第123話 きみだからいいの
長くなってしまった……。
限りなくアウトそうな描写を削っていますが、それでもアウトそうなら修正します。
おーちゃんの治療の為、イルマちゃんがわざわざお城で泊めてくれた。
この国でこの場所ほど安全なところはそうそうないだろう。
「ただいま、おーちゃんの様子はどう?」
オイカワを仕留めた私はお城へ戻ると、真っ先におーちゃんを寝かせているお部屋へと向かった。
「お帰りなさいませ我が主! ……相変わらずだ。まだしばらくは目を覚ましそうにない」
「そう……。ドレナちゃん、私がいない間おーちゃんをありがとね」
おーちゃんを寝かせているベッドの傍らには、腕を組んだドレナちゃんが立っていた。
私がオイカワを殺しに行っている間、万が一不埒な輩がおーちゃんに近づいてもぶちのめせるよう、ドレナちゃんを待機させておいたのだ。
「それにしても、全然目を覚まさないわね……」
救出してから半日、おーちゃんはずっと眠ったまま目を覚まさない。
お医者さんに解毒剤をお注射してもらったりしたから、その効果で寝ているのかもしれないそうね。
それに、とっても疲れているだろうしね。ぐっすりおやすみ、おーちゃん。
「我が主……。そろそろワタシを、正式な配下として認めてくださらぬか?」
「あー……まあいいわよ。主従契約って、確か主側が血をあげればいいのよね?」
「左様。1滴で十分な故、自らの首を裂いたりはしないでくれたまえ」
「しないわよっ」
私の事を気の触れた魔王か何かだと思ってるのかしら。
まあ頸動脈を切ったくらいじゃもう、死にはしないんだけどね。
「……はい、手を出して」
「おぉ……ありがたい!!」
差し出されたドレナちゃんの手のひらの上に、私は指先から血を1滴垂らす。
ドレナちゃんはそれを口に含み、大事そうに飲み込んだ。
《主従契約の成立を確認……能力:【炎竜王召喚】の獲得を観測しました》
「これって……」
ドレナちゃんを、いつでも召喚・送還できる能力……。これまた都合のいい力ね。
召喚とは言っても、おーちゃんのものとは原理そのものが違うみたい。
「くはははっ! これでいつでも駆けつけられるな!!」
「そうね、また困った事があったら頼りにするわ」
正式に私の配下となったドレナちゃんは、尻尾を犬みたいにぶんぶん振りながらご機嫌な様子だ。
なんだかかわいらしいし、定期的に呼び出してあげようかしらね。
それからドレナちゃんは、気を遣って自らお部屋を出ていってくれた。気遣いできる配下を持てて私は幸せ者ね。
お部屋には私と目を覚まさないおーちゃんのふたりきり。
窓の外は夕暮れで、雲海に沈む夕陽を眺められる。
あぁ、この景色をはやくおーちゃんと一緒に眺めたいわ……。
「すぅ……すぅ……」
「ふふ、お寝坊さんなおーちゃんも可愛いわね……」
ひょっとしたら、こうしておーちゃんの寝顔を見たのは初めてかもしれない。
私はおーちゃんをいっつも胸に埋めるように抱きしめていて、寝顔を見る機会はあまりなかったように思える。
こうして見られるおーちゃんの寝顔……控えめに言って可愛すぎるわ。天使かしら?
あぁ、可愛すぎて食べてしまいたい……。お腹の中に閉じ込めて、私だけが一人占め……。おーちゃんを愛でて愛でて愛で尽くしてしまいたい……。
って、それはさすがに嫌がられそうね。
おーちゃんが嫌がる事は本意じゃないわ。
「ちょっとごめんねー」
濡れタオルを片手にぺろっとほっぺを一舐め。うん、おーちゃんは世界一美味しいわね。
じゃなくて、身体を拭いてあげなくちゃ。
お風呂に入れないし、清潔にしてあげなきゃ。
「よしよし、おーちゃんは綺麗ねー」
お布団を剥がし、脱がせやすい前開きの服を外し、文字通り無防備で肌色眩しいおーちゃんをごしごし拭いてあげる。
角も翼も尻尾の先っちょも忘れずにね。
隅々までごしごし。大丈夫、まじまじ見たりはしないから。
そうして綺麗になったおーちゃんを眺め、また可愛いを接種しようとした時のこと。
「うっ……!」
喉の奥底から沸き立つこの感覚は、吸血衝動ね……。
おーちゃんはまだ寝てるし、血を飲ませてもらう訳にはいかない。
「あぐっ!!」
だったら、自分の血を吸えばいいのよ。
私は私の手首に噛みついて、滲み出るそれを無理やり飲む。
味は普通。不味くも美味しくもない。
いつも飲んでるおーちゃんの血はとっても甘くてね、口の中で優しい香りが広がって、とにかく美味しいの。他のお料理にかけてもいい。何にでも合う。
それと比べたら、私自身の血はそれほどでもない。けれどおーちゃんから吸血できない今、これで乾きを誤魔化せるなら喜んで飲むわ。
「ごく、ごく……ふぅ」
ふう、何とか吸血衝動を抑え込めたわね。
再生能力のある私は貧血にはならないから、いざって時は自分の血を飲むのもアリかもしれないわね。
「ふわぁぁ……」
血を吸ったら、なんだかすごく眠くなってきちゃったわ……。
昨日から大変だったものね、私もおーちゃんの隣で寝させてもらうわ。
「おーちゃん……」
一緒のお布団の中にもぐこんで、おーちゃんの隣につく。いつもは抱き枕にしていたからか、こうして寝姿を見るのはちょっぴり新鮮ね。かわいい。
かわいい……。このまま襲っちゃっても、おーちゃん気づかないわよね?
……ううん、ダメよ私! そういうのは合意の上でやるから気持ちいいのよ!! きっと!
「むにゃ……ますた……」
「っ!!?」
おーちゃんが寝言を口にしたと思ったら、布団の中で私の太ももに何かが巻き付いてきた。
こ、こ、これって、おーちゃんの尻尾……?
きゅっと巻き付いてくるそれは、とっても可愛らしくて……。思わずたどって尻尾の付け根に手がいっちゃう。
「……ん、ぅ」
「かわいい……」
尻尾の付け根を軽くにぎにぎすると、おーちゃんの口から可愛い声が溢れ出る。
なにこの可愛い生き物……?
もっとにぎにぎしちゃいたい、けど今はしない……! おーちゃんが回復してからのお楽しみにとっておくのよ!!! 我慢、我慢よカナン!!
「すぅ……すぅ……」
「はぁ……はぁ……」
無理やり心を落ち着かせ、目を閉じて気持ちを抑え込む。
気を抜いたらおーちゃんに何をしちゃうかわかんないわね……
けど、おーちゃんが目覚めて元気になったらいっぱい堪能しちゃうんだから。
――昨日は何とか眠れたわ……。興奮してて大変だったけれど。
今の時間は明け方ね。雲海が緋色に染まってるわ。綺麗ね……。
「おーちゃんも、はやく起きてくれないかしら」
そうしたら、この景色を一緒に見られるのに。
おーちゃんの頭をそっとさする。いつ見てもかわいいわね……。
ふっくら柔らかい頬が、さらさら撫で心地のよい髪が、瑞々しい桃色の唇が。
私の胸の奥をぞわぞわさせてきて、めちゃくちゃにしてしまいたくなる。
……おとぎ話では、眠り姫に王子様が口づけをして目覚めさせる……なんていうのがあったわね。
ほっぺくらいなら許してもらえるかしら。ほっぺくらいならセーフよね、そうに決まっている。ほっぺだけなら……!
もういてもたってもいられず、私は寝息をたてるおーちゃんの頬に口を近づける。
「んーっ……」
もちもちしてる……。感触だけでもう可愛いってわかるわね。かわいい新食感。
いっそこのまま……
「んぅ……主様? 何し、てるの?」
「ほにゃっ!? お、おはようおーちゃん!!」
お、起きた! おーちゃんが起きた!!
嬉しいのよりも先に、なぜか私はちょっぴり焦っていた。
だ、大丈夫よね……。ほっぺにちゅーしたくらいで、嫌われちゃったりしないよね?
「んわぁ……おは、よう」
「おはよう、おはようおーちゃんっ!!」
私を見てくれるおーちゃんのお顔を見ていたら、なんだか悩んでいる事がどうでもよくなって。そして私は思わず、おーちゃんをぎゅーってしていたのであった。
「うぎゅ……苦しいよ主様……」
「良かった、良かったおーちゃん……」
丸1日ぶり、たった1日ぶり。それだけの時間、おーちゃんが目を覚まさなかっただけで、こんなにも心を動かされる。
私はもう、おーちゃん抜きでは生きていけないのかもしれない。
だからこそ、この気持ちをいい加減伝えないとね。
*
「ん……わっと!?」
「大丈夫おーちゃん?」
私の手に掴まって、お城のあちこちをうろうろ。このお城はとっても広くって、色んな景観を楽しめる。
こうしてリハビリをするにはちょうどいいわね。
ちなみに今日はイルマちゃんもドレアちゃんも、イレナちゃんと一緒に学校の見学に行っているらしいわ。ドレナちゃんまでも付き添うのはなんでかしらね。
うろうろしながら訪れた最上階にあるダンスホールの天井には、蒼い翼を生やした女性を模したステンドグラスが貼られていた。大海の女神様の化身の姿を表しているのね。美しいわ。
イルマちゃん不在というのに、こうしてお城の中を自由に歩き回れるなんて不思議ね。信頼されてるのかしら。
「綺麗ね、おーちゃん」
「……ん」
どうしたのかしら?
おーちゃん目覚めてからずっとぼんやりしているわ。頬を紅く染めて、ずっとふらふら。まだ毒も抜けきっていないからかしらね。
「……主様」
「なあに?」
「う……なんでもない」
もう、何よ。今日はずっとこんな調子で、これはこれで可愛いわね。けど、ちょっと心配になる。
それからもおーちゃんは、ぼんやりしたまま何かよそよそしい様子でいた。時々私を呼んでは、何でもないと言う。
結局、何を求めているのかはわからず1日を終えた。
翌日。
おーちゃんの体内の毒はほぼ分解されて、足元もおぼつかない状態はなくなった。
なのであと半日ほどお城でお世話になってから、いつもの宿に帰る事にした。
イルマちゃんいわくあの宿はお城よりも安全な場所らしいけれど、どういう意味なのかしらね。
〝星屑の海〟。
いつもの、ラントおばあちゃんが切り盛りする温泉つきの宿だ。その中の〝星の間〟は、私とおーちゃんが二人きりになれる場所。
「……ふぅ、ふぅ。あうぅ……」
そこで1日ぶりに温泉に入っても、おーちゃんのぼんやりは続いていた。
どうしてかこっちを見ようとしないし、なんだか大人しいわね。
まだどこか痛いのかしら?
そう思って聞いてみたら、変な声を出して固まってしまった。
変ね。
それから温泉を出るのと同時に、吸血衝動がやってきた。
「おーちゃん、血を飲んでも平気かしら?」
「へ、あぅ……いい、よぅ」
一応浴衣を着てから、おーちゃんに血を吸ってもいいか聞いてみる。
するといいよとは言ってもらえたのだけれど、やっぱりなんか変。
けれど衝動が強まってきたので、気にせずお布団に押し倒して首筋にかぷり。
温泉から出たばかりかしら? 顔を真っ赤に染めて、なんだかすごく熱いわ。おーちゃんの身体全体がすごくほかほかしてる。
血もいつもより温かくって、心なしか甘味が強い気がするわ。
「んっ、んっ、んっ……」
あぁ、美味しい……。私の中に、おーちゃんの熱くて甘い血が注がれていく……。
「んっ……う……あぅ」
私が喉に流し込むのと連動するように、おーちゃんも甘い声をあげる。
……やっぱりいつもと違う。なんでそんなにどきどきしてるの? なんでそんなに体を火照らせているの?
わかんない。
けど、かわいい……。
……その時だった。
私の体にも、異変がおきたのは。
「んっ……?」
お腹が、熱い。
おーちゃんの血を溜めてる胃袋が熱いのはもとより、なぜかお腹の下のほうが急に熱を籠らせている。
その熱は急速に全身へと広がっていって、私に目眩と胸の高鳴りを与えた。
それだけじゃない。目の前にあるかわいい生き物を食べてしまいたいという強く抗い難い衝動が、吸血衝動よりも勝ってしまった。
待って私、このまま勝手に襲っちゃおーちゃんに嫌われちゃう……
「……主様?」
「あのねおーちゃん……。私ね、おーちゃんの事が大好き。
この好きは、おーちゃんをお嫁さんにしたいっていう好きなの。この気持ちをずっとずうっと我慢してた……」
だから、気持ちを伝える。胸の中で頬を赤らめるこのかわいい生き物に。
ずっと留めていた感情が、決壊するように。衝動に身を任せて、勢いのままに。
「はぁ、はぁ……主様……?」
「……つまりね、はあ。私はいま、無性に……おーちゃんを襲いたいの。
今すぐおーちゃんの全部が欲しい、あぁおーちゃんの全部を奪いたい……!
はぁはぁ……ね、ねぇ、おーちゃん。私におーちゃんのゼンブを、くれる?」
身体がもう、抑えきれない。
お布団に爪を食い込ませて、せめて返事が来るまでは堪える。
「あ、あぅ……いいよ、主様なら……」
そう、返事が来た瞬間。私の身体は衝動と欲望のままにおーちゃんの身体をがばっと抱え込み――
「あぅっ……ま、主様だからいいんだ……。オレのゼンブ、主様にあげる……。だから、めちゃくちゃにして……」
……女の子同士のやりかたは知っている。実は奴隷時代に教わったりもして、知識としてはある。でも本番は初めてよ。
お互い初めてだけど、それでもきっと上手くしてみせるから。
目元を手首で隠して恥ずかしそうにする姿も、恥じらいつつも受け入れてくれる姿も。なにもかもがたまらなく愛おしい。
大好き、おーちゃん。大好き、私だけのかわいいおーちゃん。大好きだから、めちゃくちゃにしてあげる……!
月光だけが照らすお部屋の中。
そこでは、子猫が水を飲むような音が一晩ずうっと鳴り続いていた。
ついに……。
当然おーちゃんは受けです。なすすべなく美味しくいただかれてます。
ノクターンあたりで書くかもしれません。
追記:現在ノクターン用に執筆中です。投稿できしだいお知らせします。
更なる追記:ノクターンに『バケモノ少女の影魔ちゃん 番外編』を投稿いたしました。おーちゃんがエッッな目にあうお話です。規約上ここにはR18ページへのリンクを貼れないので、コードだけ置いておきます。N4015HI
ご理解のほどよろしくおねがいします。




