治りやすいっていう、つまりは魔術師や魔闘士に毛が生えた程度のものでしかない。という認識だったんだけど……いやその認識自体は決して誤りじゃあなかったんだけれど。


 ただしそれの進展具合は誤っていたし見誤っていた。と、言わざるを得ない。そりゃあ灰として成長するなら、灰の特徴のひとつである不死性だって多少なりとも伸びていくっていうか、もっと便利なものになっていくだろうとは、そこまで具体的にじゃなくてもなんとなく予想していたはしていたけれど。だけどまさかその果てが不滅にも近しいレベル。要は女神クラスの超高水準不死にまで最終的には届くとなったら、いい加減に灰っていうのがどれだけ人間と違うかよくよくわかってきた今となっても素直に驚くほかにない。


 女神も断言はしなかった。必ずそうなる、と言ったわけじゃない。でも嘘だけはつかない彼女のこと、一度口にしたからにはそうなる未来もあるってことだ。私たちが彼女にも並ぶレベルの不死になる。それくらいに極まった灰になる可能性もまた、ゼロじゃないってことなんだ。


 もちろんそれは本当にとても遠い未来であり、そう簡単には辿り着けない境地だとは思うけど。それこそ現時点の私たちじゃ限りなく小さな可能性でしかないんだろうけれど……だからこそ女神も「いつの日か」とか「成り得る」とかそういう言葉の選び方しかできなかったんだろうが、それでも充分に衝撃的だ。


 究極の灰。そこまで行けば、今でさえも強く実感している人からの脱却もさらに極まって、大抵のことには敵なし。別世界の管理者でも相手にしない限りはなんだってできるようになる。そしてその結果女神の管理が世界に行き届き、安定した存続が可能になる。そう思えるし、それが望ましい未来であるとも思えると同時に……そこまで変わり果てることがやっぱり恐ろしい。灰になって意識が変わっていてもなお、その未来へ進もうとするのには躊躇いを覚える。


 果たしてこれは誰にとっての良いことで、誰にとっての悪いことなのか。


果てそこを目指せ、と勧めもしなければ唆しもしません。あくまで可能性のひとつ。いずれ人の身へ還ることも視野に入れているあなた方からすれば『行き着く』のは些か過剰のきらいもあります。そこに恐怖があるのならただ進むだけでなくどこまで進むのがいいか常に意識しておくといいでしょう。ただし」


 口を噤んだままの私たちに、まるで教師が生徒へ教え諭すような雰囲気で女神は続けた。


「あなた方の使命は大いなる波の平定にあり、その達成に欠かせないとなれば成長を止めてはなりませんし、足を止めてもいけません。変化を受け入れないという選択をわたくしは今のあなた方へ許すわけにはいかないのです。おわかりですね?」


 その確認に私たちはゆっくりと頷いて同意を示す。もちろんだ。こうしてしんどい試練を必死になって頑張っているのも元はと言えば世界のため。せっかく守ったこの世界が放っておけばほぼ確実に滅びてしまうというから、それを回避するために女神の力になってやろうと決意したのが動機である。そのために灰になることを覚悟した──なのに、目的を果たす前に変化を怖がって拒むようじゃ本末転倒だ。なんのために灰になったのかわからないし、この世界に残ると決めた意味もわからなくなってしまう。


 大いなる波。本物の魔境こと第五大陸から襲来してくる強魔物たちを倒し尽くすまでは、それを叶える段階になるまでは、私たちは足を止めない。変化を拒まない。成長を嫌がらない。ある意味でのチキンレースだ。どこまで進んで大丈夫なのかわからない究極の灰への道のりを、怖がらず、かと言って恐れ知らずにはならずに進んでいく。度が過ぎれば人に戻るのに支障を来たすだろうし、慎重が過ぎれば強魔物との戦いで不覚を取るだろう。


 例えば不死性ひとつ取っても高くなればなるほど戦闘で役立つことは疑問の余地もないが、あまりに高くなり過ぎればそれだけ私たちの中にある「人としての意識」が薄れていき、肉体だけでなく考え方まで変質していってしまうに違いない。それは非常に危ういことだが、けれど不死性という絶大な武器を当てにしないという選択肢はない。


 私たちはそこの難しいバランスを見極めながら戦っていく必要がある、ということだ。そして今やらされているこの試練は、戦いの場に灰として立つための「最低限」の成長を経るためのもの。つまり私たちはまだ、ここまで苦労しても未だにスタートラインに立ってさえもいない。そう考えるとやんなっちゃうね。


「難しく考える必要はありませんよ。あなた方はそのスタートラインの一歩手前にいるのです。そして今のところ恐れていたような極度の精神性の変質も起きていない……少なからずに意識の差異は生まれていてもあなた方はあなた方のままである。それは自覚できていますでしょう」


「そこは、まあ」


「でしたら心配も要りません。最終チャプターのクリア後にはめでたく『灰らしい灰』への一歩目を踏み出すことになりますが、だからとてそこで大きく変貌を遂げるわけでもなし。全ては地続きの変化であり、極端な喪失も獲得もありません。成長のみを求めて自己の境界を曖昧にさえしなければ恐れているようなことも起こり得ず、またわたくしも起こさせぬように努めます。それも神の名において誓いましょう」


「心強い言葉だけど……ちょっと意外だね。そっちも手伝ってくれるんだ? 私たちが人に戻るときのためにセーフティを設けようとするのをさ」


 妨害こそしないけど手助けもしない。そこに関しては全て私たちが自分でできるかどうか。それをただ眺めているだけのスタンスだと思っていた。

 だって私たちを灰に迎えるために後戻りできないようにしたりはしない、という契約・・を交わしたけれど、それはそれとして。女神としてはやっぱり私たちが極まった灰になって後戻りできなくなったほうが──永遠に女神の道具しもべとして働くほうが都合がいいのは確かなはずなんだから。


 そういう意味での私からの問いかけに、女神は少しだけ口元の微笑を深くさせた。


「無論。あなた方を手放したくない思いはわたくしの裡に強く在りますとも──しかし。他の糸、他の神、他の灰を数多く参考にしてきたわたくしには己が失敗を経ずとも解しているのです。神の独りよがりは灰を脆くも言葉通りの灰にしてしまうこと。その破綻、その結末が、大方において世界にさえも終末を招くということも」


 ですからわたくしはあなた方を尊重し続ける。そこにある意志と在り方を、わたくし自身も守りたく思います。と、女神は心なしか強い語調でそう言い切った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ