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330 突き放そうとしてる

 これまでにないほど熱の込められた眼差しと語り口で綴られた思いの最後は、なんと大好きだっていう告白で締められた。私が呆気に取られてすぐには言葉を返せないでいる内に、シズキちゃん自身も自分が何を言ったのか冷静に考えたんだろう。一気にその顔が紅潮していった。ついさっきまであんなに顔色が悪かったのに、まるで嘘みたいに血色が良くなっちゃっている。勢い任せに告白なんてしたらそりゃそうもなるわなって感じだよね。


 シズキちゃんはあわあわしていて、実際に口でも「あわわ」って言ってるんだけど……それホントに口に出す人いるんだってそこにも軽く驚いたけど、私もわかっている。つまりアレでしょ、シュリトウさんのときと同じパターン。今の「大好き」はあくまでも人間的な好き嫌いの話であって、惚れた腫れたのほうではない。恋愛のそれとはまた別方面での好意で私を気に入ってくれているという、そういう意味での告白だってのはちゃんと理解できている。


 もちろんそうだとしても充分に嬉しいし、シズキちゃんの気持ちはよく伝わってきている。というかむしろ恋愛的な意味での「大好き」だったらそのほうがもっと返答に困っていただろう。そうじゃないだけ受け止めやすくはある……あるんだけども、けれど重いなって思う。


 前からそういう節は見えていたけど、シズキちゃんはちょっと私のことを持ち上げ過ぎだ。上に見すぎている。いや、今の話は上に見すぎていたのが修正されて目線の高さが同じなったって流れだったんだけど、そのせいで余計に憧れが強くなったんじゃあ私としてはおいおいって感じだ。どこにでもいる一人の女子に過ぎないと、そう私を見てくれるようになったのは嬉しいけど、なのにシズキちゃんはやっぱり私のことを特別視している。特別な人間じゃないと言いながら誰よりも私を実態より大きく見ている、そのことに変わりはないんだから……困ってしまう。


「そんな立派なものじゃないよ、私は」

「! ハルコさん」


 最初に否定から入ったのが彼女を落ち着かせたか、シズキちゃんの顔の赤らみがいくらか引いて、また真剣な眼差しに戻る。私もそれに真っ直ぐ視線を返しながら、言う。


「言ったでしょ、意地だって。自分で言うのもなんだけど負けん気だけは昔から強いからさ、私。マズい場面になると『こなくそ!』ってなるんだよね。弱気にはなりたくないっていうか、そもそもなれないっていうか。それがもしかしたら困難に立ち向かっていくだとか、傷付くのが怖くないって風に見えているのかもしれないけど、そうじゃないんだよね」


 進んで困難に立ち向かっているんじゃない。傷付くのがへっちゃらなわけでもない。コマレちゃんは矜持だと言ってくれたし、シズキちゃんは希望とまで言ってくれたけど、いくらなんでもそれはカッコよく言い過ぎだ。そんなに英雄的ヒロイックな精神してないよ、私は。ヒーローなんかじゃ、ないんだ。


 単に意固地なだけの、何もできなくたって何かができると信じちゃう、ただのお馬鹿さんなんだよ。


「向こう見ずで無鉄砲。妹にもよくそう怒られたよ。考えなくても動ける、じゃなくて、考えなしにとにかく動いてるだけなんだよね。前に進んでいるっていうより突っ込んでいるだけ。結果的には同じことかもしれないけど、でもコマレちゃんが怖がったり、シズキちゃんが憧れたりするほど……どっちの意味でも私はそんな御大層な人間じゃないよ」


 それを強さと取るか弱さと取るかは人それぞれだと思う。私の目から見れば、コマレちゃんやシズキちゃんだってお人よしって言ってもいいくらいの善人で、私にはできないことができちゃうすごい子たちなんだから──何が良いか悪いかなんて十人十色に違うもの。いや、もっと突き詰めて言うなら良いと悪いは大概の事柄において共存している、表裏一体の関係と言ってもいいじゃなかろうか。


 私は私の行動原理をよく知っているだけに、それを褒められても鼻高々とはなれないけれど、でもシズキちゃんたちから見ればそれが紛れもない長所であり、私という人間の輝いている部分でもあり。それだって間違いではないんだろう。


 だから、結局は対等だし、とんとん・・・・なんだ。そのはずだ。そうでなきゃ困る。一方的に憧れられるような、そんなことをされちゃ、それこそ居心地が悪いから。まるでこの輪の中に私の居場所がないみたいだと……そう感じてしまうから。


「そうだよ? だから、皆して本音で語ってるんだよぉ。ハルっちが勝手にウチらを突き離そうとしてるだもん」

「え……?」

「だってそうじゃんか~。ウチらが残留希望だって知ってあんなにビックリしててさ。それで隠してるつもりぃ?」

「な、何を」

「絶対にこう思ってたでしょ~。ウチらが帰ったって、一人で戦うぞって。ウチらがいなくたってやることは変わらないって、そういうヤな感じの覚悟決めちゃってたの、丸わかりなんだよ?」

「……!」


 ギクリとして思わず閉口してしまう。それはまさにさっきまでの私が内心で密かに決意していたものだったから。いやだってほら。今の今まで、私が帰りたいのと一緒で皆だって帰りたいだろうとしか思ってなかったからさ。んで、自分でも呆れるくらいに意地っ張りな私はともかくとして、皆はきっと帰るほうを選ぶだろうと思っていたものだから……もしも本当にそうなったとしても、一人でだって戦うと。そういう覚悟を決めていたのは事実だ。


 だけどそれは言うまでもなく、皆の力がいらないとか、私一人で充分だとか、そんなとんでもない自惚れからくるものじゃない。皆の力はめっちゃ欲しい。正直言って私一人じゃお先真っ暗と言ってもいいくらい、できれば残ってほしいとも思っていた。でも、そうとは言えなかっただけで。


 だってそうじゃん? 常識的に考えるなら……この場合の常識とはつまり、私みたいに元の世界へ帰りたいっていう欲求が強くあればってことだけど。そうであるなら普通は帰るだろう。ここで過ごした記憶が丸々消え去ってしまおうとも「正しい選択」は絶対にそっちだ。私は正しくない選択をした、というより、しないと納得できなかったから、そうしたわけだけれども。コマレちゃんに指摘されるまでもなくおかしなことをしている自覚もあったけれど、だからこそ博識なコマレちゃんや冷静なカザリちゃんや気弱なシズキちゃんが残留を選ぶなんて予想だにできなかったわけで。


 唯一、私以外でも残る可能性がほんの僅かにでもあるとすれば、それはナゴミちゃんくらいなものだと考えていた。

 や、別に彼女がその選択をするに足るような根拠が何かあったってわけじゃなく、のほほんとはしつつも結構好戦的だったり、敵に対しては容赦をしない苛烈さも持ち合わせているの振れ幅が大きい子なものだからさ、ナゴミちゃんって。


 なので彼女に関してはどういう思考回路でどういう選択をしてもおかしくない。ともすれば私みたいに常識から外れた正しくない道にも気軽に飛び込んでいくようなこともするんじゃないかって、そういう予想をするにはしていた。


 実際にナゴミちゃんは残留派なんだからその一点だけを見るなら予想が当たったわけだけど……もちろんのこと他三名の外しに加えて、彼女が残留を希望する理由に関してあれだけたまげさせられたんだから罷り間違っても予想通りだなんて言えやしない。言ったら恥だよこんなの。


 ナゴミちゃんは笑う。


「にゃは。ウチのことそんな風に思ってたんだぁ? そこまではウチも予想できていなかったけど、少なくともハルっちが残留派っていうのは女神様とお話した時点でわかってたよ~。蓋を開けてみれば、ほら案の定。意地だけを理由にしているのも、ウチにはぜーんぶ予想通りだった」



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