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第85話 リューンフォート襲撃 1

風邪ひいていて間が空いてしまいました。

 俺は立ち上がる。

 ホークヒルを全員で空けるわけにはいかないので、ルーカス、中二は残していく。

 ファナはローバッハが戻ってくる可能性もあるのでここに残しておいたほうがいいだろう。となるとリンダもファナにつけておかなきゃならない。

 ついていきたいと言い張るミリアも、連れていってもリスクが増えるだけなので残ってもらうほかない。

 行くのは俺とアルスだけだ。

 俺はいざとなれば緊急避難(ラストレフュージ)があるし、その後高速移動(ファストムーブ)でバックれることができる。

 キ○ラの翼やその他転移トラップアイテムを握りしめながら移動でもいいけど、実は転移系は、発動にほんのわずかな時間がかかる。0.1秒とか0.2秒なんだけどな。

 でもそのわずかな時間ですら敵が強かった場合は命取りになる。

 あと誤作動も怖い。ビビって落としたりするのも怖い。

 そうなるとやっぱり緊急避難(ラストレフュージ)高速移動(ファストムーブ)のコンボがいいんだよな。


「よし、行こう——」


 俺とアルスは、さっき俺が作ったキ○ラの翼——市内中央に飛ぶアイテムを利用する。

 や、俺は占領済み屋根のあるところにしか出られないから、使うフリだけ。


「……ん」


 俺が移動したのはアルスの飛び先から見える位置にある、中央大通り。

 アーケードを設置したあの場所だ。

 着いた俺はすぐに気がつく。


「悲鳴……!?」


 騒然としていた。

 誰かが大声を上げている。女の叫び声。走って行く人々。閉じられる商店の扉。興奮する馬。

 ——なにがあった?


「あれ? なんでそっちにいるの?」


 アルスが俺のところにやってくる。


「ああ。転移トラップの飛び先がちょっとズレていたみたいだ」

「君にしては珍しいミスをするじゃない」

「迷宮主のミスだと思うけど?」

「あー。そう。そうだった。迷宮主が作ったアイテムだったっけ」


 ちっ、いちいちカマかけてくるのが面倒だな。いっそアルスには俺が迷宮主だって話しても……いや、止めておこう。こいつは信用できん。リオネルは討伐されても俺がMPを注ぎ込めば生き返るが、俺が討伐されたら一巻の終わりだ。「ユウ=タカオカは一般市民」の建前を崩してはならない。


「それにしても、なんだよこの騒ぎは」

「ほんとにね。びっくりした。……ちょっとだけ魔物の気配を感じるね」

「魔物——モンスターか!?」


 市内にモンスター? 襲撃されたってこと?

 城壁を乗り越えるくらいならあるかもしれないけど、俺たちがいるここはリューンフォートの中心部なんだが。

 それに同時多発的にあちこちから煙が立ち上っていたし。


「冒険者ギルドへ行こう。あそこなら情報が多少は集まっているはずだよ」

「アルス、それは任せてもいいか?」

「いいけど……なんで? 君はどうするの?」


 冒険者ギルドまで屋根が続いていないからいけないんです。


「俺はリューンフォートタイムズ新聞社に行く」

「ああ、そんなこと言ってたっけ」

「後からそっちに合流するか、新聞社に来てくれても構わない」

「いっそここで別れて行動するでもいいけど?」

「それは困る……俺、戦闘力皆無だし」

「ははあ、なるほど」


 モンスターがいるならなおさらだ。

 積極的に問題解決をしたいとは思わないけど、リューンフォート市民を相手に商売をしている以上、この町が混乱しているのは困る。

 情報をしっかり得ることがまず重要。

 場合によっては多くの人を避難させる必要だってあるかもしれない。

 それにはアルスが必要だ。


「僕をボディーガード兼情報収集に使おうってことだね。僕は高くつくよ?」

「レイザードにおもちゃを提供してるだろ。おあいこだ」

「レイザードはレイザード。僕は僕」

「レイザードはだいぶアルスにご執心だろ。その矛先が外れたんだから喜べよ」

「……むう」


 ちょいちょい見ていると、やたらレイザードがアルスに絡んでいく。

 それをアルスが面倒がっていることも事実だ。

 しゃれこうべサッカー事業が始まってから、レイザードはそっちにどっぷりで、適当に事業へ顔を出しているだけでアルスはレイザードから逃れられている。


「それじゃあ、貸しイチでどう?」

「なんで貸しがつくんだよ。アルス、しゃれこうべサッカーを今すぐ中断してレイザードと冒険の旅に出るか?」

「そうだね。最初の討伐目標はホークヒルの迷宮主でもいいかもしれない」


 ほんとこいつはクソだ。


「……わかった。貸しイチだな。その代わり羽根よりも軽い貸しだ」

「いいよ、それで」


 アルスが右手を差し出した。イヤイヤながら俺は彼の手を握った。


 俺はアルスと別れ、新聞社へ向かう。

 新聞社の扉はロックされていた。戸を叩くと、マルコが出てきた。


「こんな日に新聞社に来て、どうしたの?」

「モンスターがどうのって聞こえたんだが」

「モンスターが出現したのは間違いないよ。ベテランの記者たちがそれぞれツテのある警備兵へ突撃してるところ。おれも行きたかったんだけど、さすがに行き帰りにモンスターとぶつかったらヤバイからって待機」

「家はいいのか?」

「家より社屋のほうが頑丈だもん」


 ごもっとも。


「とは言ってもほとんどの人間が家に帰ったけどね。——社主。ユウ=タカオカが来ましたよ」


 マルコが通してくれたのは社主室だった。


「じゃ、おれは行くから、ごゆっくり〜」

「ユウ様!」

「ユウさん?」


 マルコが消えるのとほぼ同時でヴィヴィアンが飛びついてきた。


「うおっ!?」

「怖かったですぅ〜〜〜」


 両腕でがっちり抱きつきながら身体をこすりつけてくる。まるで動物のマーキングみたいに。

 っていうか……ヴィヴィアンさん、そのぅ、胸にあるふたつの柔らかな物体が俺とあなたの間でつぶれているんですが。


「ヴィ、ヴィヴィアン! くっつきすぎです!」

「だって〜〜怖かったんだもん〜〜」

「ぐぬぬぬぬ……」

「うぬぬぬぬ……」


 ロージーが力尽くで俺からヴィヴィアンを剥がそうとするが、ヴィヴィアンも抵抗する。めっちゃ抵抗する。そして軋む俺の背骨! ヤバイヤバイヤバイ! 迷宮主はか弱いのよ!




「それで——こっちで手に入れた情報は?」


 数分すったもんだしてようやく離れていったヴィヴィアン。

 俺たちはテーブルを挟んで向かい合って座る。

 テーブルにはリューンフォート市街図が広げられていて、あちこちに印がついていた。


「この印のあるところが、煙の観測された場所です。今、ヴィヴィアンさんの命令で記者たちが現地の情報を集めているところです」

「モンスターが出たっていう話は?」

「聞いています。獣人魔族(ライカンスロープ)死霊(レイス)蜥蜴戦士(リザードマン)蜥蜴術師(リザードメイジ)炎亡霊(フレイムゴースト)触手生物(ローパー)などが出ているようです」


 すげぇ……モンスターだ。マジもんのモンスターだ。

 俺、こっちの世界に来てからちゃんとモンスターらしいモンスターを見てないから、怖さもあるけど興奮もする。


「モンスターが攻め込んできたってこと?」

「…………」

「ロージー?」

「あの……ちょっと私にもまだわからないんですが『攻め込んできた』という言い方が正しいのかどうか」

「どういうことだ?」

「攻め込むなら城門や外壁を破壊してきますよね? でも、そういった形跡がないんです」

「街中に突如として出現したってこと? そんなことあり得るのか?」

「ないとは言い切れません。たとえば……町の真下にダンジョンがあり、そこからあふれてきたとか」

「ああ、なるほどねぇ……」


 え?


「い、いや、それはないんじゃないかなあ?」

「そうでしょうか。十分可能性があると思います。いまだダンジョンについては謎のほうが多いですし」


 街の地下はかなりの場所に俺がダンジョンの通路を伸ばしている。だから他のダンジョンがあれば絶対にどこかとぶつかっていると思うんだ。

 まあ、その網の目をくぐって別のダンジョンが現れているという可能性はゼロじゃないけど、限りなくゼロに近い可能性は弾いてもいいと思う。

 ん? もしかしてモンスターが出現するタイミングで地盤が破壊されて、それで俺の迷宮に影響したのかな? いや……単に戦闘の衝撃かもしれんな。


「それ以外! それ以外の可能性を考えてみよう!」

「うーん……そうですね。あとは、何者かが召喚した、でしょうか?」

「召喚魔法ってこと?」

「はい」

「ねねね、ロージー。誰がなんのためにモンスターを放ってるのかな?」

「それは……推測できる範囲じゃないですよ、ヴィヴィアン」


 そうだよな。まだまだ情報が足りない。

 でもわかっていることは整理しておくべきだな。


「現時点で黒煙の上がった場所は14箇所。そのすべてにモンスターが出たかどうかは不明」

「はい。モンスターの種別にも傾向があるわけではありません。多種多様なモンスター、としか言えませんね」

「犯行声明のようなもの、宣戦布告のようなものもない」

「それについては疑問がありますね。あったかもしれないが私たちが知らないだけかも。領主様はすでになにかをご存じかもしれません」


 俺はさっき、ホークヒルにフォルカ領主が来ていたことを思い出した。

 フォルカは黒煙を見て驚いていた。あれは事前になにかを知っていた顔じゃない。

 その後に声明が出てるかもしれないけどね。


「だが、貴族街には黒煙が上がっていない」


 市街図の中でも貴族街は無事のようだった。まあ、黒煙が上がっていないというだけなんだけど。


「ユウさん、この攻撃は市民だけを狙ったもの、ということですか?」

「その線だとテロってことになるね」

「……テロ?」

「無抵抗な市民を危険に晒し、恐怖によって相手にダメージを与える戦術だよ。まあ、非人道的なことこの上ない。ただその場合は犯行声明が出ていないと効果が半減する。『○○団体』はこのように恐ろしい集団であり力を持っているのだ、という声明とセットで初めてテロは効果を発揮する」

「なるほど」

「でも……テロとは違う気がするな」


 情報伝達手段が限られているこの世界で、大々的なテロをやる意味があまりない。テロをやることで得られる果実は為政者への脅迫による身代金や、テロ集団への攻撃をなくすことだろうけど、命の価値が軽いこの世界じゃ領主は市民への脅威を無視してテロ集団をつぶしに来るだろう。

 ましてや今回の襲撃はテロの範囲を超えているようにも感じられる。

 大規模過ぎるんだ。


「市民を狙ったものじゃないってことか? ……だとしたら襲撃者の狙いはなんだ? ……貴族街にモンスターが出現していないってことは貴族街に入り込むことができなかった? ……あるいは、入り込めるのに入らなかった……」

「ユウさん?」

「ユウ様?」


 あっ。


「まさか……」


 俺は思わず腰を浮かせる。


「混乱を鎮圧するために兵力を市街地に集中させることが目的? そうなると目標は——貴族街」


 そのとき、


「いやあ、すごいな。外に出てもいないのによくもそこまで推理ができたものだね——僕と同じ結論に至るなんて」


 ぱちぱちぱちと気のない拍手が聞こえてきた。

 社主室の入口に立っていたのは、


「アルス? どうしたんだ、冒険者ギルドは?」

「行った」


 彼はこちらに歩いてきてテーブルの横に立つ。


「冒険者ギルドは、機能していたが、機能していなかった」

「……そういう謎かけみたいな言い方は止してくれ」

「ごめんごめん。どうも僕はまわりくどい言い方をしてしまうみたいだね。正確に言うと冒険者ギルドには冒険者がたっぷりいた」

「——え?」


 驚いたのはロージーだった。


「どうしてですか!? モンスター討伐においては冒険者こそ格好の戦力ではありませんか。こういった有事には冒険者は動くものでしょう」

「冒険者ギルド長が言うには、『領主様から待機するように命令があった。兵士と冒険者は協働できないゆえに、無用な混乱を生むことを避けたい』ということだ」

「それはほんとうか、アルス?」

「僕はそう聞いたよ。建物の外からこっそり、だけどね。顔を見られたら冒険者ギルドの命令でギルド内待機を言い渡されるところだから早々に退散してきた」


 かなりの強権でもって冒険者たちを拘束しているんだ。

 それに領主はなぜ冒険者を使わない? 冒険者を信用できない? あるいはもっと違うなにか……。


「ますますユウの言うとおりだね。領主様の兵力は市街地に分散している。貴族街を守る兵力は最低限だ」

「そこを攻撃されたらまずくないか?」

「君は知らないかもしれないしとっくに知っているかもしれないけど、貴族街は強固な結界魔法によって守られている。これを破壊して通り抜けるのは相当大変だよ。だから領主様も兵力を市街地に投入しているんだろうね」

「…………」

「どうした? ユウ?」

「……それは襲撃犯だって知ってるんじゃないのかな」

「ふむ?」

「知っていてなお、市街地に兵力を集めているのだとしたら……? なあ、冒険者ギルドと領主様はどうやって通信しているんだ?」

「専用のマジックアイテムがある。短文ならば送信可能な」

「それを領主様からの手紙であるように偽装することはできるか?」

「……なるほど? 襲撃犯は冒険者をギルドに留めおくことで領主様の兵力を最大限引き出した、と言いたいんだね」

「うん。できるか?」

「できると思うよ」

「やっぱり! それなら——」

「だけど、惜しいね。それには問題がある。領主様のマジックアイテムが健在だった場合、領主様から2通のメッセージが届くことになるわけだ。1つは『待機命令』、1つは『討伐命令』。これはおかしいよね?」


 あ、そうか。そうなったら確かめに行くよな、ギルドの誰かが直接。


「……でもユウは相当いいところまで突いてるよ」

「まるでアルスはなにもかも知っている、みたいな顔じゃないか」

「ま、僕なりにね。僕しか知らないこともあるし」

「アルスしか知らないこと……?」

「僕の推測ではね」


 たいしたこともないふうに、アルスは言った。



「冒険者ギルドが今回の襲撃の犯人だ。あるいは、襲撃の協力者」



 なっ……。


 思わず、声が出てこない。

 でもそう考えると納得できる。

 俺だってちょっと会っただけだが、フォルカはプライドやメンツをそこまで気にするようには見えなかった。こういった有事に冒険者ギルドに助力を願わないかと言われれば、間違いなく頼む人間だろう。

 フォルカは冒険者ギルドに討伐依頼を出しているんだ。

 なのに冒険者は動かない——つまり冒険者ギルドは、その情報を握りつぶしている。

 ヴィヴィアンとロージーもまた息を呑む。

 俺は唇を湿らせてからアルスにたずねる。


「……目的はなんだろうか」

「領主の命でしょ」

「なんのために?」

「冒険者ギルドのギルド長は前リューンフォート公のマークスバーグと昵懇だったからね」

「前領主? 前領主に連なる貴族は処分されたって聞いたけど」

「ギルド長は貴族ではなかったし、汚職を相当上手く隠したってところじゃないか?」

「……どこでそんな情報を」

「情報源は明かさない。鉄則でしょ」

「はあ……それはそうだ。それでギルド長はマークスバーグの仇討ちっていうつもりで戦ってるのかな?」

「仇討ち? まだマークスバーグは生きてるよ?」


 え、そうなの? 処分された、みたいに聞いたから、てっきり死んでるのかとばっかり思ってた。


「……ってことはフォルカ公を殺して、後釜に返り咲こうとしているってことか」

「僕の推測だとそうだね。で、どうする?」

「どうする、って?」

「前市長だから貴族街の結界をすり抜ける何らかの方法を知っていると思われるよね。つまり、フォルカ公を殺害する算段があるんだ。このまま指をくわえて待っているのか、それとも——領主様を救いに行くか」


 俺は瞬時に考えをめぐらせた。


「……できる範囲で助けよう」


 そうすれば、後々の交渉で有利になる。税金とか税金とか税金とかな。


その頃の香世ちゃん「すやぁ……むにゃ……鷹岡さん、あっ……それは…………まだ早いですぅ………すぅ……」

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