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薩摩隼人と山くぐり衆で山へと狩りに出かけよう

 薩摩の土地は非常に水田に向いていない地域が多いが、木々の多く生えている山間部は鹿や猪が豊富で純粋に狩猟によって生計を立てているものも多く、農作業の合間に行う狩猟の巻狩は合戦の指揮統率の訓練にもなる。


 実際、犬追物や牛追物は平安末期頃から馬上から動いている標的をいる訓練としてはじまったものだし、偽装撤退戦術で勝利を重ねユーラシアの大半を征服したモンゴルの戦術も狩猟によって編み出されたものだし、同じような島津の釣り野伏も狩猟の巻狩から生み出されたものだな。


 そして今日俺と長満丸は山くぐり衆や領民とともに山へ狩りへ出かける。


 俺は弓を手にして背中の矢筒の中に矢を入れているが、長満丸は手槍を手にしている。


 そして、山に一緒に入る山くぐり衆や領民も弓矢や手槍、連絡用のほら貝などをそれぞれ手にして俺たちに従っている。


 ちなみに山くぐり衆というのは山の中で狩猟を行い、河原でその解体や皮なめしを行ったり、革を使って具足を作ったりするものや修験者などの山の中での生活を行うものたちだな。


 島津の諜報や伝令、破壊活動にも従事する彼らの多くは”隼人”を祖先に持つ”まつろわぬもの”で、組織的にまとめ上げたのは我が祖父だ。


 そして、まつろわぬものとは【従わぬ者】の意味で、大和朝廷に従わなかったものたちを示す。


 こういった系統の忍者として有名なのは後北条氏における風魔衆だが、信濃真田の戸隠、越後上杉の軒猿、陸奥伊達の黒脛巾や最上の羽黒などもおそらく同じ系統だろう。


 信濃より東は白山、浅間や富士箱根などの火山灰のせいで水田を作るのが難しかったのと同様に、弥生系の南九州への進出はなかなか進まなかった。


 ちなみに近畿の伊賀、甲賀、才賀、根来などもそういったものが含まれている可能性は高い。


 こういった地域はみな水田造りに向いていない地域ということで一致しているんだ。


 元々肥後や日向より南の南九州は阿蘇山や桜島の火山灰やシラス台地が広がっているため、弥生時代に大陸から半島を経由して弥生人が渡ってきた後も弥生人たちは殆ど入ってこなかった。


 当時の治水開墾技術では田畑にできない不毛な土地であったから、その後も縄文系の人間が台地上で狩猟採集を続けてすみ続け、弥生人は主に瀬戸内に進出していった。


 しかし、時代が下って瀬戸内だけでなく山陰や北陸等の土地も田畑にしやすい場所をすべて水田にしてしまい、領有する土地に限りが見えたとき新たな土地を求めたものが居た。


 いわゆる大和朝廷だな、そしてヤマトタケルは近畿地方一帯を勢力下におくと、九州南部を侵略し、最終的には関東地方までを勢力下に収めたとされる。


 彼らにより肥後熊襲、日向大隅薩摩の隼人と呼ばれる狩猟採取系の民族は征服されてその支配下に入ったが、暫くの間は反乱も多かった。


 そういった大和朝廷に逆らい反逆者の烙印を押されたものは南九州には結構多いのだ。


「んじゃ、山に入るとしよう用意はいいか」


 長満丸は頷く。


「おう、むしろ待ちくたびれたぞ」


 供の者たちも頷いた。


 巻狩というのは大声を上げて兎や鹿を巣から追い出す勢子と呼ばれる者と、追い出されてきた獣を矢や手槍などで仕留める者に別れて行う狩猟の方法だ。


 当然ながら双方の連携が取れていないとうまくいかないのは言うまでもない。


 山に入ったら4つのグループに別れて、そのうち3つは追い出す側、残る一つが仕留める側。


 俺たちは当然仕留める側だ。


「よーし始めよ」


「うおおー」


 ”ぶおー”


 山の中を鬨の声と法螺貝の音が大きく響きそれにより鹿などの獲物が音のしない俺達の方へ逃げ出してくる。


 そして俺たちの目の前にも大きな猪が飛び出してきた。


「よし、俺が弓を射かけるからトドメは任すぞ」


「よしきた」


 俺は弓に矢をつがえ猪へ向かって矢を射た。


 それは間違いなく刺さったが、猪はそのまま進んでくる。


「ぬおりゃ!」


 それを長満丸が手槍で見事に仕留めた。


「うむ、さすがだな」


「なに、兄上ので弱っていたのさ」


 猪や鹿を無事射止めた俺たちは血抜きを済ませて、足に縄をくくりつけてそれを沢に投げ込むことで冷やして、血液からの腐敗を進ませぬようにして、その後獲物を担いで山を下った。


「今日は猪鍋だなあ」


「うむ、夕餉が楽しみだな」


 俺たちは笑いあった。


 こうして薩摩の領民は巻狩を通じて離れた場所のグループが連携して行動し相手にこちらの意に沿って動きをさせることに習熟していくわけだ。


 脅して追い出すか逃げ出す振りで誘い出すかの違いは有ってもな。

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