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338 しりとりでもする?

 ルーキン王たちへの事情説明と、そして「こちらの世界に残って共に戦う」と誓うこと。それが選択の完了を意味するのは初めからわかっていた。女神が事細かにそう話したわけじゃないけど、何故か言われずとも理解ができていたのだ。


 で、いざ宣言を終えてみて。また私にはなんとなくわかった──誰もいない場所へ向かう必要がある。正確には私たち五人だけしか存在しない空間を作らなくちゃいけないと、急にそう思い至った。それは皆も同様だったらしく、顔を見合わせた私たちはルーキン王にお願いして城内の使っていない一部屋を宛がってもらい、そこから出てくるまでは誰も訪れないようにと取り計らいまでしてもらった。


 昨日から忙しい中を私たちのために色々とやっていただいてマジに恐縮しきりってもんだけど、遠慮なく甘えちゃう。というか遠慮のしようがないものな。バロッサさんも受けて当然のサポートを受けているだけだって試練の旅路の出発前、豪勢な歓待を受けているときから散々と言っていた。そのバロッサさん自身も私たちへ魔術を教えながら食と住の世話まで焼いてくれていたんだから、やって当然だという勇者へのサポートを率先して実行している人物なんだからその言葉には含蓄ってものがある……けれども、やって当然の精神は美しくともやってもらって当然の精神は醜いことこの上ないからね。サポートの恩恵を受けている身としてはそれに対するありがたみを片時も忘れないようにしたいところだ。


 というわけで朝の緊急集会から引き続き深い感謝を述べつつ用意された部屋に籠った私たちは──中から施錠できる部屋の上に扉の前には「何人も進入禁止」の掛札と一緒に兵士まで立っている。これもすごくありがたい配慮なんだけど、正直ちょっとやりすぎな気もした──なんとなく昨日のベッドの並びと同じ順番で円になってお互いの顔を見合う。


「こっからどうしようか……?」

「さあ……?」


 私の問いかけにコマレちゃんが首を傾げる。こうして密室に五人だけで集まったはいいものの、なんとなくやらなくちゃいけないとわかったのはそこまで。そこから先は何をどうすればいいのか私も皆もさっぱりであった。


「や、こうして場を作ったらまた女神との対話が始まるんじゃないかと思ってたんだけど。どうも違うっぽい?」

「え~? じゃあもしかしてぇ、王様たちに『残ります』って言った時点でもうオーケーってことかなぁ」


 それで本当にOKで女神と再対面することがないっていうのなら、私たちは実は気付かない内に人間をやめて灰になっているっていう可能性も……いやないな、さすがにそれはない。神のしもべである灰というものに「変わる」っていうのがどういうものなのかはまだまったく未知数もいいところだけど、いくらなんでも変わったことに無自覚だなんてことはあり得ないだろう。


 そこまでシームレスな変化だっていうのも考えにくいし、変わる前と後で肉体的にも意識的にも小さな変化しかないってこともまずない、はず。だって女神ははっきりと「灰への昇格」について、それは人間からの卒業であり存在としての格を一段も二段も引き上げる行為だと、さんざ物々しく仰々しく語ったのだ。仮にも神たる者がそこまで言ったんだから実際には大したことありませんでした、ってのはねぇ。もしそうだとしたら無意味に怖がらせてくれた罪でまた女神にかましたい一発が増えることになるんだが?


「あるいはシームレスな変化が少しずつ、じわじわとコマレたちの身体を作り変えているという線もありますよね」

「あーね。ひと息にじゃなくて時間をかけてるんだったら、確かに変化に無自覚でもおかしくないか」


 一気にガラッと変わるのも怖いが、細胞が入れ替わっていくみたいにじっくりと変化が起きているってのもそれはそれで怖いな。それだとマジで変化完了後もそれを自覚できないまま、いつの間にか灰らしい思考や行動に切り替わっていそうだ。その境い目が見えないっていうのはちょっと勘弁してほしい気持ちがある……って言ってもどうせ変わったあとにどうなるかってのは一緒なんだからどっちにしろの話ではあるんだけど。


「……単純に、女神が設定したタイムリミットを守っているだけの可能性もある」

「え。もうこうして私たちは宣言も終えて準備万端で待ち構えているのに?」


 それをどこかから見ているだろうに待たせる気満々ってこと……? なんのためにそんな、お互いにとって無駄な真似をする必要があるのか。という疑問にカザリちゃんは淡々と答えてくれた。


「女神の行いにはどんな小さなものにも制約が付き物。そうでしょう?」

「まあ、うん。それは昨日の対話でよくわかったけどさ」

「だったら自分の定めた決まりに徹底的に縛られても、おかしくはない。時刻を決めたのならその通りにしないといけない……それもまた制約として、女神自身にもどうしようもないのかもしれない」

「えー」


 ぶっちゃけそれは、めちゃくちゃありそうだなと思った。だって女神が「何かする」ことの大変さだってさんざ強調されて教えられたことだもの。


 今は波と波の合間。魔王期が終わり次の黒が始まる前であり、世界を動かす大きな出来事の狭間だ。そういう、慎重な調整が求められるイベントの真っ最中に比べれば幾分かはルール(基理だっけ?)も緩くなっているはず。だからこそ女神も褒美を与えるという名目で再び私たちを真っ白空間に呼んで、こうしてまた会おうとしているわけで。だったらそこまで立場を気にせず多少なりとも気兼ねなく動けそうなものだけど……どうやらそういうわけでもないっぽいのかな。


 考えてみれば魔王城の機能共々にアンラマリーゼが斃れた時点で魔王期の終焉は確定して、つまりはひとつの波が終わったっていうのに、あくまでも「褒美を与える」という名目なしには私たちを真っ白空間に呼び出すこともできなかったってことでもあるのか。そこまで女神の動向に対して世界の仕組みが厳しい、というか繊細なんだとすると、なるほど。こうして三度目の対面を果たそうとするのにも相当な制約があるっていうのは納得できる話でもあるね。


 事前に定めた対面時刻はきっちりと守らなくちゃいけない。それを決めた女神本人にも前にも後ろにもズラしようがない、ってのはいかにもありえそうなルールだ。そしてそれ以外にも、私からは見えない部分で女神が順守しているものはたくさんあるんだろうから……このただ待たされているだけの時間に文句を付けたって意味はないってことだ。


「えっと、女神様との約束までは……」

「ん〜、あと一時間以上はあるねぇ」

「つまりそれだけ待ちぼうけでぼけぼけしとくしかないと」

「謎の言葉を作らないでください。いえ、意味は伝わりますけども」

「……しりとりでもする?」

「「「「え?」」」」


 思わぬカザリちゃんの提案に私たちはびっくりする。そのリアクションにカザリちゃんの口元が少しだけ動いた。恥ずかしがっているような拗ねているような、なんとも言えない唇の尖らせ方だった。


「やっぱり、いい。忘れて」

「いやいや待って、いいじゃんしりとり! やろうよ、どうせ暇なんだからさ」


 ね、と同意を求めればコマレちゃんたちも口々に賛同を示す。その勢いに押されてカザリちゃんも「じゃあ」と言ってくれたので、私たちは暇つぶしのために初めてのしりとりを行なうことになった。


 仲良くなれている。初対面時よりも、旅の最中よりも、今がもっと。その絆を感じながらするしりとりは、なんてことのないゲームでもすごく楽しかった。



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