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悪の巣窟の幹部会議

次にルナは退職規約を読む。

『受付嬢は1ヶ月中10日以上、安息日以外欠勤した場合や勤務が安定しない場合は退職とする。』」


「これね、子供が出来たら辞めざるを得ない理由。つわりが酷くなると無理よ。」


ルナは妊娠経験があるかのように言う。


「….まるで....経験者.....みたい。」


リュンヌがジト目でルナを見つめるが、彼女は規約の『欠勤』の二文字を冷徹に指で弾いた。


「経験なんて不要、ただの計算よ。優秀な労働力を『体調変動』という制御不能なコストで切り捨てるなんて、組織としてあまりに低能だわ。」


ルナは受付嬢が出て行った扉を見つめ、悪魔的な微笑を浮かべる。


「いい? 10日休んだらクビじゃなくて、10日休んでも回るシステムを構築すればいいのよ。」


「それが私の掲げる『生活の質(QOL)』向上計画の第一歩だわ。」


あろうことか、ルナはタイトルを回収した。


『冒険者については、男女共に負傷したり、今後の活動に支障をきたすとギルドマスターが判断した場合は引退とする。』


ルナの目は真剣に文字を追う。


『女性の妊娠への対応については原則ギルドマスターの判断に一任する。』


リュンヌも覗き込む。ギルドマスターの文字は読めた。


『但し復帰に当たってはその技量や体力が妊娠前と同等であることが望ましい。』


「『ギルドマスターの一任』? 要するに責任を丸投げして思考停止してるだけじゃない。リスク管理が杜撰すぎて反吐が出るわ。」


ルナは規約の該当箇所を爪で弾き、軽蔑しきった声を出す。


「……ルナ、……また、……計算してる。」


「当然よ。事故が怖いから引退させるなんて、熟練の人的資源をドブに捨てるようなもの。これは『損失』以外の何物でもないわ。」


そして規定の記載箇所を指でポンポン弾く。


「この曖昧なルールを逆手に取れば、私が『復帰の基準』と『休職中の保障制度』を独占的に策定できる……。」


そして、リュンヌの顔を見ながら微笑む。


「ギルドマスターを完膚なきまでに丸め込む絶好の材料ビジネスチャンスね!」


「ただ、順番が大事なのよ。まずは既存の物流ギルドをバイパスする『箱』、つまり受け皿をこちらで用意するわ。」


ルナにはまだ何か手があるようだ。


「敵が慌てて『説明』を求めてくる状況をデザインしてあげる。」


ルナは規約本を閉じ、軽い足取りでギルドを後にした。


「……ルナ、……また……企んでる……悪い顔。」


「失礼ね、これは『市場の健全化』への第一歩よ。さあ、次は不動産を攻めるわよ!」


ルナは第一夫人の商会へと足を向けた。


「……悪の……巣窟……首領……話し合い。」


リュンヌは第一夫人の豪華な屋敷の門を見上げ、ポツリと本音を零す。


「失礼ね。これは情報の非対称性を解消するための、極めて健全な商取引情報の収集マーケット・リサーチよ」


ルナは胸を張り、不敵に笑う。


「彼女なら、既得権益を上回りたいと思っているはず。敵の敵は、最大の出資者(エンジェル投資家)になり得るのよ。」


そして、リュンヌの背中を押した。


「さあ、最高の『事業計画書』を見せてあげましょう。」


「あら、いらっしゃい。今日も商売の女神様を連れてきてくれたのかしら?」


第一夫人の艶やかな笑みの背後で、リュンヌは執務室から聞こえる音に気がついた。


「合わない……計算が合わん!」という尻に敷かれた元屋敷の主人の絶望的な叫びを、リュンヌは耳の奥に封印する。


「挨拶抜きで本題に入るわ。」


リュンヌは悪魔の会談だとげんなりする。


「井戸付きで、可能な限り一等地に近く、それでいて『訳あり』の格安物件を教えて。もちろん、買い叩く準備はできているわ。」


ルナは椅子に深く腰掛け、不敵に足を組んだ。

美少女神官の態度ではない。


「….ルナ、….いきなり、….欲….全開。」


「違うわよリュンヌ。これは眠れる不動産価値の再定義リノベーションよ。ギルドの喉元に、最高に効率的な『毒針』を打ち込むためのね。」


「一等地は無理よ。曰く付きでも買い叩けないわ。町外れなら二束三文で何軒かあるわよ。」


第一夫人は楽しそうに言い返す。

以前より明らかに生き生きしている。


「町外れで十分よ。むしろ『中心地から隔離されている』という希少価値エクスクルーシブを付与すればいいだけだわ。」


ルナは第一夫人の表情から、彼女もまた「退屈」という最大級のコストに喘いでいたことを見抜く。


「……町外れ、……お化け、……出る。」


「幽霊? 出るなら最高じゃない。警備費ボディーガードがゼロ円で済む天然のセキュリティよ。」


『神官ならお祓いしろよ』とリュンヌは顔をしかめる。


「さあ第一夫人、その二束三文のリスト、全部買い占める準備はできているかしら。」


「何をする気、今度は?」

第一夫人が興味津々で聞く。


「うーん、自分でご飯が食べられる、おチビ達の自律性を高める場所?」ルナは言う。


「『自律性の向上』? 綺麗事おためごかしはいいわ。本音を言いなさいな。」


第一夫人が楽しげに追及すると、ルナは不敵な笑みを深くした。


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