19話 二人
ここまでお読み頂きありがとうございました!
後書きでいろいろと書き綴りたい思いはあるのですが、読後の余韻を大事にされたい方も居られるかと思いますので、この場で短く挨拶をさせていただきます。
みなさまのおかげで無事に完結まで辿り着く事が出来ました。本当に、本当に応援ありがとうございました!
――イヴの叛乱から4ヶ月。
星団には、一時的かもしれないが、平和が訪れていた。
あの日、アウターローバの侵攻軍、その第2艦隊は到着早々の壊滅の危機を救ってもらった事で混乱の渦に陥ったそうだ。それはそうだろう。自軍の要塞に待ち伏せされたかと思いきや、敵対勢力に助けられたのだから。
だが、そんな混乱状態を鎮めたのは、他ならぬイヴだった。イヴの罪の告白。そして必死の懇願。あの機体を助けて欲しい。そう懇願してくれたのだ。
助けてもらった事は事実だし、事態の正確な把握の為にも、と言う事でレッドアイの捜索隊が危険な雲海まで探しに来てくれたのだった。
そして彼らは第1陣のイヴの叛乱及び無人機の襲撃から助けてもらった、という証言もあったことで、我々クェルツ星団と意思の疎通を図りたいと申し出てきたのだ。
以前イヴが言っていたように、アウターローバ達は複雑な事情を抱えていた。
母星で起こった長期的な戦争。それにより各国の力が弱ったところで人類統制機関なる組織が暗躍し始めた。国々を裏から支配し、大衆が機関の存在に気づいたときにはディストピアが作り上げられていた。
彼らは荒廃した地球から脱出するために、非人道的な行いも容易く行い、宇宙開発を強引に推進させた。
そして、俺達がアウターローバと呼んでいる彼等は、所謂反乱分子として宇宙の果に追放された者達が主となって構成されていた。限られた資源しか渡されずに追いやられた彼等は雲海を越えてまでも資源を確保するしかなかったのだ。
いつまでも成果の出ない彼等に痺れを切らせた機関が2人のエージェントを送り込む。そう、赤角と金角のレッドアイだ。
そして、いつまで経っても帰って来ない彼等を探そうともしない侵攻軍に下された命令は、玉砕覚悟の進軍。
絶望を抱え進軍した先での、思わぬ共闘と救いの手。侵攻軍の人々がクェルツに対して掌を返すのも納得のいく理由があった。
「とは言っても、ハイそうですかとクェルツの人々が受け入れてくれるわけでもないんだろうな」
「うん、ついこの前まで殺し合いをしてたんだもんね。戦いの犠牲者も少なくない……」
「だな。だけどな、メイ達の世代は実感が無いだろうが、クェルツでの星間戦争もつい30年ほど前の事だぜ。今じゃ種族の違いも関係なく、だいたいの奴らが仲良くやってけてる」
「隊長の見立てでは、受け入れられるのにどのくらい時間がかかると?」
「あー、そんなにかからねぇんじゃないか?みんな、戦いに疲れてるんだよ、きっと」
「でもアウターローバ側の問題は解決したわけじゃないからねぇ〜。あくまで現侵攻軍がクェルツ側についたってだけだよねぇ」
「まだまだ問題は多いな。だけど、今は束の間かもしれないけど平穏を手にする事ができた」
「だねっ!あ、代表達、出てきたよ!」
時刻は夕方前。今俺達はビーチェ星、イワハ基地の会議室近くの休憩所にいる。
アウターローバ側の代表とクェルツ連合軍の7人の代表の何度目かもわからない会議が終わったみたいだ。
今日の会議は俺達にとって重大な決定が下される会議だった。
「ヨルカ様っ!イヴは!?イヴはどうなりましたか!?」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよっ」
今日はイヴの処遇が決定する日なのだ。
ヨルカ代表が手に持っていた技術部特製端末をメイリアに渡すと、端末が声を発した。
「メイリア、ご心配ありがとうございます。皆様、私の口から伝えさせていただいてもよろしいですか?」
代表達が頷いたのを見届け、続きを話し始める。
「これは私からの申し出でもあるので、むしろ感謝しなくてはなりません。私は明日、外宇宙へと旅立ちます」
イヴの境遇にも同情の余地はあった。だけど罪の規模が大きすぎた。本来ならその場で処刑されるレベルの罪であったが、アウターローバ側からの進言によって償いの道が提示された。それは雲海とは反対側の外宇宙への旅だ。実質追放に近いかもしれない。だけど希望はある。
イヴとアウターローバの境遇は似たような物だから思う所があったのだろう。
「もっと言えば、こんな私にこの星を見て回る猶予を頂いたのですから感謝してもしきれないです。この4ヶ月間、前世の一生分の何倍も楽しかったです。ハロンナのみんな、本当にありがとう」
「私も凄く楽しかったよ!イヴ!」
「あー、技術部が武装を取り除いて要塞を完璧に直しておいた。プラズマ推進に核動力炉、きっとどこの宇宙に行っても通用すると思うんだ。ッッ!」
テクノラ代表が突然すくみ上がった。理由は簡単、シシに睨まれたからだ。テクノラ代表の陰からスズハナが顔を出してシシをたしなめる。
「もーっ!お姉ちゃん、テクノラさんを睨まないの!」
「でもスズ……。変な事されてない?」
「あー、何を馬鹿な事を。あっ、黙りますよ」
「あはは、テクノラ君、すっかり目をつけられてますね。イヴさんとアウターローバ達の事は安心して下さい。情報部が責任を持って広報します!」
「情報部には俺達もだいぶお世話になったからな。安心だな、メイリア」
「そうだね!ラブラリイさん、よろしくお願いします!」
「んー、本当にいい隊を育てましたなぁ、4部、新代表殿」
新代表と言われた男、イナリハ代表が少し照れながら、でも嬉しそうにドライヤ代表と話をしている。
「ありがとうございます。『血海の鬼神』ドライヤ代表にそう言ってもらえるのは誇らしい限りです」
「んー、懐かしい名ですなぁ」
「ドライヤ代表にそんなオールドネームがあったとは……。って、イナまたやつれたんじゃないか?」
「ん?ふふ、心配性になったな、ラハラ。私は大丈夫だ」
「この忙しい時に急な任命で申し訳ないですねぇ」
「この私から4部代表の座を奪ったんだから弱音は吐かせないわよっ!」
「私が弱音を吐いたばかりに申し訳ないですねぇ」
「うぇぇ!あ、いや、そんなつもりじゃ!」
ヨルカ代表が珍しく動揺している。
1部と3部の代表を兼任していたドライヤ代表が防衛線構築の後処理で忙殺されそうになり、音を上げたことでヨルカ代表が3部の代表に就任。そして晴れて4部代表、イナリハ代表が誕生したのだ。
「ところでラハラ、例の件はどうだ?考えてくれたか?」
「護衛官か。しょうがねぇな、受けてやるよ」
「え、なになに!隊長、護衛官になるんですかっ!?」
「順当といえば順当、ですね」
「そうだねぇ〜。そんな気はしてたよぉ」
「護衛官ラハラ。いい響きじゃないか、戦友」
「へっ、よせよ、フィー。照れるじゃねぇか。俺もハロンナとお別れってわけだ。まあ、今のお前達ならなんの心配もいらないな」
「談話中にすまない。私はそろそろ出発する。その前に貴殿らに伝えておきたい事があってな」
ツヴァイス代表が何やら分厚い紙の本を手に近づいてきた。
ツヴァイス代表の弟、ドヴァが目を覚ました、という情報が入ったのは一昨日の事だ。だから会議が一段落した今、一刻も早く顔を見たいのだろう。しかし、あの本はなんだろうか?
「シシハナ。君の行ったとおりドヴァへの気持ちを書き留めてみた。そしたらなんと出版社から連絡が来て出版する事となった」
「えぇ!?」
メイリアが素っ頓狂な声を上げた。
「分厚いノートを見た管理者の誰かが手を回したのだろうな。せっかくだ、ぜひ貴殿らに読んでもらいたくてな」
そう言って差し出してきた本をシシが受け取ると、挨拶をして颯爽と去っていった。
「なんか、違う方向に行ってる気が」
「いいんだよ、フィア。あの人は何事にも全力だから」
そう言って渡された本を嬉しそうに撫でるシシだった。
「貴方達は相変わらず人気者ね」
そう言いながら今度はルーデルさんが近づいてきた。
「先日、収監中のアインズと話をしました。ここ数ヶ月の出来事と貴方達の活躍を伝えたわ」
「ほー、さぞ悔しがってただろうな」
ラハラが少し意地悪げに言う。
「ええ、悔しがっていました。そして最後に悲しそうにこう言っていました。俺は時代に乗り遅れたのだな、と」
「それって反省してるって事かな?」
「ふふ、そうだと思いますよ。あの石頭を柔らかくしたのだから、貴方達の頑張りは相当人々の心に響くのでしょうね」
「メーちゃんとフィアさんは今や星団のスターだもんねぇ〜」
「あら、貴女だってスターの1人ですよ、アンビー艦長」
そう言われて嬉しそうにハニカム、アンビーだった。
「さあ、あんた達!今日はこれからパーッとやるわよ!」
ヨルカ代表の誘導で揃って建物外へと出ると、日が沈みかけて暗くなった基地内を、明るく照らしながら宴の準備が整っていた。
「ふふ、盛り上がっているな」
「あーっ!私とフィアは少し海を見てきてもいいですかっ!?」
「急にどうした、メイリア?あっ!!」
「え〜、なになに、メーちゃん達デートぉ?」
「アンビー、茶化さないの。二人とも気をつけてね」
「あの、私、邪魔者になりそうなのでどなたかこの端末を預かってもらえませんか?」
「おう、イヴを預かるぞ。お前ら早めに戻ってこいよ」
ニヤつくみんなに見送られ、車で浜辺へと向かった。
サーサーと穏やかな潮騒。明るく照らされた基地からは楽しそうな声が聞こえてくる。
浜辺を歩きながら潮風を浴びてメイリアが気持ちよさそうに伸びをした。
「約束通り戻って来られたね」
「そうだな。いろいろな事があったけど乗り越えて来たんだな」
「うん、フィアとだからここまで来られた」
「俺もメイリアがいたから、こうして自分を確立できたよ。お陰様で俺も正式に1基じゃなくて1人になれた」
覚醒めたAIやリヴァイブに対する人権が認められ、俺も電子型人類として正式なクェルツ星団の一員となれたのだ。
潮風がメイリアの髪をなびかせる。
「髪、伸びたな」
「えへへ、少し伸ばしてるんだー!イナリハさんがね、顔つきが大人っぽくなったって言ってくれたんだよ!だから伸ばして大人感をさらに出そうと思って!」
「ふふ、伸ばせばいいってものでもなくないか?」
でもそう言われるとそんな気もする。ずっと側で見てきたから気づかなかった。
ずっと側で、か……。
「あの時の答えになるかわからないが、俺はずっとメイリアの側にいたい。そう心から思っているよ。イナリハさんやラハラのようにハロンナやみんなと離れる日が来るかもしれない。それでも、その時でも俺はメイリアの隣にいたい」
……しばし沈黙が続く。
気まずくてメイリアの顔を見られない。
耐えられなくなり、顔を見ようとした時メイリアが吹き出した。
「あっははははっ」
「な、なんでそんなに笑うんだ。変だったか?」
「ううん、ごめんね。いざ面と向かって言われるとすご〜く恥ずかしくって。ありがとうね、フィア」
「ふふふ、ひどいなー、まったく。メイリアらしい反応といえばらしいか。さてそれじゃ、今度はメイリアの恥ずかしい幼少期の話を聞かせてもらおうかな」
「ちょっと〜、私の幼少期は恥ずかしくないんですけどー!」
携帯端末に着信が入る。
後ろがひどい騒音だけどアンビーの声で主役の2人が来ないと始められないって騒ぎになっていると告げられた。
「おいおい、またお預けか」
「えへへ、でもいいんじゃない?これから2人ずっと一緒にいるわけでしょ?」
「うんまぁ、確かにそうだな」
「今は私達が掴み取った平和を満喫しよっ!行こっか、フィア」
「オーケー、メイリア」
「あーっ!それ私の!……えへへ、これからもよろしくね、フィア!」




